戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第五十四話:プレイアの危機

オレにとって、ブレアード・カッサレの研究資料は、今回の行商の大きな収穫品であった。だがそれにより、ある問題が発生した。資料の量があまりにも多く、通常の宿の部屋では入りきらないという問題だ。この資料は極めて貴重なものだ。盗難などの危険もある。

 

(いっそ、水の巫女に預けるか・・・)

 

だが水の巫女がどこまで信用できるか、オレ自身も疑問だった。まだリタに預けたほうが信用できそうだった。だがその場合は、リタはまた報酬を要求してくるに違いない。悩んだ挙句、オレはありきたりな結論に達した。

 

(どこかに、家を持つか・・・)

 

 

 

リタ行商隊は、バーニエの街で行商店を開いた。古の宮から戻ってきたという噂はすぐに広まり、メルキアの武将や兵士のみならず、素材を求めて鍛冶屋や薬屋まで買いに来た。大規模な行商店になるため、オレたち三人が常時警備に入る。ドワーフ族の武器や道具、古の宮でしか産出しない素材ばかりなので、相当な高値で売れているようだ。リタは笑いが止まらないに違いない。バーニエの街での最後の夜、酒場でリタ行商隊の打ち上げがあった。

 

『ニッシッシッ!さぁ、飲んで飲んで~ 酒も食べ物も、みんな私の奢りだよ~』

『ご機嫌な様だな。まあ確かに客が殺到していたが・・・』

『ぷはっ!最初に予想していた利益の二倍以上になりそうだからね。やっぱ、規模大きくして正解だったわ~』

『全部、ここで売り切らなかったようだが?』

『ん?ここでは半分だけ売って、残りはプレイアで捌くつもり。店を出すのはプレイアだからね。そこでしっかりカネを得たいわけ!』

『・・・じゃあ、メルキアの通貨なんていらないじゃないか?』

『ディアンが最初に言っていた「両替商」をやるなら、メルキアの通貨も持ってなきゃ出来ないでしょ?行商規模を二倍にしたおかげで、出店費用と運転資金を差し引いても、まだ十分に資金確保が出来るから、最初から大規模に両替商をやりたいの!』

 

商魂逞しいリタに、オレは感心をした。酒が進むにつれて、オレの口も軽くなったのか、家を持ちたいという考えをリタに話してしまった。

 

『なぁリタ、ちょっと頼みがあるんだが・・・』

『なに?い、言っときますけど、私は高いですよ?これでも自分には自信があるんですから・・・たとえ胸が無くてもっ!』

『・・・何の話だ?いや、プレイアあたりに、家を持てないかと考えているのだが・・・』

 

耳ざといレイナが聞こえたらしく、杯の動きが止まった。リタはオレの考えが読めたらしい。

 

『・・・例の荷物なら、ウチで預かってもいいよ?ディアンは男としては結構問題だけど、護衛としては優秀だからね。ウチ専属になるんなら、タダで預かってあげる・・・』

『オレは男としては問題か・・・まぁ有り難い話だが、オレは誰かに専属でつくつもりは無い。自由気ままに旅をしたいんでね』

『残念~ じゃあ無理っ!家探しくらいなら、手伝ってあげてもいいけど、倉庫代だってバカにならないからね。プレイアについたら、あの荷物も引き取ってもらうからヨロシクッ!』

 

オレはため息をついた。やはり水の巫女に頼るしかないか・・・そう思っていた時にふと気づいた。

 

『・・・リタ、お前はレンストまで行かないのか?オレたちはレンストで雇われたんだが・・・』

『ん?行かないよ?プレイアで行商はお仕舞っ!ドルカ斡旋所には、完了確認の書類を送るから、それで問題ないでしょ?』

『いや・・・そういうわけにもいかんだろう・・・』

 

仕事というものは、結果をきちんと報告して、そこではじめて完了と呼ぶのである。途中で紙切れで「終わりました」と伝えたところで、対面報告をしない限り終了とは呼ばないのだ。

 

『・・・まぁ取りあえず、水の巫女に依頼をして一時的に神殿に預かってもらい、レンストに報告をした後で、家探しをするか・・・』

『ディアン~家を買うなら、私は大きな鏡が欲しいなぁ~』

 

いつの間にか、レイナがオレの横に来ていた。家を買うことが、いつの間にか決定事項になっている。グラティナも目の前に座り、家について意見を出す。酒が入っているので、目が若干据わっている・・・

 

『はやり、必要なのは広い庭だろ。剣を振る場所が必要だ。あと、武器庫も必要だな・・・』

『・・・家というよりは、練兵場に近いな・・・』

 

リタまで参加をして、三人はまだ決まってもいない家について、あれやこれやと意見を交わしていた。オレはプレイアに戻った後について、考えを巡らせていた・・・

 

 

 

 

『さぁっ!プレイアへの帰還だよ~!最後まで気張って、商売しましょうっ!!』

 

翌朝、リタ行商隊は最後の目的地、プレイアの街への路に入った。トラナ大街道をプレイア方面へと向かう。この辺りは元々治安が良い上に、バーニエの街がメルキア国傘下になった今、盗賊や魔物の姿は完全に消えている。オレたちは安心して、プレイアへと向かっていた。この時は、知る由も無かった。プレイアの街を目指していたのは、オレたちだけではなかったのである・・・

 

 

 

 

鉱山で栄える都ノヒアには、嵐の神バリハルトを祀る神殿がある。ディアンたちがバーニエの街を出発した同日、この神殿から五千名以上の神兵たちが出陣をした。神官のゴドニアが教典を手に声を上げる。

 

『これより、我らが神に逆らう不届きな邪神を討つ!神の兵たちよ、恐れることなく進めっ!我らには、バリハルト神がついて下さっている!これは神聖なる戦い、聖戦であるっ!!』

 

バリハルト神殿の兵士たちは、ノヒアを発ち、東へと進み始めた・・・

 

 

 

 

バーニエの街を出て五日後、オレたちはプレイアの街に到着した。二か月半ぶりであったが、人の往来が多く、オレの眼には、以前よりも活気があるように見えた。リタは、数日間ならオレの荷物を預かると言ってくれた。その間に、水の巫女に相談をしなければならない。城門をくぐったオレは、レイナに荷物を任せようと思っていたが、その前に神殿からの使いが来ていた。すぐに神殿に来てほしいというのである。何事かと思い、オレは神殿に向かった。

 

奥の泉に通されたオレは、桟橋を渡り、泉に手を浸した。神気が集まり、水の巫女が現れる。

 

『よく来てくれました。間に合って安心しました。ディアン・ケヒト殿・・・』

『巫女殿、先ほど、古の宮から戻りました・・・何か、あったのですか?』

『実は、あなたにお願いがあるのです・・・』

 

水の巫女の貌には、深刻な表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

リタ行商隊が到着してから一刻後、街に鐘が鳴り響く。いきなり城門が閉ざされ始めた。人々も何事かと不安げな様子だ。リタたちは警備兵を呼び止め、状況を聴いた。水の巫女の神託により、城門を閉ざしたらしい・・・

 

『あぁんもうっ!なんだってバリハルト神殿がここに攻めてくるのよっ!』

 

リタは地団駄を踏んだ。バリハルト神殿の兵士五千人以上が、プレイアの街近郊まで近づいてきているのだ。既に村一つが焼かれたという話まで流れ始めている。レイナとグラティナは顔を見合わせた。

 

『リタ、取りあえず荷物を安全な場所に運び入れて、すぐに宿に隠れて頂戴。私たちは、ディアンを呼んでくるっ!』

 

二人は急いで、神殿へと向かった・・・

 

 

 

 

『バリハルト?現神の嵐神バリハルトが、どうして巫女殿を狙っているんだ?巫女殿は古神ではないだろ?』

『確かに私は、古神ではありませんが、現神というわけでもありません・・・なにより、私の考え方が、気に入らないようです』

『巫女殿の考え方?』

『そうです。土着神である私は、現神も古神も関係なく、皆が共に生きられる世界を望んでいます。神官たちの教えにも、古神を悪とするような排他的なものは入っていません・・・そうした私の考え方が、バリハルトには気に入らないのでしょう・・・』

『確かに、現神バリハルトは古神を嫌っているからな。古神と聞けば、それが無害な存在でも関係なく、どんな奴でも殺そうとすると聞いている・・・』

『ですが今回は、バリハルト自身が来ているとは思えません。バリハルト自身が来ていれば、いくら何でも村を一つ焼くとは思えないのです・・・恐らくは、ノヒアにある神殿の神官たちの判断でしょう・・・』

『・・・子の仕出かしたことは親の責任、部下の仕出かしたことは上司の責任、信徒の仕出かしたことは神の責任だろ・・・』

 

その時、奥の院の扉から、神官が声を掛けた。水の巫女が頷く。

 

『あなたの使徒が来たようです・・・』

『おそらく、街が騒いでいるのだろう。プレイアの街は、両河に挟まれているとは言え、街を護る兵士は少ないからな・・・』

 

ディアンのところに、二人が駆け寄ってくる。グラティナは水の巫女の姿に驚き、膝をついて礼を取った。

 

『構いません。今はそれどころではありません。ディアン殿、筋違いかもしれませんが、あなたにお願いがあります・・・』

『この街を護れ・・・ですね。お引き受けしたいのは山々ですが、条件があります・・・』

『何でしょう?私に出来ることがあれば、言って下さい・・・』

 

ディアンは水の巫女に対して条件を提示した。水の巫女は少し考え、了承した。

 

『レイナとグラティナは、街の防御に当たれ。北から来る本体はオレが引き受ける。だが、船を使って別動隊が動いている可能性もある。お前たちは城門を固く閉ざし、民衆は家から出ないようにしろ。警備兵たちを城門前に固めさせて、火矢を打ち込んで来たら、すぐに消火作業に当たれっ!』

『『了解っ!』』

『巫女殿、オレはバリハルトが嫌いだ。まして今回は、村を焼いている。つまり奴らは、オレから見たら「悪」だ。だから今回は、遠慮なく貌を出すぞ・・・』

『・・・お願いをしている以上、何も言えません。ただ、あなたが人として、この街に戻ってくることを祈るだけです』

『心配するな。オレなりのやり方でやるさ・・・』

 

ディアンは二人と共に、奥の泉を後にした。土着神は心配そうに、黄昏の魔神の後姿を見つめた・・・

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