水の都ウォーターセブン
そこには死神と呼ばれる、船大工がいる。
曰わく、どんな船も直せる。
曰わく、お代は依頼主の命。
曰わく、竜骨でさえ元通り。
曰わく、街にいるときは獲物を見定めている。
曰わく曰わく
噂が噂を呼び、1人の船長が依頼にいって帰ってこなかった以来その、船大工へ修理を依頼しにいく人はパタリといなくなった。
しかし、街で会うときは普通の人なので、二重人格や船のことになると真剣になるのでは、など様々な憶測が飛び交ったが、素顔を知るのは一番ドックのひとのみぞしる。
◇◇
「だーー。客がこねぇ。」
閑古鳥が鳴く店で男が1人ゴチっていた。金色の短い髪に青い目。清潔感の感じるその見た目は今の堕落した様子に不似合いだった。
「あれか、あいつを殺したのがいけなかったのか?しゃあないんや、せっかくこれを使ってやったのに払わないとかぬかしやがって。調子のんな」
手で赤く輝く石をいじりながら独り言がエスカレートしていく。その石は恐怖すら感じる美しさを持っていた。
この都では船大工は一番ドックの頑張りのお陰で海賊の船がよく訪れるため、どの船大工も必ず一件は依頼人を抱えている。専属契約までしている所もあるようだ。しかし、この男、ドリーには客がこない。
「俺の味方はお前だけだぜ。」
そういって石に口付けをする。
動いても疲れる寝ていても疲れる、どうしたらよいんだ。
「腹減ったな、水水饅頭でも買ってくるか。とりあえず、パウリーに金返してもらおう。」
金なら賢者の石を使えば黄金を錬成できるため困らないはずである。しかし、それはドリーの信念、といえるほど大層なものではないが、誰かのためにしか使わないというもと依頼人のためにしか使っていない。
それで裏切られたからといって殺していい道理にはならないのだが。
急いで賢者の石をポケットにしまい、家をでる。
◇◇
「あー、湿気が多い。よくこんな町で生活できんな。」
ウォーターセブンは陸より川の流域面積の方が広いことで有名であるため、夏場になると蒸発した水のせいで不快なムシムシした感覚に襲われる。
しばらく歩きながら耳をそばだてる。アイツ色んな所から金借りてるからすぐ場所が分かるんだよな。
なぜかって?
「待てぇ!パウリー!!!金返せぇ!!」
「もうちょっと待ってくれっていってんだろぅがよぉ!!!」
ありがたいな。昼間っからこんな大声で取り立てしてくれて。おかげで場所が丸わかりだぜ。
実際、都全域に聞こえているのではないかというくらい大きかった。
中央通りの方か。ウォーターセブンの数少ない橋が通っているところである。
この町の真ん中を通る川の方に向かう。しばらく走ると、黒スーツ四人に追いかけられる、男を見つけた。煙草を咥えながら走るその様は、格好良くもあった。
パウリーと呼ばれる男は、この街の憧れである一番ドックの船大工のはずである。しかし、今の返済を延滞して逃げまどっているその姿はにてもにつかない。
「げ!!ドリーもかよぉ!今日は金がねぇんだよぉ。」
パウリーはドリーの能力を知っているため、逃げ足を速める。
しかし、知っているといっても、物を造る事が出来るという認識でしかない。分解することが出来ることも知らないし、物質の構造、どんな原子で出来ているかを把握しなければ使えないことも知らない。
パウリーを橋の上で挟み撃ちにするように囲んだため、一瞬逃げる動きが止まった。
「よくやったぞ、ドリー!そっちから挟み込め!」
分かってるよ。ちょっと静かにしてろ。
ドリーは両手をパンと合わせると橋に手のひらを当てた。すると橋の上にパウリーの周りを包み込むような檻が錬成される。
「一丁上がり!」
「本当に金がねぇんだよぉ!」
檻の中でパウリーが叫ぶ。すると黒服の取り立ての人がぞろぞろと橋の上にきた。
「ばかやろぉ!石使ってないのにそんなに乗ったら。」
錬金術の基本は等価交換。つまり有を作り替えることはできても無から有を作ることは不可能なのである。賢者の石という例外はあるのだが。
バキッ!!
つまり檻を作るために橋の成分である石を大幅に使ったため脆くなり、全員の体重を支えきれなくなった。重力に逆らいきれなくなった橋が原型をとどめられず真ん中から崩れ落ちてしまった。
ドリーは慌てて橋に触りながら両手を合わせ足元に石の台を錬成する。取り立て屋はなすすべなく橋から落下していった。
「ラッキー!!ロープアクション!」
檻もその影響で下に穴が空いてしまったためパウリーはいつの間にか抜け出していた。そして技名を叫ぶとパウリーの手から二本のロープが伸び、丁度通りかかった二隻のブルの乗客を捕らえると引き寄せた。
ブルというのは水の上を移動する馬車のようなものだ。川がほとんどのこの町では馬よりこちらの方が重宝する。ポケ○ンのラプラスをブサイクにしたような感じだ。
「ラウンドターン!」
ロープに捕まった乗客はなすすべなくパウリー引き寄せるままに、引っ張られる。
「うぶげぇ!」
ガン!!
頭蓋骨同士が物凄い勢いでぶつかったのか尋常じゃない音がした。
乗客がフランキー一味で良かったとドリーは内心で思いつつ、気の毒に思い両手を合わせる。
パウリーはブルの上に乗るとそのまま陸に上がろうとしていた。
「おーい。その金ありがとー。」
鼻が異様に長い人が手を振りながら叫んでいた。帽子にゴーグルを付けている。狙撃手か船大工といった所だろうか。
パウリーはその声でブルの上に金が乗ってることに気がついたのか、一瞬とてつもないゲス顔を浮かべると陸に上がらずに川を降っていこうとした。
「ちくしょー。また逃げられたか。」
取り立て屋の何人かが悔しそうにしている。しかし、顔に怒りはない。ドリーも内心気付いている。この追いかけっこを楽しみにしていることに。あの黒服の人、パウリーを追いかけるようになってから20キロも痩せて女性にモテたっていうのだから驚きだ。
◇◇
パウリーはその後すぐに一番ドックの職長であるロブ・ルッチに捕まった。
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