戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第六十八話:部族長会議

アヴァタール地方東端は、北側にチルス山脈が広がり、南側には広大な平野が広がっている。大陸公路は、ラウルバーシュ大陸の東にある「東方諸国」から、礫砂漠帯や草原地帯を通り、アヴァタール地方東端のセーナル神殿領に続く。交易都市アニヴァを通過し、ブレニア内海まで繋がる。後世において、アヴァタール地方東端は二つの国によって統治された。一つは、大陸公路を押さえ、交易がもたらす莫大な利益によって栄えた国「アンナローツェ王国」、もう一つはチルス山脈に住む闇夜の眷属たちによって創られた「ザフハ部族国」である。光側の現神を信奉する「アンナローツェ王国」と、闇側の現神を信奉する「ザフハ部族国」は、信仰する神も社会体制も異なるため、長年にわたって確執があり、争いを繰り返すことになる。この地に平穏が訪れるのは、ヴァイスハイト・フィズ=メルキアーナの治世を待たなければならない。

 

 

 

ハレンラーマの南側に広がる広大な湿地帯「夕闇の大湿原」が、人間族と亜人族との境目である。本来であれば、この大湿原は闇夜の眷属たちの縄張りなのだが、最近、ここに人間族が進出をし、勝手に集落を作っているらしい。それだけならまだ我慢もできようが、そこからさらに、ハレンラーマ近くまで侵食し始めているようだ。オレたちはハレンラーマを出て、夕闇の大湿原へと向かった。

 

『なるほど、確かに人間が集落を作っているな』

 

夕闇の大湿原は、湿地帯であるため桟橋が掛けられている。湿地の中にある土地に、人間たちが村を作っていた。馬を降り、桟橋を渡ろうとすると、槍を構えた男二人が、オレたちの行く手を遮った。

 

『待て、お前たちは村の住人ではないな?』

 

『あぁ、ハレンラーマから来た』

 

男は、グラティナとファーミシルスの姿を見ると、顔をしかめた。

 

『亜人たちはここを通すわけにはいかん。帰れっ!』

 

『なんだとっ!人間風情がっ!』

 

ファーミシルスが剣を抜こうとしたので、オレが止めた。

 

『一つ聞きたい。ここは元々、亜人族が住んでいたと聞いていたのだが、彼らはどうなったのだ?』

 

男たちは顔を見合わせて、肩を竦めた。

 

『知らんな。俺たちは人間の集落を守っているだけだ。亜人なんてどうでも良い』

 

『貴様…』

 

グラティナまで剣を抜こうとする。殺気を放つ二人に、男たちも警戒をしている。オレは二人を宥め、男たちに聞いた。

 

『入れないということは解った。オレや彼女なら大丈夫なのか?』

 

『あぁ、人間なら問題ない』

 

男たちはレイナに見惚れながら頷いた。レイナは冷たい表情で無視をする。

 

『…解った。ひとまず今日のところはハレンラーマに戻る。いずれまた来る』

 

 

 

 

『ディアンッ!なぜ奴らを生かしておくのだっ!』

 

ファーミシルスがオレに食って掛かった。レイナもグラティナも納得がいかないようだ。オレは皆にも納得するように説明をした。

 

『ファミ、オレは人間も亜人も魔族も関係ないと思っている。だが、それはオレの理屈であって彼らの理屈ではない。そしてそこには、どちらが正しいなどというものはない。彼らは彼らで「自分たちが正しい」と思っていて、その考えのもとで行動しているのだ』

 

『だが間違っているっ!あそこは闇夜の眷属たちの土地だぞっ!』

 

『縄張りというのは、この世界が誕生してからずっと決まっていたものじゃない。時代と共に変化をするんだ。闇夜の眷属たちが、あの土地を自分たちのものだと主張をするのなら、なぜ戦わないんだ?なぜ放置している?』

 

『彼らは侵略者だっ!』

 

『そうだな。オレもそう思うが、彼らは自分たちを「開拓者」だと思っている。オレたちが自分たちのことを正しいと思うのは、オレたちの立場だからだ。彼らだって、自分自身を正しいと思っている。相反しているが、どちらも正しいんだ』

 

『…つまりディアンは、私たちが間違っている、というのか?』

 

『そうじゃない。絶対的に正しいこと、なんてものは殆ど無いんだ。種族は関係なくみんな平等、という考え方もあれば、種族によって差別をする、という考え方も成立するんだ。オレたちの考え方が正しい、彼らが間違っているなんて、どうやって証明する?』

 

『…私は、難しい理屈を言われても解らない。ただ、奴らはムカつく。腹ただしいっ!』

 

『そうだな。オレもブッタ斬ってやろうかと思ったよ。だが彼らはオレたちを追い返しただけで、危害を加えようとはしなかった。「考え方が違うから命を奪う」というのでは、それこそ彼らを非難できなくなるぞ?』

 

グラティナとファーミシルスが押し黙った。レイナがオレに聞いてきた。

 

『でも、このまま放っておくわけではないんでしょ?どうするの?』

 

『そうだな、とりあえずハレンラーマに戻って、アグラエル殿に話を聞いてみるか…』

 

 

 

 

ハレンラーマに戻ったオレたちはアグラエルに状況を報告した。

 

『このままでは、人間族はハレンラーマまで侵入をしてくるでしょう。いや、もう侵入し始めていると言えます。部外者のオレがこのようなことを申し上げるべきではありませんが、このまま一方的に、されるがままで良いのですか?』

 

『………』

 

アグラエルは腕を組んで沈黙した。グラティナが声を上げた。

 

『何を躊躇することがあるっ!戦うしかあるまいっ!剣を取り、侵略者からこの地を守るのだっ!』

 

『グラティナ、それはオレたちが決めることではない。この地に住む彼らが決めるべきことだ』

 

『しかし…』

 

ララノアが静止する。アグラエルは暫く考え、オレを見た。

 

『ディアン殿、このようなお願いは筋違いと思いますが、明日の夜、族長同士の会議に出て頂けませんか?』

 

『話し合っている場合かっ!』

 

煮え切らない態度に激昂するグラティナを抑え、オレが応えた。

 

『出席するのは構いません。ですがオレは部外者です。本来であれば、発言をすることすら許されないと思いますが?』

 

『会議の場において、私が皆に断りを入れます。残念ながら、会議を取りまとめる力量が、私には無いのです』

 

オレは頷いた。

 

 

 

 

翌日の夕刻、ハレンラーマに多様な部族が集まって、会議が開かれた。ヴァリ=エルフや獣人は無論、龍人族やナーガ族もいる。冒頭に、アグラエルがオレの出席を皆に告げると、全員の視線がオレに集中した。獣人族の長が皮肉を呟く。

 

『…人間がこの場に出るとはな…』

 

オレは聞こえなかった振りをし、挨拶をした。会議が始まると、議論はいきなり過熱した。オレはとにかく、黙って話を聞くようにした。全員に共通していることは、南部から侵入してくる人間族をなんとかしなければならない、という点だ。だが取りまとめ役がいないため、議論が四散してまとまらないのである。オレは立ち上がって、筆を持った。全員の話が一旦止まり、オレの方を見る。

 

『今の話を聞いていると、南からの人間族の侵入を何とかしたい、という点は変わらないと思います。これは宜しいですか?』

 

壁に文字を描き、オレは一人ひとりに確認をした。全員が同意をする。

 

『では次に、「何とかする」とは具体的にどのような状態をさすのでしょう?ハレンラーマに侵入するのを止めるのか、それとも夕闇の大湿原そのものを取り戻すのか?』

 

全員が発言をしようとしたので、オレは一人ひとりを順番に指名し、発言を促していった。夕闇の大湿原を取り戻し、その地に人間が入れないようにしたい、というのが全員の意見であった。

 

『では、どのようにしたらその状態になるのかを話し合いましょう。まず、夕闇の大湿原を取り戻さなければなりませんね。人間族と話し合うのか、それとも戦うのか…』

 

ここで獣人族の長が声を上げた。

 

『先程からお主が仕切っておるが、人間の話を何故、我らが聞かなければならんのだ?』

 

オレはため息をついた。本当なら使いたくなかったが、バカを纏めるには単純な方法が良いのかもしれない。つまり「恐怖」でだ。オレはいきなり魔神の顔を出した。

 

≪…黙ってろ…オレは人間じゃない…»

 

オレの変貌に、座が凍りついた。獣人族たちは毛を逆立たせ、ナーガ族は剣を抜こうとした。獣人族の長は、驚きながら、言葉を発した。

 

『ま、まさか魔神だったとは…だが、それなら簡単ではないか。魔神殿に取り戻してもらえば…』

 

≪断る。オレは自ら動かん奴には一切、手を貸さん。取り戻したければ、自分たちで取り戻せ…»

 

オレは人間に戻ると、全員に告げた。

 

『お前たちは話し合いの仕方を知らんのだ。だから皆が好き勝手に発言をし、議論がまとまらないのだ。持ち回りで良い。この中で取りまとめ役を決めろ。取りまとめ方は、いまオレがやってみせた通りだ。現状認識の確認、ありたい姿の具体化、そしてそのための手段の話し合いだ。この順番でやれば、大抵の話し合いが上手くいく。オレが指南役になってやる。ここで「会議の仕方」を学べ』

 

その夜は獣人族の長が取りまとめ役となり、会議を行った。取りまとめ役は、自分の意見を言ってはならない。あくまでもまとめ役に徹しなければならないのだ。意見を言う時は最後に、皆に断りを入れてから言うのである。獣人族などは、血の気の多い連中だと思っていたが、元々それなりに年長なので、ある程度の自制は効くようである。皆がやり方に慣れ始め、ようやく会議らしくなった。

 

『…全員の共通認識として、彼らと話し合いは無理であり、取り戻すためには戦うしか無い…これで宜しいか?』

 

「戦って取り戻す」

 

これを決めるためだけに数刻を要した。オレのいた世界では考えられない程の非生産的な会議だが、オレは拍手をした。彼らにとっては大進歩だからだ。

 

『決まりましたね。あとは楽ですよ。いつ戦うか、誰が戦うか、どうやって戦うか、勝った後どうするかを決めるだけですから…』

 

だが全員が疲れきっていたようで、ため息をついた。獣人族の族長に耳打ちし、いま言ったことを自分なりに考えて持ち寄ってくることで、今夜の会議は解散となった。アグラエルがオレに寄ってきた。

 

『お見事でした。私自身、大変勉強になりました。あのようにして、話し合いをするのですね』

 

『部族長同士であり、上下が無い以上は、ああやって取りまとめ役を持ち回りにし、全員の意見を尊重していく必要があります。この家を「族長会議の場」とし、壁に会議の規則を書いておいたほうが良いでしょうね。一晩寝ると、忘れるかもしれませんから』

 

『その…文字の読めない部族長もいるのですが…』

 

『ならば、会議が始まる前に、皆で確認のために唱和をしましょう。馬鹿馬鹿しいかもしれませんが、こうした取り決めが、必ず将来、役に立ちます』

 

それから三日間、族長会議が行われた。話し合いの仕方を学んだ彼らは、人間族への対策のみならず、部族間の縄張りの問題や利水権利なども話し合い始めた。己の意見のみを主張するのではなく、相手の言い分を互いに聞き、妥協点もしくは代替案を探る。三日目には相当な案件を処理することが出来るようになっていた。三日目の会議が無事に終わり、次回以降は出席しないと皆に告げた。

 

(ふぅ…ヤレヤレ、ようやく終わったか)

 

紅い月と満天の星空を見上げ、オレは伸びをした。転生前に自分が経営をしていた会社の取り決めが、こんなところで役に立つとは思っていなかった。星空を見上げながら、オレは考えた。

 

…民主主義の基本は「自主自律」と「他者尊重」だ。この程度の話し合いすら出来ないようでは、とてもルネサンスには近づかない。統治形態というのは、そこに住む民衆の「民度」に応じて決定をすべきなのか。この世界には、まだオレの求める国家は早過ぎる…

 

オレはため息をついた。

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