戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三十五話:極虚の剣

ディル=リフィーナに存在している多様な「知的生命体」の中で、人間族に次いで数が多いのが「エルフ族」である。エルフ族は原初の種族とされ、ディル=リフィーナが誕生する以前の「ネイ=ステリナ」において繁栄をしていた。エルフ族はその多くが、第二級現神「ルリエン」を信仰している。エルフ族は、自分たちが暮らす森(メイル)の中に、ルリエン神殿と呼ばれる(聖地)を作り、聖地を守るように「杜」を形成する。つまり「杜」単位でルリエン神殿が存在しているが、ルリエンを信仰するという点では同じである為、部族間の争いは殆ど無い。

 

しかしそのエルフ族の中にも「闇夜の眷属」が存在する。ルリエンと戦い、その下半身を奪った闇の太陽神ヴァスタールを信仰するエルフ族が存在している。ルリエンを信仰する光側のエルフをルーン=エルフ、ヴァスタールを信仰する闇側のエルフをヴァリ=エルフと呼ぶ。光と闇に分かれるこの二族は、互いに対立をしているが、人間族のように対立即戦争という関係ではない。「相手に関わらず、無視をしあう」という関係と言える。

 

ヴァリ=エルフの特徴は、その外見にある。ルーン=エルフと比べて、黒、あるいは褐色の肌を持つ場合が殆どで、男性は体格が良く、女性は豊満な体つきをしている。また生き方についても特徴が見られる。ルーン=エルフは、その生涯の殆どを一箇所の森の中で暮らし、己自身を見つめ続ける生き方をするが、ヴァリ=エルフは特定の住処を持たず、各地を移動しながら暮らし、己の強さを求める傾向が見られる。これは、ルーン=エルフがルリエン信仰によって知性と長寿を得ていることに対し、ヴァリ=エルフはヴァスタール信仰によって強さと長寿を得ている為、と考えられている。

 

ヴァリ=エルフの女性は、自分より強い異性に対して、無条件に近い尊敬の念を抱く。また情愛が深く、その生涯を通じて一人の異性に尽くし続けることが多い。そのため「ヴァリ=エルフを妻に持つことは、男の夢」とまで言われている。しかしそれには、人越の力を持つヴァリ=エルフの女性を闘いによって降すことが最低条件となるため、人間でありながらヴァリ=エルフを妻とした例は、ラウルバーシュ大陸の歴史上でも数えるほどしか存在しない。

 

 

 

 

 

「極虚の剣」

 

体格に恵まれなかったが故に、「虚実の剣」を極めたと言われる剣豪「ワルター・ワッケンバイン」が生み出した、「絶対必中」の剣である。グラティナはこの剣に賭けた。この剣を出せば、目の前の男は確実に死ぬ。グラティナは既に、ディアンの強さに対して敬意を抱いていた。故に、父から教えられた「虚実の最終奥義」を出すのである。

 

(レイナ殿・・・許せよ・・・)

 

グラティナはディアンに対して告げた。

 

『次に出す技が、私の最後の技だ。万一でもこの技を躱すことが出来たら、私の敗けは確定する』

『・・・いいだろう。躱して見せよう・・・』

『・・・やってみせろ・・・』

 

グラティナは瞑目し、心気を統一した。気が充実し、五体の末端にまで闘気が伝わる。

 

『いざっ・・・』

 

剣を構え、やや前かがみになりながら、グラティナはディアンに向けて、全速で直進した。互いの間合いが近づく。ディアンの間合いにグラティナが入る瞬間、グラティナは前かがみのまま、翼を広げるように高速で両手を広げた。ディアンの眼が、グラティナの利き手である右手に向けて動く。だが・・・

 

右手には、あるはずの剣が無かった・・・

 

『極虚剣技・天馬乃一突ッ』

 

技の名前が微かに聞こえたような気がした・・・

 

 

 

 

 

『・・・虚の極み、ですか・・・?』

 

龍人族の村での修行中、ディアンは剣術の師であるリ・フィナから「実の剣」を学んでいた。如何なる防御をも打ち砕き、一撃で相手を屠る「極実の剣」があるのなら、その真逆の「極虚の剣」というものは存在しないのだろうか?そう思ったディアンは、リ・フィナに質問をした。

 

『・・・そうですね、聞いたことはありませんが・・・』

 

リ・フィナは首を傾げた。やがて笑いながら

 

『想像ですけど、もし虚の極みがあるとすれば、実の真逆・・・ つまり防御を打ち砕くのではなく、防御そのものが出来ない。「絶対必中の剣」ということになるのでしょうね』

『絶対必中の剣・・・それはつまり「極実の剣」と同じではありませんか?』

『虚実は表裏一体です。極みに達すれば同じなんでしょうね。もしそのような剣があるのであれば、是非、見てみたいですね、闘いたいとは思いませんけど・・・その技を出されれば、確実に死ぬのですから・・・』

 

 

 

 

 

ぞわっ・・・

 

グラティナの右手に剣が握られていないことを見たオレは、凄まじい悪寒を感じた。殆ど衝動的に上体を後ろに反らす。それが最も速い回避方法だったからだ。同時に、下から剣が襲ってくる。

 

(バカなっ・・・手が三本あるというのか?)

 

剣先がオレの喉に届き、そのまま貫いてくる。オレは人外の速度で、上半身を後ろに反らし続けた。剣先が喉を切り裂き、顎の骨を削る。オレはそのまま後ろに倒れ、一回転してグラティナとの距離を取った。

 

ゴボッ・・・

 

大量の血が滴る。喉から顎にかけて、かなり深く切られていた。傷は気管や声帯にまで届いている。人間なら間違いなく死んでいる。いや、これを躱しきれる存在などいるのかとさえ思った。グラティナは右足を上げたまま、呆然とした様子でオレを見ていた。

 

『お、恐ろしい技だ・・・まさか、剣を足で扱うとは・・・』

 

オレは回復魔法を使いながら、枯れた声で呟いた。ヒューという音が混じる。

 

『あ、アレを・・・躱したのか・・・』

『いや・・・躱しきれなかった・・・』

 

オレは「天馬乃一突」という技について想像を巡らせていた。剣の柄を足で持ち上げ、相手の喉を突く技だということは理解できた。恐ろしいのはその過程だ。誰しも剣は「手で扱うもの」と思い込んでいる。実際、グラティナも常に手に握って闘っていた。故にどうしても、意識は上半身に向かう。前かがみで剣を構えて突進して来れば、次の動きを想定してこちらも構える。間合いに入る瞬間に、翼のように両手を広げられれば、剣を握っているであろう利き手に目を向けざるを得ない。その瞬間、意識の外から高速で剣が突き上げられてくる。オレが辛うじて躱したのは、ほとんど偶然のようなものだ。普通の人間であれば「何をされたかも解らずに」死ぬ・・・

 

グラティナは剣を失った。足で突き上げた剣は、オレの喉に突き刺さることなく宙を舞ったのである。回復魔法によって傷をふさいだオレは、グラティナの剣を取りに行ってやった。グラティナは坐り込んでいる。剣を拾い上げたオレは思った。

 

(もし、この剣が小指一本分でも長かったら、オレは死んでいた・・・)

 

オレは深いため息をついた・・・

 

 

 

 

 

私は信じられなかった。仕掛けの機、速度ともに完璧なはずだった。技をしくじったとは思わない。実際、男が上体を反らし始めた時には、剣先は既に喉元に届いていた。だが、この男は人外の速さで上体を反らし、剣が突き上げられるよりも速く躱したのだ。人間には絶対に不可能だ。目の前の男は人間ではない、そう思わざるを得なかった。男が剣を私に差し出した。私は男を見つめながら言った。

 

『お前・・・人間ではないな?』

『あぁ・・・オレは半分、人間ではない。だが、それを言うならお前もそうだろ?』

『・・・・・・』

 

そう、私にはヴァリ=エルフの血が半分流れている。そのことについて後ろめたいと思ったことは無い。陰口を叩く奴もいるが、私に勝てないからそうせざるを得ないのだ。私はヴァリ=エルフ、そのことに誇りさえ持っている。男を見上げた。傷は既に塞がっているようだが、服は血塗れのままだ。紅い月の光によって、更に紅く見える。私はため息をついて笑みを浮かべた。

 

『・・・私の負けだ。強いな、お前は・・・』

『ほとんど偶然の勝利だ。もう一度、あの技を躱す自信は無いな・・・』

『・・・負けは負け、勝ちは勝ち・・・だ・・・』

『あぁ、そうだな・・・では・・・』

 

男はいきなり、服を脱ぎ始めた。月に照らされ、男の上半身が浮かび上がる。紅い光を受けたその躰は、私の思っていた以上に鍛え上げられていた。私は見惚れ、そして弾かれたように慌てた。

 

『な、何をしているのだっ?』

『なにって・・・約束だろ?』

 

男は私を押し倒した。私の頭は混乱していたが、男の匂いに包まれると、なぜか躰が熱くなった。

 

『こ・・・ここでするのか?せめて、どこかの部屋で・・・』

『いや・・・この満天の星の下で、お前を抱きたい・・・』

 

男は私を見つめてそう言うと、私に唇を重ねた。私はそのまま・・・

 

・・・男を受け入れた・・・

 

 

 

 

 

紅い光によって、女の肌はさらに褐色の色味を増した。最初は固かった躰はすっかり蕩け、鋭かった目つきも喜悦で緩んでいる。男の腕の中で、女は幾度となく果てた。女は初めて知る喜悦に翻弄されながら、男の首に腕を回した。体位が変わり、女が上になる。下から両手で胸を掬い上げられながら、女は悦びの声を上げた。紅い月と満天の星空が二人を祝福していた・・・

 


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