戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三十九話:インヴィディアの街

メルキア歴十六年、メルキア国は「西の都バーニエ」をその勢力下に取り込むことに成功した。穀倉地帯を手にしたメルキア国は、アヴァタール地方東域における一大強国へと飛躍したのである。「バーニエの会談」と呼ばれる、無血開城交渉は、公式記録にはグラティナ・ワッケンバインとレイナ・グルップの名前のみが残されており、ディアン・ケヒトの名は残されていない。意図的に隠匿をされたものか、「魔神が交渉役をするなどあまりに荒唐無稽」として後世の者が削除したのか、今となっては歴史の闇の中である。ただ一つ言えることは、この会談後にメルキア兵の中で「魔除けの護符」が流行した、という事実が確認されていることである。単なる偶然か、魔神との邂逅を恐れたためかは定かではない・・・

 

 

 

 

グラティナと別れたオレたちは、そのまま宿に戻った。メルキア軍を受け入れる準備などを考えると、グラティナは今夜は徹夜だろう。一方、レイナは会談以降、ずっと黙ったままだ。父の仇と憎み続けてきた男の実像を見て、混乱をしているのかもしれない。こういう時は、ウサ晴らしをして気持ちを切り替えることが最も効果的だ。オレは部屋に戻るとすぐに、レイナを押し倒した。

 

『・・・私の十一年間は、何だったのかな・・・』

 

オレの胸の上で、レイナが呟いた。オレは金髪を撫でながら応えた。

 

『決して無駄では無かったと思うぞ。むしろ大いに有意義だったと思う。お前は強く、美しくなった。何よりも、オレと出会った。もし父親のことをそこまで強く想っていなかったら、あの護衛隊でオレ達が出逢うことは無かっただろう?』

『・・・うん・・・そうね・・・』

『今はただ、一つの区切りがついたということで、少し戸惑っているだけさ・・・』

 

レイナは躰を起こすと、オレの顔を見ながら笑った。

 

『・・・あなたに逢えて、良かった・・・』

 

オレはその笑顔の美しさに、思わず見惚れてしまった・・・

 

 

 

 

メルキア国宰相ベルジニオ・プラダは、その行政処理能力を遺憾なく発揮していた。会談終了後、その日のうちに、バーニエの街各所にバーニエがメルキア国傘下に入った旨を告知すると共に、民衆の生活は何一つ変わらないこと。メルキアの法と税制については、後日丁寧に説明をすること、などを伝えた。文字の読めない者の為に、口頭で伝える人間まで配置するという周到ぶりである。降伏翌日には、都市に常駐する精兵一千名が入城し、プラダが都市執政官として着任した。

主君ルドルフと万騎将クレーマーが率いる二千のメルキア軍は、城外で補給を済ませ、当初予定していた「南部制圧」に向けて出陣した。正に疾風の速さである。こうして、バーニエの街は目立った混乱も無く、メルキア国に組み込まれることになった。

 

『え~ 誰かさんのせいで、インヴィディアへの出発が遅れています。やむを得ない事情とは言え、これ以上の先延ばしは利益に関わりますので、本日中に出発をしたいと思います』

 

リタがオレの顔を睨みながら、皆に告げた。オレとレイナは、出発前にグラティナに挨拶をするため、役場へと向かった。

 

『そうか・・・今日立つのか・・・』

『あぁ、世話になった・・・』

 

オレとグラティナは握手を交わした。次いで、レイナとも握手をする。

 

『レイナ殿とは、もっと話をしたかった・・・』

『私もです。また戻ってきますので、その時にたくさん、お話しましょう』

 

オレはグラティナに告げた。

 

『インヴィディアでの滞在日数が読めないが、二週間程度で戻ってくると思う。その時に、返事を聞かせてくれ・・』

 

何の返事かは言わないが、それだけで、グラティナには理解が出来た。

 

『あぁ・・・私もそれまでに、色々とやっておくことがあるからな・・・』

 

それは、形を変えた「諾」の返事であった・・・

 

 

 

 

『さぁ、次はメルキア国首都インヴィディアですよ~ 商売しましょう~』

 

その日の午後、リタの掛け声と共に、オレたちはインヴィディアに向かった。六日間での移動である。バーニエ=インヴィディア間は、行商路として安定しており、盗賊や魔物の出現はほとんど無い。リタとレイナはお喋りをして笑っている。レイナの表情は明るくなった。復讐という鎖から解き放たれたからだろう。オレはインヴィディアについてリタに質問をした。

 

『インヴィディアでは、どれくらい滞在をする予定なのだ?』

『インヴィディアでは行商店を出す予定はありません。運んでいる塩と武器は、全て奉行所が一括購入をしてくれます。ワイン樽の仕入れのみですので、四日といったところでしょうかね』

『そうか、ならばその間に、レイナと行きたいところがあるのだが・・・』

 

オレはリタ断りを入れた。リタは笑いながら許可をしてくれた。

 

『もともと、インヴィディアでは自由に行動したいというお話でしたので、構いませんよ。逆に許可しなかったら「追加料金」を申請されそうですし・・・』

 

(その通り)

 

オレは笑って誤魔化した。

 

 

 

 

メルキア国の「南部制圧」は瞬く間に終わった。バーニエ制圧の情報が近隣にも知れ始めていたからである。ルドルフ自らが、各部落長たちと面会し、自らの理想やメルキア傘下に加わることの具体的な利点を説明していった。特に抵抗らしい抵抗も無く、三日で南部制圧は終了した。戦闘は一切なく、唯一の死者は、民衆からの略奪の罪で斬首となった兵士一名のみである。その罪状は「卵一つを盗んだ罪」であった。

 

 

 

インヴィディアはオレが想像していた以上に活気があった。人口はバーニエより若干多い程度と聞いていたが、人通りが多く、その顔も皆、明るかった。石造りの家々は統一された外観を持ち、路も人が歩く歩道と、馬車が通る車道とに分かれている。驚いたことに学校まで存在していた。この時代に国営の学校など極めて珍しい。「国家」ということを意識した都市設計には、オレも関心を持った。

 

『それでは、私たちは商品を納めてきますので、宿にてお待ち下さい。ディアンとレイナは、四日後の昼までには、宿に来て下さい』

『あぁ・・・了解した』

 

オレたちは自分で宿を取った。そのまま外出をしても良かったのだが、日も傾き始めたので、出発は明日にし、レイナと共に浴場に向かった。

 

『・・・この街を見ると、ルドルフという人物の大きさが解るな・・・』

『・・・うん・・・』

 

レイナを抱え込むように風呂に漬かりながら、オレたちは街の話をした。レイナの中には、既にルドルフへの恨みは無い。だが、十一年間続いた仇討ちの旅は、簡単には終わらないようである。オレはレイナの気持ちに区切りをつけるために、ある場所に向かうことを考えていた。

 

彼女の生まれた村「グルップ村」に・・・


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