戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第四十六話:大魔術師の研究室

ディル=リフィーナには多様な知的生命体が存在するが、亜人間族としてはエルフ族に肩を並べて有名なのが「ドワーフ族」である。ドワーフ族はその多くが山岳地帯に住んでおり、洞窟に入っては鉱石を探し、それで武器や道具を作っている。エルフ族が現神ルリエンを信仰しているのに対し、ドワーフ族は「山岳の神シウ」「鍛冶の神ガーベル」を信仰している。特にガーベルは現神でありながら、「イアス=ステリナ」で栄えた科学文明に強い関心を持ち、魔法と科学を融合させた「魔導」という概念を生み出した。ガーベルは自身が「モノづくり」への関心が強く、その知識を神の恩寵としてドワーフ族に与えている。そのため、ドワーフ族が鍛えた剣などの武器類、馬の鞍や鐙などの道具類は、極めて質が高く、人間族の中では高値で取引がされている。無論、彼らにとって人間族の通貨など何の価値も無いため、大抵の場合、対価は「酒」となる。

 

ドワーフ族は、その外見こそ人間族よりも二回りほど背が低いが、強い骨格と筋力を持ち、大抵の岩なら槌の一振りで破壊できる。その平均寿命は、エルフ族と比べると短いが、それでも三百年以上は生きるとされており、人間族の平均寿命である六十年の、実に五倍以上である。そのため、老化の速度が遅く、齢九十歳のドワーフ族の女性も、背の低さと相まって、その見た目は幼女に見える場合もある。

 

山岳地帯に住み、一日の多くを洞窟で過ごすことから、ドワーフ族は暗いという印象を持つ者も多いが、それは間違いである。ドワーフ族は、他族に対してこそ排他的な一面もあるが、酒を好み、歌を謳い、冗談を飛ばし、陽気に一日を過ごす種族である。無論、これも個体差があり、特に年齢を重ねたドワーフは、その長い人生経験から簡単には笑わず、無口になる傾向が見受けられる。

 

このように、ドワーフ族の関心事は「酒」「モノづくり」と二つが主であり、それ以外に関心を払うことは、ほとんど無い。この狭い範囲の興味関心が、ネイ=ステリナにおいて「最も科学に近い存在」でありながら、科学文明を形成することが出来なかった理由だと言われている。彼らは良い道具を作り、それを酒と交換し、一日を陽気に過ごせれば、それで満足をする種族なのである・・・

 

 

 

 

『ニッシッシッ!それじゃぁ、いってらっしゃ~い!』

 

リタは満面の笑みでオレたちを送り出した。古の宮の長ヴェストリオの頼みとは、行商店を出している間、魔物撃退を手伝ってくれ、というものであった。オレたちが手伝えば、他のドワーフが鉱石などを取ることが出来、酒も捌けるということらしい。破産危機で落ち込んでいたリタは、その話を聞き一瞬で復活した。

 

『そりゃもう、お好きなだけ使って下さい~ ニヒッ』

 

揉み手をしながら勝手に決められ、オレたち三人はため息をついた。雇い主の命令である以上は聞かないわけにはいかない。オレは洞窟内を調査し、出現する魔物が強力になった原因を探りたいと持ち掛けた。ヴェストリオは調査の為に、現在の洞窟の地図を渡してくれた。

 

『・・・洞窟内では、魔物を退けるということは難しいだろう。殺すこともやむを得ないと思っておいてくれ・・・』

 

オレの言葉に二人は頷いた。松明を片手に洞窟内に入ると、すぐに魔物の襲撃を受けた。オークやアースマンなどである。それほど強力な魔物ではない。そう思っているといきなり石地龍が現れた。オレは二人を退けると、石地龍の攻撃をすり抜け一刀両断にした。オレは首を傾げた。

 

『・・・やはりおかしい。縄張りなども関係なく、とにかく古の宮を目指して魔物が殺到しているような雰囲気だ・・・一体、あそこに何があると言うんだ?』

 

その後も魔物の襲撃は続いた。オレたちはとにかく倒し続けたが、さすがにレイナとグラティナにも体力の限界が見え始めた。オレはこれ以上の探索は中止し、引き上げようとした。その時、松明の光により、壁に何かが描かれているのを見つけた。

 

『うん?』

『ディアン?どうしたの?』

『・・・ちょっと待ってくれ・・・これは・・・』

 

それは、結界の紋章だった。かなり複雑な術式で描かれているが、もう魔力は通じていない。ただの絵になっていた。

 

『・・・見たことも無い術式だな・・・この洞窟には、昔は結界が張られていたんだ・・・』

 

詳しく調べたかったが、魔物の咆哮が聞こえた為、オレたちは古の宮まで引き返した。

 

 

 

 

『そうか・・・結界を見つけたか・・・』

『・・・ご説明頂けないでしょうか?』

 

ヴェストリオは目を閉じたままである。オレが沈黙をしていると、いきなり立ち上がった。

 

『・・・ついて来い・・・』

 

ヴェストリオは城の一室までオレを案内した。頑丈な扉には鋼鉄の鍵が掛けられている。懐から鍵を取り出し、扉を開ける。古い書物、埃と油の匂いが溢れる。かなりの年月が経っているようであった。

 

『・・・この部屋が開けられるのは、十年ぶりだ。昔、ある魔術師がここで研究をしていた。十年前、儂らも調べようとしたが、何が書かれているのか理解できなかった。あの結界は、その魔術師が張ったものだ・・・』

 

オレは微かな期待と共に、部屋に入った。部屋の壁一面に書籍が並び、机の上には機械工具や実験用の器具が置かれている。走り書きがされた、大量の紙が束ねられている。他にも見たことも無い素材や道具があった。壁の八角には、見慣れた印を描いた布が張られている。オレの期待は膨らんだ。オレ以外であの印を使う魔術師など、思い当たる人物は一人しかいないからだ。

 

『・・・その魔術師は、この部屋とドワーフの知識を貰う代わりに、洞窟に結界を張り、ある一定以上の魔物は入り込めないようにする、と取引を持ち掛けてきた。悪い条件では無かった。儂はその条件を受け入れ、この部屋を与えた。あの男はここで、五年間ほど研究に没頭していた。その姿は正に狂気だった。だが、あの男は約束を守った。実際、その結界によって、手ごわい魔物が入り込むことも無くなり、この宮も、かつての活気を取り戻した・・・』

『・・・だが十年前、その結界が破れた・・・』

『そうだ。だから結界を元に戻したくて、この部屋を開け、研究資料を読もうとした。だが、あの男は慎重だったのだな。あの男が書き残したものは全て、儂らには理解できない言葉で書かれていた・・・』

 

机の上に置かれた、一冊の書籍を手に取った。埃を払うと、オレが持ち歩いている書籍と同じ装丁のものだった。表紙の左下に、見慣れた署名が書かれていた。

 

「B.Kassere」

 

オレは、少なからず興奮した・・・


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