インフィニット・ストラトス -CERBERUS-   作:クラッチペダル

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03 起きてしまった事態

ヒューゴは画面越しとはいえ、かの大天才と対面していながらも、しかしなんら気後れをした様子も無く平然と話しかけている。

いや、平然とでは無いだろう。

彼の顔からは不自然なほどに感情が抜け落ちている。

努めて表情を消し、感情を外へともらさないようにしているためだ。

 

「首尾は上々。問題なく入学できた」

『あっそ。そんなことよりさ、いっくんどうだったいっくん!』

 

そんなヒューゴの様子など興味が無い束は形だけの返事をした後に瞳を輝かせてヒューゴに一夏の様子を問い詰める。

それに対しても、ヒューゴは表情一つ変えずに答えた。

 

「今日は模擬戦等は無かったから実力の程は知らん。ただ、授業に遅刻して織斑千冬に出席簿の一撃を食らっていた」

『あーやっぱり? いっくいん変わってないなー。ちーちゃんも変わってないや』

 

ヒューゴの答えに、束は満足そうに頷く。

頷きながら呟く言葉には、何かしらの感情がこめられているが、ヒューゴにとってはその言葉に込められた感情など興味の無いことだ。

 

「今日の報告は以上……いや、あと一つだけあったか」

『ん、何何? 何か問題あり?』

 

ヒューゴの言葉に、束はやや身を乗り出してくる。

ここで問題が発生し、彼女の計画がおじゃんになってしまったら事ゆえに、彼女も興味を持たざるを得ない。

 

「……ISスーツのデザインについてだ。なるだけ体の傷が隠れるようなデザインのスーツが欲しい」

『ほえ? 何で?』

「……目立って仕方が無い。目立ちすぎて計画に支障が出たらお前もいやだろう?」

『う~ん、よくわかんないけど、まぁそういうことだったら明日か明後日ぐらいには新しいの届けておくよ。他になんかある?』

「ない。問題等が起こったらその都度連絡を入れる」

『ういうい。じゃ、話が終わったんなら切るよ。じゃあね』

 

通信が切れたことにより、端末の画面は再び砂嵐状態になった。

もう用がない端末の電源を切り、荷物の中から通信前に使用したスイッチの付いた箱を取り出すと、そのスイッチを再び押す。

そしてまたその箱を荷物に放り投げ……はせず、まじましと見つめだした。

 

「……しかし、こいつで本当にジャミングが出来てたのか?」

 

そう、先ほどからヒューゴが使用していたこのスイッチ付きの箱は、簡易的なジャミング装置だったのだ。

簡易的とはいえ、それは紛れも無くメイドイン束。

スイッチを一度押せば一定範囲内にあるあらゆる電子機器を一時的に機能不全に追いやる。

たとえば……盗聴器や通信波を読み取り、通信をしている者の居場所を割り出す逆探装置とか。

 

篠ノ之束は、現在世界各国にその行方を追われている。

本人は今のところもてる科学力を無駄に駆使して監視の目をすり抜け好き放題しているが、計画のために送り出した駒との通信で足取りを掴まれてしまっては目も当てられない。

その為、彼女はヒューゴに通信端末と件のジャミング装置を持たせたのだ。

ちなみに、ヒューゴの持つ通信端末と束の持つ通信端末はジャミング対策が成されている為、ジャミング効果範囲内でも問題なく使用できる。

ジャミング装置を作ったのが束なら、その効果を打ち消すものを作れないはずが無い。

ちなみに、ジャミング効果を消すにはもう一度スイッチを押せばいい。

……と、装置を渡された際にヒューゴは束にそのような旨の説明を受けている。

実際はどのような原理なのかはヒューゴは知らない。

 

もっとも、もらった本人はその装置の効果を実は疑問視していたりするが。

なにせ、装置を作動させたからといって何か変化が見て取れるというわけでもなく、傍から見れば何も変わっていないのだ。

何かしらの機構が作動する音でも響けばいいのだろうが、この装置にいたってはまさにスイッチを押したカチリと言う音以外何も発しない。

起動させて耳に近づけてみても、何も音が聞こえないのだ。

本当に動作しているかは疑いたくもなる。

 

しばらく装置を見つめていたヒューゴだが、やがて扉がノックされた音を聞き、装置を鞄の奥底にしまいこむ。

傍から見て通信端末やジャミング装置が見えないことを確認すると彼は立ち上がり、扉へ向かう。

 

「あれ、もしかしてヒューゴもこの部屋だったの?」

「お前は……デュノアか」

「シャルルでいいよ。それより、入っていいかな?」

「ん? ああ」

 

扉を開けると、そこにいたのはヒューゴと同じ転校生であるシャルル・デュノア。

なぜ彼と同じ部屋になったのかとヒューゴは一瞬考え、しかしよく考えるまでも無く一緒の部屋になるのは当たり前かと言う考えにたどり着いた。

何せ同じ時期に転校してきて、しかも男同士。

以前から在籍している一夏が女子との相部屋なのは仕方ないが、こうして都合よく男が二人増えたならその二人を一緒の部屋にすることは当たり前の事だ。

それに、世界で今のところ三人しかいない男性操縦者。

可能ならばなるべく一箇所にまとめておいたほうが監視などがしやすいと言う面もあるだろう。

現に1026号室の隣、1025号室に居るのは織斑一夏と篠ノ之束の妹、篠ノ之箒だ。

偶然隣同士の部屋に配置された男三人……と考えるにはあまりにも出来すぎている。

 

そんな事を考えながらもヒューゴはシャルルが部屋に入れるように体をよける。

そうして出来たスペースを通ってシャルルは部屋へと足を踏み入れた。

 

「改めてよろしくね? ヒューゴ」

「あぁ、よろしく」

 

笑顔で挨拶をしてくるシャルルに、ヒューゴは相変わらずそっけなく返事をする。

そんなヒューゴの態度に、シャルルはやや頬を膨らまして気に入らないアピールをしている。

 

「なんかヒューゴってずっとそっけないよね。もうちょっとこう、フレンドリーに行こうよ。こうして一緒の部屋になったんだからさ」

「フレンドリー、ねぇ」

 

シャルルの言葉に、ヒューゴは少し悩んでフレンドリーな自分を想像してみる。

……想像しようとしたが出来なかった。

けど昔は出来てた気がする。

そう、あの兎につかまるまで……いや、あの事故に遭遇するまでは。

で、結局今はやろうと思って出来るか?

 

「無理だ」

「きっぱり言い切ったね、ヒューゴ」

 

無理だった。

そこまで今の彼に余裕は無い。

何せ正真正銘、今の自分は兎に命を握られているから。

 

無意識のうちに、ヒューゴは自身の首に巻きついている状態で存在している自身のISを撫でるようにいじっていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

翌日になりベッドから起き上がると、枕元には差出人不明の小包が置いてあった。

普通であれば不審物だと言うことで即寮監である千冬に報告しなければならないのだが、ヒューゴはそれをせずに、なんのためらいもなしに小包を開けた。

中には折りたたまれた黒い何かが詰めてある。

それを取り出すと、ヒューゴはベッドの上でそれを広げる。

それは、一見するとサーフィンの際に着るスプリングと言うタイプのウェットスーツだ。

しかし、使いもしないウェットスーツが届くわけも無く、それは彼の新しいISスーツだった。

 

「……腕や脚のは隠せんが、まぁ以前のよりマシか」

 

なにせ以前の物は腹部、背中が露出していたため、かなり傷跡が目に付くものだった。

これならば、せいぜい見えても腕や脚の傷跡のみ。

同じ傷跡でも、おびただしい量見えるのと少ししか見えないのとでは見た際の気持ちも違うだろう。

 

「しかし……どうやって届けてるんだろうな、こいつは」

 

送り状などがないということはこれは宅配便で送ってきたわけではないだろう。

そもそも、宅配便で送ってきたとしたら、いったいどうやって鍵を閉めた部屋に入り込むと言うのだ。

ともかく、これが部屋に置いてあると言う事は、束本人かその手の者が入ってきておいていったのだろう。

しかし、どうやって誰にも気づかれずに置いていったのだろうか。

 

「ん……ふぁ~」

「……まぁ、どうでもいいか」

 

あれこれれと考えていたヒューゴだが、シャルルが起きたことによりその思考を中断させた。

どうせ考えたところであの天災の脳内が分かるはずが無いのだから。

 

 

※ ※ ※

 

 

「おはよう、みんな」

「お、シャルルか。おはようさん」

「おはよう」

「おはようございますわ」

「ん? ……あぁ、一組の転校生か。おはよ」

 

シャルルが朝食をとるために食堂にたどり着いたとき、そこには既に織斑一夏を筆頭に篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音がそれぞれ自分の朝食を目の前に座っていた。

ちなみに、この中で唯一二組である鈴音はシャルルを見ていぶかしげな顔をしたが、すぐに先日やってきた転校生だということに気が付き、挨拶を返した。

それを見たシャルルは券売機で食券を買い、食券と引き換えに料理を受け取り一夏グループが座っている席の空いている場所に腰を下ろした。

 

「そういえば君はこうして話すのは初めてだったかな? シャルル・デュノアです。えっと、凰鈴音さんだったっけ?」

「ええ、凰鈴音よ、よろしく。あと別にさん付けとかいらないから、普通に鈴でいいわ」

「えっと、じゃあ鈴、改めてよろしく」

「よろしく」

 

鈴音はシャルルとの簡単な自己紹介を済ませると、食堂をきょろきょろと見回し始める。

 

「そういやもう一人男の転校生いたじゃない、あの傷だらけの」

「あぁ、ヒューゴの事? なんか朝起きたら一人でさっさと出て行ってたからもう来てると思ったんだけど」

「お、シャルルはヒューゴと同じ部屋なんだ。まぁそれは置いといて……ヒューゴは食堂に来てないぜ?」

「あれ? だったらどこ行ったんだろ?」

 

シャルルは先に出て行ったはずのルームメイトの消息に首をかしげていた。

 

 

一方、ルームメイトに消息を気にされているヒューゴはと言えば。

 

「……静かだな」

 

寮の屋上にある貯水タンクの上で寝転がると言ういかにも定番な事をしていた。

もっとも、今は昼休みや授業中ではなく朝であり、なおかつ彼を探しに来る幼馴染やクラスメイトなどもいないのだが。

朝でほとんどの生徒が食堂で昼食をとっていると言うこともあり、屋上にはヒューゴ以外誰もおらず、そんな静かな空間の中、ヒューゴは手に持った栄養ゼリー飲料を寝転がりながら口にする。

はたして食事と呼べるのかははなはだ疑問だが、今の自分は過度のストレスのせいか、これしか受け付けないのでしょうがない。

少しはこの追い詰められた現状を打破できればもう少しまともな食事も取れるゆとりができるのだろうが……あの兎に文字通り命を握られている以上それは不可能だろうことは想像に難くはない。

 

忌々しげに眉をひそめたヒューゴは、腕時計で現時刻を確認し、そろそろ学校へ向かわねばならない時刻だと言うことを確認すると、手に持ったゼリー飲料の空を投げ捨て、タンクから飛び降りる。

そのまま足を止めることなく屋上を後にした。

 

誰もいなくなった屋上に、投げ捨てられたゼリー飲料の空がぱさりと音を立てて転がった。

 

 

※ ※ ※

 

 

放課後。

朝にどこに行っていたのかと問いただしてくるルームメイトをのらりくらりとかわしながら、ヒューゴは校舎を歩いていた。

隣には当然の如く件のルームメイトが。

 

「……つーわけだ。あの女子の群れの中で食事とるとか俺には無理だったと言うわけで、一人で飯食ってたって何度も言ってるだろうが」

「ヒューゴは気にしすぎだよ。誰もそんなに気にしないって」

「どうかな? 昨日の授業中、たいていの生徒がどんな雰囲気になってたか分かってるだろうに」

「それは……そうだけど……」

 

雰囲気云々とは言わずもがな、昨日の授業中にヒューゴの傷跡を見てしまった生徒達の事である。

あの時は授業開始のチャイムで一時的にあの沈痛な空気は振り払われたが、時間がたてば再びあの空気が蔓延しだしたのだ。

ちなみに、たいていと頭についているのは、何人かはその傷をまったく気にしていないからである。

なお、気にしてなかったのは主に一夏グループの面々とシャルル、ラウラ、そのほかのクラスメイトのごく一握りだ。

もっとも、ラウラは元からヒューゴと言う存在に興味を持っていないからだろうが。

 

「食事中にあれを思い出したい奴なんざいないだろう?」

「だからって、寂しかったりとかしないの?」

 

シャルルの言葉に、ヒューゴは少し言葉に詰まったように口を閉ざす。

そしてしばらくの後、頭を横に振ると、普段のようにそっけなくこう言い放った。

 

「……別に」

 

その言葉に、シャルルが何か反論をしようとしたとき、彼らの前を女子数名があわただしく駆け抜けていく。

 

「何度も聞くけどそれってほんとなの!?」

「ほんとほんと! 転校生のボーデヴィッヒさんがオルコットさんと二組の凰さんをぼこぼこにしちゃって、それ聞いた織斑君がアリーナに……」

「とりあえず、急いで織斑先生のとこ行こう!!」

 

その言葉を聞いたヒューゴの行動は早かった。

すぐさま駆け出し、先ほど女子生徒たちがやってきたほうへと曲がり、そのままアリーナへと向かう。

 

あまりの唐突ぶりに、シャルルはおろか先ほどまで焦っていた女子生徒たちも一瞬唖然とするが、すぐさまシャルルが正気に戻り、ヒューゴの後を追いかけ始めた。




……あ、あれ?
予定では主人公IS出てくるはずだったのに、予想外にそれ以前の描写が増えて次に持ち越しに……
と言うわけで、次は絶対出します。
と言うか出さなきゃ話が進まないので出ます。

ちなみにISですが、まぁ既に誰もが予想付いてると思うのでいっちゃうと、あれです。
ディスチャージなあれです。
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