戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第七十五話:トライスメイル

エルフ族は、ディル=リフィーナの知的生命体の中では、二番目に数が多い。原初の種族と言われ、旧世界「ネイ=ステリナ」の神「緑の杜七柱」によって、生み出されたと言われている。緑の杜七柱とは

 

『ルリエン』 エルフの母なる女神

『パライア』 精霊の世界を司る男性神(第三級神)

『ヴァスタール』 史料の賢者だったが封じられし暗黒神として覚醒

『キルニア』 エルフの創造に携わった精霊王

『マリベラ』 エルフの創造に携わった精霊女王

『ルサーラ』 魔神精霊に相当する木精の守護神

『イシアヌン』 旧大陸の祟り神。未来を切り開く意志を授けた

 

その中で、女神ルリエンを信仰するエルフ族を「ルーン=エルフ」、暗黒神ヴァスタールを信仰するエルフ族を「ヴァリ=エルフ」と呼ぶ。ルーン=エルフ族は、森林地帯に住み、強力な結界によって自分たちの生息域を確保している。ルーン=エルフが住む森は「メイル」と呼ばれ、他種族が踏み入ることは容易ではない。

 

自然豊かなラウルバーシュ大陸には、メイルは幾つも存在している。中原域だけでも、アヴァタール地方からケレース地方にまたがる「トライスメイル」、アヴァタール地方東域にある「エレン・ダ・メイル」、レスペレント地方の「ミースメイル」など、大規模なメイルが存在している…

 

 

 

 

«飛行魔法とな?»

 

オレの問いかけに、魔神ハイシェラは首を傾げた。ハイシェラと交合という形の「仕合」で引き分けた後、尋ねたのだ。ハイシェラは暫く考えた後、肩を竦めて応えた。

 

«考えたことも無いだの。汝は「呼吸の仕方」を問われて、どのように答えるつもりだ?»

 

オレはため息をついた。この機会に、ハイシェラに飛行魔法について聞こうと思ったのだが、オレが求める答えは得られそうにない。ハイシェラはオレの様子を見て笑い、宙に浮いた。

 

«魔神の中には、飛行できぬ魔神もいる。汝は恐らく、その類であろう。諦めたほうが良いだの»

 

『もう行くのか?』

 

«汝との交合は、中々に良かったぞ。また気が向いたら、相手をしてやろう。ではな…»

 

魔神ハイシェラは東へと飛び去っていった。日が昇り始めていた。オレは気を切り替えて、獣人族の村へと歩き始めた…

 

 

 

 

『結局、良く解らなかった…ということか?』

 

『だが、魔神が番人をしているというのは興味深いな。その奥には、何があるのか…』

 

『それよりも、あの青髪の魔神がまた出現したのね?危ないところだったわ』

 

オレは三人に「冥き途」の探索結果を伝えた。魔神ハイシェラは、レイナも面識がある。さすがに「仕合」までは伝えなかった。時間の流れが違う、ということで誤魔化している。

 

『ディアンが冥き途に行っている間に、獣人たちにケレース地方について聞いておいたぞ』

 

グラティナが話題を変え、集落で集めた情報を教えてくれた。特に知りたいのは「トライスメイル」についてである。

 

『ルーン=エルフの森は、ここから西に十日程行ったところにあるらしい。相当に広大な森だそうだ。恐らくそこが、トライスメイルだろう。そしてさらに西には、ドワーフ族たちの大規模な集落があるらしい』

 

『西か…まずはトライスメイルを目指そう。そこでまた、情報が集まるだろう』

 

三人が頷いた。

 

 

 

 

オレたちは、獣人族の集落を出発し、トライスメイルを目指した。十日間の野営である。思えば最後に街らしい街に滞在をしたのはセンタクスであった。旅好きのオレでさえ、さすがに野営には飽き始めていた。三人はもっと飽いているだろう。野営の夜、焚き火を囲みながら、今後の方針について話し合った。

 

『そうだな、私もどこかに落ち着きたいと思っていた。だが、半分はヴァリ=エルフの私は、トライスメイルに滞在することは出来ないだろう。人間族、あるいはドワーフ族の集落などがあれば、そこに落ち着きたいな』

 

『私は魔族だ。人間族の集落よりは、ドワーフ族の方が助かる』

 

『そうね。出来れば、湯に浸かりたいわ。しばらく入っていないから…』

 

オレはケレース地方の全体像を紙に描いて、今後の旅程について説明をした。

 

『まずトライスメイルに行ってから、さらに西にあるというドワーフ族の集落を目指そう。そこならファミも安心して滞在できるだろう。そこで落ち着くことができたら、これからについて考えてもいいな』

 

『…ディアンは、これからもずっと、旅を続けるつもりなのか?』

 

ファーミシルスの問いかけに、オレは腕を組んで考えた。このまま旅を続けるのも悪くないが、やはり何処かに「帰る家」が欲しいと思った。プレイアの街は眩し過ぎる。これまでの旅の中で、人間族だけでなく、亜人も、闇夜の眷属も受け入れられる場所というものは無かった。今後、どうすべきかも含め、落ち着いて考える必要があった。

 

『…そうだな。取り敢えずはどこかに落ち着こう。このドワーフ族の集落がそうなってくれたら良いのだが…』

 

『あるいは、ディアンなら自分で創っちゃうかもね?』

 

レイナが冗談交じりに笑った。実際、それは考えないわけでは無かった。だがまだ話すには早過ぎる。オレは苦笑いをして誤魔化した。

 

 

 

 

オメール山の北側を通って南西に進むと、巨大な森林地帯にぶつかる。獣人族の集落で教えてもらったルーン=エルフ領だ。森の中に入ると、直ぐにエルフたちから警告を受けた。矢が一本打ち込まれ、森の奥から声が聞こえてくる。

 

『…ここはあなた方が来る場所ではありません。お帰りなさい』

 

オレは馬を降り、挨拶をした。

 

『私の名はディアン・ケヒトと申します。ディジェネール地方出身の旅人です。チルス山脈のヴァリ=エルフ族族長より、紹介状を頂き、この地を訪れました。あなた方の静かな暮らしを荒らすことは致しません。どうか、一宿一飯の施しを頂けないでしょうか?』

 

森の奥から、一人のエルフが現れた。アグラエル・ザラからの紹介状を手渡す。一読したそのエルフは、少し驚いたようだ。

 

『紹介状は確認しました。ただ、私の判断だけでは決められません。ここでしばらくお待ち下さい…』

 

エルフは森の奥へと消えていった。しばらく待たされることになるので、オレたちはこの場で野営をした。夕日が落ち、夜が深くなる。小さな焚き火を起こして、オレたちは簡単な食事をした。

 

『アグラエル殿が紹介をしてくれたエルフとは、どのような人物なのだ?』

 

グラティナと問いかけに、オレは肩を竦めた。紹介状の中身は確認していない。

 

『アグラエル殿は族長だ。それなりの立場の人を紹介してくれたとは思うが…』

 

周囲に微妙な気配を感じ、オレは剣を手にした。その時、森の奥から先ほどのエルフとともに、金髪の美しいエルフが現れた。穏やかな表情と知性を湛えた瞳をしている。

 

『お待たせをしました。あなた方が、アグラエル・ザラの紹介状を持っていらした方々ですね?私はエゼルミア・ルーフグレーン、皆からは「金色公」と呼ばれています』

 

『ディアン・ケヒトです。どうぞディアンとお呼びください。三人は私の仲間です』

 

三人が挨拶をした。金色公は一人ひとりに丁寧に挨拶をした。だがオレは警戒を解かなかった。周囲の気配を感じていたためである。

 

『さて、金色公にお尋ねしますが、これはどういうことでしょうか?』

 

『と、仰いますと?』

 

あくまでも穏やかに友好的な態度を崩さないが、それが逆にオレのカンに触った。オレはいきなり、人間の貌を脱いだ。魔神の気配が立ち上った。

 

«…我々の周囲を武装したエルフたち数十名で取り囲んでいる。紹介状を持ってきた客人四名に対して、あまりに無礼ではないか?返答次第では、この森を丸ごと消滅させるぞ?»

 

『ディアンッ!』

 

『なにっ!』

 

三人が一斉に剣を手にし、構えた。だが金色公は態度を変えない。微笑みながら、事情を話した。

 

『…やはり、紹介状の内容をご存じないようですね?アグラエル殿には困ったものです。魔神を紹介するので会ってやって欲しいとは…この地に魔神が来るなど、私の記憶ではありません。警戒をするのは当然というものでしょう?』

 

«紹介状に、オレのことが書かれていたのか…»

 

『ルーン=エルフは、他種族とは距離を置いています。まして魔神やヴァリ=エルフ、魔族などがいては、たとえ紹介状があったとしても、中に入れるわけにはいきません。本来ならお引取りを頂くのですが、他にも面白い方から、あなたの話しを聞きましたので、それで会ってみようと思ったのです』

 

オレはため息をついて人間に戻った。警戒はしているようだが、殺気は感じない。三人も剣を収めた。オレは金色公に質問をした。

 

『失礼をしました…それで、面白い方とは誰のことなのでしょうか?』

 

『あなたも良くご存知だと思いますよ?レウィニア神権国の統治者「水の巫女」殿です』

 

オレは瞑目した…


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