インフィニット・ストラトス -CERBERUS-   作:クラッチペダル

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いよいよ一夏との戦闘一回目!

さてさてどうなることやら。


06 vs白式

シャルルとタッグを組むことになった翌日。

その日のヒューゴの始まりは……

 

「頼む! 俺にISの稽古付けてくれ!!」

 

わざわざ彼の部屋まで来た一夏のこの言葉で始まった。

 

 

※ ※ ※

 

 

泥のような眠りから覚めたヒューゴがまず行ったことは、自身の体がまともに動くかと言うこと。

まず右手の指を一本ずつ、ゆっくりと折り曲げて握りこぶしを作る。

そして問題なく拳を作ることが出来るとわかれば今度はゆっくりと指を伸ばしていく。

右手が終われば左手で。

左手の確認が終われば今度は足が動くかどうか。

ゆっくりと右足を曲げ、限界まで曲げた後に伸ばす。

それを左でも繰り返し、そこまでやってようやくヒューゴは上体を起こした。

 

ヒューゴがまだIS学園に入学する前、まだ体が不調だった頃は発作が起きた後に眠るたび体が動かなくなっていたため、このように発作が起きた場合、念入りに体が動くかを確認する癖が付いたのだった。

時計に目をやると時間は7時。明らかにいつもより遅い起床時間だ。

現に、ヒューゴの隣のベッドにいるはずのシャルルの姿は無く、部屋に備え付けられているシャワールームから水の流れる音が響いている。

もっとも、普段はヒューゴが異様に早く起きているというだけなのだが。

 

とりあえずは昨日も飲んだ薬を今度は2錠取り出し、きちんと水で飲む。

その際、薬瓶を目線の高さまで持ち上げ、まじまじとそれを眺めた。

 

「今のところまだストックはあるが……果たしてこれもいつまでもつか」

 

出来れば、あまり頻繁に束は連絡したくは無いと思っているヒューゴ。

足が付く可能性云々ではなく、単に篠ノ之束という人間が嫌いなのだ。

別に容姿が悪いわけではない。むしろ彼女の容姿は整っているだろう。

しかし性格、思考、行動 etc. etc.

とにかく、ほとんどの部分がヒューゴにとって理解不能。

だから嫌いなのだ。

……単純に現状に自分を叩き落したのが彼女だからと言う理由も、もちろんあるが。

 

そんな事を考えていると、シャワールームのほうから扉を開ける音がし、やがてシャルルが「さっぱりしたー」などと言いながら出てきた。

 

「あ、ヒューゴ、おはよう」

「あぁ、おはよう」

 

とりあえず挨拶をされたのならば返事くらいはしなければならない。

後ろにいるであろうシャルルのほうに振り向くことなく、薬瓶をずっと眺めながらシャルルに挨拶を返した。

そしてそれからしばらく後。

 

「……あぁ!!?」

「うおっ! なんだ!?」

「って、わー! わー! 見ちゃ駄目! こっち見ちゃ駄目!!」

「はぁ……?」

「いいからこっち振り向かないでね!? 駄目だったら駄目だからね!?」

 

何故かシャルルが急に騒ぎ出す。

いきなりの事だったので、何事かとさしものヒューゴもシャルルのほうへ顔を向けようとする。

すると、これまた何故かシャルルに振り向くことを禁止されてしまっていた。

いくらなんでも、さすがに理不尽だが、その事に思い至るほどの余裕は今のシャルルには無かったようだ。

 

「これでよし……ごめんね、ヒューゴ。いきなり」

「そうか。なにかあったのか?」

「う、うん、えっと、まぁ、だ、ダイジョウブダヨ?」

「なんでカタコトだ」

 

少し気になる点もあったが、まぁ本人が問題ないといっているのならそうなのだろう。

ヒューゴはそう思うと、先ほどまで眺めていた薬瓶を鞄にしまい、鞄から着替えなどを取り出す。

昨日の発作の際の汗を始末せずに寝てしまったため、体中が不快感に包まれている。

ついでに制服のまま眠ってしまったということを思い出し、今来ている制服をクリーニングに出そうと誓いながら、予備の制服も取り出した。

 

「……俺はシャワーを浴びてくる」

「うん。待ってようか? みんなで一緒に朝ごはん食べようよ」

「……いや、時間も無いだろう? 先に行ってていいぜ」

 

シャルルの言葉にそう返すと、ヒューゴはシャワールームへ向かう。

部屋の扉が開いたのはそのときだった。

 

「お邪魔しまーす」

「あれ? 一夏? どうしたのさ」

「いや、ヒューゴいるかなぁって」

「ヒューゴならそこにいるよ」

 

入ってきたのは一夏だった。

シャルルが指差した方向にヒューゴがいることを確認すると、一夏はヒューゴに歩み寄ってくる。

そして、ヒューゴの前で止まると、数回深呼吸をする。

そして……

 

「頼む! 俺にISの稽古付けてくれ!!」

 

見事な土下座とともにこの言葉を言い放ったのだった。

 

「……は?」

「うわー、これがジャパニーズドゲザなのかな?」

 

あまりに唐突な行動だったため、ヒューゴは思わず手に持っていた着替えを落とし、シャルルは土下座と言う行為を始めてみたのか、やけに暢気にそんな事を呟いていた。

 

 

とりあえず土下座をしていた一夏を何とか立ち上がらせ、シャワーを手早く済ませたヒューゴは一夏とシャルルと一緒に食堂へ向かう。

本当ならば途中で屋上へと向かおうとしたのだが、シャルルが笑顔とともに腕を掴んでとめたため、こうしてヒューゴは彼らとともに食堂へ向かっているのだ。

なお、この三人はIS学園で三人しかいない男と言う共通点があるが、ヒューゴが誰かとともにいるというのは比較的珍しい光景なので、すれ違う女子全員が珍妙な物を見たという視線を彼らに向けている。

 

そんな視線を意図的に無いものと思い込みながら、ヒューゴは道中になぜ先ほどのような事をしたのかの理由を一夏から聞いていた。

 

まぁ、理由としては単純なもので、悔しいからとか、そういう類の物だった。

もっと詳しく言うなら、セシリアと鈴音を叩きのめし、自分を軽くあしらったあのラウラに互角以上の戦いをしていたヒューゴに憧れに似た感情を抱き、それと同時に、自分が情けなくなったようだ。

だからこそ、ヒューゴにISの訓練をしてもらえば、少なくとも今よりは確実に強くなれるだろう、ということらしい。

当然、一夏の頼みをヒューゴは受け入れる。いや、受け入れるしかない。

彼はそのためにここにいるのだから。

自身の境遇に対し自嘲めいた笑みを一瞬浮かべ、ヒューゴは一夏に向き直る。

 

「……別に構わん。やるなら今日の放課後からやるが、どうだ?」

「おお、今日からやってくれるのか? よろしく頼んだ」

 

ヒューゴの返事に、一夏は満面の笑みを浮かべる。

そんな彼をよそに、シャルルはヒューゴを自分の傍へと引っ張り、一夏に聞こえないように耳元で小声で話す。

 

「ちょっと、いいの? 一夏はもうトーナメントで当たる相手なんだよ?」

「別に手の内を全て教えるつもりは無いさ。それに、あいつがこっちの手の内を探るために頼んできたと思うか?」

 

シャルルは、未だに笑みを浮かべている一夏を見る。

……胸元で小さくガッツポーズしている。

いったい何を想像したのやら。

 

「……大丈夫そうだね」

「だろ?」

 

二人が自分を見ていることに気づかずに、一夏は意気揚々と食堂へと向かっていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

放課後、アリーナには生徒達による人だかりが出来ていた。

いや、よく見るとその中には教師の姿もちらほら見える。

そして、彼女らの視線は一様にアリーナの中央付近で向かい合っている二人の男子に向けられていた。

 

「ルールを再確認しておく。と言っても、普通に戦う場合と同じで相手のシールドエネルギーを0にしたら勝ち。ただし、途中不測の事態により教師からの指示があった場合、それに従う。いいな?」

「ああ、問題ないぜ。……へへ、そういやこうやってヒューゴと戦うのって初めてだったな。シャルルとはもう何度か模擬戦やってるけどさ」

「だろうな」

 

その男子とは、織斑一夏とヒューゴ・メディオの二人だ。

今日一日の授業を乗り越えた彼らは、今朝の約束どおり、こうして模擬戦という形で稽古をすることとなった。

その際、ヒューゴは普通に教師に監督をお願いしていただけなのだが、それを耳聡く誰かが聞きつけたのか、現状のように学園中のほとんどの生徒が観覧に来ている。

それは、IS学園所属の男子生徒同士の模擬戦という理由もあるが、どちらかといえばヒューゴが戦う姿を見に来たという生徒達のほうが多いだろう。

先日のラウラの一件を見ていた生徒もいるにはいるが、突発的な事だったため、その一件を見ている人は少なかった。

つまり、大抵の生徒はヒューゴが戦う姿を見るのは初めてだ。

さらに、その極少数の生徒達の情報により、ヒューゴは代表候補生と互角、下手をすればそれ以上の戦いを行っていたという。

興味がわかないほうがおかしいというものだろう。

現に、一年生はあまり見かけないヒューゴをみて親友や隣の生徒と色めき立っているが、二年生以上はこれから先のヒューゴの動きを見逃すものかといわんばかりに真剣に見ている。

 

「けど、まさかこんなに人が集まるなんてなぁ。模擬戦だぜ? これ」

「やりにくいだろうが仕方ない。始めるぞ」

 

アリーナの観客席に集まった生徒をみて、やや一夏がたじろぐ。

まさかここまでの大事に発展するとは彼自身も思っていなかったのだ。

ちなみに、これはあくまで模擬戦という名目だが、実況席には実況係がスタンバイしており、モニタールームには担任の千冬、副担任の真耶、その他技術科の生徒がそろっている。

もはやこれでは模擬戦ではなく完全な試合である。

 

周りの様子にやや圧倒されながらも、二人はある程度言葉を交わすと、ヒューゴと一夏は距離をとり、空へと浮かび上がる。

そして一夏が雪片弐型を取り出し、ヒューゴが背面から剣、コーティング・ソードを取り出すと、各々の得物を構える。

 

「……いくぜ、ヒューゴ」

「こい、一夏」

 

その言葉が終わると同時に、二人は互いに向けて加速し、それぞれの得物をぶつけ合った。

それと同時に、ヒューゴの視界の隅に1800の数字が現れ、以前のようにそれが0へ向かって減り始めていた。

 

 

「ふむ、あれがヒューゴのIS、確か名前は……サーベラスだったか」

「白式ほどではないですが、それでもなかなかに速いISですね。武装も近距離武装から射撃武装も一通りバランスよくそろってますし」

「まさに担い手次第でどの距離でも戦えるISだな」

 

モニタールームで千冬と真耶が画面に映るヒューゴのIS、サーベラスのデータを見ながら話し合っている。

そしてサーベラスのデータの横には、今まさに戦っているヒューゴの姿が映されている。

真耶の言ったとおり、白式は近接戦闘特化のISであり、それゆえに反応速度、加速度、最高速度が秀でている。

対して、たとえ一夏が白式の力を出し切れていないとしても、それに対応しているヒューゴのサーベラスもなかなかのスペックを持っている。

そしてなにより……

 

「でも、メディオ君はすごいですね。これじゃ長い間ISを動かしていたといわれても誰も疑いませんよ」

「……そうだな」

 

そう、何よりそれを扱うヒューゴ自身が異常といえるほどなのだ。

ISに触れてはや数ヶ月の一夏でさえ、未だに動きがぎこちない部分がそこかしこにあるのに、ヒューゴにいたってはそれが無い。

全ての動きに戸惑いが無く、それはさながらIS熟練者のよう……

今も自身に振り下ろされた一夏の雪片弐型を、コーティング・ソードをやや斜めにぶつけることで受け流し、体勢が崩れた一夏を攻撃している。

その光景を、千冬はただ黙って睨みつけていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

一夏の動きは、ヒューゴからしてみればあまりにも真っ直ぐすぎた。

悪く言ってしまえば考えなしに突っ込んでいるとも言う。

これが素人相手なら、白式の加速力に目がくらみ、対応などなかなか出来ないだろう。

しかし、ヒューゴは素人ではなかった。

あの日、束に地獄から生き地獄に引きずり上げられた日から数年。

その数年をヒューゴはISの習熟に費やすことを強いられていた。

束手ずからプログラミングのシミュレーターでの訓練、座学等、IS関係に触れていない日など存在しなかったほどだ。

 

慌てずに自身に振り下ろされる刃に対し自身の刃を当てる。

その際に斜めに当ててやればそれだけで脅威なはずの白式の加速力がそのまま自身の味方となる。

レールに乗せられた電車のように一夏がヒューゴの左へと流されていく。

そのがら空きの背後にコーティング・ソードを振り下ろせばそれだけで白式のエネルギーを削ることが出来るのだ。

 

(……まぁ、こんなものか)

 

自らに必死に食らい付く一夏を見て、ヒューゴはなんとも形容しがたい感覚にとらわれる。

そんなに必死になろうと、今の一夏では今のヒューゴには絶対勝つことは出来ない。

そうと分からずに必死に向かってくる一夏を、ヒューゴは哀れむように、羨むように見つめる。

もっとも、その視線はサーベラスのバイザーの奥に隠れて誰にも見ることはかなわないが。

 

「やっぱヒューゴってつえぇなぁ……でも、俺もまだいけるぜ!!」

「なら来いよ。気が済むまで相手になってやる」

 

体勢を立て直す一夏を見て、ヒューゴもいつ攻められても対応できるようにする。

ここで終わらせるのならレールガンを取り出し、さらにマシンガン・ポッドを使えばいいのだが……それらの武装を、ヒューゴは使う気がなかった。

 

相手と同じ土俵で戦って、それで勝ってこそ、目的が果たせるのだから。




試合の結果は次回に持ち越しとなりました。
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