戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第五十三話:使徒への誘い

ラウルバーシュ大陸初のドワーフ族の国「ドゥム=ニール」は、メルキア国と同盟関係を結び、魔導技術を人間族に伝え始める。メルキア国はこれにより、飛躍的に成長を遂げ「メルキア帝国」として中原東方部に大帝国を築き上げた。メルキア帝国で名家として元帥を輩出するプラダ家は、ドワーフ族と特に深い繋がりを持ち、魔導技術の大家として史に名を刻むことになる。

 

魔導巧殻は、ドゥム=ニール建国に伴い、一時的にエルフ族の集落「エレン・ダ・メイル」にその身を移す。エレン・ダ・メイルは、幾重にもわたる強力な結界に護られているため、魔導巧殻アルが宿す「闇の月神アルタヌーの力」に魔物が惹きつけられることも無く、魔導巧殻たちはエレンダメイルで三百年近くを過ごすのである。魔導巧殻が再び歴史の表舞台に登場するのは、ドゥム=ニールを護ってきた結界が消える三百年後である。ドゥム=ニールは同盟国であるメルキア帝国に軍事支援を求め、メルキア帝国はその対価として、魔導巧殻を求めたのである。魔導巧殻は、メルキア帝国の四人の元帥たちに、それぞれ一体ずつ割り当てられた。メルキア帝国元帥は、それぞれの軍権に基づいて、メルキア帝国の版図拡大を図ると共に、魔導巧殻の保護者としての役割を担うことになる。

 

メルキア帝国内乱時において、後に皇帝となる元帥ヴァイスハイト・ツェリンダーは、魔導巧殻アルの保護者であったが、当時の皇帝ジルタニア・フィズ=メルキアーナの「究極の魔導兵器を生み出す」という野望により、魔導巧殻アルの身に封印されていた闇の月神の力「晦冥の雫」が暴走してしまう。ヴァイスハイトは、盟友であったバーニエ領主「エイフィリア・プラダ」を戦いの中で失うが、エレン・ダ・メイルの王「エルファティシア・ノウゲート」、ドゥム=ニールの首領「ダルマグナ・ドーラ」の協力を得て、神の力を打ち破る道具「黎明の焔」の開発に成功する。究極の魔導兵器「アルファラ・カーラ」を撃破し、メルキア帝国史上最大の内乱を鎮圧、新皇帝ヴァイスハイト・フィズ=メルキアーナとなる。

 

ヴァイスハイトは、残った三体の魔導巧殻リューン・ベル・ナフカを封印、内乱についても史実を闇に葬り「簒奪王」という汚名を甘受する。その後ヴァイスハイトは、国内の安定と魔導技術の更なる発展を推進し、メルキア帝国は最盛期を迎えるのである・・・

 

 

 

 

私にとっての初めての旅となった古の宮への行商は、感慨深いものとなった。バーニエで警備隊長を続けていたら、一生知らなかったであろう世界であったと思う。ディアン・ケヒトという男は、人間と魔神という二つの貌を持っている。そのことに私の中で迷いもあったが、この旅で私は決めた。

 

「この男について行こう。もっと広い世界へ・・・」

 

バーニエに戻る途中に、私は彼に相談をした。これからの旅の前に、私の母に会って欲しいと・・・

 

 

 

 

純血のヴァリ=エルフを初めて見たオレは、グラティナの父であった「ワルター・ワッケンバイン」に、多少の嫉妬心まで覚えた。エルフ族は長寿である為、たとえ百歳でも若々しいままである。グラティナの母「ララノア・ワッケンバイン」は、グラティナより多少、褐色の色味が強いが、服の上からでも解るほどに豊かな胸を持っていた。一見すると、グラティナの姉とさえ思える程に若い。男なら誰しも、獣欲を覚えるであろう美貌に、母親としての母性を感じさせる表情を持っている。横にレイナとグラティナがいなければ、口説いていたかもしれない。挨拶をして着席をしたオレをララノアは微笑みながら見つめ、アッサリと正体を口にした。

 

『娘に打ち勝った男は、魔神のように強いのだろう・・・そう思っていましたが、本当に魔神だったんですね・・・』

『・・・肉体は魔神、魂は人間、そのような姿で生まれました・・・』

『あの人が生きていたら、きっとあなたに仕合を申し込んだでしょうね。あの人は強い人が好きだったから・・・』

『グラティナから受けた技「極虚の剣」、あれほどの技を生み出した御仁であれば、ぜひお手合わせをしたかったですね・・・』

 

ララノアは微笑みながらオレを見つめる。そしてその表情を変えないまま・・・

 

『あなたにとって、私の娘グラティナ・ワッケンバインはどのような存在なのですか?』

 

そう斬りこんできた。さすがに剣豪の妻である。オレは言葉を選んで語った。

 

『・・・グラティナと最初に会ったのは、この街で領主であったムスカの部下を斬った事件からでした・・・』

 

オレはグラティナとの出会いを語り、そしてその時の印象を語った。

 

『グラティナは、強く、美しく、芯を持った女性です。そうした女性を傍に置きたいと考えるのは、男として当然だと思います』

 

堂々と発言するオレの横で、グラティナは真っ赤になっている。母親は依然として表情を変えずに、オレとレイナを見た。

 

『ですが、あなたには既に、そちらのお嬢さん・・・レイナさんがいらっしゃいます。あなたにとって、娘グラティナは、単なる浮気相手、遊び相手ではないのですか?それとも、そちらのレイナさんが遊び相手なのかしら?あなたにとって、レイナさんや私の娘は、何なのですか?』

『オレの「使徒」にしたいと考えている女性たちです。そしてレイナは、既にオレの使徒になりました』

 

オレは覚悟を決めて、使徒について語った。ララノア次第では、ここでグラティナと別れるつもりであった。

 

『・・・魔神と共に、永遠に生きる存在ですか・・・』

『これはまだ、グラティナにも話をしていないことです。使徒は無理に持つことは出来ません。本人が心から望まない限り、使徒にすることは出来ないのです。もし、あなたが反対をすれば、オレはこの場で諦めます・・・』

 

 

 

 

私は彼の言葉をじっと聞いていた。使徒という言葉は、レイナから一度、聞いたことがある。その時は、この男の家臣程度と考えていたが、私の想像を遥かに超えた存在だった。道理でレイナが強いわけだ。彼女は、魔神の寵愛とその力を得ているのだ。そしてもし、私も使徒になったら・・・

 

未来永劫、この男と生き、この男に尽し、この男から身を焦がすほどの愉悦を与えられ続ける・・・

 

何という蠱惑的な存在なのだ。レイナが使徒になった理由もわかる。永遠の命と人越の力、そして女としての最高の悦びを得られるのである。だが、母が反対をしたら、私は使徒を受け入れることは出来ないだろう。どうしても、心にわだかまりが残ってしまうからだ。母が呟いた・・・

 

『狡いですね。そんな魅力的なこと、断れる女など、いないではありませんか・・・』

 

母は私を見つめていた・・・

 

 

 

 

『母親ですもの・・・娘の様子を見ていればわかります。娘はあなたに出会って、二つのモノを手に入れた。女としての悦びと良い友人です。そしていま、三つ目のモノを手に入れようとしている。尽し続ける殿方、それも未来永劫、永遠に・・・』

『母上・・・』

『ティナ・・・私はあなたが羨ましい。ヴァリ=エルフは人間よりずっと長く生きる。人間の夫を持ってしまったら、すぐに別れがやってくる・・・でもあなたは違う。あなたは永遠の幸福が得られる。尽したいと思う殿方に、尽し続けられる・・・これは、ヴァリ=エルフにとって最高の幸せなの・・・』

『母上、では・・・』

『子供の幸せを願わない親などいません。娘が望むのであれば、あなたの使徒になることに私は賛成をします。ただ、その前に一つだけ、確認をしたいのですが・・・』

『なんでしょうか?』

『あなたにとって、娘と、そちらのレイナさん・・・どちらが大切なのですか?』

 

やはりこの質問が来たか。だが使徒を持つためには、一切の誤魔化しは許されない。僅かでもわだかまりがあれば、使徒にすることは出来ないからだ。オレは自分の気持ちを正直に語った。

 

『どちらも大事、などという卑怯な言い方はしたくありません。ですから正直にお応えします。レイナは第一使徒です。ですからレイナが優先されます。もし、レイナとグラティナ、どちらか一方しか助けられない事態となったら、オレはレイナを助けます』

『ディアン・・・』

 

レイナが心配そうにオレを見つめる。だがここは正念場だ。オレは言葉を続けた。

 

『第一使徒には、一つ特権があります。オレの寝顔を見ることが出来るのは第一使徒だけ、そう決めています。これからも使徒が増えるかもしれない、そう思った時に決めた、彼女に対するオレの誓いです』

『・・・つまり、私の娘は「二番」ということですか?』

『そうです。一番がレイナ、二番がグラティナ、そして三番がオレです・・・』

『・・・三番目があなたとは?』

『先ほどの例えですが、レイナとグラティナ、どちらか一方しか助けられない場合は、レイナを助けます。ですが、その時はオレは死んでいるでしょう。オレにとって使徒とは「命に代えても護る存在」です。そうでは無い魔神もいますが、使徒を犠牲にして生きるなど、オレの人間としての魂が許さないのです』

『娘が死ぬときは、あなたも死ぬ・・・そういうことですか?』

『死なせませんよ。命に代えても・・・』

 

いきなりララノアが笑い始めた。オレは何事かと首を傾げた。

 

『フフフッ・・・あなたはどうやら、女心というものが解っていないようですね。もしあなたが死んだら、レイナさんも娘も、自ら命を絶つでしょう。それくらい、あなたに惚れ切っていると思いますよ?残された者の気持ちも考えなくては・・・あなたは、死んではいけないのですよ?』

『・・・お恥ずかしい限りです。オレは死にませんよ。二人もオレも生き続けます。何故なら、オレは人間ではなく ≪・・・魔神ですから・・・≫」

 

グラティナの母、ララノアは頷いた。そして娘に対して告げる。

 

『ティナ、あなたは、あの人と私の大切な娘・・・あなたには幸せになって欲しい。誰よりも幸せに・・・ですが、あなたにとっての幸福は、あなた自身にしか解らないことです。あなたが、この魔神と共に生きたいと思うのであれば、迷わずにそうなさい・・・』

 

グラティナは涙を浮かべながら頷いた。

 

 

 

 

グラティナの母親ララノアへの挨拶を終えたオレは、グラティナに告げた。

 

『オレの使徒になるか、ならないかは、お前が決めろ。たとえ使徒を拒否しても、お前はオレにとって大切な存在だ・・・』

『わたしは・・・』

『すぐに決める必要はない。自分でよく考えろ。レイナも使徒について知ってから、実際に使徒になるまで二か月以上を掛けている・・・』

『・・・レイナに、使徒について聞いても良いか?』

『オレは今日は一人で寝る。ブレアードの本も読みたいしな・・・』

 

レイナはグラティナの肩を叩いて、微笑んだ・・・

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