戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
TITLE:飛行魔法の可能性について(B.Kassere)
ディル=リフィーナにおいては、空を飛ぶ「飛行能力」を有した生命体が複数存在しているが、この飛行能力は、大きく二つに分けられる。
物理的飛行能力:有翼種(天使族、龍族、飛天魔族、睡魔族等)が有しており、翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。原理としては鳥と同じ物理的現象
魔力的飛行能力:現神や古神、魔神等の「神族」、歪魔などの上級悪魔族、霊および精霊が有しており、魔力を使って飛行しているものと思われる
物理的飛行能力とは「翼の有無」と言い換えることが可能である。つまり人間がこの能力を保有することは、生物上不可能であると言えるだろう。ただし、物理的法則である為、これに代替する技術を開発することは可能であると思われる。先史文明においても「飛行機」という機械を開発し、人間が空を飛んで行き来をしていたことが記録されている。
魔力的飛行能力は、これまでは「重力制御」によって生み出されていると仮説していた。その仮説は大きく二段階に分かれる。一段回目は「重力遮断」である。星から受ける重力を遮断することで「下に落ちる」という物理現象から解放される。二段階目は「重力場の創出」である。進みたい方向に重力場を生み出し、引き寄せられる形で飛行する。そのためには、一段回目で「星から受ける重力のみ」を遮断する必要があり、より複雑な術式が求められる。また、二段階目においても、一方向のみに進むのであればともかく、方向を自在に変えるためには、重力場を連続して創る必要があること、またこれまで進んでいた方向への「力の向き」を変えるためには、より大きな重力場を生み出す必要がる。複雑な術式と方向転換などで極めて不便ではあるが、重力制御によって飛行をすることは必ずしも不可能ではない。
しかしながら、魔力的飛行能力の中には、これまで進んでいた方向と全く真逆に、いきなり方向転換をする例が数多く見られている。これは、重力制御魔法による飛行では不可能な動き方である。魔術的飛行能力を有する悪魔を解剖してみたが、残念ながらその能力の源は発見できなかった。また、全ての神族、全ての上級悪魔が魔力的飛行能力を有しているわけでは無い。このことから、魔力的飛行能力とは「その生物固有の能力」として、それ以上の説明は残念ながら不可能である・・・
『・・・これまでの惰弱な奴らとは違うようだな』
六枚の白い翼を羽ばたかせ、美女が宙に浮いていた。
『これは・・・天使なのか?』
グラティナの呟きに、翼の美女が反応した。
『天使だと?私が天使に見えるかっ!我が名はファーミシルス、誇り高き飛天魔族の剣士ぞっ!』
飛天魔族の剣士は、急速に滑空してグラティナに斬りかかった。グラティナは自身の剣でファーミシルスの剣を受け止める。
『みんな手を出すなっ!コイツは私が斬るっ!』
グラティナはそういうと、ファーミシルスを押し戻し、火焔魔法を放った。ファーミシルスは驚いたように上空に逃げた。
『・・・これは驚いた。剣どころか魔法まで使える人間に会うとはな・・・面白い。お前がこの一団で最も腕が立つと見た。いざ、勝負っ!』
ファーミシルスとグラティナは、魔法を交えながら剣闘を始めた。オレはあえて手を出さず、その闘いを見守ることに決めた。オレが手を出せば、グラティナの面子を傷つけることになるからだ。十数合を交えても、両者とも決着がつかない。力も技も、ほぼ五分であった。グラティナもファーミシルスも肩で息をしている。そろそろ限界が近いようだ。
『・・・止むを得ん。使うか・・・』
グラティナは小さく呟くと、剣を構えた。「極虚の剣」の構えだ。ファーミシルスも受ける構えを取る。心気を整えたグラティナが、一気に奔った。ファーミシリスが受けに回る。互いに間合いに入る瞬間、グラティナの両腕が翼のように広がり、瞬間的に剣が下に落とされる。ファーミシルスの眼が利き腕に流れる瞬間に、グラティナの右足が剣の柄を持ち上げ、ファーミシルスの喉元に剣先が迫る。
ザクッ・・・
『なっ・・・』
グラティナは驚いた表情をしていた。それはファーミシルスも同じだ。グラティナの剣は、ファーミシリスの頸元でオレの右腕に刺さっている。ファーミシルスの右腕も、オレが左手で抑えていた。
『ディアンッ!なぜ邪魔をしたっ!』
『・・・お前と五分に戦えるほどの腕を持っているんだ。惜しいだろ?』
ファーミシルスは呆然として、剣を落とした。オレが腕で守らなければ、確実に死んでいたことを理解したためだ。ペタンとその場で崩れ落ちる。オレは右腕に刺さった剣を抜き、グラティナに返した。まだ納得していない表情だ。
『グラティナ、お前の勝ちだ。だから命まで獲る必要はない。勝負の邪魔をして、済まなかった』
『・・・まぁ、ディアンがそう言うのなら仕方がない』
グラティナは頷くと、剣を鞘に納めた。ファーミシリスは未だに信じられないという表情をしている。オレの顔を見ながらようやく言葉を発した。
『・・・何故だ?』
『ん?』
『何故、私を助けた!右腕を犠牲にしてまでっ!』
『さっき言った通りだ。お前の腕を惜しいと思った。それに、右腕はどうということはない』
オレは回復魔法を掛けた。傷は跡形も無く消えた。ファーミシルスは俯いて呟いた。
『・・・私の、負けだ・・・』
『・・・私は、遥か北の出身なのだ』
その夜、焚火を囲いながら、ファーミシルスは身の上を話した。飛天魔族は集団で生活をすることは殆どない。彼女は物心ついた時から、母親と二人で各地を転々としたそうだ。
『母は、より強い者に仕えるために、各地を渡り歩いた。だが母は強かった。母に勝てる者などいなかった。だが、ある日ついに、母に勝てる者に出会った。強い剣士だった。母と数十合も剣を交え、ついに母は、その男に負けた』
『そして、その男に仕えたのか?』
ファーミシルスは首を横に振った。
『その闘いで負った傷がもとで、母は死んだ・・・』
レイナが口を覆った。ララノアもグラティナも悲しそうな表情をする。オレも恐らく、同じような表情をしていたのだろう。ファーミシルスは笑った。
『そんな悲しそうな表情をするな。母は幸せだったのだ。より強い者を探し、探し続けてようやく巡り合ったのだ。死んだのは、結果に過ぎない。その男は私に詫び、私が成長するまで面倒を見てくれた。剣も教えてくれた。魔族として人間に忌避されている私を娘のように可愛がってくれたのだ。感謝をしている』
『・・・その男は、どうなったのだ?』
『わからん。成長した私は母と同じく、強い者を探して各地を転々とし始めたからな。もう、随分と昔の話だ・・・』
『その男の名は、何というのだ?』
オレの問いに、ファーミシルスは笑った。有名な男だそうだ。
『言っても信じないかもしれないがな。私を育ててくれたのは、剣聖と呼ばれる達人ドミニク・グルップだ』
オレを含め、ファーミシルス以外全員が、レイナを見た。レイナは微笑みを浮かべて、ファーミシルスを見つめていた。