戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第四十八話:魔導技術の可能性

ラウルバーシュ大陸で「魔導技術」が登場したのは、七魔神戦争以前である。現神ガーベルは、先史文明の科学技術と魔法を融合させ、「魔法を使えない者でも、魔法と同じ効果が得られる技術」として、魔導技術を生み出した。ガーベルが一番最初に開発をしたものは「魔導火付け石」と言われている。かつての「ネイ=ステリナ」では、火を起こす際には、魔法か火付け石、もしくは紐錐式という共同作業での着火に頼るほか無かった。そこでガーベルは魔力が封じられている石「魔力石」を加工し、誰でも「極小の火焔魔法」を使えるようにした。これが「魔導火付け石」である。

 

だが、ガーベルに対して、他の現神から慎重論が出た。三神戦争以前の人類は、科学を高度に発展させたが、その代償として生命が存在できなくなるほどに環境を破壊していた。もし魔導技術が広まれば、同じことを繰り返す可能性がある。そう危惧した一部の現神たちは、ガーベルに対して魔導技術普及の制限を求めた。ガーベルはそれを受け入れ、自分を信仰する種族の中で、最も魔導技術を発展させられそうな「ドワーフ族」に対し、魔導の概念と技術を与えたのである。

 

ドワーフ族は、ガーベルの期待通り魔導技術を使った兵器や道具を開発したが、その最大の発明が「魔導巧殻」である。魔導巧殻は、ドワーフの魔導技術とルーン=エルフの秘術を掛け合わせて創られた「人工生命体」である。その製造方法は、まず神々の力を宿した石を精製し、それとルーン=エルフの魂とを掛け合わせ「疑似的神核」を形成する。その神核を「肘から指先までの長さ程度(七十㎝)」の体長を持つ機械人形に組み込む。これにより、神を模した力と魂を持った機械人形が完成するのである。

 

製造過程を簡単に説明すれば上記のようになるのだが、実際に製造するには、ドワーフ族の技術とルーン=エルフの秘術を修める必要があり、事実上、魔導巧殻を製造することは不可能な状態である。現在、魔導巧殻は全部で四体が存在しており、それぞれに、ディル=リフィーナに存在する四つの月にちなんだ名前が付けられている・・・

 

 

 

 

『・・・魔導巧殻、ですか・・・』

 

ヴェストリオの話を聞きながら、オレは考えた。ブレアード・カッサレは「魔導巧殻」という人工生命体について、調べていたようである。彼は魔導巧殻の何について、調べていたのだろうか?ブレアードは以前、「神核」を創ることに関心を持っていた。魔導巧殻はドワーフの魔導技術とルーン=エルフの秘術によって「疑似的神核」を創り上げている。彼はその作り方を解明しようとしていたのではないか?オレはその疑問をヴェストリオにぶつけると、苦そうな顔をして頷いた。

 

『・・・そうだ。あの男が求めていたのは、魔導巧殻の核を創る技術だった。そしてあの男は、ドワーフ族の技術に関しては、ほぼ修得したようだ』

『教えたのですか?』

『バカな・・・教えるわけが無かろう・・・だがあの男は、魔導巧殻の一体であるナフカを調べることで、ドワーフ族に伝わる錬金術「魔銀結晶」に独力で辿り付いたようだ・・・』

『・・・その魔導巧殻ですが、見せて頂くことは出来ませんか?』

 

ヴェストリオは首を横に振った。

 

『悪いが、見せるわけにはいかん。お主のことはある程度は信頼しておるが、魔導巧殻はドワーフ族の最高秘密でもある。簡単には見せられん・・・』

 

(まぁそうだろうな・・・)

 

『残念です。それで、ブレアードがあなた方の錬金術を修得していたということですが、そう考えられる根拠があるのですか?』

『・・・十年前にあの部屋を開けた時に、魔銀結晶らしき石を見つけたのだ。完全では無かったが、かなり近いものだった・・・』

 

ヴェストリオはため息をついた。

 

『・・・儂は、人間族というものを見縊っていたのかもしれん。魔術師と言っても所詮は人間族、我々から見れば原始人のようなもの・・・どこかでそう思っていた。だがあの男は僅か五年で、独力でドワーフ族の秘技まで辿りついた。人間の可能性の、なんと恐ろしいことよ・・・』

 

(ブレアードは特別だ。他の人間までそう思われたら困るな・・・)

 

『ブレアード・カッサレが、どの程度までドワーフ族の技術に近づいていたのかは、彼の研究書を読めば解るでしょう。もう済んだことです。それよりも、まずは結界を張って、魔物の侵入を防ぎましょう・・・』

 

ヴェストリオは苦く笑って、頷いた。

 

 

 

 

ヴェストリオとの話し合いが終わり、オレは城前の広場に向かった。そして目にした光景に唖然とした。そこはまるで祭りのように、ドワーフたちが歌い、踊っていたのだ。リタたちも酒を売りながら歌っている。

 

『ディアンッ!』

 

レイナとグラティナも酒を飲んでいる。洞窟の防御は良いのだろうか・・・

 

『ヴェイグルさんが、結界の話をしたら、なんだかこのお祭りになっちゃって・・・』

 

レイナが言うには、ヴェイグルが「血液が集まれば結界が張れる!すぐ解決するぞ」と言ったらしい。オレから言わせれば「解決しそうだ」と「解決した」では全く違うのだが、彼らにとっては似たようなものらしい。オレはヤレヤレと思いながら、リタから黒麦酒を受け取った。リタも上機嫌のようだ。

 

『ニッシッシッ!洞窟の問題、何とかなるそうじゃない?そうなればお酒もガンガン売れて・・・ニヒヒッ!』

『・・・まあ、メドは立ったな。で、これ洞窟の防御は良いのか?』

 

レイナに尋ねる。レイナも既に酒が回って顔が朱い。

 

『一応、ドワーフ族の人たちが守りに立ってくれているけど・・・』

『・・・まぁ、いざとなったらオレが出るか・・・』

 

杯を開けると、オレは研究室に先に戻ると伝えた。あの分なら皆、酔いつぶれるまで飲みそうだ・・・

 

 

 

 

研究室に戻ったオレは、ブレアードの魔導書「魔導編」を開いた。ブレアードは魔導技術の可能性を高く評価している。

 

・・・旧世界において、人間族は高度な科学文明を形成していた。しかしその代償が、環境の汚染であった。空気は汚れ、森林は減少し、平野は砂漠となった。科学を発展させるほど、自分たちの生活を苦しめていたのである。その最大の原因は、科学文明においては、その動力が全て「化石燃料」と呼ばれる外部動力源に依存していたことにある。彼らは魂の活動が生み出す「魔法力」を知らなかった。「化石燃料」を使って機械を動かし、その結果、大気を汚していたのである。魔導技術は、魔法に普遍性を与えるものである。使用者が魔法を知らなくても、魔法と同じ効果を得ることが出来る。それはつまり「化石燃料を使わずに機械を動かす」ということを意味する。魔導技術が人間族に拡がれば「新たな科学文明」が形成される可能性がある。現神が恐れるのは、正にこの事態であろう。魔導技術を普及させないための言い訳として、先史文明期の環境汚染の繰り返しになると言っているのである・・・

 

『・・・環境汚染をしない科学文明か・・・』

 

ブレアードの記述を読みながら、オレも思索の海へと沈んだ。

 

・・・確かに、オレのいた科学文明世界でも、環境破壊は深刻な問題だった。人類を豊かにするはずの科学が、いつの間にか人類を苦しめていた。そして環境破壊の最大の原因が、動力となる「電気」を生み出すための原材料「化石燃料の燃焼」だった。環境を破壊していると知りながら、人類は化石燃料を消費し続け、その結果、大気は汚染し、生き難くくなり、その中で生きるためにさらに電気を使う、という悪循環に陥っていた。もし、化石燃料が不要な動力源が見つかったとしたら、オレのいた世界も全く違っていただろう・・・

 

ブツブツと独り言を呟いていたオレは、ふと視線を感じて顔を上げた。扉の隙間から、宙に浮いた人形がオレの様子を見ていた・・・

 

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