戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三章:魔導巧殻
第四十二話:科学と魔法


表題:「イアス=ステリナ」と「ネイ=ステリナ」における、

   文明発展の違いについての考察

 

三神戦争が始まる以前の世界は、科学文明の発達した「イアス=ステリナ」と、魔法が発達した「ネイ=ステリナ」に分かれていた。この世界は極めて共通している部分が多く、例えばネイ=ステリナにおいても、火を発生させるためには「燃焼の三条件(酸素、温度、着火剤)」が必須である。イアス=ステリナで古来より用いられていた「燃える水=石油」は、ネイ=ステリナでも見ることが出来る。だが、似たような世界が並行していながら、そこで発展した文明は大きく異なる。そこで、当然ながら次の疑問が生まれる。

 

何故、ネイ=ステリナでは科学文明が発展しなかったのか?

 

この疑問を持つのは、主に人間の研究家たちなのだが、私が思うに、このような疑問を「持つこと自体」が、人間の特徴であり、科学を発展させた要因と言えるのである。「何故」という疑問が、探求を生み、論理的思考を生み出し、自然現象の解明が行われ、やがて技術の発展へと繋がっていったのである。そこで、さらに一段深い疑問が生まれる。

 

何故、人間だけが「何故」という疑問を持つのか?

 

これは大きく分けて二つの原因が考えられる。

 

一つは人間族が極めて脆弱で、かつ寿命が短い生命体だということである。ドワーフ族やエルフ族などは、数百年間の寿命を持つことに対し、人間は数十年の寿命しかない。筋力や骨格、あるいは回復力なども遥かに劣る。このため人間族は、自然現象や、他の獰猛な生物から身を護る為に「観察」という習慣を形成した。観察が、何故という好奇心に繋がり、やがてその現象(因果律)の解明へと繋がった。「観察、探求、解明」の繰り返しが、科学を発展させた原動力と考えられる。

 

もう一つは、神々にその原因があると思われる。ネイ=ステリナの神々は、自らを信仰する種族に対し、様々な恩恵を与えていた。例えば「神格者」などはその最たる例であり、信仰をすれば、目に見える形で恩恵を受けられることが当たり前だったのである。一方のイアス=ステリナでは、神々は人間からの信仰に対して、殆ど恩恵を与えてこなかった。その理由は、ネイ=ステリナの知的生命体の多くが長寿であり、死生観以外の信仰の土台が必要だったことに対し、イアス=ステリナでは、知的生命体は人間族しか無く、かつその寿命は短いものであったため「死への恐怖」を利用することだけで、信仰を獲得できたからである。

 

神々の恩恵が無ければ、人間は自らの力で、危険・危機を克服するしかなく、そのため第一の原因に、さらに拍車がかかったのである。皮肉なことに、人間が科学文明を発展させるほど「死への恐怖」は薄くなり、神々への信仰心も希薄となっていった。これが、三神戦争において古神が敗北をした最大の原因であると考えられる。

 

二つの世界が併さり、ディル=リフィーナへと変化をした以降、現神たちは古神の失敗を学び、人間族に対しても、死生観以外の信仰の土台を形成するように腐心している。また同時に、科学文明の発展を恐れ、先史文明期の技術を封印すると共に、信仰を土台とした教育を行うことによって、科学的思考の発展を遅らせようとしている。人間族も現神の恩寵の下、現神への信仰で生きるべきと教えることで、ディル=リフィーナにおける科学文明の発展は、大幅に遅れているものと思われる・・・

 

 

 

 

バーニエの街の宿で、オレはブレアード・カッサレの研究ノートを読み返し、溜め息をついた。外は雨が静かに降っている。このような日は、思索に耽るのに向いているものだ。ブレアード・カッサレは、三神戦争や七魔神戦争でも消えなかった、先史文明期の記録や資料をかき集め、科学文明についての研究を行っている。闇夜の眷属の研究者である彼は、現神の信仰心に阻害されることなく、論理思考を蓄積し、客観的に、相互世界の比較を行っている。転生する前は、科学文明世界で生きていたオレにとって、ブレアードの仮説は当たらずとも遠からず、だと思った。

 

・・・確かに、七魔神戦争以降の一千年間において、人類社会の科学技術的発展は、驚くほど停滞している。一千年前の人類だって、原始人だったというわけではなく、ある程度の知識を持ち、道具を使っていた。家を建て、道を拓き、河川を整備していた。にもかかわらず、一千年を経ても、それらの技術には殆ど進歩が見られない。戦争においても、弓矢と剣が主な道具だ。メルキアでは、魔導士も用意していたが、あれは「治療」が目的で用意をしているに過ぎない。戦争は良くも悪くも、科学技術を発展させる促進剤なのに、なぜここまで、技術発展をしないのだろうか・・・

 

隣の部屋から、レイナの声が聞こえる。リタ、グラティナと談笑しているようだ。レイナはオレの使徒になってからも、その外見やオレへの接し方に大きな差は見受けられない。ただ一点、力と魔力が飛躍的に強くなった。さすがに魔神化したオレには敵わないが、人間の姿をしているオレとはほぼ互角といって良いだろう。美しく、頼もしく、それでいて人間としての魅力を失っていないレイナに、オレは満足していた。笑い声から、オレの意識は再び思索に入る。

 

・・・ブレアード・カッサレは、人間族の科学的発展を阻害しているのは、現神への信仰が原因としているが、本当にそうだろうか?彼はイアス=ステリナの世界を知らないだろうが、少なくともオレがいた世界では、信仰による阻害はあっても、人類は着実に科学文明を形成していた。一千年も時があれば、無線通信くらいは開発されてもおかしくないはずだ。だがこの世界には、信じがたいことに顕微鏡すら存在していない。病気を治すために祈祷に頼っている村もあると聞く・・・

 

・・・ブレアード・カッサレは魔術師だ。魔法が当たり前に存在していた世界の人間から見た科学と、もともと科学文明に生きていた人間が見た科学とでは、見え方に違いがあるのではないか?例えばオレから見れば、魔法とは科学ではない。科学とは、原因が同じであれば、結果は必ず同じでなければならない。普遍性が科学の大原則だ。だが魔法は違う。オレが使う純粋魔法と、レイナが使う純粋魔法では、同じ術式でも威力に差が出る。「計算者によって、式が同じでも答えが違う」のは科学とは呼ばない。つまり魔法は標準化できない。普遍的なものではないのだ。だがもし、魔法が普遍的に使えるようになったら・・・

 

扉がノックされ、オレは思索の海から抜け出した。レイナが顔を覗かせる。オレにお願いごとのようだ・・・

 

『ディアン、その・・・これから女三人で飲みに行きたいんだけど・・・』

『護衛は・・・必要ないな。わかった。オレは適当に過ごすから、楽しんでこい』

 

オレに口づけをして、レイナが嬉しそうに部屋から出ていく。思索の海から出たオレは、本を閉じて呟いた。

 

『・・・ブレアード・カッサレか・・・会ってみたい人物だな・・・』

 

外は未だに、静かな雨が降り続いていた・・・

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