戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

61 / 79
第五十九話:易姓革命と万世一系

『・・・家だと?たかが家一軒で、プレイアは魔神の力を手に入れたというのか。ハッ!何という安い買い物だ。魔神なら国の半分くらいは要求しそうなものを・・・』

 

メルキア国宰相にしてバーニエ行政執行官のベルジニオ・プラダは、プレイアに潜伏させている諜者からの報告書を読んで失笑した。魔神ディアン・ケヒトは、水の巫女と数度の接触を持っており、水の巫女はバリハルト軍の迎撃をディアンに依頼し、ディアンは屋敷の提供をその見返りに求めた、というものである。神殿が屋敷を一つ押さえ、そこにディアンたちの私物などが運び込まれている、などが細かく書かれており、結論として「水の巫女とディアン・ケヒトは同盟関係、あるいは個人的に親しい関係」とされていた。赤子を抱えた賢妻リザベルが、プラダから報告書を受け取り、素早く目を通す。

 

『・・・あなたから話を聞いた時には、随分と変わった魔神だと思いましたが、本当に、まるで人間ですわね』

 

『全くだ。バリハルト軍への虐殺やノヒアの街を破壊したことなどは、魔神の所業そのものだが、そうした暴力的部分を除いて、冷静にこの男を見ると、どこからどう見ても人間としか思えん』

 

『・・・もしかすると、それが正解なのかもしれませんね。このディアン・ケヒトという人物は、元々は人間だったのではないかしら?それが何か理由があって、魔神になった』

 

賢妻の推理に、プラダが頷く。プラダ自身、実際に対面した印象や、その後の報告書から、ディアン・ケヒトは魔神の力を持つ人間だと結論付けていた。

 

『人間であれば、取り込むことは可能ではないか?たとえば美女や財産などで・・・』

 

『無理ですわね。この人物のこれまでの行動、言動などを見ると、そうした物質的な欲求には、あまり執着していないように見えます』

 

『うむ、そうだな。人間である以上、無欲ではないだろうが、小人的欲求でのみ動くような単純な男ではない。一体、コイツは何を目指しているのか』

 

『ひょっとしたら・・・旅をするのを単純に愉しんでいるだけ・・・かもしれませんわね』

 

『それが一番平和だな。是非、そうあって欲しいものだ』

 

腕の中の赤子は、それが正解だと言うように、笑っている。実際、賢妻リザベルの推理は、当たらずとも遠からずであった。ディアン・ケヒト自身、無限の寿命を何に使うのか、まだ明確に決めていなかったからである。

 

 

 

『オレが住んでいた国「ジパング」について語る前に、まずオレがいた世界からお話しましょう』

 

ディアンは静かに語り始めた。ディル=リフィーナの世界とは違う世界の物語である。

 

『オレがいた世界では、人類は数千年以上の歴史を持っていました。この世界のように、エルフやドワーフがいない世界です。現神だって、目に見える形ではいませんでした。人々の信仰の中にのみ、神々が存在していたのです。そうした世界で、数千年前に初めて、国家が誕生しました。最初は一つの都市に一つの国家だったのですが、やがて国家同士が集まり、より大きな国に変わっていったのです。そうなると、国家同士の争いになる。つまり「戦争」です。オレのいた世界では、何千年にもわたって戦争が続きました。無数の国家が、無数の戦争を繰り返し続けていたのです』

 

『あなたの世界でも、人間は戦争をするのですね。戦争をする理由は、何だったのですか?』

 

『理由は様々です。信仰する神が違う、社会制度が違う、土地や資源を巡っての争いなどなどです。中には、ルドルフ・フィズ=メルキアーナのように「戦の無い世を創る為に戦をする」なんて戦争もありましたが、それも突き詰めれば「個人的欲求」での戦争です。およそ、戦争なんてバカバカしいですよ。避けられるのであれば、戦争はしないほうが良い』

 

『そうですね。ですが、そうした戦争の果てに、やがて平和が訪れたりはしなかったのですか?』

 

『・・・残念ながら・・・おそらく人間から戦争を無くすことは出来ないでしょう。オレのいた世界を見る限り、オレ自身はそう思っています。・・・話を国家に戻しますが、そうした戦争の中には、当然「内乱」もありました。国の統治者が悪い、それを辞めさせようと国民が運動をすると、統治者は自己保身のためにそれを弾圧します。その結果、国内で反乱が相次ぎ、やがて国家が倒れ、新しい統治者が生まれる。実際のところ、外敵によって滅亡した国家というのはあまり多くないのです。役人の汚職や治安の悪化、あるいは食糧不足などで、国家自体が腐敗していて、国民も国家から心が離れている状態・・・そんな状態になれば、反乱が起きて新しい国家を創ろうという動きになります。”国民を幸福にしない国家などさっさと滅ぼして、新しい国家を建国すれば良い・・・”こうした思想を「易姓革命」と呼んでいました』

 

『易姓革命・・・』

 

雨足が強まってきていた。どうやら本降りに入ったようである。ディアンは再び水を含んだ。

 

『数千年の歴史の中で、この易姓革命が何度も起きました。そうして国家は興亡を続けてきたのです。ですが、そんな中にも例外がありました。それがオレの住んでいた国「ジパング」です。ジパングは、建国してから二千数百年間に渡って、一系の統治者によって国が治められてきました。現在進行形という条件付きで「不滅の国家」とさえ言われていたのです』

 

『二千年以上も・・・このディル=リフィーナよりも古い歴史を持っているのですね。どうして、ジパングだけは例外だったのでしょう?』

 

『ジパングが島国だった・・・というのも一つの理由ではありますが、最大の理由は、国家の設計思想です。多くの国が「易姓革命」で国を設計する中で、ジパングは全く違う設計をしていました。それを「万世一系」と言います』

 

『易姓革命と万世一系・・・その万世一系とは、どのようなものなのですか?』

 

『万世一系の最大の特徴は、国の統治者と為政者を分けたことにあるのです。統治者は「国家の象徴」として、ミカド族という血統によって代々、担われてきました。ただ、この統治者はあくまでも「国の象徴」なのです。実際に政事を担当するのは為政者です。この為政者は、歴史の中で様々に変わってきました。権力闘争で為政者の座を得た「フジワラ族」、武力闘争で為政者となった「トクガワ族」、その後は国民の手によって選出された為政者が、権力者として国家の政事を担っていました』

 

水の巫女は首を傾げた。万世一系というものが、まだ理解できなかったためである。

 

『その・・・ミカド族という一族は、何をしていたのでしょう?国家の象徴と政事をする為政者の違いが、まだ解らないのですが?』

 

『簡単に言えば、統治者は政治的な権力を持たないのです。象徴として、歴代の為政者を「任命」するのが仕事です。また、法律などを「承認」したりします。あとは、国民の祝日などでは、国民の前に姿を現し、国家の象徴として手を振ったりしていますね』

 

『失礼ですが、随分と「楽」と言いますか・・・』

 

『とんでもない。楽なんかじゃありませんよ。国家の象徴であるミカド族は、常に国民から見られる存在です。国民はミカド族を見て、自分たちはジパングの国民だ、と認識するのです。統治者らしからぬ行動は、ミカド族には決して許されません。生まれた時から、死ぬ時までです』

 

水の巫女は想像をした。人間は欲望がある。寝たいと思う時、食べたいと思う時、そうした時でも、自分の欲求を抑え、国家の象徴として常に振る舞わなければならない。たとえ衣食住が保証されているからと言っても、それは確かに、過酷なことなのかもしれない・・・

 

『ミカド族は権力を持ちません。ですが国家の象徴として、統治者として、国民全体から慕われる存在です。普段は意識をしていない国民も、もしミカド族に危害を加えるような輩が出たら、間違いなくミカド族を護ろうとするでしょうね。国民の求心力となる存在、それが「国家の象徴」なのです』

 

『・・・良く解りました。国民を「国民」として精神的に束ねる存在、それが権威を担う存在、ミカド族なのですね?』

 

『そうです。そしてミカド族に任命される形で、権力者は常に交代していました。人間である以上、政事に失敗することもあります。腐敗をする場合もあります。権力を国民のためではなく、自分の為に使おうとする為政者もいました。そうなると当然、その為政者は国民から責められます。国内も混乱します。新しい為政者となるべく、武力で争われた時代もありました。ですが統治者である「ミカド族」に代わろうとする輩は出ませんでした。権威と権力を分離することにより、ジパングという国家の象徴、国民を精神的に束ねる力は、二千数百年間も変わることがなかったのです。これが「万世一系」の思想です』

 

水の巫女は考えた。自分は土着神である。易姓革命の国りよりも、万世一系の国の方が、自分の目指す国に近いのではないか・・・自分が国の象徴として統治し、自分の任命の下で権力者が政事を行っていく。神である自分は、永久に変わることなく、この泉から国を見続けるのである・・・

 

『大変参考になるお話でした』

 

水の巫女の様子を見ながら、ディアンは思った。やっぱりこの貌を快楽で歪めてみたい。目の前の美しい土着神が快感で翻弄されている姿を見てみたい。

 

『・・・巫女殿、国造りについてはまだ続きがありますが、そろそろ日が暮れます・・・今日はこの辺で・・・』

 

『そうですね。また機会を設けて、お話を聞かせて下さい』

 

『喜んで・・・と言いたいところですが』

 

『・・・何か?』

 

ディアンは水の巫女の手を取った。

 

『やはり気が変わりました。屋敷も貴女も、欲しいと思います』

 

光るディアンの瞳を見つめる水の巫女の表情に、ほんの僅かに変化があった・・・

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。