戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

45 / 79
第四十三話:魔神の貌

インヴィディアの街で酒を仕入れたリタ行商隊は、バーニエの街に到着をしていた。リタは相当な量をインヴィディアで仕入れたらしいが、驚いたことにバーニエで馬と荷車を手配し、さらに大量の黒麦酒を仕入れていた。荷車の量がこれまでの二倍になっている。オレが護衛人数が不足すると疑問を提示すると・・・

 

『ニッシッシッ!大丈夫!凄腕を一人雇っていますから!』

 

そう言われて紹介されたのが、グラティナだった。どうやら警備隊長を辞めたらしいが、オレたちにくっつくとなると報酬が無いため、リタにお願いをしたらしい。リタの方も、仕入れをする以上は護衛が必要と感じていたようで、需要と供給が上手く合ったようだ。

 

『これから行く北は、魔物や山賊が横行している。行商人たちも滅多に行くことは無い。これだけの規模の行商隊になれば、間違いなく襲撃を受けるぞ。覚悟はしておいた方がいい・・・』

『山賊とは、どの程度の規模なんだ?』

『私が聞いているだけでも、百名以上だ。相当に酷い奴らで、村々での略奪や暴行が後を絶たない・・・』

『・・・そいつら、顔は隠していないのか?』

『顔か?隠しているという話は、聞いたことが無いが?それが何か関係あるのか?』

『・・・顔を隠していないということは、罪悪感も羞恥心も、感じていないということだ・・・なるほど・・・』

『・・・殺すのか?』

『まぁ、襲って来たら、その時に聞いてみるさ・・・』

 

古の宮に出発する前夜、グラティナがオレの部屋を訪ねてきた。

 

『そ・・・その、明日の出発前に、今一度、打ち合せをしておこうと思ってな・・・』

 

顔を朱くしてそう言う様子に、オレは彼女が何を望んで来たのか悟った。

 

『・・・レイナに話してくる・・・』

『い、いや・・・もう、レイナには話して・・・ある・・・』

『・・・そうか・・・』

 

オレはグラティナを部屋に入れると、そのまま押し倒した。

 

『い、いきなりだな・・・』

『・・・そういう割には、顔が喜んでるぞ?』

 

グラティナはオレの首に腕を回した・・・

 

 

 

 

バーニエを出発したリタ行商隊は、北にある「古の宮」を目指した。六日の行程を予定している。古の宮はドワーフ族が多く住む集落で、北のケレース地方から、魔物などの襲撃も受けることも多いらしい。これまで、古の宮を目指した行商隊もいくつかあるそうだが、途中で山賊や魔物の襲撃に合う可能性が高く、古の宮も決して、安心できる場所ではない。リタ自身も、インヴィディアで悩んでいたようだ。

 

『狐穴に入らざれば狐子を得ず、と言いますからねっ!危険が高い分、利益も大きいのですっ!』

 

(キツネじゃなくてトラだろ・・・)

 

オレ以外もそう思ったようだが、誰もツッコミはしない。実際、バーニエの街を出て二日目からは、集落なども殆ど見受けられなくなっていた。グラティナがレイナの傍に馬を進めた。

 

『レイナ、ディアンにも聞いたのだが、山賊に襲われた時は、殺すのか?』

『ん~ ディアン次第かしら・・・ 彼が殺せと言ったら、迷うことなく殺すわ』

『・・・そうか・・・』

『・・・人を殺すのは、抵抗がある?』

『うむ・・・私は、人を殺したことが無いのだ・・・』

 

グラティナの悩む表情を見て、レイナが笑いかけた。

 

『大丈夫よ。彼は簡単に人は殺さない。実際、彼が人を殺したところを、私はまだ見たことが無いもの・・・』

『そうなのか?』

『でも、覚悟はしておいたほうが良いわよ?山賊に襲われたら、戦わざるを得ないでしょ?』

『うむ・・・斬るだけならば、躊躇はしない・・・』

 

 

バーニエの街を出発してから三日目の夜、徹夜で警戒をしていたオレは、多数の馬が近づいているのを感じ、剣を構えた。

 

『レイナッ!グラティナッ!来るぞッ!』

 

事前の打ち合せ通り、リタや他の護衛を荷車に隠し、オレたちは三人で、山賊を待ち構える。

 

『リタ、決して顔出しちゃダメよ?他の人たちも、いいって言うまで、顔を出しちゃダメ』

 

レイナがリタたちを皮布で覆い隠す。話し合いによっては、一方的な殺戮になる。リタには見せないほうが良いだろう。やがてオレたちの前に、馬に乗った山賊たちが現れた。百名程度であろうか。後ろからは走ってくる者も見受けられる。行商隊を取り囲むように包囲した。

 

『・・・こんな規模の行商隊が通るなんて、久々だぜ・・・カネと荷物とオンナを置いて、さっさと帰りな・・・』

 

男たちが卑下た笑い声を上げる。レイナとグラティナに、値踏みするような視線が集まる。オレは進み出て語りかけた。

 

『オレの名はディアン・ケヒト・・・この山賊の頭目と話をしたい』

『俺がそうだ。なんだ?命だけなら助けてやるぞ?』

 

また笑いが起きる。オレは笑みを浮かべながら語りかけた。

 

『聞きたい。あなた方は、なぜ行商隊を襲うんだ?』

『あぁ?』

『行商人たちが苦心して集めた荷物や蓄えた富みを奪う・・・それは「悪」であると感じないか?』

 

頭目は大笑いした。他の男たちも笑う。

 

『コイツは面白ぇ・・・悪だと?感じねぇなぁ。俺たちは殺し、奪い、犯す。そうやって生きてんだ』

『なるほど、つまり殺し、奪っても構わない・・・と考えているわけか?』

『あぁそうだっ!わかったらさっさと・・・』

 

頭目が凍った。オレの気配が変わり始めたことに気づいたからだ。躰を覆っていた魔力が消え、魔神の気配が溢れ出す・・・

 

≪・・・殺し、奪っても構わない・・・だったら覚悟は出来ているな?殺され、奪われる覚悟が・・・≫

『な、な、なんだ・・・テメェは・・・』

≪・・・オレが奪ってやろう・・・貴様らの命をな・・・≫

 

馬たちが騒ぎ出す。近くの山賊が尻餅をついた。魔神と化したオレは、腰を抜かした山賊の首をいきなり刎ねた。

 

≪レイナッ!グラティナッ!無理に殺す必要はないッ!だが誰一人として五体満足で帰すなッ!≫

 

二人が抜剣し、斬り始める。オレは口元に笑みを浮かべたまま、手当たり次第に斬った。もはやそれは戦いではなく、一方的な殺戮であった。逃げ出そうとする山賊の背中に、レイナが魔法を放つ。男の躰が弾け散る。グラティナも斬ってはいるが、手や足を斬りつけるだけで殺してはいない。オレは、逃げ出そうとする男を背後から斬り、躰を真っ二つにした。逃げ出そうとした頭目の馬を倒す。残りは二人に任せれば良いと考えたオレは、頭目に近づいた・・・

 

『・・・て、テメェ・・・人間じゃねぇのか・・・』

 

後ずさる頭目を見下ろす。オレはずっと笑みを浮かべたままだ。

 

≪・・・誰が人間だと言った?・・・≫

『た、た、助けてくれッ!』

 

片腕を斬り飛ばす。

 

『ぎ、ぎゃぁぁぁぁっ!』

 

切り口から血を噴出させながら、絶叫する。

 

≪・・・お前はそうやって、助けを乞う人間を何人殺した?・・・≫

 

右足を膝から斬り飛ばす。再び叫び声が上がり、泣き声が聞こえ始める。

 

≪・・・泣き叫ぶオンナを何人犯した?・・・≫

 

両耳と鼻を斬り落す。叫び声のみで、もはや何を話しているかは理解できない。

 

≪・・・殺し奪うのなら、殺され奪われる覚悟もしておけ。生まれ変わったら思い出すがいい・・・≫

 

頸を斬り飛ばし、ようやく静かになる・・・

 

振り返ったオレは、レイナが無表情のまま、最後の一人の首を斬り落とすところを見た。オレは頷くと、魔神から人間へと戻った。グラティナが切った山賊たちが逃げていく。切り口を抑えたり、足を引きずったりしている。グラティナは震えていた。オレの殺戮の姿を見たからだ。オレは何も言わず、リタたちが隠れる皮布に声を掛けた。

 

『終わった・・・片付けたいので、男二人の手を借りたい。頼む・・・』

 

他の護衛たち二人と共に、死体を一か所に集める。グラティナの介抱はレイナに任せた。集めた死体を燃やす。メルカーナの轟炎である。骨も残らずに、全てが灰になる。

 

『・・・一度堕ちた人間は、簡単にはそこから這い上がれない。生まれ変わって、人の道を生き直せ・・・』

 

オレはそう呟いて、瞑目した・・・

 

 

 

 

私は恐ろしかった。斬ったことではない。あの男が、笑いながら平然と殺戮をしている姿に戦慄をしたのだ。

 

(やはり、あの男は人間ではない。魔神なのだ・・・)

 

レイナが男を後ろから魔法で仕留めるのを見た。躰が砕け、脳や内臓が飛び散る。私は襲ってきた奴らの手や足を斬っただけだ。命までは奪う必要はないと思っていた。だがあの男は、完全な殺戮を望んでいた。「無理に殺す必要はない」とは、私の為に言った言葉なのだ。レイナだけなら、全員殺せと言ったはずだ。あの男の期待通り、レイナは表情一つ変えずに男の首を刎ねた。あまりの冷たい表情に、私はゾッとした・・・

 

『ティナ?大丈夫?』

 

私の愛称を呼びながら、彼女は私を気遣ってくれた。その表情は、先ほどの殺戮の表情とは全く違う。どこまでも私を心配してくれている表情だ。

 

『お、お前は・・・恐ろしくないのか?あんな・・・一方的な殺戮をして・・・』

 

私は思わずレイナに問い質した。彼女を笑みを浮かべながら応えた。

 

『だって私は、使徒ですもの・・・』

 

何を言っているのか、私には理解できなかった・・・


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。