戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
『ディアン殿・・・ほ、本当に大丈夫なんでしょうか?』
オレの後ろを歩く男が、不安そうにあたりを見回す。セトの村から半日ほど西に歩くと、山岳地帯になる。ダロスの情報では、盗賊団の根城は、その山岳地帯の中にあるとのことだ。詳細な場所までは判っていない。オレは手っ取り早い方法を選択した。すなわち「盗賊に襲われて案内をさせる」という方法だ。
セトの村を出てから2日目の夜、焚火を囲んでいると急に鳥の鳴き声が止んだ。木刀を掴んだ瞬間、周囲から一斉に黒い影が襲いかかってきた。
『ひっ、ひぃぃぃっ!』
二人の男は頭を抱えて身を縮こませる。オレは二人の周囲を回りながら、次々と影に木刀を打ち込んでいく。襲撃者は全部で5人、黒いマントで身を隠して、襲ってきたのだ。木刀であるため、死ぬことは無いが痛みは相当のはずだ。襲撃者は肩や腹などを抑え、膝をついた。
『ひ、退けっ!』
合図と共に、影が一斉に引き始める。オレは一体に二撃目を加えた。他の4人は振り返ったが、そのまま逃走した。オレは捕まえた襲撃者を縛ると、マントをはぎ取った。
『うん? これは・・・』
『何やってんだい!仲間を見捨ててきただってぇ?』
洞窟内に怒号が響く。4人の男が首を竦ませて、俯いている。その前に、腰に手を当てて睨み付けている女がいた。褐色の肌と青色の髪をしている。胸と腰を覆う以外は素肌を晒している。殆ど半裸の状態だ。男たちも同じ肌色、髪色をしている。
『で、ですが姐さん、もの凄ぇ強ぇ奴だったんですよ。ホンの一瞬で・・・』
『フンッ!言い訳は聞きたくないね。明日の朝、もう一度ソイツらを襲うよ!今度はアタイも行く!』
『・・・いや、その必要はないな・・・』
襲撃者に根城まで案内をさせたオレは、洞窟の入り口に立っていた見張り役を木刀で気絶させた。見届け役の二人は入口に残し、オレは洞窟の奥へと進んだ。女の怒号が聞こえてくる。どうやら盗賊の頭領は女のようだ。
『・・・いや、その必要はないな・・・』
姿を現したオレに向けて、盗賊たちが襲ってきた。全部で20名強といったところか・・・ それぞれがナイフや斧なのを持っていたが、狭い洞窟の中ではそんなものを振り回せば、同士討ちになる。オレは間隙を縫いながら、木刀を振るっていった。数瞬後には、半分以下の人数になっていた。
『お待ちっ!お前たちの勝てる相手じゃないよ!下がってなっ!』
男たちの壁の中から、女が出てきた。青い髪、褐色の肌から想像していたとおり、頭領は女だった。
『はやり、スティンルーラ人か。こんな南部にまで来ているとはな・・・』
『だったら何だって言うんだい?』
女は横目で床に転がっている男たちの様子を観る。打ち身などはあるが、死んではいない。女はオレに顔を向けた。
『アタイらの仲間が世話になったようだね?無事なのかい?』
『あぁ、抵抗されないように縛っているが、無事だ。入口に転がっているよ』
『そうかい・・・』
女は安堵のため息をつくと、オレを睨みつけた。
『わざわざ木刀を使ってくれたことには、感謝するよ。でもね。仲間がここまで伸されたんじゃ、黙って帰すわけにはいかないね。覚悟してもらうよ!』
女は腰から曲刀を抜いて身構えた。オレも木刀を構える。剣ではなく木刀を使用することは、かえって女の自尊心を傷つけたらしい。こめかみに青筋を立てながら、女が直進してきた。しかし、オレの間合いに入る直前で急に横に飛びのいた。壁を利用し、オレの周囲を次々に飛び回る。オレは木刀を下げ、眼を閉じた。女の息遣いと壁を蹴る音が聞こえる。そして・・・
『ぐぅぅっ!』
女の口から、苦悶のうめきが漏れた。曲刀を突き出してきた瞬間を捉え、オレは木刀の柄の部分で女の鳩尾を打ったのだ。曲刀を落とし、鳩尾を抑えながら女は膝をついた。
『あ、姐さんっ!!』
『野郎っ!よくもっ・・・』
『止めなっ!!』
激高してオレに襲いかかろうとした男たちを女が一喝した。女はオレを見上げると、舌打ちして横を向いた。
『・・・アタイらの敗けだよ。好きにしな・・・』
『・・・一つ聞きたい。お前たちは何故、盗賊なんかしていたのだ?』
オレは女を見下ろしながら問い質した。
『オレを襲ってきた者たちは、みな顔を隠していた。自分のやっていることが悪であることを自覚している証拠だ。羞恥心と罪悪感の無い者は、顔を隠したりはしない・・・』
『・・・アタイらだって、真面目に生きようとしたさ・・・でもね・・・』
バリハルト神殿によって、スティンルーラ人が迫害をされていることは、この南部にまで伝わってきている。彼らを受け入れるということは、バリハルト神殿と敵対をするということになる。故郷を追われ、ここまで逃げてきた彼らを受け入れる村はどこにも無かったのだ。生きるために、やむを得ず盗賊に身を貶したのである。
『・・・なるほど、つまりは”負け犬”か・・・』
『なにっ!』
睨み返す女に、オレは告げた。
『バリハルト神殿に故郷を追われたこと自体は、お前たちの責任ではないだろう。だが、周囲が悪い、環境が悪いと言って盗賊にまで身を落としたのは、お前たち自身の弱さのためだ。現状が嫌なら、なぜ戦おうとしない。スティンルーラ人たちの拠点をつくり、もう一度、バリハルト神殿と戦えばよいではないか。敗北とは、受け入れた時が本当の敗北なのだ!お前たちはまだ、本当に敗けたわけではない!』
『あ、アンタに何がわかる!』
『あぁ、確かにわからない。お前たちがこれまで、どれほど苦労をし、どれほど迫害をされたのか、オレにはわからない。だが、このままではお前たちは、スティンルーラ人としての誇りまで失ってしまうということはわかる。そして、今この時が、お前たちの将来を決める分岐点だということもな・・・』
オレは女に手を差し伸べた。
『一緒に来い。セトの村は、盗賊たちが真面目に働こうという意志があるのなら受け入れると、オレに約束をした。お前たちは今ここで、盗賊をやめ、故郷奪還を目指すスティンルーラ族として立ち上がるのだ!』
女の瞳に生気が宿った。力強くオレの手を握り返してきた。
翌日の午後、オレはスティンルーラ族を連れてセトの村に戻った。オレの姿をみた門番が慌てて村内に駆け込んでいく。村に入ると、村民たちが遠巻きにオレたちに視線を送った。ヒソヒソと話しをする村民もいる。
村の大広場で、村長と自警団長のダロスがオレを迎えてくれた。
『彼らは、盗賊稼業から足を洗い、真面目に働くそうだ。約束通り、この村で受け入れてもらいたい』
ダロスは頷いて、口を開こうとしたが、その前に村長が口を挟んできた。
『あぁ~、確かにそう約束をしたが、この者たちを受け入れることは出来ん』
『なっ!』
ダロスが顔色を変えて、村長に詰め寄る。
『村長、なぜですっ!ディアン殿との約束を破るおつもりですか!信義に悖りますぞっ!』
『彼らはスティンルーラ人だ。受け入れれば、バリハルト神殿を敵に回すことになる。村を危険には晒せん・・・』
『バリハルト神殿があるのは、内海の反対側ではありませんか!こんなところまで、彼らが来るはずがありません!』
村長とダロスが揉め合っている。村民たちもオレの後ろに立つスティンルーラ人たちも、不安そうな表情で、二人を見ている。族長である女からは、明らかな殺気が立ち上っていて、オレの背中を刺激してくる。まぁ、オレとしては村長の顔を見た段階で、この展開は半分、予想をしていた。その時の対処方法も考えていた。
『とにかく、彼らは受け入れんっ!これは村長の決定だ!!』
『納得できません!』
『黙れっ!!そもそも、あんな男に頼ったのが間違いなのだ!お前がちゃんとしていれば・・・』
『おいっ・・・』
オレの問いかけに、二人は同時に顔を向けた。
『オレとの約束を破るつもりか?言っておくが、オレは信義を守らんヤツには容赦しないぞ?』
『ヨソ者が口出しするなっ!これは、この村の問題だ!!』
村長は唾を飛ばしながら、オレを怒鳴りつけた。オレは目を細くした。ダロスが村長から離れる。オレの殺気を感じ取ったのだ。
『もう一度だけ警告する。オレとの約束を守れ。命が惜しかったらな・・・』
『ハッ!脅迫するか?皆の者、この者は盗賊と結託して、この村を襲いに来たに違いないっ!此奴をひっ捕らえ・・・』
村長が話し終わる前に、オレの姿はかき消えた。瞬き程の間で村長の背後に移動した。パチンッと剣を納める音と共に、村長の頸が落ちる。立ったままの胴体からは、噴水のように血が噴き出した。村民たちは仰天し、尻餅をつく者もいる。このことを予想していたダロスでさえ、顔を青白くしていた。
その後、村の名士たちが集まり、話し合いが行われた。ダロスが上手く彼らを説得したようで、スティンルーラ人たちは無事、セトの村に受け入れられることになった。騎士道精神を持つダロスは、村長以上に村人からの人望が篤かったようだ。ダロスの説得によって、村人も安心した様子であった。
ダロスが新しい村長となることが決まった日、オレはセトの村を離れることを彼に告げた。
『ディアン殿には、自警団長をやって欲しかったのだが・・・』
ダロスは苦笑したが、オレを引き留めることは諦めたようだ。翌朝、村の出入り口まで、ダロスとスティンルーラの女族長が見送りに来てくれた。ダロスは約束通り、旅の物資を用意してくれた。水や食料、衣類、そして地図である。一纏めにした袋を背負うと、ダロスと握手を交わした。女族長とも笑顔で握手をしたが、その時にふと思い出した。
『そういえば、貴女の名前を聞いていなかったな?良かったら、教えてくれないか?』
『・・・そういうときは、まず自分から、名乗るものだよ?』
オレは笑った。オレ自身、彼女に名乗っていなかったのだ。
『これは失礼した。オレの名はディアン。ディアン・ケヒトだ』
『そう。ディアン、アンタの説教は堪えたよ・・・ アンタが言う通り、スティンルーラ族を率いて、バリハルトと戦うよ。散り散りになった仲間たちも呼び集めて・・・』
『あぁ・・・ いつの日か、スティンルーラ族の国が出来ると良いな。で、貴女の名は?』
女はニッコリと笑うと、自分の名を告げた。
『エルザ、エルザ・テレパティス・・・誇り高きスティンルーラ族の族長だ!』
オレは頷くと、二人に礼の述べて、セトの村を後にした。
ブレニア内海に沿うように、東へと歩みを進めた。