インフィニット・ストラトス -CERBERUS- 作:クラッチペダル
前の話からちょっと場面が飛んでます。
具体的に言えばトーナメントをすっ飛ばしてトーナメント中止後になってます。
「ふっふふんふふ~ん、はてさて今日はなにやらいいことが起こりそうな気がするな~って、科学者が勘にたよっちゃだめだよね! 非科学的だよね!!」
薄暗い部屋の中、一人の女性が目の前の端末をいじくりながら鼻歌を口ずさんでいた。
そんな彼女の頭には機械式の兎耳……そう、彼女は天才にして天災、篠ノ之束その人である。
ちなみに、現在彼女が端末を用いて行っているのはとある銀行のとある口座のデータをハッキングし、預金の額をいじくっているところである。
常識的な人間ならば束に対し何をしているのかを問い、そして彼女の行為を咎めるだろう。
しかし、今この場に彼女以外の人間はおらず、さらに彼女は常識と言う言葉をだいたい数百年ぐらいの昔あたりに置き忘れた大天災。
自重と言う文字は彼女の脳内辞書には無かった。
それに、彼女が言われた程度で止まるわけも無い。
「うっふっふ~。これで今月の箒ちゃんの口座残高書き換えかんりょー。うん、これで箒ちゃんがお金に困ることはありえないね~」
なお、先ほどまでいじっていた口座は彼女自身が言ったように箒の口座データである。
もっとも、妹大好きを公言している彼女が残高を下げるはずが無く、むしろ彼女の残高を上げていたりする。大体月に一回、数十万ほど。
今の世の中、こういった口座のデータも全て電子の世界で管理されている時代だ。
それを痕跡無くいじることなど大天才にはたやすいものなのである。
なお、月に一度入ってくる数十万と言う金額をみて、箒は頭を痛めながらそれの大部分をさまざまな場所に募金していることを束は知らない。
閑話休題。
とにかく、自分の中で思う妹想いな行為を鼻歌交じりで終わらせた束は、端末を閉じ薄暗い天井を見上げる。
「それに、前言われてた箒ちゃんのISもそろそろ出来上がるし? 『アレ』もうまくやってるみたいだし? もう今のところ文句なしだね!」
そう言い放ち、体を伸ばしていたときだった。
彼女の服のポケットからなにやら音楽が流れ出す。
それを聞き届けた束は、先ほどまで以上に喜びの笑顔を顔に貼り付け、ポケットから携帯電話を取り出す。
携帯から流れているのは某暴れん坊な将軍様のテーマ。
早速通話ボタンをおし、束は電話の向こうにいる人物に向かってしゃべりだした。
「もすもすひねもすー?」
ぷつん……
つーつーと言う物悲しい音が音が束の耳に入り込む。
どうやら電話の相手に切られたようだ。
「……ってちょwwおまwwじゃなくって、ちーちゃん!? 酷い! いくらなんでも返事無しで切るって酷すぎるよ!? せめて返事してから切って!? というか切らないで!?」
既に電話は切れているため、相手には聞こえてないであろうが、それでも先ほど電話をしてきた相手に対し機関銃の如く文句を言いながら、リダイヤル。
数コールの後、電話がつながった。
『何の用だ? 私は忙しいんだが?』
「ちーちゃんが電話かけてきたんじゃんかぁ! なのに切るなんてあんまりだぁ!!」
『やかましい。お前がまともな挨拶をしないからだ。まともに付き合えばこちらが疲れるだけと学んだのでな』
「ぐぬぬ」
自業自得とはいえ、ちーちゃん……千冬のあまりにもあんまりな言い草に、さすがの束も怒りたくなるが、やっぱり自業自得だし千冬の言ったことがあまりにも正論だと自分でも理解しているため、泣く泣く歯噛みするしかない。
しかし、そこまで理解していても自分の行いを改めようとしないあたり、やはりなんとかと馬鹿は紙一重と言う奴なのかもしれない。
「ぐぬぬぅ……し、しかし束さんは過去を振り返らない女! さぁちーちゃん、何の用だい!?」
『露骨に話を逸らすな。……まぁいい、お前に一つ聴きたいことがある』
「なになに?」
『実は---』
しばらくの後、束は電話を切る。
そして閉じていた端末を開くとすぐさま目にも留まらぬタイピングを開始する。
「……確かにちーちゃんから電話が来たのはいいことだけど、付いてきたおまけが最悪かな、うん最悪。やっぱ勘とか役に立たない」
先ほどまでの笑顔とは一転、無表情でタイピングを続ける。
そしてたどり着いた先は……ドイツ連邦防衛軍のデータサーバー。
「私の計画邪魔しただけじゃなくて、VTシステムなんて悪趣味なものを使っていっくんに危害を加えて、さらにそのシステムにはちーちゃんと暮桜のデータ?」
そこからさらに、束はサーバーの奥の奥。
軍部が表に出したくないデータが格納されている領域へ、さらにその中でもとりわけ厳重に守られているデータへと侵入を開始する。
もちろん痕跡が残るわけも無い。
出来た痕跡を消す以前に、彼女は痕跡が付かないように慎重に、且つ迅速に侵入を行っているのだ。
それぐらい、彼女ならもはや片手間にも出来ること。
「……さぁてどこかなぁ……胸糞悪い
---全部
※ ※ ※
どうやらこの学園の行事という物は、大抵何かしらのアクシデントで中止になったりすることが多いらしい。
先ほどまで偶然すれ違った女子が友人達と話していたことを思い出しながら、ヒューゴは湯につかる。
現在彼がいるのは大浴場。
今まで女子と男子で使うためのタイムスケジュールの調整が終わっておらず、結局男子が使えなかった大浴場が、今日ようやく使用可能となったのだ。
「しかしあれは……暮桜、だったよな」
湯につかりながらも脳裏に思い浮かべるのは、タッグトーナメント一回戦第一試合、一夏&本音vsラウラ&箒の戦いの最中起こった事態だった。
当初、ヒューゴは一夏達がラウラを倒すことは無いだろうと踏んでいた。
たった一週間かそこらで人はそれほど強くなれるとは思っていなかったし、何より本音がどれほどの実力かも分かっていなかったからだ。
しかし、その予想は大きく裏切られ、一夏はラウラに一歩負けているもののほぼ互角、本音は総合的な操縦技術はまだ低かったが、なぜか回避だけは異常に秀でており、うまくラウラと箒を分断、一対一の状態を作り出すことに貢献した。
とはいえ、やはり驚くべきは一夏の成長の度合いか。
いくら考えが変わった、必死に訓練したとはいえ、そう簡単に代表候補とタメをはれるわけが無い。
「……才能、かな」
やはり血は争えない、ということなのだろうか。
そこまで考え、ヒューゴは頭を振り、考えを頭の中から放り出す。
そして、試合の回想を続けた。
両チームともほぼ互角の戦いと思われた最中、試合が急激に動いた。
なぜなら、雪片弐型しか装備できないはずの白式が本音に渡されたアサルトライフルを使用し始めたのだ。
あらかじめ使用許可をしていたのだろう。
使用許可をしておけば他者のISの武装も使える。
それは近距離武装しか搭載できない白式にとって唯一の遠距離攻撃手段だ。
授業では軽く触れられた程度で、追いつくために必死だった一夏の頭に使用許可に関しての事が残っていたとは思えない。
恐らく、訓練と平行して教科書などを読み漁ったり、誰かに聞いて学んだりしたのだろう。
そこまでして編み出した一手も、ほんの少しの出来事かもしれない。
しかし、世の中、『ほんの少し』があらゆる物事を変えてしまう事もありえるのだ。
今まで接近戦オンリーだった一夏が射撃武器を交えた攻撃方法に戦い方を変えたため、それに翻弄されたラウラは、じわじわと追い詰められ、そして箒を下した本音がラファール・リヴァイヴに装備させていた60口径パイルバンカー、
灰色の鱗殻は威力だけ見るなら第三世代武装よりもはるかに上回っているといわれるほどの武装。
その直撃を食らったラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはエネルギー切れで停止、よしんばエネルギーが残ったとしても戦闘可能なほど残りはしないだろう。
誰もがそう思ったとき、シュヴァルツェア・レーゲンに異変が起こった。
シュヴァルツェア・レーゲンからほとばしる紫電。
そしてぐずぐずと溶けたと思えば姿を変えて再構成される装甲。
ラウラを飲み込み新たな形をとったそれは、かつてのブリュンヒルデ、織斑千冬の愛機、暮桜の姿をとり、再び一夏達に襲い掛かったのだ。
もっとも、それは一夏の怒りをこめた一撃の下に再び崩れ去ったが。
そしてそのような不測の事態が起こったため、タッグトーナメントは中止。
しかし、たった一試合だけやって、しかもそれが中止となってはいおしまいではIS学園も面目が立たない。
そういうことで今から一週間後、せめて専用機持ち全員の戦いを見せれるように一回戦のみを行うということとなった。
なお、ヒューゴとシャルルのペアは、状況的に勝っていたのは一夏&本音ペアであり、そもそもラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは修理中ということで一夏&本音ペアと戦うこととなっている。
「しかし、俺がここに来る前に行われたクラス対抗戦もアクシデントで中止になったという……呪われているのか?」
もっとも、クラス対抗戦を中止にした原因を彼は知っているのだが、言ったところでどうなるものでもないため黙っている。
その時、大浴場の入り口が開き、そこから人影が一つ入り込んでいたのだが、その事にヒューゴは気づいていなかった。
その人影は、ゆっくりとヒューゴが使っている湯船に近づき、そして……
「ヒューゴ」
「ん……!?」
背後からかけられた声に、ヒューゴが振り向く。
しかし、その先で見た光景に、さすがのヒューゴも平然とはしていられなかった。
顔を真っ赤に染め、すぐさま前に向き直る。
「ばっ、おまっ、な、何で入ってきてる!? シャルル!!」
「だって、今は男子が使えるんでしょ? 大浴場。一度入ってみたかったんだ」
ヒューゴの背後から声をかけた声の主、シャルルはそういうと湯の中へと入り、そして肩まで浸かる。
当然風呂に入るということでその身には何も纏っておらず、申し訳程度にタオルで体を隠してはいるが、そもそもタオルは人の体全てを覆い隠せるほど大きくは出来ていないし、一瞬だけ見えてしまったシャルルの体つきのせいで余計に隠せるわけが無い。
つまり何が言いたいのかと言うと、ヒューゴには見えてしまったのだ。
具体的には胸やら太ももやら何やら。
幸いにして確実に隠さねばならぬところはタオルで隠されていたが、女性の裸など見慣れているはずも無いヒューゴにとっては、シャルルの今の姿はあまりにも毒すぎた。
見えそうで見えないと言う状況もヒューゴを追い詰める原因でもある。
「お前、女だろうが、なんで……」
「僕、一応男として入学してきたからね。女子が使ってる中入ったら問題でしょ」
「そりゃ、まぁそうだが……」
言っていることはシャルルが正論なのだが、しかしヒューゴはどこか納得がいかないと感じていた。
シャルルが湯船に浸かっている場所から少しずつ離れていく。
あまりに近いと何をしでかすか分からないからだ。
ただでさえ、あの兎のせいでいろいろ余裕が無いヒューゴ。
抑圧されていた鬱屈がいつ弾けとぶか、何が原因で弾けとぶか分かったものではない。
しばらく、二人は黙りこくる。
ヒューゴはもちろんの事、この状況を作り出した張本人のシャルルさえ黙りこくっている。
天井から落ちた水滴が、二人の間に落ち、水面に波紋を生み出した。
「……ありがとうね、ヒューゴ」
それを皮切りとしたのかは定かではないが、シャルルが口を開く。
それはヒューゴに対する礼。
しかし、言われたヒューゴは礼を言われる理由が分からない。
「何がだ?」
「何って、あの夜中の事。嬉しかったんだ、ああいう風に、やさしく言ってもらった事なかったから」
「礼を言われるようなことじゃない。あれは……」
そこまで口を開き、ヒューゴは黙りこくる。
ヒューゴにとって、あれは善意からの意見ではない。
もちろんそのような思いもあっただろうが、大部分は自分のような不幸を背負った人間が自分だけじゃないと言う安心からきた言葉だった。
ようするに傷の舐め合いである。
何事においても、『一人だけじゃない』と言う事実は大きな安心感を与える。
それは裏を返せば人の不幸を喜んでいるともとれる。
自分は不幸だ、でも相手も不幸だ。よかった、安心した。
それが分かっているから、ヒューゴはその礼を受け入れようとはしない。
「うん。分かってる。それでも、嬉しかったんだ。裏でどんなことを思っててもいい。僕の事情を知って、それでも優しくしてくれたの、お母さん以外はヒューゴだけだった。お父さんも本妻の人も、僕の事なんて考えてないか、疎ましいとしか考えてなくて、周りの人も愛人の子供って事で距離を置いてきてたから」
「……そうか」
シャルルの言葉に、ヒューゴはなんと答えていいのか分からなかった。
礼を言われたことに対してありがとうと言えばいいのか?
それとも、彼女の境遇に辛かったねと言えばいいのか?
なんと言っていいのか分からず、ヒューゴの返事は当たり障りの無い、相手の言葉をただ受け入れる言葉。
「だから、あれから僕はずっと悩んで、決めたんだ。どうしたいのか」
それでも、いや、だからこそ、シャルルはヒューゴの言葉に好感が持てた。
なぜなら、その場で取り繕うような言葉を言われるより、その言葉の方が事を真剣に捕らえていると感じれたからだ。
シャルルは言葉を続ける。
「僕は……僕はここにいたい。似た境遇のヒューゴがいる、ここにいたいんだ」
「…………」
「傷の舐め合いかも知れない。それでもここが居心地がいいのは確かなんだ。だから、僕はここにいたい」
ヒューゴは思う。
さっきから返答に困る言葉ばかり言ってくるものだ、と。
「もちろん、だからと言って今すぐデュノア社とかの問題が解決できるわけじゃないんだ。でも、ここの特記事項にうまい具合な一文があってね。第二十一項に『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。』て言うのがあるんだ。少なくとも、ここにいる間はIS学園が守ってくれるみたいな感じらしいよ」
「……それでも時間稼ぎ、か」
「うん。それでもいいんだ」
シャルルの声は、迷いなど感じられない。
既に決意している、と言外に言っていた。
「……まぁ、お前が決めたんだ。俺がとやかく言う事じゃない。……それに、三年たてば案外状況は変わってるかもしれないしな」
「あ、ヒューゴもそう思う?」
互いの言葉に、互いに笑い合う。
ヒューゴは口角を僅かに上げるように。
シャルルは僅かに声を漏らしながら。
「まぁ、何はともあれだ。これからもよろしくな、シャルル」
「うん、よろしくね、ヒューゴ。……あ、それともう一つだけ」
「ん?」
「僕の本当の名前、シャルロットって言うんだ。だから、出来るならこれからはシャルロットって呼んで欲しいかな」
「……そうかい。なら、改めて。これからもよろしくな、シャルロット」
「うん!」
ヒューゴの言葉に、シャルル改めシャルロットは満面の笑みで答えた。
なお、翌日シャルロットが女子生徒として改めて転入してくるという事態があったり、ラウラが一夏にキスをして一夏は私の嫁発言をしたりと、ひと悶着があったのだが……まぁご愛嬌といえるだろう。
さて、トーナメント編がこれにて終了となります。
というかこの話、トーナメント編からスタートしたようなものですね。
トーナメントを飛ばした理由としては、単純にラウラとヒューゴの接点の無さですね。
今までの話ではまったくといっていいほど接点がありません。
なにぶん、登場初期は生徒を見下してあまり接点を持とうとしないラウラと、これまた人とあまり接触しようとしないヒューゴ。
二つが合わさり接点がない。
接点が無い二人を戦わせるのもどうかと思い、飛ばしました。
おかげでラウラが空気。
というか、シャルロット以外がかなり空気に。
一夏はまだ接点あるかな? レベル。
もうしばらくこんな状況が続きます。
さすがにずっとこんな状況を続けるわけではありませんので、申しわけありませんがしばらくお待ちください。