戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
オレはその人形が「魔導巧殻」であると直感した。話しをしてみたいと思い、手招きをする。人形が恐る恐る入ってきた。蒼い服を着た可愛らしい人形だ。
『・・・この部屋は、ずっと使われていなかったのに、明かりが見えたから、つい覗いてしまったんですの・・・』
『ヴェストリオ殿にお願いをして、使わせて頂いています。はじめまして。私の名はディアン・ケヒト、ここから南西にあるディジェネール地方という処から来た旅人です。今は縁あって、行商人の護衛をしています。どうぞ、ディアンとお呼びください・・・』
オレは出来るだけ丁寧に挨拶をした。人形は、オレの目の前で宙に浮いている。飛行魔法だ。一体どういう術式なのだろう・・・
『わたくしはリューンと言いますの♪外はお祭りなのに、ヴェストリオの爺から「外に出るなー」と言われて、退屈していますの。遊び相手を探していたんですの♪』
『お聞きしたいのですが、リューン殿は「魔導巧殻」なのですか?』
『ふふーん♪わたくしは魔導巧殻四姉妹の長女ですの♪ディアンは、こんなところで何をしているんですの?』
(やはり魔導巧殻か・・・)
ヴェストリオに見つかったら大変だなと思いながらも、オレは好奇心を抑えることが出来なかった。
『ヴェストリオ殿からの依頼を受け、私はここで、洞窟を護る結界の研究をしていました。そのメドも立ち、この部屋を使用していた前任者の記録を読んでいたのです。リューン殿は、この部屋を使っていた人物をご存知ですか?』
『知ってますの♪ブレードとかいう陰気な中年オヤジですの♪・・・あれ?ブレードだったかな・・・?』
『ブレアード、ですね。リューン殿にお聞きしたいのですが、彼はどのような人物でしたか?』
『そうそう、ブレアードですの♪あのオヤジは、わたくしの極上の笑いが理解できない頭でっかちですの♪研究以外のことは、何もしゃべらない様な狂人ですの♪わたくしのカラダをバラバラにして、色々と調べていた変態オヤジですの♪』
(酷い言われようだな・・・)
オレは苦笑いをしながら、リューンの悪口を聞いていた。
『ディアンは、わたくしの笑いがきっと理解できるですの♪』
『ほう・・・リューン殿の笑いですか・・・興味深いですね・・・』
『んふふふ・・・では披露しますの♪・・・』
リューンは咳払いをして・・・
『大変やっ!大変やっ!・・・おう、どうした?・・・鍛冶屋が火事や~』
『・・・・・・・・・』
オレはどう返して良いのかを躊躇した。笑うべきなのか?これは笑わなければダメなのか?その迷いがリューンを不機嫌にさせた。
『むむっ!ディアンもブレードと同じですの!わたくしのお笑いが理解できない頭でっかちですのっ!』
『・・・申し訳ありません。どうやら、私にはお笑いの才能が無いようです・・・ところで、他の三名の御姉妹は、どちらにいらっしゃるのでしょう?出来れば、ご挨拶をさせて頂きたいのですが・・・』
『・・・上手く話を変えやがったですの・・・まぁいいですの♪わたくしについて来るですの♪』
オレはリューンに連れられて、研究室を出た。
ヴェストリオは考え事をしていた。洞窟の結界についてメドが立ったことは喜ばしい。だが、ブレアード・カッサレの研究内容が気になっていた。本来、魔導技術はドワーフが独自に持つ技術であった。ブレアード・カッサレが提示をしたのは、洞窟に結界を張る替わりに、魔導巧殻を含め、魔導技術を学ばせて欲しい、というものであった。それを自分は受け入れた。五年間という条件をブレアードが呑んだからだ。五年程度では、大したことは学べないと甘く考えていたのだ。だがブレアードは独自に、ドワーフの秘技まで辿り付いてしまった。魔導技術はともかく、魔導巧殻の秘密は、何としても護らなければならない。
『一度、エレンダ・メイルの王に相談してみるか・・・』
外の祭りに見向きもせず、ヴェストリオは四姉妹のいる部屋へと向かった・・・
『リューン、ヴェストリオ翁から外に出るなと言われていたではないかっ!』
部屋に入ったリューンとオレに、鋭い声が向けられた。紅い髪をした人形が、鋭い目つきで睨んでいる。
『退屈だったのでしょう・・・必然の結果ね』
『・・・リューンが男を連れてきました・・・』
灰色の髪をした人形と、薄青い髪をした人形がオレたちを見つめる。
『客人を連れてきましたの♪わたくしのお笑いを全く理解しない頭でっかち男、ディアンですの♪』
『ディアン・ケヒトです。行商隊の護衛をしています。先ほど偶然、リューン殿の知己を得ました。どうぞ、ディアンとお呼びください』
紅い髪をした人形が、オレの前に飛んでくる。やはり飛行魔法を使えるようだ。値踏みするようにオレを見る。
『・・・ほう・・・お主、中々デキそうだな。私の名はベル。よかったら、手合わせをしてみないか?』
『・・・ヴェストリオ殿に怒られそうですね・・・』
他の二体もオレの目の前に来た。四姉妹全員が飛行魔法を使えるようだ。
『ナフカだ』
『アルです。リューンの笑いが理解できないということは、つまりマトモということです』
リューンがアルの頬を引っ張っている。どうやら人工的な皮膚で覆っているようだ。オレはブレアードについての質問をした。
『ブレアードか・・・あの男は、極めて勤勉に研究をしていたな。戦いたいとは思ったことは無いが、知識を求める情熱は、認めてやっても良い』
『私は嫌いでは無かったわ。あの男は必要なことしか口にしない。私たちを完全に「調査対象」として扱っていた。私、おしゃべりは嫌いなのよ』
『あまり印象がありません。殆ど会話をしたことが無いので・・・』
オレは頷いた。本当であれば、オレ自身の手で魔導巧殻を徹底的に調べてい見たいが、それはヴェストリオが許さないだろう。そう思っていたら、後ろで咳払いが聞こえた。
『・・・お主、ここで何をしておるのだ?』
ヴェストリオが不機嫌そうな顔で立っていた・・・
『ディアンは悪くないですの。わたくしが勝手にディアンの部屋に行ったんですの・・・』
『・・・いえ、リューン殿が魔導巧殻と知りながら、この部屋までの案内をお願いしました。ヴェストリオ殿に黙って部屋に立ち入ったこと、お詫び申し上げます・・・』
ヴェストリオはため息をついた。
『・・・まぁ、見てしまったものは仕方がない。お前たちは部屋で大人しくしておれ。儂はディアンと話がある・・・』
オレはヴェストリオと共に部屋を出た。これは失敗だったと後悔しながら、後に続く。やがて別室に案内され、着席を求められた。オレの前に座ったヴェストリオはずっと沈黙をしたままだ。
(うーん・・・居心地が悪い・・・)
そう思っていたら、ヴェストリオが口を開いた。
『・・・魔導巧殻を見て、お主はどう思った?』
ヴェストリオの貌に、疲れが見えていた・・・