戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第七十三話:各々が望む世界

ディアンの指示により、レイナは地下牢に向かった。魔神の呼び笛から感じた魔力は、建物の二階部分からだったが、捕えられているとしたら牢獄であろう。手分けをして探した方が早いという判断である。剣を振るい、二人の牢番をアッサリと切り倒す。鍵を取り、牢の扉を開けていく。

 

『ファミッ!』

 

ファーミシルスが倒れていた。犯されたような形跡はない。後ろでに縛っている鎖を魔法で弾き飛ばす。ファーミシルスが目を覚ました。

 

『・・・レイナか?ここは・・・』

 

『助けに来たのよ、さぁ、立って!』

 

レイナとファーミシルスが駆け出す。番所で二人の剣、鎧を取り返した。主と合流するためだ。

 

 

 

 

獣人を倒し剣を奪う。グラティナはレイナたちに合流するために城内を走った。殆ど半裸の状態だが、気にしている場合ではない。

 

『ティナッ!』

 

振り返るとレイナとファーミシルスの姿が見えた。合流し、剣と鎧を受け取る。

 

『・・・乱暴されたの?』

 

『心配するな。大したことはされていない』

 

三人は魔神の気配が漂う城の奥を目指して駆け出した。

 

 

 

『オォォォォッ!』

 

半魔人ゾキウが凄まじい速度でディアンに斬りかかる。魔神と化したディアンは愛剣を振るい、剣撃を受け止める。ゾキウが一旦離れる。ディアンは感心したようにつぶやく。

 

≪見事な腕だ。誰かに習ったものではない。戦いの中で身につけたものだな・・・≫

 

『そう言いながら、我が剣を簡単に受け止める。ただの魔神では無いな?』

 

ゾキウは再び構えた。ディアンも合わせるように剣を構える。互いの空間が歪み、両名の姿が消える。剣がぶつかり合う音のみが響く。余りの速さに人の眼では追えないのである。剣撃が吹き荒れるため、魔族たちも遠巻きに見守るしかない。そこにレイナたち三人が合流した。

 

『な、何なのだ?これは・・・』

 

ファーミシルスが唖然としながら呟いた。レイナも厳しい表情をしている。数合の撃ち合いで、二人は再び離れた。ディアンは無傷だが、ゾキウは所々に切り傷が見受けられる。ディアンがグラティナの姿を見る。

 

≪・・・犯されたのか?≫

 

『いや、裸にされただけだ』

 

ディアンが頷いて、ゾキウを見た。

 

≪オレのオンナに手を出したのだ。本来なら殺してやるところだが・・・≫

 

ディアンは人間の貌に戻った。ゾキウも闘気を鎮め、剣を下す。

 

『二人は返してもらう。こちらも騒ぎを起こしたので、オレのオンナを剥いたことは勘弁してやる・・・』

 

周囲を囲んでいた魔族たちが、ディアンに襲いかかろうとした。ゾキウが手を挙げて止める。剣を収め、ディアンたちの前に進み出る。

 

『魔神ディアン・ケヒトよ、お前に問いたい。何故、旅などをしている?お前ほどの力があれば、好きなように生きることも出来よう』

 

『勘違いをするなよ?オレは好きなように生きている。大事な仲間と共に、この世界を旅するのがオレのやりたいことなのだ』

 

『下らんな。力の無駄遣いというものだ。何故、その力を弱き者たちの為に使わぬ!人間族の不当な弾圧から、闇夜の眷属たちを守る為に使ってみたらどうだ?俺の下に来れば、お前の力を存分に揮う場を用意するぞ?』

 

ディアンは剣を納めた。相手から殺気を感じないからである。ゾキウの問い掛けに応えず、ディアンは質問を返した。

 

『こちらも、国王ゾキウに問う。お前は何をやりたいのだ?』

 

『知れたこと、人間族をこの地上から抹殺するのだ。闇夜の眷属というだけで、奴らは「野蛮な魔物」と決めつける。勝手にこちらの縄張りに侵入し、それを取り返したら「平和を乱す存在」として攻め込んでくる。平和を乱すのはどちらだ?人間族なら何をやっても良いと言うのか!まずはこのケレース地方から、人間族を駆逐し、やがてはアヴァタール地方、レスぺレント地方、そしてこの大陸から消滅させる・・・それが俺の目指す道だ』

 

『・・・なんてことを』

 

レイナが口に手を当てて呟く。だがグラティナもファーミシルスも微妙な表情をする。二人に目を向け、ゾキウは言葉を続けた。

 

『お前たちも経験があるはずだ。ヴァリ=エリフだからと蔑まれたことは無いか?飛天魔族だからと毛嫌いされたことは無いか?こちらは何もしていないのに、ただ闇夜の眷属だから、魔族だから、人間では無いから差別をする・・・それが人間族だ!奴らがいる限り、我々には永遠に平和は来ない!』

 

ディアンは少しの間、瞑目した。口元に笑みを浮かべる。

 

『なるほど・・・お前の目指す道は人間族との戦いか・・・』

 

『魔神よ、俺と共に来い!お前の力があれば、俺の夢は大きく前進する。闇夜の眷属の未来のために、お前の力を貸せっ!』

 

『断るっ!』

 

ディアンは、ゾキウの誘いに対して決然と拒否をした。

 

『お前がこれまで、どれだけ差別をされ、どれだけ苦労をしてきたのかは知らん。お前の考え方も、お前がこれから進もうとする道も、否定するつもりはない。だが、お前の目指す世界は、オレが住みたいと思う世界ではない。誘いは有り難いが、お前には力を貸せん』

 

『何故だ?なぜ人間族を庇う。お前も人間族に恨みがあるだろう!』

 

『・・・オレは魔神だ。だが、オレは人間でもあるんだ。人間全員を抹殺すれば良いというお前の考え方には賛同できん』

 

ディアンは背を向けると、三人と共に出ていこうとした。兵たちがいきり立つが、ゾキウが止めた。

 

『行かせてやれ・・・旅人ディアン・ケヒトとその一行よ、今回だけはこの街を無事に出させてやる。だが二度とこの街に踏み入ることは許さんっ!』

 

ディアンは振り向かず、片手を上げて応えた。ゾキウは瞑目して、自室に下がった・・・

 

 

 

ガンナシア王国の街を出た四人は、東にあるという「死後の世界」を目指した。グラティナとファーミシルスは、どこか暗い表情をしている。野営をした夜に、ディアンは二人に話しかけた。

 

『・・・ゾキウの話を気にしているのか?』

 

『あぁ・・・』

 

ファーミシルスは頷いて、自分の身の上を話し始めた。

 

『私は母と二人で放浪をしていた。何度か、人間族の集落に行ったことがある。だが、良い思い出は一つも無い。石を投げつけられたこともある・・・』

 

『ファミ、それは・・・』

 

『レイナがそんな人間ではないことは解っている。人間全てが、そうでは無いことも知っている。だが、ゾキウの言う通り、魔族だというだけで差別をする人間も多いのは事実だ。私はこの翼がある。ラウマカールにとってこの翼は誇りだが、人間族から見れば、魔物の証明のようなものだ』

 

ディアンは黙って、焚火に木枝を入れた。パチパチと弾ける炎を見ながら、小さく呟いた。

 

『知ら無いからだ・・・』

 

『えっ?』

 

『人間は、とても弱い生き物だ。肉体的にも精神的にも。それでいて想像力が強い。だから負の想像をしやすいんだ。知らない存在、未知の存在・・・そうした存在に対しては、本能的に負の想像をしてしまう。そして、一度でも悪い印象を持ってしまったら、それを是正するのは難しい。そうした見方をして、その見方を補強するような情報を仕入れ始める。魔物に助けられたとか、魔物は悪くないとか、そうした情報を全て「特殊」と片付けて、魔物は基本的に悪い存在だと決めつけてしまう。これは仕方がないことなんだ。そうでなければ、人間は生きていけない・・・』

 

『魔族は・・・闇夜の眷属は、人間族と共存できないのか?』

 

『ファミ、そうではない。人間が無知なだけなんだ。ちゃんと環境を整えれば、共存できるはずだ。魔族や闇夜の眷属について、正しい知識を学ぶ場を用意し、子供の頃から一緒に暮らす。魔族がいて当たり前の環境になれば、そうした負の感情は消える』

 

『・・・それが、ディアンの望む世界なのか?』

 

『少なくとも、ゾキウの作ろうとしている世界は、オレの望む世界ではない。ゾキウは、人間族を悪と決めつけ、それを抹殺しようとしている。ゾキウは、自分が憎んでいる人間族と、同じことをやろうとしているんだ。それでは救われない・・・』

 

グラティナは頷いたが、ファーミシルスは暗い表情のままであった。

 

『私は・・・ゾキウの言葉に、少し心が動かされた・・・ゾキウがやろうとしていることは、確かにやり過ぎだと思う。だが、闇夜の眷属や魔物が、安心して生きられる世界になって欲しい。ディアンの言うことは正しいとは思うが、具体的にはゾキウのように、何か行動をしなければならないんだと思う・・・』

 

『ファミ、言い過ぎよ?』

 

『いや、レイナ・・・ファミの言葉は正しい。ゾキウは、自分の望む世界を創る為に、具体的な行動をしている。ただ旅をしているだけのオレが、それについてアレコレと批評をする資格は無いんだ』

 

『ディアン・・・』

 

ディアンは自分の杯にワインを入れると、一気に干した。

 

『闇夜の眷属たちの国・・・か・・・』

 

ディアンは夜空を見上げて呟いた・・・


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