戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第四十一話:第一使徒

人口八万人以上のバーニエを組み込むということは、言葉で述べる程に簡単なことではない。単純計算でも、メルキア国の人口がおよそ二倍に増えるのである。法律を普及させ、税制を適用し、通貨を統一し、戸籍を調査し・・・やるべき仕事は数限りなくある。バーニエの行政執行官に就任したベルジニオ・プラダは、インヴィディアから自分が鍛えた部下たちを呼び、精力的に仕事を処理していった。幸いなことに、バーニエの役人たちも優秀で協力的だった。六日ぶりに仕事から解放された彼は、インヴィディアに残した妻のもとに戻った。久しぶりの休日である。

 

『我が君は、既に南部も制圧された。国が拡がるのは結構なことだが、我われ文官の身にもなってもらいたいものだ・・・』

『でも、仕事が無くなったらあなたは寂しく思うんでしょう?あなたは仕事人間だもの・・・』

 

リザベルは、自分のお腹をさするプラダの頭を撫でた。見た目は若いが、実際にはプラダより年上である。ドワーフ族の女性は、人間より遥かに長生きである為、たとえ百歳になっても若々しい姿のままである。プラダは笑って、妻にバーニエについて語った。

 

『まぁ、魔神が現れたのですか?』

『正直、腰が抜けた。人間だと思っていた目の前の男が、いきなり魔神になるんだぞ?馬に乗っていなかったら、そのまま尻餅をついていただろうな・・・』

『でも話を聞く限りでは、その魔神は随分と変わっていますね?魔神なのに、まるで人間みたい・・・』

『確かに変わっている。だが、メルキアが魔神に目を付けられた、ということは間違いない。我が君に限って、道を諦めるようなことはあるまいが、魔神は永遠に生き続けるからな・・・ さて、どうしたものか・・・』

『百年後、二百年後はどうなっているか、解りませんものね』

『そうだ。百年後には、我が君も私も、この世にはいない。お前は、若く美しいままだろうがな・・・ 今回、我が君は言葉によって魔神を退けられたが、百年後にあの魔神が現れたら、対抗のしようもない・・・』

 

プラダは考えていた。あの対談を振り返る限り、「道を諦めたらメルキアを滅ぼす」という魔神の言葉は、主君一人を指しているのではない。志を引き継ぐ者たち皆を指しているものだ。となれば、子孫たちにもその責任があるということになる。将来を考えると、魔神に対抗する力が必要であった。賢妻のリザベルは、プラダの思考を鏡のように見透かしていた。リザベルは夫の為に、ドワーフ族の秘密を明かした。

 

『・・・ドワーフ族には、神の力を封印した武器があると聞いたことがあります・・・』

 

愛妻の言葉に、プラダが顔を上げた。

 

『ドワーフ族の集落「古の宮」には、神々の力を封じた武器があり、ドワーフと共に、魔物と戦っているそうです』

『神の力を封じた武器だと?そんな武器があるのか?』

『えぇ・・・その名は「魔導巧殻」と言うそうです・・・』

 

 

 

 

 

グルップ村から戻ったオレたちは、気ままに街中を散策した。迷いが晴れた為だろう。レイナは一際、美しくなった。最初に出会った頃の「険」は既にない。その様子に眼を細めながら、オレは決めた。

 

今夜、彼女を使徒にしよう・・・

 

 

 

 

ブレアード・カッサレの研究書の中には「歪魔の結界」を含め、様々な研究記録が記されているが、中には吐き気を催すような、悍ましい研究も記録されていた。その中の一つが「神核」についてである。神核とは、神を構成する「核」となる存在であり、これが存在する限り、肉体は滅んでも再び蘇るそうである。神の力の源とも言える。ブレアードは、この「神核」についての研究として、低級の魔神を召喚し、神核を抜き取り、それを解剖するという研究を行っている。神核は如何にして構成され、それがどのように肉体に影響を与え、なぜ永久の命を齎すのかを調べようとしたのだが、結局のところは、殆どが不明であったようだ。

 

ただ研究の中で、神核の一部を他者に与え、自分の臣下とする為の一連の過程を解き明かすことに成功している。現神の場合は「神格者」、古神や魔神の場合は「使徒」と呼ばれる存在は、いかにして生まれるのかを解き明かしたのだ。

 

ブレアードの研究では、対象者自身が使徒になることを受け入れなければ、本来の意味での使徒にはならないとしている。つまり「強制的な使徒」は創ることが出来ないのだ。ある種の神聖魔術を使い、対象者の心臓に己の神核の一部を埋め込み、肉体に疑似的な神核を形成する。これにより、使徒は主と精神的な繋がりを持ち、主の力の一部を得ることが出来るそうである。ブレアードは、疑似的な神核形成を人体実験で行おうとしたが、彼の良心がそれを止めていたようだ。

 

・・・神核を人工的に形成することは不可能である。神の肉体を手にする以外に、神核を持つことは出来ないようだ・・・

 

彼の中の何かが、徐々に変わってきていることを感じたが、魔神であるオレにとっては助かる研究だった・・・

 

 

 

 

『今夜、お前をオレの使徒にする・・・』

 

彼はやっと、その言葉を口にしてくれた。私は抱きつき、頷いた。彼は私をそのまま押し倒した。すぐに愉悦が私を襲った・・・

 

『オレの使徒になれ・・・そして、未来永劫を共に生きよう・・・』

『あなたの使徒になります・・・そして、未来永劫を共に生きます・・・』

 

上と下とで繋がりながら、私は彼に抱きつく。彼の力が流れ込んでくるのを感じる。ドクンッと心臓が動く。少しだけ鼓動が速くなる。指先まで、何かが変わっていくのを感じる。でも私は怖くない。彼がずっと、私を抱きしめ続けてくれているから・・・

 

堪らない快感が私を襲ってきた。熱い精が、私の中に放たれる。そして私は・・・

 

・・・彼の使徒になった・・・

 

 

(第二章 了)




第二章はこれで終了です。

次回からは第三章に入ります。

仕事の都合で、更新速度が遅くなるかもしれません。

気長にお付き合いくださいませ~

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