戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
後年のザフハ部族国は、各部族長が持ち回りで国の代表を務める緩やかな「部族連合国家」となる。ハレンラーマを首都とし、部族長会議の話し合いと多数決によって、国の方針や部族間調整、法律などが決められていた。歴史研究家たちは、後年に誕生する闇夜の眷属の国家「エディカーヌ帝国」と比較をするが、エディカーヌ帝国は一系の王家が存在したことに対し、ザフハ部族国には、そうした「血統による統治者」が存在しなかった。そのため、部族長会議はともかく、各部族間を「国家」としてまとめるタガが存在せず、メルキア帝国に各個撃破をされ、滅亡をするのである。
オレたちは、もともとは、ララノアの引越しを手伝うために、ハレンラーマに来たのである。思いもかけずにアンナローツェ王国との交渉役などを担ってしまったが、引越しが終わった以上は、次の旅を目指すべきだろう。オレはそう考え、レイナ・グラティナ・ファーミシルスと次の旅について話し合った。ディジェネール地方の竜人族の村もそうだったが、どうも「亜人族の村」は、オレにとって居心地が良いのである。日を決めて出発をしなければ、ズルズルと居続けてしまいそうだ。
『この地から行きやすいのは、東の東方諸国か、北のケレース地方だな。ディアンはどうしたいのだ?』
『オレはケレース地方に興味がある。あの地は魔族も多く、チルス山脈以上に混沌としているらしいしな』
『そういえば…』
ファーミシルスが地図を指差した。チルス山脈の北側である。
『以前聞いたことがあるが、ここに「死者の国」に繋がる途があるらしいぞ?』
『ほう?興味深いな…』
『死者の国ってことは、お化けとか幽霊とかが出るのかしら?』
『ゆ、幽霊…』
グラティナが青くなった。どうやらその手の話は苦手らしい。オレたちが笑いながら話し合いをしていると、アグラエルが声を掛けてきた。
『ケレース地方に行かれるのであれば、これをお持ち下さい。ケレース地方のエルフ領「トライスメイル」への紹介状です』
『…失礼ながら、ヴァリ=エルフのあなたが、ルーン=エルフ領であるトライスメイルに知人がいらっしゃるのか?』
アグラエルは笑った。種族間では無視しあっているが、個人的な付き合いを持つ場合も多いようである。オレは礼を言って、紹介状を受け取った。
『ケレース地方への行き方としては、チスパ山とチルス山脈の切れ目にある「シュタット森林地帯」を抜ける道が、一番早いですね。ただここには強力な魔物がいるようで、行商人たちは通りません。安全な道としては、ブレニア内海に出て、トライスメイルの西側を通って北上する行き方ですが…』
『相当に時間が掛かりますね。それに、この「死者の国」に興味がありますし、この森林地帯を超えて行きます』
グラティナが腕を組んで震えた。
二日後、準備を整えたオレたちは、ハレンラーマの出発をしようとしていた。ララノアはもちろん、各族長まで見送りに来てくれた。
『ディアン殿、ティナのこと、宜しくお願いしますね。それと…』
ララノアはオレの耳元で囁いた。
『…次にお会いした時は、夜の方でも仕合をして下さいね』
どうやら、ララノアは吹っ切れたようである。オレは笑って頷いた。アグラエルや他の部族長たちと握手を交わし、オレたちハレンラーマを出発した。チルス山脈に沿って、西に向かう。センタクスの街までは、道を戻ることになる。そこから北上し、キサラの村を超えてチスパ山の東側をさらに北上するのである。イーグスやチルス連邦を通り、センタクスの街を目指す。族長から礼として希少な鉱石や毛皮をもらったので、センタクスで食料などに交換するつもりだ。ハレンラーマを出発してから十ニ日後、オレたちは特に問題なく、センタクスの街に入った。
『恐らく、街らしい街はこれが最後になるだろう。食料などは無論、他の雑貨もここで仕入れておいたほうが良い』
オレたちはセンタクスの行商店を見て回った。ここではアンナローツェとメルキアの通貨を使うことが出来る。オレたちが歩いていると、周囲がジロジロと視線を送ってくる。どうやらファーミシルスを気にしているようだ。魔族であることもそうだが、服装がかなり際どいのである。だが、ファーミシルスは全く気にしていないようだ。
『ファミ、お前の姿に街の男たちが困惑している。もう少し、露出の低い服を用意しようか?』
『何故だ?私は気にしていないぞ。見られて恥ずかしい身体はしていないつもりだ』
飛天魔族と人間族では、羞恥心の感覚が違うらしい。オレは少し考え、ファーミシルスに提案をした。
『これから北に行くにあたって、もう少し装備を整えたほうが良いだろう。ファミ、お前の鎧を用意しよう』
『鎧か…確かに、あると安心だな。だが重すぎると飛べなくなる。軽い鎧にしてくれ』
オレたちは、武器を扱う行商店でファーミシルスの鎧を見繕った。取り敢えずの応急的なものだ。肩や関節などを護る程度のものだが、露出は多少は下がる。
『ケレース地方に行けば、ドワーフ族もいるだろう。いずれ最上級の武器や鎧を特注してやる』
ファーミシルスは嬉しそうに頷いた。
センタクスの街では三日間を滞在して、オレたちはケレース地方に向かった。大陸公路はエリアン街道で終わりである。そこから北に行くと「キサラの村」があり、そこから北は魔物が多く出現する危険地帯に入る。キサラの村は寒村で、ほとんどが狩人だ。オレたちはそこでの情報などを集めた。キサラの村の西にある「シュタット森林地帯」には、強力な魔物が出現するらしく、狩人たちは森林地帯に入ることが殆ど無いそうである。狩人たちは口々に、止めたほうが良いと勧めてきたが、オレたちはそれを無視してケレース地方を目指した。
キサラの街を出て三日後に、シュタット森林地帯の入り口に到着をした。鬱蒼とした森が広がっている。荷車を曳いたまま入ることは出来ない。
『少々乱暴だが、仕方がないか…』
オレは地脈魔術を使い、地割れを起こして木々をなぎ倒していった。火炎魔術はあえて使わない。森林を焼き払うのは、この森に住む魔物たちの住処を奪うことになるからだ。かなり時間のかかるやり方だが、オレたちは根気よく木々を退けて、道を作っていった。森林地帯に入って最初の野営は、まだ入り口から一里も進んでいない。
『ヤレヤレ、これでは数日は掛かってしまうな』
月が雲に隠れ、闇が濃くなる。焚き火の灯りだけが唯一の光になった。その時、魔物の気配を察知して全員が剣を手にとった。近くに強力な魔物が接近している。ファーミシルスが鼻をヒクつかせた。
『…この気配、魔獣じゃない。悪魔族だ』
オレはいつでも魔人化する準備をした。この三人が遅れを取るとは思えないが、上級の悪魔族になれば、かなり手強い。
『…来るぞっ!』
複数の黒い影が、森から飛びかかってきた。普通の人間の二倍の大きさはある。オレたちは剣を振って斬りつけた。斬った瞬間に解った。相当に手強い相手である。複数の魔法がオレたちに襲いかかってきた。オレは瞬間に、三人の前に出て、魔術障壁結界を張った。月が雲間から顔を出し、悪魔族の正体が見えた。ファーミシルスが呟いた。
『これは…グレーターデーモンか』
純粋魔術と暗黒魔術を操る、上級の悪魔族である。ファーミシルスの呟きを聞いて、オレは人間の貌を外した…