インフィニット・ストラトス -CERBERUS- 作:クラッチペダル
さて、この結果は果たして読者の皆さんに受け入れていただけるか……
(ひ、一太刀もはいらねぇ……)
既に幾度もなくヒューゴに攻撃を受け流された一夏は、心の中で歯噛みする。
別にヒューゴの力を甘く見ていたわけではない……と思いたい。
なにせ、代表候補生であるセシリアと鈴音のタッグを下した、あのラウラと互角の戦いを見せたのだから。
しかし、まさかここまで自身の攻撃が通らないのはさすがに予想外だった。
それに何より、今のヒューゴは全力を出していない。
なにせ、あのマシンガン・ポッドを使っていなければラディカル・レールガンも使っていない。
使っているのはコーティング・ソードだけだ。
明らかに、余力を残している。
しかし、何故だろうか?
一夏はそれを手を抜いているが故とは到底思えていなかった。
理由は……分からない。
だが、まるで自分に何かを教えようとしている。
一夏はそう思えて仕方が無かった。
「ボケっとしている暇はあるのか?」
「っ!? ちぃ!!」
あれやこれや考えているうちに、ヒューゴは一夏の懐に既に入り込んでいた。
二人の距離はほぼゼロ。
互いに互いの得物を振り回すことさえ不可能な距離だ。
しかし、自ら望んでその位置に入り込んだヒューゴと、不意にその位置に入り込まれた一夏。
どちらが次の一手を先に打てるかは、もはや明確な事だろう。
ヒューゴは文字通り一夏の懐に入り込み、それでも前へ進むことをやめなかった。
その際、ヒューゴはサーベラスの左肩のパーツを一夏に当たるように突っ込んでいた。
そして、サーベラスは白式の不可視シールドに接触。
加速の勢いをのせた接触は、一夏をそのまま弾き飛ばした。
「ぐがっ……!?」
「……終わりだな」
その際に、互いのISのシールドエネルギーが減少するが、サーベラスの肩パーツを当てたヒューゴと、シールドに直撃させられた一夏では数値減少は一夏のほうが上だった。
ただでさえ、今までの攻撃でエネルギーを減らされていた白式にとって、このタックルでも大きな痛手となる。
そして白式を操る一夏はタックルで体勢を崩されたまま弾き飛ばされ、未だに体勢を立て直せていない。
その様子を見たヒューゴは、一言呟くと手に持ったコーティング・ソードを一夏へ向かって投げた。
刃を一夏へ向け投げられたそれは、普段であれば攻撃とは呼べない、行ったところで簡単に避けられてしまうであろう行為だ。
仮に成功したところで武器を一つ失ってしまう、傍から見ればただの愚策。
しかし、一夏は未だに体勢を崩しており、仮に今この瞬間体勢を立て直したとしても……回避するよりも刃が直撃するほうが早い。
そしてその一撃で、白式のエネルギーは尽きるだろう。
そして、ヒューゴの思惑通り、ソードは白式に突き刺さり、それにより白式のエネルギーはゼロとなる。
模擬戦終了のブザーが、アリーナに鳴り響いた。
※ ※ ※
「……まぁ、大方予想していた結果ではあるな」
「そうですね……織斑君も悪いわけではないですが、あの動きを見せるメディオ君が相手となるとやはり……」
モニタールームでは、試合の結果について千冬と真耶がそう話し合っていた。
「しかし、なぜヒューゴ君はあんな戦い方を? わざわざあんな戦い方をしなくても、十分にメディオ君は勝てていたと思うんですが」
「ああ、それは私も気になっていた」
そういう二人が見ているのは模擬戦のまさに終わりのシーン。
ヒューゴが一夏をタックルで弾き飛ばす……それはいい。
しかしその後のあのソードを投げるという行為。
なぜ彼はわざわざあのような行為に出たのだろうか。
そのようなことはせずとも、ただあのまま近寄り斬る。
それで事足りるはずだ。
「あれじゃ相手を馬鹿にしているととられてもおかしくありませんよ……」
「少なくとも、考えなくあのような行動をとった訳ではない……そう信じたいな」
先ほど模擬戦の終盤をリプレイしていたモニターとは別のモニターが正面に出てくる。
そこには、ISを解除し、一夏に手を貸しているヒューゴの姿が映っていた。
「~~~っ、負けちまったかぁ。やっぱつえぇな、ヒューゴは」
「まぁな。少なくとも、お前には負けないだろうよ」
模擬戦でバテてしまい、一人では立つこともおぼつかない一夏に肩を貸しながら、ヒューゴは控え室へ戻ってきた。
そして一夏をベンチへ横たわらせると、自身は傍に置かれたもう一つのベンチに腰掛けた。
しばらく、一夏の荒い息と、ヒューゴの静かな息だけが控え室に響く。
やがて、呼吸が落ち着いた一夏が口を開いた。
「なぁヒューゴ」
「なんだ?」
「俺ってさ……どうよ?」
「どう、とはどういう意味だ?」
ヒューゴの問い返しに、一夏は言葉に詰まる。
言いにくそうにもごもごと何事かを呟いた後、やがて決心したのか、深呼吸をした後、言葉を続ける。
「俺ってさ、どのくらいの強さかなぁって思ってさ」
「最低ランクだ」
「即答だなおい!!」
一夏の質問に、ヒューゴは停滞無く答える。
さすがの反応に一夏は疲れて動かなかったはずの体に鞭打って上半身を起こすと、ヒューゴの方に視線を向ける。
そこで、ヒューゴと目が合った。
「純然たる事実だ。さすがに専用機を持っていない一般生徒より弱いということはない。だが、専用機持ちの中で言うなら、ダントツの最下位だ」
「そ、そりゃそうかもしれないけどよ、それでも言い方って物が……」
「なら、なんと言って欲しかった?」
「それは……」
再び言葉に詰まる一夏に、ヒューゴは思わずため息をつく。
まさかこの場において慰めの言葉を期待しているのだろうか。
さすがにそれは無いと信じたいが……
「一夏、厳しいようだがはっきりと言っておく。お前は弱い。今のところお前とよくつるんでいる奴等より、はるかにな。篠ノ之箒だったか、そいつとならよしんばいい勝負が出来るが……それも白式と打鉄の性能差ゆえだろうよ」
「……っ!」
一夏にとって、それはあまりにも辛らつな言葉。
しかし、だからと言って否定できない言葉でもあった。
「……一夏、お前は何で強くなりたい?」
「俺は……俺はさ、みんなを守るために強くなりたいんだよ」
そこから語られるのは、一夏の思い。
なぜ今も投げ出さずにISの付き合っているのかと言う、彼の芯。
「俺さ、昔……つってもほんの数年前だけどさ、第二回モンド・グロッソの時、誘拐されちゃってさ。その時、千冬姉やらいろんな人に迷惑かけてさ……それ以前にも、考えなしに突っ込んでっては結局千冬姉やら周りの誰かに迷惑かけちまって……いろんな人に守られてた。それが悔しかったんだ」
「…………」
ヒューゴは黙って一夏の独白を聞く。
ここで話の腰を折れるほど、彼は無神経ではない。
「その時に思ったんだよ。強くなりたいなって。でもさ、強くなりたいって言ってもどれくらい強くなるかって言うのは結構細かいだろ? だからさ、まずは皆を……誰かを守れるくらい強くなりたいって思ったんだ。今まで迷惑かけた分、俺が今度は守りたいって」
「なるほど、な」
ヒューゴは一夏への評価を多少改めた。
考えなしに、ただ強くなりたいと思っていたのかと思ったが……その実、きちんと考えたゆえの信念だったのだ。
一夏の言葉に対し、ヒューゴは一度頷くと、しばらく唸り、そして口を開く。
「だがこのままではむしろお前は守られる側だ。それは分かるな?」
「そりゃ、もちろん分かってるさ。でも、俺だって訓練してたりするんだし、いつかは……!」
「お前の知っている奴等は、童話の兎のように怠けるような奴等ではないだろう? ならば、お前が努力してもそいつらも努力し、同じ距離、下手したらお前の倍以上の距離進む。スタート地点がはるか後ろにあるお前は、はたしていつ追いつけるんだろうな?」
「う……」
「まぁ最後まで聞け。何の為に長々と俺がここまで話したと思ってる? お前の現状を認識させるためだ。今までは、おおかた何とかなるだろうと暢気にやっていた節はあるだろう?」
「うぐっ」
実はその言葉は一夏にとっては図星だったりする。
確かに努力はしている。
しかし、どこかでそのうち何とかなると軽く考えていたことも事実だ。
まだ自分は素人だ、と言ういいわけを心の中で浮かべたことも、一度や二度ではない。
「まずその考え方から改めろ。それだけでだいぶ変わるはずだ。でも、それだけじゃ追いつけない。追いつくにはな……工夫するんだ」
「工夫?」
ヒューゴの言葉を、一夏がオウム返しして首をかしげる。
そんな暢気な部分を改めろという旨を先ほど言っていたはずなのだが、さすがに言われて一分そこらでは改善はされないらしい。
その事に少々の頭痛を覚えながらも、ヒューゴは言葉を続けた。
「訓練以外にもいろいろやるんだよ。戦い方を考えるっていえば分かりやすいか。……
所で一夏、お前は俺の最後の一撃をどう思った?」
「へ? 最後の……? あの剣を投げてきた奴か」
ヒューゴに言われ、その時の事を思い出す。
あの攻撃は、一夏にはあまりに予想外の事だった。
あのタイミングでわざわざあの様な攻撃をしてくるとは、いくら初心者とはいえ、一夏はまったく予想できなかったのだ。
恐らく、それはあの光景を見た誰しもがそうだろう。
「なんつうか、驚いたな。あの場面であんなことするって言うのも、下手したら当たらないような攻撃をするのも」
「だろ? つまりそう言うことだ。相手の裏をかけ。相手の予想を超える行動をしろ。どんな攻撃も当たるという状況を作り出せ。この世に『必中の攻撃』なんざ無い。あるのは『必中の状況』だけだ」
そこまで一息に言うと、ヒューゴはため息を一つつく。
その顔には、なぜか汗がうっすらと浮き出ている。
「……俺の柄じゃないってくらい喋っちまったな。今日はここまでだ……俺の言葉の意味、しっかり考えてくれよ?」
---じゃないと、俺がここにいる意味が無いんでな。
最後の一文を口に出さず、ヒューゴは控え室を出て行った。
その背中を、一夏はただじっと見送る。
「……戦い方を考えろ、か」
一夏は先ほどヒューゴに言われた言葉を思い出す。
そしてしばらく唸るとベンチに横たわった。
「あーくそ! ヒューゴ、あんなに考えて戦ってたのかよ! ……俺、まだまだ考えが甘かったなぁ……いろんな意味で」
いや、甘いなんてものじゃすまないのかもしれない。
一夏は思う。
セシリアとのクラス代表決定戦の時も。
鈴音とのクラス対抗戦の時も。
その後の模擬戦の時も。
皆は自分は負けても自分を評価してくれた。
負けたけどすごい。男だけどすごい、と。
いや、クラス対抗戦のときは勝ち負けは無かったが、それでもあの時あのまま続けてたら、たぶん自分が負けていただろう。
今なら、今の自分が考え付く程度の策じゃ彼女に踏み潰されるだろうことは理解できる。
代表候補生とは、すなわちそれほどの物なのだ。
ともかく、そのせいで勘違いしていたのかもしれない。
自分はすごいんだ、自分は強くなっているんだ、と。
もちろん、それは周りの人々のせいではない。
明らかに、それで天狗になっていた自分のせいだ。
そして、ヒューゴによってその思い違いを一夏は完全に粉砕された。
自分と同じ男だが、圧倒的に強い彼に現実を叩きつけられて。
「……俺って、すっげぇなさけねぇ」
誰にも聞かれていない一夏の独白は、部屋に箒たちが入ってくるまで続いていた。
※ ※ ※
ヒューゴが寮の部屋へ入ると、そんな彼に向かって山形の軌道を描いて何かが放り投げられる。
向かってくるそれを空中で掴み取り、見ると、それは普段から常用している錠剤の入った薬瓶だった。
そして投げられたほうを見ると、そこにはシャルルがベッドに腰掛けた状態でいた。
「薬、飲まないとこの前みたいになっちゃうよ?」
「ああ、ありがとう」
ヒューゴはシャルルに礼を言うと、そのまま部屋に併設されている台所へと向かう。
そんな背中を、シャルルは唖然とした様子で見つめていた。
「……ヒューゴが素直にお礼言った……」
今までの彼の態度を知っているものならば無理の無い反応だが、それでも彼に失礼な反応をしながら。
今回はちょっと一夏には耳が痛い言葉ばかりをヒューゴに言わせてしまった気がしますが、それでも言わせたかった事です。
これじゃ戦いでって言うよりも言葉で一夏をぼろぼろにした感じになってしまった……
でも、そのほうが一夏はきついんじゃないかと自分は思うんですよ。
戦いでのフルボッコを期待していた方、申しわけありません。