インフィニット・ストラトス -CERBERUS-   作:クラッチペダル

5 / 10
04 番犬vs黒兎

ヒューゴがアリーナへたどり着いたとき、既にアリーナに本来張られていなければならないはずの障壁が張られていないと言う状況だった。

 

しかし、今ではそれがむしろ好都合。

迷うことなく観客席のへりからアリーナへ飛び降りると、そのままアリーナの中央、ラウラ・ボーデヴィッヒと名乗った転校生と、彼女に向かって刃を振り下ろす体勢のまま固まっている一夏の元へと駆け出す。

しかし、ラウラは既に己のISに搭載されているカノン砲の砲口を一夏へと向けている。

これには、さすがのヒューゴも焦りを禁じえない。

 

(おいおい、このままあの女にボロクソに負けるなんてことになったら……)

 

間違いなく、あの兎は荒れる。

あげく何をしでかすか分かったものではない。

 

かの篠ノ之束の目的は一夏を強くすることであって、そのためにヒューゴを『用意』した。

ならばここでラウラに負けても誰が一夏を負かせるかの役割が変わるだけで、目的は果たせるのではないか?

否、彼女にとっては結果だけでなく、その過程も重要なのだ。

自分が考えた計画を、自分が用意した要素で、自分が思い描いたとおりに実行する。

それが結果と同じ位に彼女が重要視していること。

だと言うのに、自分が用意した駒以外によってその計画が果たされたなら……彼女は決して満足はしない。

それどころかむしろ不機嫌の極みといわんばかりになり、持ち前の頭脳を無駄に駆使することだろう。

天才と同時に付けられた『天災』という二つ名通りに。

 

簡単に言ってしまえば、『有象無象がでしゃばるとか馬鹿なの?』といったところだ。

 

(やるしかないか!)

 

首に巻かれている待機状態のISを撫でる。

瞬間、ヒューゴの腕や脚、胴などに光が集まり、やがてその光が何かを形成する。

そして何かを形成していた光が霧散したと同時に視界の隅に現れる何かのカウントダウンを一瞬確認する。

1800からすぐさま数を減らしていくそれから視線をはずして、ヒューゴは右手に握った物を突き出し、容赦なく引鉄を引いた。

その突き出された物の先端が狙っていたのは、ラウラのISのカノン砲だった。

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは正真正銘、ドイツ軍IS配備特殊部隊の隊長であり、いわば軍人だった。

故に、急に鳴り響いたロックオンアラートにも速やかに対応し、目の前にいる一夏を蹴り飛ばすと、すぐさまその勢いを用いてその場から退避した。

その動きに停滞は無く、それにより彼女は特に被害をこうむることが無かった……はずだった。

 

「っ!? ちぃ!!」

 

しかし現実には、横合いから放たれた射撃はカノン砲の先端にあたり、砲口がゆがんでしまっている。

ここに来てラウラは自らに向かって射撃をした者を視界に納める。

そこにいたのは、紫にカラーリングされたライフル状の銃器をラウラに向けているヒューゴだ。

その身には白と紫の装甲を纏っており、すなわち現在彼はISを起動しているのだ。

 

「貴様は……」

「……個人的には、別にあのまま見過ごしてもよかった……が、あのまま織斑をボコられたら少々困った事になるんでな」

 

---悪いが、次は俺とやりあってもらう。

 

「ふっ、急に現れいきなり何を言い出すかと思えば……不意を付いたぐらいで調子に乗るな!」

 

ラウラのISからワイヤーブレード……刃にワイヤーをつなぎ、ある程度自由に軌道を操作できる武装……を射出し、ヒューゴを取り囲むように刃を向かわせる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍の特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長さんか。ってことは、そのISは……シュヴァルツェア・レーゲンか」

 

自らに向かってくるワイヤーブレードを、あらかじめ束に叩き込まれた情報を思い出しながら見つめるヒューゴ。

そんなヒューゴの背面から、何かが飛び出してきた。

その数は四つ。

形状はケーブルで接続された四つの箱だが、ただの箱をこの場面で射出するわけが無い。

よく見ると、その箱には一つに付き二門の銃口が飛び出ている。

 

「ま、ブレードが来ても打ち落とせばいいか。……《サーベラス》、マシンガン・ポッド射出! いけ!!」

 

ヒューゴの声に答えたかのように、彼の背中から現れたそれ……マシンガン・ポッドは、ヒューゴに向かってくるワイヤーブレードに向けて搭載されている銃口を向けた。

そしてその銃口は炎を吹き上げ、内蔵されている弾丸をばら撒き始めた。

 

「むっ!? ワイヤーブレードと同系統の武装だと!?」

「だが、先にくっついてるのがブレードと機関銃。どっちが遠くまで届くかは分かるだろ?」

 

ヒューゴの言うとおり、彼の背中から射出されたマシンガン・ポッドから放たれた弾丸はワイヤーブレードにあたる。

ワイヤーブレードは壊れはしなかったものの、軌道を狂わされて次々と見当違いの方向へと飛んでいき、地面やアリーナの壁に突き刺さった。

そして、その隙を逃すまいとヒューゴはラウラへ向かって加速していく。

その際、背中に斜め背負い状態で存在している紫色の長方形状の機構から手のひらより少し長めの棒状の物体を取り出す。

棒状の物体がヒューゴの手に収まると、それはすぐさまアンテナのように伸び、やがて一本の剣を形成した。

そしてその剣はやがて青白い光を放ち始める。

 

「くっ! なめるな!!」

 

ラウラもその様子を黙って見ているわけではない。

ワイヤーブレードは現在地面に刺さっており、カノン砲も砲口がゆがんで使用不可能だが、彼女のISの武装はそれだけではない。

両手首からプラズマで出来た刃を出現させると、その刃をヒューゴの剣にぶつける。

互いの剣がぶつかり合い、剣に纏わせた、または剣を形成しているエネルギーが激しく弾けるような音を発する。

しばらくは鍔迫り合いの体勢に入っていたが、やがて互いに押し切れないと悟ると、どちらからとも無く、まるで何かに弾かれたかのような勢いで距離をとる。

その間に、ラウラはワイヤーブレードの回収をはじめ、ヒューゴは先ほどから射出させていたマシンガン・ポッドで追撃をする。

並みの相手であればその追撃に当たっていたのであろうが、ラウラは地面をすべるようにポッドから放たれる弾丸を回避しながらもワイヤーブレードを回収していく。

 

その二人の様子を、傍から見ている者たちがいた。

先ほどまでラウラと向かい合っていた一夏とラウラにISをぼろぼろにされるまで痛めつけられたセシリアと鈴音、そして遅れてアリーナへやってきたシャルルの四人だ。

 

「あれが、ヒューゴのIS……」

 

この場にいる全員が、始めてみるヒューゴのISを見つめている。

その中でも、一夏とシャルルが食い入るようにヒューゴのISを、何よりヒューゴ自身を見つめている。

 

「……強い」

 

素人である一夏でも分かる。

いくら頭に血が上っていたとはいえ、あっさりと相手に行動を止められた自分と違い、ヒューゴはラウラと互角以上の戦いを見せている。

自分のISには無い遠距離武装があるからと言う理由ではない。

その程度の差があったところで、恐らくラウラと互角に戦うことは不可能だ。

少しの間とはいえ、相対した一夏だからこそ分かったことだった。

なぜ自分と同じ時期にISに触れたであろうと予想されるヒューゴがあそこまで強いのかと言う疑問は、当然尽きない。

しかしそれ以上に、一夏は同じ男でありながら自分とは段違いの強さを持っているということに対する思いのほうが強かった。

 

そしてそれはシャルルにもいえることだった。

ヒューゴのあまりの唐突な行動の唖然としてしまい、かなり遅れてアリーナへとやってきたシャルルは、まさにヒューゴがラウラと互角に戦っている場面にいきなり遭遇したのだ。

まずその光景を見て驚愕し、そこでしばらく呆ける。

やがて呆けている場合ではないとシャルルは自身もアリーナへと飛び降り、自身のISを起動させた。

 

「一夏!」

「……あ、あぁ、シャルルか」

 

ISを展開し、まるで取り付かれたかのようにヒューゴとラウラの戦いを見つめていた一夏にシャルルは声をかける。

始めはそれでも呆けていた一夏だが、やがて傍にいるシャルルの存在に気が付き、彼のほうへと顔をむける。

 

「ボーデヴィッヒさんがオルコットさんや凰さんにひどいことしてるって聞いてきたんだけど……これはいったい?」

「いきなりヒューゴが飛び込んできて助けてくれたんだ。あとは見ての通りって感じか」

 

それだけ言うと、一夏は再び二人の戦いを見始める。

そんな一夏の様子を尻目に、シャルルもヒューゴたちの戦いの様子を見始める。

 

彼らの戦いは終わりに近づいてきていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

ヒューゴに向かってきていたワイヤーブレードを、ポッドの一つが撃ち落そうとする。

しかし、その瞬間別の方向から飛んできたブレードに貫かれ、ポッドはその機能を停止した。

 

「ちっ、さすがにあのまま押し切るわけにはいかないか」

 

ポッド自体は破損したが、それを操るケーブルが切断されたわけではない。

ケーブルを巻き取り、破損し使えなくなったポッドを格納する。

 

「ふっ。そいつの対処法は既に分かった。いくらでも向かわせるがいい。全て破壊してやる」

「その様子じゃ嘘八百と言うわけでもないらしいな。だったら破壊されるのを分かっていながらつかうほど馬鹿じゃないさ」

 

ラウラの言葉にそう答えながら、ヒューゴはケーブルを巻き取ることでポッドを回収する。

そして格納領域からラウラのカノン砲の砲身をゆがめさせた際に使ったライフル状の銃、ラディカル・レールガンを取り出し、左手に持つ。

右手には先ほどから持っている剣をそのまま持っている。

ちらりとラウラに見抜かれないように、ISを起動したときから視界の隅にあるカウントダウンの数字を見やる。

 

始めは1800を示していた数字は今では600を切っていた。

 

(……残り10分を切りやがったか)

 

その数字を見て、ヒューゴは焦りを感じ始める。

この数字が何を示すのかはわからないが、どうやらヒューゴにとってこの数字が0になることは避けたい事らしい。

 

「……ちっ、突っ込むしかないか」

 

悩んでいる間にも数字は刻々と減っていく。

その様子を見たヒューゴは右手に握る剣を改めて握りなおし、そしてなんの前触れも無くラウラへ向かって加速。

傍から見れば考えなしに真正面から突っ込んでいるようにしか見えない。

 

「勝てぬと見てやぶれかぶれか!」

 

ラウラから見ても、まさにその通りにしか見えなかったようだ。

六つのワイヤーブレードがあらゆる方向からヒューゴへと殺到する。

それでもヒューゴは加速をやめず、むしろ速度はじょじょに上がっていっている。

そして正面からせまるワイヤーブレードとぶつかった……と思った瞬間、甲高い音を立て、そのワイヤーブレードは砕かれていた。

 

「なにぃ!?」

 

この事態に、ラウラも動揺を隠し切れない。

ヒューゴはただ単純に向かってくるワイヤーブレードを右手の剣で叩ききった、ただそれだけだ。

しかし、ISの武装であるワイヤーブレードがそう簡単に砕け散るはずが無い。

相手に叩きつけるという用途上、強度はかなり高いのだ。

それが砕かれるとはいったい……

 

そこまで考え、ふとラウラは気づいた。

ヒューゴの剣がエネルギーを纏うのは先ほどから分かっていた。

しかし、今剣が纏っているエネルギーは、先ほどよりも大きくは無いだろうか、と。

傍から見ても、先ほどと比べ剣が纏うエネルギーが放つ光が強いのだ。

 

「まさか、その剣は!」

「時間が無いんでな、全力で行かせてもらう!!」

 

刻々と0に近づいていくカウントダウンを横目に、ヒューゴは先ほどよりも多くのエネルギーを纏わせ、威力を上げた剣を使い自らに向かってくるブレードを叩き落す、ないし破壊していく。

そして、ついにラウラをその剣の範囲内に捉えた。

 

「くっ!」

 

再びプラズマ手刀で応戦するラウラ。

先ほどよりもぶつかり合うエネルギーが大きいのか、ぶつかり合った場所からまるで火花のように紫電が飛び散り、眩い光を放っていた。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

互いに押し切られまいと腕に力を込め、逆に相手を押し返そうとする。

しかし、威力の差かは定かではないが、じょじょにヒューゴがラウラを押していく。

 

そして、交差させてヒューゴの剣とぶつかり合っていた手刀が弾かれた。

 

「しまっ!?」

「獲った!」

 

がら空きとなったラウラの胴体にラディカル・レールガンの銃口を押し付ける。

銃口からラウラとの距離は完全に0。

何があろうと外す距離ではない。

 

しかし、何故か先ほどまでラウラにぴたりと付けられていた銃口は上へ向き、レールガンから放たれた銃撃は上空へ向かう。

そしていつの間にか再び張られていたアリーナのバリアに当たった。

 

ヒューゴの表情を見るに、銃口が上に向いたことは彼の想定外だったようだ。

そしてヒューゴは目の前……ラウラと自分の間に突如現れた影に目を向ける。

 

「やれやれ、ガキのお守りも疲れるものだ」

 

そこにいたのは織斑千冬。

その手にはIS用の近接ブレードが握られている。

かといって彼女がISを纏っているかと言えばそうではなく、彼女は生身のままだった。

先ほど、レールガンの銃口が上に向けられたのは彼女が手にしたブレードでレールガンを打ち上げたからだ。

 

「模擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのバリアが消えた状態での戦闘は許可できん。仮に今回のようにバリアが再び張られたとしても、無理やり破られた為に不具合が出ている可能性もあるからな」

 

手にしたブレードを地面に付きたて、千冬はヒューゴとラウラを見やる。

 

「これまでだガキ共。さっさとISをしまえ。そして今後トーナメントまで私闘を禁ずる。模擬戦を禁止にはしないが、やる場合は必ず教師の監督の下行え。いいな!!」

 

そういうと、千冬は地面に突き刺したブレードを抜き、そのままアリーナを去っていく。

ヒューゴは千冬の背中を見送るのもそこそこに、視界の隅のカウントダウンに目をやる。

残り300を切っている。

その数字を見て舌打ちを一つするとISを待機状態にし、ラウラたちに一瞥もくれずにアリーナを去っていった。

その顔には、何故か異常なほどの汗が浮かんでいた。




戦闘描写にあいも変わらずスピード感が感じられないクラッチペダルです。

今回はラウラと戦わせてみました。
主人公がやけに強く感じたあなた、それ正解です。
意図的です。
まぁ、理由は黒くないほうの兎さんのせいです。
あんまり主人公の強さ伝わんねーよってあなた、大変申しわけありません。
筆者の文章力のせいです。

と言うわけで主人公のISもようやっと名前出せました。
こんな展開速度で大丈夫か?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。