戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第六十四話:大陸公路

ラウルバーシュ大陸には、東西を結ぶ大街道「大陸公路」がある。東方諸国から上質な絹製品や香辛料、陶磁器などがアヴァタール地方まで運ばれる。アヴァタール地方の西端、ブレニア内海の西側の「レルン地方」まで、内海を通じて交易が行われる。レルン地方からさらに西は、現神ルク・クヴァルナの直轄領である「クヴァルナ大平原」をはじめ、西方諸国が広がっている。

 

大陸公路は、商神セーナルが要所に「セーナル神殿領」を置き、公道の安定を図ってはいるが、全ての路を維持することは不可能である。国家形成期頃においては、盗賊や魔物の襲撃が頻発し、余程の行商隊でなければ、東方諸国に行くことは不可能であった。大陸公路が本格的に活性化したのは、各地で国家が建国され、公路の治安維持が可能になった後である。

 

 

 

出発前夜、宿の自室で剣の手入れを終えたオレは、一階の酒場に向かった。レイナやグラティナと、最後の打ち合わせをするためだ。二人は既に酒場にいた。この宿は、かつてオレが騒ぎを起こした宿だ。そのためか、美女二人が酒場で飲んでいても、チラチラと見るだけで、声をかけるような無謀な男たちはいない。オレは二人と合流すると、地図を広げて行程確認をした。

 

『インヴィティアを北に行き、彩狼の砦をを通れば、大陸公路に入る。ナイル街道、エリアン街道を通って、センタクスの街まで進もう』

 

『母上が言うには、センタクスの街から、チルス山脈に入れるそうだ。チルス山脈は、獣人族やナーガ族などがそれぞれ集落を構えている「無統治地帯」だそうだ。ハレンラーマというのは、山間の平地にあるそうで、獣人族とヴァリ=エリフ族が多いらしい』

 

『オレの出身であるディジェネール地方みたいなものか。チルス山脈というのは、山賊や魔獣が多いのか?』

 

『…少ない情報だが、山賊などはいないようだ。だが、危険かどうかは解らない。センタクスの街までは大陸公路だが、その先は路から外れる。闇夜の眷属が多いチルス山脈に入る行商隊は少ないそうだ。そのため、情報があまり取れないのが現状だ』

 

『なるほどな・・・』

 

オレは考え込んだ。安全を考えるなら、センタクスからアルスレムの街を通り、イウス街道まで大陸公路を使うべきだろう。だがそれではかなり遠回りになる。ハレンラーマはアヴァタール地方東端の山脈にあり、街道から離れているためだ。そんな僻地だからこそ、闇夜の眷属たちが住みやすいのかもしれない。

 

『まぁ今回は行商ではないので、「襲われたら撃退する」を基本方針に進めば良いか。それに、未知の土地には興味がある』

 

オレたちは新しい旅に乾杯をした。

 

 

 

ララノアの引っ越しの護衛として、オレたちはインヴィティアを通り、彩狼の砦へと向かった。この砦は、つい最近までメルキア国の戦場であったため、今でも警備が厳重である。本来であれば、通行許可を得るにはかなり時間が必要のようだ。プラダが根回しをして、オレたちに通行許可証を優先的に回したのだろう。お蔭で足止めされることも無く、オレたちは通過をすることが出来た。

 

『この砦は、壊すどころか増設をしているわ。どうしてなのかしら?』

 

『首都インヴィティアの「北の防壁」にするつもりだろう。いずれは「彩狼の城」と呼ばれるかもな』

 

大陸公路は、商神セーナルの加護もあり、比較的安全に通ることが出来る。センタクスの街までは、野営をしながら、オレたちは進んだ。

 

野営をして驚いたのは、ララノアの料理の腕である。グラティナは下手という程ではないが、それほど料理上手というわけではない。だが母親は違った。

 

『これは・・・旨い』

 

オレは思わず唸った。魔神の肉体は、魂が生み出す魔力で維持されるため、極端な話、食事を必要としない。だが半分人間のオレにとっては、食事は極めて重要な「楽しみ」である。これまでの様々な料理を食べてきたが、ララノアの作った料理は絶品だった。

 

『羊の骨を水から煮て、塩と羊肉、野菜、唐辛子と香菜を入れます。そこに・・・』

 

ララノアはパンのようなものを差し出した。かなり硬い。

 

『小麦を水で捏ね、焼き固めたものです。これを小さくちぎって、汁に入れて下さい』

 

言われたとおりにすると、さらに味が深まった。オレは夢中で食べたが、ララノアが途中で止めた。焼いた小麦が腹の中で膨れ、満腹になるそうだ。食べ過ぎると動けなくなるらしい。オレは腹八分で止めた。しばらくすると、満腹感が襲ってきた。

 

『母上の料理は、私も幾つか教わったのだが、どうも料理は苦手でな』

 

グラティナが恥ずかしそうに言い訳をした。オレは携帯をしている紙と筆、インク壺を取り出し、作り方を教わった。ララノアは他にも、何種類かの野営用の料理を教えてくれた。これからの野営が楽しみだ。

 

 

 

ララノアの絶品野営料理を堪能しながら、オレたちは八日後に、センタクスの街に到着をした。センタクスの街は、アヴァタール地方東域の事実上の「玄関口」と言えるだろう。大陸公路はここから南東に伸び、アルスレムの街を通って、アヴァタール地方最東端の街「アニヴァ」まで続く。センタクスは人口二万人程度、それなりに大きな街だ。オレたちは宿に入り、チルス山脈についての情報を収集した。

 

『悪いことは言わない。ここから東は止めておいたほうがいいよ』

 

宿の主人に、センタクスから北東に伸びる道について聞いたところ、手を振りながら反対をした。かなり危険らしい。

 

『山賊なんかが出るのか?』

 

『以前はね。でも今は、山賊よりもっとタチが悪いやつが出る』

 

『ほう、何が出るんだ?』

 

『・・・魔神だ』

 

オレは目を細めた・・・

 

 

 

 

『魔神か・・・』

 

彼の腕の中で愉悦の時を過ごした私は、胸板に顔を載せて余韻を楽しんでいた。私の銀髪を弄りながら、彼が独り言をつぶやいた。

 

『もし魔神が出たら、やはり戦うのか?』

 

『本当に魔神なら、やらざるを得ないだろうな』

 

本来の魔神は、戦いそのものを楽しむ傾向がある。破壊衝動があるそうだ。そのため、魔神は強い存在を嗅ぎ分けることができる。もし彼が接近すれば、魔神なら必ず襲ってくる。

 

『・・・私の力では、お前を助けることすら出来ない』

 

そう。私はまだ使徒ではない。レイナなら、魔神にも対抗できるだろう。技は私のほうが上だろうが、総合的に見れば、彼女のほうが圧倒的に強いのだ。自分が弱いと思ったことはない。だが、彼と共に行くのなら、人外の存在とも戦えなければならないのだ。私が悩んでいると、彼が言った。

 

『そんなことは無いだろう。お前には随分と助けてもらっているぞ?』

 

『そうなのか?』

 

私が顔を上げると、彼がニヤリと笑った。体位を変え、私に襲い掛かってくる。すぐに甘美な感覚に包まれる。

 

『・・・こうしてお前を抱けるだけで・・・オレは随分と助けられているぞ?』

 

耳元でそう囁きながら、私に入ってきた。彼の背中に腕を回し、私は喜悦の声を上げた。

 

 

 

センタクスの街を出て、北東を進む。チルス山脈は路が無いわけではないが、無人の山道だ。尾根を二つ超えた先に、目指す「ハレンラーマの街」がある。宿の主人が言うには、一つ目の尾根あたりで、魔神が出るそうである。だが、周囲を警戒しながら進んだが、特に魔神の気配は感じない。山賊も出ず、オレたちは順調に進んでいるかに見えた。だが、街を出て三日目のことである。

 

『止まれっ』

 

オレは妙な気配を感じて、進みを止めた。魔神では無いが、確かに魔の気配を感じる。剣に手を掛けると、山道に沿った雑木林から、いきなり攻撃を受けた。純粋魔術であった。全員がとっさに躱す。

 

(レイ・ルーンか・・・)

 

交わしながら、オレは複数の剣撃を放った。影が林から飛び上がった。オレは目を追った。

 

『ほう、躱したか・・・これまでの惰弱な奴らとは違うようだな』

 

際どい服を着た美人が、背中の白い翼を羽ばたかせながら浮いていた・・・

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