戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
龍人族の村を出て二週間、オレはひたすら北を目指していた。ラウルバーシュ大陸は、この惑星で2番目に大きな大陸だ。地図ではすぐ北にブレニア内海があるはずであったが、実際に歩いてみると、この大陸の大きさが実感できる。
『これは、本格的に飛行魔法を研究しないと、とても旅なんか出来ないな・・・』
グリーデは様々な魔法を教えてくれたが、飛行魔法は含まれていなかった。と言うより、飛行魔法というものが存在していないようである。オレも幾つかの仮説を立てて実験をしてみたが、上手くいかなかった。火と空気の魔素を操って上昇気流を発生させ、垂直方向に僅かに、体を浮かせることに成功しただけである。おそらく「重力制御」の魔法体系を確立させない限り、飛行魔法は誕生しないだろう。
潮の匂いが近づいてきている。広大な森や広い草原を踏破し、15日目でようやく、ブレニア内海に辿りついた。眼前に広大な海が広がっている。内海といっても、海と同じく塩分が含まれているようだ。ブレニア内海に沿うように東に向かうと、田畑が見え始めた。どうやら人間の村があるようである。久々の文明社会に、オレは胸を弾ませた。
『止まれ!何者だっ!!』
村の入り口に若い男が二人立っていた。手に槍を持っているが、兵士のように鎧などは着ていない。どうやら、村の自警団のようだ。
『オレの名はディアン・ケヒト、旅人だ。一泊の世話を受けたく、訪ねてきた』
『旅人だと?怪しい奴め!どこから来たというのだっ!』
『南から・・・としか言えないな・・・』
オレは肩をすくめてそう応えた。二人の男は更に警戒し、オレに槍を向けてくる。
『この付近には盗賊が出る。お前が盗賊ではない、という証拠があるのか?』
『・・・無いな』
『ならば捕える!』
男たちはオレを捕まえようと槍を構えた。瞬間、リ・フィナから貰ったイリウス剣を抜き放った。音も無く、槍の穂先が落ちる。男たちは仰天したようだ。
『村に入れないというのなら構わない。ここを立ち去ろう・・・だが、オレの邪魔をするなら、次は頸を落とすぞ?』
剣を納め、立ち去ろうとすると・・・
『待てっ!待ってくれっ!!』
男がオレを呼び止めた。
『あ、あんた、本当に盗賊じゃないんだな?』
『あぁ、さっきもそう言っただろう。オレはただ旅をしているだけだ』
男たちは顔を見合わせると、オレに謝罪した。
『すまなかった。このご時世、旅行者なんてほとんど見かけないから、疑っちまった。許してほしい』
オレは黙って頷いた。呼び止めたのは他に事情があると察したからだ。
『あんたに、頼みがあるんだ。とにかく、村に入ってくれ・・・』
オレが訪れたのは、”セトの村”という村だった。ブレニア内海に面する人間の村は幾つかあるようだが、セトの村は2千人程度が住む、それなりに大きな村だった。農畜産業の他、塩業もやっているらしく、なかなかの活気だ。村の中ほどにある石造りの家に、オレは案内をされた。部屋の中には男たちが数人いて、壁には槍が立てかけられている。どうやら自警団の詰所のようだ。先ほど、オレを引き留めた男が、体格の良い男を連れてきた。
『旅人よ、ようこそ、セトの村へ・・・私の名はダロス、自警団の団長を務めている』
『ディアン・ケヒト、旅人だ』
ダロスは頷くと、オレに席を勧めた。
『先ほどは団員が失礼をしたようだ。私からも詫びよう。ここのところ、盗賊が頻繁に姿を現していて、警戒を強めているのだ』
『別に気にしていない。村にも入れてもらえたしな。で、オレに頼みとは?』
『フム、その件だが、君は中々に、剣を使うそうだな?』
『それ程でもない。一人旅が出来る程度に、だ・・・ それがどうかしたか?』
『君のその腕を見込んで、頼みがある。盗賊を退治してもらえないだろうか?』
ダロスの話しによると、半年ほど前から盗賊が出現し、村を荒らしているそうだ。近隣の村々も被害を受けているそうで、それなりの規模の盗賊団らしい。東西の通行路の要衝にアジトを構え、往来する商団なども襲っているようだ。
『アンタがやったらどうだ?他の団員はともかく、アンタはそれなりに、剣を使えると見たが・・・?』
ダロスの話し方から、どこかの騎士団出身者だと推測した。
『そうしたいのは山々だが、私では無理なのだ・・・コレだからな・・・』
ダロスは両手をオレに向けた。左右両方とも、小指が無くなっている。小指は握力の源だ。小指が無いだけで、握る力は半減してしまう。ダロスは自嘲気味に、自分のことを語った。オレを説得するためだろう。
『私は元々は、この内海の北部にあるバリハルト神殿の騎士だった。”開拓の神”の名のもと、セアール地方を開拓する尖兵として、剣を振るっていた。しかし、どこかで疑問も持っていたのだ。神の名のもと、先住民であるスティンルーラ人たちを追い遣り、自分たちの街をつくる・・・ それは正義なのだろうか?追い遣られた先住民にも、家族があり、生活がある。住み慣れた土地から、一方的に追い出された彼らの姿を見て、私は信仰に疑問を持ってしまったのだ』
『なるほど・・・バリハルト神は、苛烈な神だ。騎士団を辞めるにあたって、ケジメを求められたのか・・・』
科学文明社会の中で生きていたオレにとっては、現神とその信徒たちは、ただの”狂信者”にしか見えなかった。ダロスはその中では、比較的マトモな人間だったのだろう。信仰と人間としての良心の狭間で苦悩し、人間であることを選んだのだ。オレの中でのダロスの評価は”信頼に値する男”となった。
『事情は理解した。その依頼、引き受けよう・・・』
『おぉ、有り難い!』
『ただ、条件が二つある。一つ、盗賊たちには盗賊たちの事情があるだろう。例えば、戦火で家を焼かれて追い出されたとか・・・ 彼らが、真面目に働きたいと望むようであれば、この村で働かせてやって欲しい。いたずらに血を流すより、その方が良いと思う』
ダロスは少し考えたが、すぐに頷いた。
『了解した。村には仕事が幾らでもある。彼らがこの村で真面目に働きたいと望むのであれば、村長とも相談して、手配をしよう』
『二つ、自警団から二人ばかりを付けてくれ。別に一緒に戦ってもらうためじゃない。オレが依頼を完遂したと見届けるための”見届け役”だ』
二つ目の条件も、ダロスは簡単に了解をした。オレに対する報酬は、この村での宿泊と食事、これからの旅に必要な物資一式で話しがついた。その後、村長と対面をした。ダロスに出した条件を呑ませるためだ。村長は隙の無い目つきをした小男で、最初は条件を渋っていたが、ダロスが強く説得し、承諾をした。
『明日、盗賊のアジトに向かう』
ダロスにそう告げて、オレは用意された宿へと向かった。