戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三話:日々是修行

『やはり、ヒトの成長というものは、目覚ましいものですね・・・』

 

龍人族の村に留まり、リ・フィナに剣術を学ぶことを許されてから1年(14ヶ月)が過ぎようとしていた。その間はほぼ、修行の日々であった。朝からリ・フィナを相手に剣術の稽古をし、夜は長老からこの世界の話を聴かされた。長老は七魔神戦争以前に生まれたそうで、この世界の歴史に精通していた。魔法に関しては、リ・フィナが見回りの仕事で稽古が出来ない時間に、長老補佐であるグリーデが教えてくれた。

 

 

『よいですか?私の剣技は、龍人族のための剣技、虚を捨て実を極める”一撃必殺”の剣です』

 

剣術の修行を始める際に、リ・フィナからそのように説明をされた。上人下蛇の龍人族は、人間と比べて機動力が低い。動き回って相手を翻弄し、隙をつくって打ち込む、という虚実の剣術ではない。むしろ、相手の動きに惑わされることなく、重い一撃で相手の虚を打ち砕く”極実の剣”と言えた。

 

『真に実を極めれば、相手の虚も防御も関係ありません。唯一撃を打ち込む、これだけで如何なる敵にも勝てます』

『あなたは人間です。虚実の剣術も使えるようになりたいでしょう。しかし、虚とは所詮は見せかけ、真なる一撃には勝てません。私の師は言いました。”千掌を知らんと欲するより、一掌を極めんと欲せよ”・・・多くの技を識るのではなく、一つの技を極めるのです』

 

使い古しの剣を振るオレに対し、リ・フィナは語りかけた。普通の人間では耐えられない程に過酷な修行だが、魔神の肉体を持つオレにとっては、それほどキツイ内容ではない。むしろ、秀麗な顔立ちと発達した胸を持つリ・フィナと寝食を共にする方が、オレにはキツかった。もし龍人族でなかったら、とっくに襲いかかっていただろう。下半身が蛇である龍人族は、性的な意味ではオレの好みでは無かった。

 

 

『魔法とは、六つの魔素を操って発生する現象のことである。六つの魔素とは火・水・土・空気・光・闇、これらの魔素を組み合わせ、自分の望む現象を発生させるのが魔法なのだ・・・』

 

中年オヤジのグリーデは、龍人族の中でも上位の魔法使いであった。長老補佐として村内の調整役であるグリーデは、話し方が上手だった。オレの知る科学知識の世界とは、全く構造が異なるディル=リフィーナ世界の基本を解り易く説明してくれた。

 

『魔素は、体内に宿る魔法力によって操ることが出来る。この魔法力は、魂の活動によって生み出される力のことで、極端な話、犬や猫でも魔法力を持っている。魂とは、生命の根源のことで、これが無ければ肉体はただの物質と化してしまう・・・』

 

オレが最も理解できなかったのは、この”魂”という奴だ。オレがいた科学文明世界では、この概念は空想とされていたが、この世界では現実のものなのだ。実際に目に見えるものではないそうだが、確実にそれは存在し、魂の活動が魔力へと変換されるらしい。たとえば、人間の構成要素である炭素やリン、アンモニアやナトリウムといった物質をかき集めても、人間を創ることは出来ない。なぜなら魂が無いからだ。人間の肉体は作れても、魂が無ければただの物体である。そう考えると、オレのいた世界にも、魂と言うのはあるのかもしれない。科学で観測できないから、否定をしていたに過ぎなかったのではないか?

 

 

『今日は、ドワーフの話をしてやろうか・・・』

 

剣術や魔法の修行の後は、長老の家でこの世界についての勉強であった。予め多少の知識はあったが、やはり現実世界で聞く話はより深く、より広かった。たとえば神についての話などは、オレの興味を惹きつけた。長老は語った。神と言ってもそれは強さと長寿を持っているというだけの存在であり、超常的なものではない。己の力によって相手を駆逐し、自己の思想を他者に押し付けようという点では、古神も現神も変わらず、所詮はヒトの延長線に過ぎない。なまじ力を持っているだけに、ヒトよりもタチが悪い・・・などと笑いながら語るのである。

 

『とても儂の想像の及ばないことじゃが・・・恐らくは古神も現神も、所詮はただの”生き物”なのじゃよ。神核を失えば死ぬ。つまり死からは逃れられない。本当に神なのならば、死ぬはずが無かろうて… フォッフォッフォッ こんなことを言っていたら、そのうち天罰が下ってしまうかもしれんのう?』

 

長老の話は、古神や現神、そのほかの種族についても、それぞれの立場に立って語られたものであった。物事は決して善悪で区別できるものではなく、灰色の濃淡によって分けられる。ドワーフにはドワーフの生き方、エルフにはエルフの生き方がある。何人にも、それを侵す権利は無いが、その権利があると思うこともまた、自由なのだ。達観した年寄りらしい話ではあるが、オレはこうした話は嫌いではない。

 

 

『もう、貴方に教えることは何もありませんね。この一年で、よくここまで成長しました・・・』

 

リ・フィナは感慨深そうにオレに語りかけた。オレの剣術は既にリ・フィナを超えてしまっている。魔法に至っては、上位魔法「双角蛇の轟炎」まで使えるようになった。グリーデの使える魔法は全て修得し、その一つ一つの威力は、グリーデを遥かに凌いだ。基礎魔力が絶対的に違うので当然である。この数か月は、独自魔法を編み出すことに集中していた。魔法を覚える過程で、自分の魔気をコントロールする術も獲得した。魔神の気配を抑えるためには、全身を魔力で被膜のように覆う必要がある。結構な集中力が必要で、そのため魔気を抑えると、戦闘力も低下をしてしまうのである。村にいる限りは、魔気を抑えても問題が無い。オレは魔神としてではなく人間として、この村に迎え入れられたのだ。そう思って、魔気を抑えていた。

 

『ディアン、長老がお呼びよ?』

 

オレはリ・フィナと共に、長老の下へと向かった。既に用件は察していた。

 

『ディアンよ。そなた、この村に来てどの程度になる?』

『ほぼ、一年でしょうか・・・』

『うむうむ、儂ら龍人族にとっては瞬き程度の時間じゃが、ヒトが成長するには十分じゃのう…』

 

長老はあえて、オレをヒトとして扱っている。

 

『リ・フィナよ、少し席を外してくれぬか?』

『長老がそう仰るなら・・・』

 

リ・フィナはオレの様子を気にしながら、部屋から出た。

 

『さて・・・魔神ディアンよ・・・』

 

長老はオレに顔を向けると、少し声を落として話し始めた。

 


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