インフィニット・ストラトス -CERBERUS- 作:クラッチペダル
でもネタがふつふつと湧き上がってしまって仕方が無かったんだ!
正直、ごめんなさい。
気が遠くなる痛みの中、空に向かって伸ばした腕を取ったのは、果たして天使だったのか、それとも悪魔だったのか。
ぼやける視界の中、その影は告げる。
「いや~、これは天の導き? ちょうど良いところで材料めっけ! ……ふむふむ、見事に死に掛けてるねぇ。でも私にかかれば完璧! ……とまでは行かなくても何とかなるかなぁ」
ぼやけた視界がやがて闇一色に染まり、そして意識さえもその闇に飲み込まれそうになったときに聞こえた声は今でも覚えている。
「ま、とにかく……死にたくないよね? 生きたいよね? だったら生かしてあげる。でもお礼はいらないよ? だって、もらっちゃうもん。君の過去も、今も、そして未来も、ぜ~んぶもらっちゃうから。そして君にはこれからいっぱい働いてもらうから」
『 』のために、ね?
深い闇に飲まれ、そこで俺の意識は消えた。
※ ※ ※
多くのモニターのみが照らす部屋。
その部屋で、モニターの一つに噛り付くように近づき、モニター内の映像を見る女性の影があった。
「うんうん、着実にいっくんは強くなってきてるね。さすがちーちゃんの弟! 箒ちゃんの未来の旦那さん!! いっくんかっこいー!」
そのモニターに映っているのは一人の少年。
純白の装甲を身に纏い空を翔るその少年は、彼とはまるで正反対な漆黒の装甲を持つ人型の影を手にした刃で一刀の下に斬り捨てた。
その様子を見た女性は大はしゃぎ。
思わず座っていたいすから立ち上がり、そのいすが後ろに倒れたこともお構いなしにその場で飛び跳ねた。
その様子はさながら思春期の少女のよう。
頬は赤く染まり、モニターの少年を見つめる目は潤んでいる。
さながら恋でもしているかの様相だ。
その時、女性がいる部屋にモニター光以外の光が差し込む。
その光を見た女性は、先ほどまでのはしゃぎようを消し去り、無表情で口を開いた。
「……何の用かな? 今せっかく良いところだったのに邪魔されて、束さんは非常に不愉快だよ」
「あぁそうかい。けどこの時間に来いと言ったのはあんただ、篠ノ之束」
その光は部屋の扉が開き、外の光が差し込んだ為に生まれた物だった。
そしてその扉を開けて部屋に入ってきたのは一人の少年。
赤みの強い橙色の髪を持つその少年はずかずかと部屋に入ってくると、束と呼ばれた女性が見ていたモニターを見る。
「……織斑一夏、か」
「そう、いっくんだよ! かっこいいよね~、束さんも思わずキュンッってなっちゃうよ!!」
そう陶酔したようにいい、自らの体を抱きしめる束を無視し、少年はモニターに移る少年……織斑一夏を見る。
いや、もはや睨んでいると言っても過言ではない。
しばらく織斑一夏を睨んでいた少年だったが、しばらくの後頭を左右に振り、未だに自らを抱きしめている束に声をかけた。
「……で、俺を呼んだ理由は何だ? 篠ノ之束」
「……君ってほんっとうに束さんの邪魔が好きだよね。まぁいいけど。いよいよ君にはあそこに行って貰うよ。書類とか、データとかはもういじり終わってるから、あとは体一つで行けばおっけー」
「そうかい」
「それと……こっちにおいで、あれも出来てるから」
束は少年を手招きすると、部屋の奥へと向かっていく。
その様子を見た少年も、束を追い部屋の奥へと向かっていった。
先に向かっていた束はと言うと、部屋の奥にある何かが載せられている台座の前でニコニコと笑みを浮かべている。
「さぁて、君にこれをあげるのは束さんとしてはひっじょーに不本意だけど、まぁ目的のためには仕方ないよね。束さんは目的のためなら自分も曲げるよ! というわけで、ごらんあれ!」
束の声と同時に、台座の周りに設置されていた照明が点灯。
台座に載せられていた何かを照らし出した。
それは、一見すると灰色の鉄の塊であった。
しかし、それはただの塊ではなく、腕、足を備えた、さながら鉄の人形とでも言えば良いだろうか。
しかし、それは完全な人の形をしているわけではない。
なぜなら、その鉄の人形は胴体、頭が存在しないのだ。
「白式のデータを元にそれをさらにいじくって開発した現状で一番新しいISだよ! というわけで、さっさと乗ってくれないかな? ささっとフィッティングとか終わらせたいから」
「俺が使うのか、これを」
「そのために作ったからね」
「てっきり適当なISをいじって俺でも使えるようにしてよこすかと思ってたよ……あの日、ISが織斑一夏に反応するようにいじったみたいにしてさ」
「そうしたかったけど、君の場合は特別だから。あ、特別って言ってもいい意味じゃないから」
束の言葉を聞いた少年は、その表情をしかめながらもその人形……ISに乗り込む。
ISに存在しない胴体と頭を自分で補うように、ISに背中を預け、腕と足をISの腕や足に差し込む。
すると空気が抜けたような音と同時に、ややゆとりがあった装甲が少年の体に密着する。
その様子を確認した束は、投影型キーボードを叩き、目の前の画面にあるゲージを見つめる。
そのゲージが全て赤から緑へとその色を変えたところで、彼女は顔を画面からあげた。
「へぇ、そんな風に変化したんだねぇ。ま、今までのデータを叩き込んだし、しかるべき変化かな?」
束の視線の先、少年が纏っていた灰色の鉄の塊は、その様相を大きく変えていた。
灰色だったその色を純白に変え、しかし全体が純白かと言うとそうではなく、肩の一部や腕の一部、膝アーマーと足首から下は紫色に染まっている。
そして大きく目を引くのは背中に現れた紫色の巨大な機構。
それは背中で斜めに設置されている。
「で、実際付けてる感じはどう?」
「悪くない。むしろ今までよりいいぐらいだ」
少年は口ではそう言っているが、表情は未だにしかめられたままで、一見すると調子がいいとは思えない。
しかし、声はしっかりとしているため、何か別の要因で顔をしかめているのだろう。
「あっそ。だったらいいや。これからそれが君の命をつないでくれるんだしね。壊さないでよ? 冗談抜きに壊れたら死んじゃうから」
「分かってる」
束の言葉にそう答えると、少年が纏っていたそれが発光し、その光が収まると少年が纏っていたはずの装甲は消え去っていた。
換わりに現れたのは、少年の首に巻かれている黒いチョーカー。
「……ちっ、よりにもよって待機状態がこれかよ」
先ほどからしかめたままだった表情をさらにしかめ、少年は首に巻きつけられたチョーカー、待機状態のISを触る。
「んじゃ、無事ISも渡したし、もう向かって良いよ。あとこれから私はこのラボ捨てるから、連絡は前渡した通信機で、いい?」
「ああ、話は終わりか? なら行かせてもらう」
束への返事もおざなりに、少年は部屋を立ち去ろうと束に背を向ける。
その少年の背中に、束は何かを投げつけた。
あわや少年の後頭部に投げられたそれが当たるか否かというところで、それは少年が後頭部をかばうように出した手に掴まれる。
「ちぇ、そのまま頭にぶつかってギャグみたいにすっころんでくれたらミジンコの半分ほどは君を好きになってあげようかなと思ったのに……まぁいいや、とにかく薬、そろそろなくなるでしょ? これからあそこに行ってもらうんだし、いつもより薬は多めに入れておいたよ」
「……無くなったら?」
「そのときは連絡をしてくれれば新しいのを届けるよ。君は好きではないけど、少なくとも死なれちゃ困るから……今はまだ、ね」
「…………」
その言葉に、少年は答えなかった。
束の方を二度と振り返ることはせず、少年は部屋から立ち去った。
その少年の背中を見送る束の顔は……満面の笑みだった。
「そう、それで良いんだよ。君は私が言ったとおりにしてればいいの。私が言ったとおりに導いて、肩を並べて、立ちふさがって、そして……死ねばいいんだよ」
くるりとその場で回りながら、束は言葉を続ける。
「そうだよ、そのために君を生かしてるんだから! 私の目的のために、いっくんにはもっともっと強くなってもらわなきゃ! その方法も漫画を見ててびびっと来たね! いっくんがこれからもっと強くなるには今のいっくんより強いライバルが必要なんだよ! 時に戦い、時に協力するライバルが! いっくんがあこがれる強さをもったライバルが!! そのために必要な事は全部教えたよ、戦い方も、知識も、全部教えたよ! だから、ねぇ」
---君はいっくんのために今は生きて、そして死んでね?