戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
ディル=リフィーナには、全部で八つの天体が存在している。具体的には、四つの太陽と四つの月であり、光側・闇側の神々が司っている。
【四つの太陽】
黄の太陽:光の三太陽神アークリオン(現神第一級神)
赤の太陽:光の三太陽神アークパリス(現神第一級神)
青の太陽:光の三太陽神パルシ・ネイ(現神第一級神)
アークパリスとパルシ・ネイは、アークリオンの息子と娘である。つまりディル=リフィーナでは、四つの太陽のうち三つは、アークリオン一族によって「独占的支配」がされている、と考えることも出来る。そして無論、闇側の太陽も存在している。
暗黒の太陽:闇の太陽神ヴァスタール(現神第一級神)
ディル=リフィーナでは、このように「光対闇」の構造が出来上がっているが、光と闇は表裏一体である為、どちらか一方だけが消滅するということは無い。ある意味で「談合」の構造が出来上がっている。
【四つの月】
紅の月:赤の月女神ベルーラ(中立の現神)
蒼の月:蒼の月女神リューシオン(光の現神)
鏡の神:賢王ナフカス(光の現神)
闇の月:闇の月女神アルタヌー(闇の古神)
八つの天体のうち、古神アルタヌーが存在するのは、アルタヌーの親であるアルテミスが現神に降伏し、アルタヌーはアルテミスの怨念を受け継いで「暗黒神」へと堕ち、現神が住む神骨の大陸の半分を闇で覆ったことから、闇の月を司るようになったと言われている。しかし、ラウルバーシュ大陸では闇の月は観測することが出来ず、その存在も知らない人間族も多数いることから、ラウルバーシュ大陸におけるアルタヌーの影響力はそれほど大きくはない。
いずれにしても、ディル=リフィーナの世界は、三神戦争の勝者である現神によって実効支配されている。現神は自らを「絶対的な正義」とし、自分たちへの信仰を集めることで古神の台頭を阻止している。特に、人間族の信仰を得ることでより大きな力を得ることから、光側の現神たちは、自分たちを信仰しない「闇夜の眷属」を弾圧する場合もある・・・
「魔導巧殻を見て、どう思った?」
ドワーフ族長ヴェストリオ・ドーラの問いに、ディアンは慎重に応えた。
『まず驚いたのは、想像以上に小さいということです。しかしそれでいて、それぞれに強い力を秘めている。また、当たり前のように宙に浮いて飛んでいますが、飛行魔法の術式は私も知れません。いずれにしても、現在の人間族の技術水準を、遥かに超えた存在だと思います』
『・・・・・・』
『そして、ここから先はオレの想像なのですが、この古の宮に魔物が殺到する理由は、あの魔導巧殻の存在が、関係をしているのではないでしょうか?』
『何故、そう思うのだ?』
ヴェストリオの眼が光る。ディアンは自分が核心に近いことを感じながら、言葉を選んで説明した。
『魔導巧殻は月の神の力を模している、とお聞きしました。確かに四体の魔導巧殻それぞれの名前「リューン」「ベル」「ナフカ」「アル」は月の神の名前を模しています。であるならば、その中で最も気になる神が「闇の古神アルタヌー」です。闇の月は、このラウルバーシュ大陸では観測することが出来ない月です。観測できないはずなのに、闇の月の力をどのように模したのか・・・』
『・・・もういい・・・』
ヴェストリオは話を中断させようとした。ディアンは言葉を途中で切った。
『儂は、魔導巧殻の誕生については何も言えん。言わないのではなく、言えないのだ。一つ聞きたいが、仮にお主の想像通りだったとして、お主はそれでどうしようと思うのだ?』
『・・・別に何もしませんね』
ディアンは肩を竦めて笑った。
『ここに来てまだ数日のオレでさえ、この程度は考えられるのです。ブレアード・カッサレであれば、とっくに御見通しだったでしょう。だが、彼の興味は古神などではなかった。彼は人工生命体を生み出した「疑似的神核の技術」に興味があったのです。オレも同じです。封印された古神などに興味はありませんね。オレの関心は、彼女たちを浮遊させる「飛行魔法の術式」です』
『・・・魔導巧殻そのものには、興味は無いのか?』
『ありません。オレの興味関心は、魔導巧殻であれば「飛行魔法の術式」、ドワーフの技術であれば「魔導技術」、古の宮についてであれば「洞窟の結界」、そしてこの城の中での興味は「ブレアード・カッサレの残した書物と彼がやっていたこと」です』
ヴェストリオは腕を組んで沈黙した。暫く黙ったのちに、ポツリと呟いた。
『・・・変わった男だな、お主は・・・』
『よくそう言われます。自分はただ正直に話をしているだけなのですが・・・』
『・・・魔導巧殻たちをどう扱うべきか、儂自身も悩み続けているのだ。あの四体をどの様に処すれば、最も良いのか・・・』
『・・・悩まれることもまた、あなたの責任です。部外者のオレがどうすれば良い、などとは言えません・・・』
『全くだな・・・』
ヴェストリオは低く笑った。ディアンは言葉を続ける。
『ただ、無責任を承知で、あえて言わせて頂くのなら、オレであれば、この古の宮には置きませんね・・・』
『・・・ほう、ではどうすると言うのだ?』
『魔導巧殻を創るにあたって協力をした、もう一つの種族があるでしょう。そちらの方が安全だと思いますよ。何しろ、強力な結界によって、護られていますからね・・・』
『・・・エルフ族か・・・』
『部外者の無責任な発言と笑って下さい。ヴェストリオ殿が悩み、お決めになれば宜しいのです・・・』
ヴェストリオは頷いた。先ほどより少しだけ、顔が晴れている。準備が出来次第、結界を張りに行くと伝え、ディアンは部屋を後にした。
翌日、二日酔いで使い物にならないレイナとグラティナを置いて、ディアンは一人で、結界を張りに洞窟に入った。無事に結界を張り終えて戻ると、リタが満面の笑みで酒を売っている。リタに結界を張り終えたことを伝えると、嬉しそうに頷いた。
『お疲れ様~ ニヒヒッ!見込み通り、お酒が高値で売れてますよぉ~こりゃ想像以上に儲かりそうです』
『そりゃ良かった・・・出来れば、荷車を一台分、確保して欲しいんだが・・・』
ディアンはリタにブレアード・カッサレの研究資料一式を運び出したい旨を伝えた。リタは簡単に許可を出した。行きと違い、帰りは荷物も少なくなるため、空の荷車も多くなるからである。ディアンはヴェストリオに面会し、結界を張り終えたことを伝えた。ついでにブレアード・カッサレの資料を全て引き取りたいと伝える。
『ここにあっても意味の無いモノだ。持っていって構わん・・・』
『有難うございます』
『・・・一つ教えておく。魔導巧殻は、飛行魔法の術式など使っておらん・・・』
『え?では、どうやって浮遊しているのですか?』
ヴェストリオはディアンに小さな部品を渡した。魔導巧殻の一部のようである。
『魔導巧殻は複数の部品を組み合わせて作られている。その部品は、魔導巧殻に飛行能力を与えるものだ。あの娘たちは、それに純粋魔力を通すことで、浮遊している。どの様に作るかは教えられんが、その部品をお前にやろう・・・』
ディアンは手に軽く純粋魔力を込めた。部品が宙に浮きあがった。この部品を解析すれば、飛行魔法について解るかもしれない・・・
『お前の言う通り、魔導巧殻は暫くはエルフ族に預けようと思う。結界が切れるのは恐らく三百年後くらいだろう。その頃に改めて、エルフ族と話し合ってみよう・・・』
『そうですか・・・カッサレの魔術書といい、この部品といい、お世話になりました。礼を申し上げます』
ヴェストリオは笑みを浮かべた。ディアンは初めて、この老ドワーフの笑顔を見たような気がした・・・