Fate/Aristotle   作:駄蛇

61 / 61
ちょっとした番外編のつもりがどうしてこうなった……


幕間
12月25日


 カーテンの隙間から零れる日差しで目が覚める。

 いつもと変わらない、何の変哲もない朝。

 と思っていたのに、一つで決定的に違うのは……

「雪……?」

 カーテンに映る無数の小さな影に気づいてカーテンを開けると、見慣れた月海原学園の風景が雪で銀色に染まっていた。

 ここは月の中、ましてや電脳世界だ。

 普通に考えれば自然現象で雪が降るなんてことはない。

 となればSE.RA.PHが意図的に雪を降らせていると考えるしかない。

「でも、どうして……?」

「私にも詳しいことは。起きたときにはすでにこのような状況でしたので」

 二人して首をかしげていると、その問いに答えるように端末がメールを受信した通知が鳴った。

 見ると、差出人はあの言峰神父から。

 次の対戦相手の発表かと思ったが……

『つい数時間前、地上の日付が更新された。

 本日は12月25日。イエス・キリストの降誕を記念する日。つまりはクリスマス。

 ここまで勝ち続け、生き残ったマスターたちへ、我々NPCからのささやかなプレゼントだ。

 本日限りSE.RA.PHは特別仕様で運営している。

 つかの間の聖夜を楽しみたまえ。

 メリークリスマス』

「……………………なんだこれ」

 そんな感想しか出てこなかった。

 今日が12月25日なのかどうかは地上の記憶のない俺には確かめるすべがないため置いておくとしても、突っ込むべきところがいろいろありすぎて一週回って考えるのが面倒になってきた。

 隣で端末を覗き込んでいたライダーに助けを求めるも、彼女も肩をすくめるのみ。

 どうやら彼女も困惑しているようだ。

「ひとまず校舎へ移動してみましょう」

「ま、まあ別にそれはいいんだけど――」

「では失礼して。いざマイルームの外へ!」

 頷いた瞬間ライダーが背後に回って背中を押してくる。

 なんか力加減がおかしいような……両足でブレーキかけてるのに力づくで押し出される!?

「ちょっと待って。なんかライダーいつもと様子おかしくない!?」

「へ? そ、そうでしょうか?

 ほら、善は急げといいますか、何事も確認してからと言いますか、百聞は一見に如かずと言いますか、校舎の様子がどうなっているか気になると言いますか、知識としては与えられていますが実際にどんなお祭りごとなのか気になるといいますか!!」

 口笛を吹きながらとぼけたように言葉を連ねつつ、背中を押す力がどんどん強くなる。

 ライダーも困惑してるものだと思ったけど違った。これ絶対に祭りごとを前にして遊びたくてうずうずしてるだけだ!

 

 

 ライダーに押されてマイルームから出ると、校舎の変わりようにたじろいでしまった。

『メリークリスマス! 月海原学園クリスマス祭、特別冊子だよ!』

『祭りだからと言っても、食べ過ぎ遊びすぎには注意してください。もし体調が優れない方は保健室へいらしてくださいね!』

『本日限り開かずの間になってた視聴覚室を開放するよー。内容は来てのお楽しみ!』

『坊主! 辛気臭い顔なんてせず余についてこい! クリスマスと言えば空を自由に飛び回るものなのだろう?』

『はぁ!? 何言っちゃってんの!? バカなんですかぁ!? 空飛ぶのはサンタであって僕たちじゃ――』

『アーチャー、女遊びは感心せんな』

『げっ、ダンナ!? って、なんすかその昔懐かしのサンタ衣装。いやまあびっくりするほど似合ってますけど』

 普段から賑やかし担当のNPCがわいわいしていたが、今日はNPC以外も盛り上がっているようだ。

 壁には輪飾りだったり小さな人形だったりが飾り付けられ、掲示板が掛けられてあるところには小さなもみの木で作られたクリスマスツリーが設置されている。

 さらに校内に設置されているスピーカーからはクリスマスの定番曲が流れて続けていた。

 どうやら言峰神父の連絡は本当で、聖杯戦争が行われているこの月海原学園全体がクリスマスムードのようだ。

 いつもは硬派にふるまっているNPCも今日ばかりはパタパタと音をたてながら廊下を駆けていく。

「……ん?」

 今一瞬、曲がり角の向こうへ見覚えのある髪の女性が走って行ったような……

「おおー、これがクリスマスという催しものですか!」

 突然隣で大きな声を出されるものだから、意識がそちらに持っていかれる。

 見ると隣にいるライダーは目を輝かせてぴょんぴょんその場で小さく跳ねていた。

「この雰囲気、わくわくしますね、主どの!

 ところで、プレゼントはどこにあるのでしょう? サンタなる老人が渡すものだと聞いていますが……」

「いや、さすがに月の世界にサンタはいないと思うけど」

「そう、ですか……」

 あからさまにテンションが下がる少女の姿に言われようのない罪悪感にさいなまれる。

 お詫びを兼ねて今日中にプレゼントを用意しておこう。

 そう決意して賑わう校舎を散歩していると、自然と購買部へと足を運んでいた。

 何か購入するとすればここしかないし、今日限定の商品なんかも入荷している可能性がると思って顔を出したのだが……

「……なんでサンタコス?」

「クリスマス仕様だよー」

 手を振りながら迎えてくれたいつもの購買委員は見慣れた衣装ではなく、ノースリーブのミニスカサンタだった。

 にしても、もはやサンタ衣装の原型は赤色であることぐらいしか残っていない。

 それでも一目でサンタ衣装の派生だとわかってしまうのだからもうこれもサンタコスなのだろう。

 これが無辜の怪物……いや違うか。

「まあいいや。今日限定の商品とかあったら見せてもらえる?」

「まいどー、って言いたいところだけど、女の子が新しい衣装に着替えてるんだからまず言うことあるんじゃないかなー?」

「……似合ってるよ。それをサンタのコスプレと言っていいかは別として」

 はいよろしい、と満足気にうなずいた舞は端末を操作して品ぞろえの一覧を表示してくれた。

 一覧にはツリーのような飾り付け用のアイテムが大部分を占めているが、僅かながらプレゼント用の手ごろなサイズのアイテムもいくつか見つかった。まあ、値段は全然手ごろではなかったが。

 購入してしまえば無一文になってしまうが、ライダーへのプレゼントであればそれぐらいは問題ない。問題は……

「マイルームの飾り付けですか、主どの?」

「まあそんな感じ、かな」

 値段が値段だし、さすがに渡す本人の前で買うのは避けたい。たぶん止められる。

 ひとまず目星はつけたからあとで一人で買いに来れればいいのだが、この心配性のライダーの目を盗んでどう一人で来るか……

「お困りなら『サンタらしいサービス』しようか? 前払いの追加料金だけど」

 にやにやと意味深な笑みを浮かべ、こちらを覗き込む舞。

 サンタらしいサービス……なるほど、商品を選んでおけばあとで配達してくれるらしい。

「追加料金によるんだけど」

「エーテル一個分ぐらいかな。商品の値段から考えれば微々たるもんじゃない?」

「その微々たるものが払えないぐらいかつかつでやりくりしてるの知ってるよね?

 そもそも『サンタらしいサービス』でお金とるのはどうなの?」

「サンタも世知辛い世の中だからねー」

「…………」

「…………」

 背後で首をかしげるライダーに悟られぬよう静かな戦いを続けること数分。

 お互い引きつった笑みでいるのも疲れたところで、ようやく舞のほうが根を上げてくれた。

「まあ今日はせっかくのクリスマスだし、料金は全部無料でいいよ。

 最初からこの売り上げは考慮されないし」

「待って。ならさっきの無駄な攻防はなんだったの!?」

「私の暇つぶし?」

「怒るよ?」

「だって私たち会話するの最高で一日一回じゃん。しかも最近はなんか作業的な会話しかしないし?

 わざわざ衣装チェンジしてるのに数十秒のやりとりではいさようなら、なんて悲しいと思わないのかなー?」

 子供っぽく口をとがらせる舞に頭を抱えそうになる。

 ただまあ、最近は少し機械的な会話になっていたのも本当かもしれない。

 

 ……最近?

 

 何か一瞬頭の中に疑問がよぎったが、すぐに消えてなくなってしまった。

 少し違和感は残るが、そこまで気にするほどでもないだろう。

「今後は極力事務的な会話だけで終わらないように気を付けるよ」

「わかればよろしい」

 ようやく用事を済ませて購買部を後にする。

 不要な体力の消費をした気がするが、プレゼントの注文ができたのならよしとしよう。

「待たせちゃってごめん」

「いえ、問題ありません」

「とりあえず俺の用事は済んだけど、ライダーはどこか行きたいところとかある?」

「私が決めてよろしいのですか?」

「せっかくだしね。ライダーが気になることを優先にしてもいいと思うし」

「そう、ですか。

 では、体育館に行ってみてもよろしいですか? なにやら賑わっているようですし、何か催し物をしてるのかもしれません」

 てっきり校庭に積もった雪で雪合戦でもすると予想していたのだが、意外にもライダーが提案したのは体育館だった。

 とはいえライダーの提案に反対するつもりもないため、聖杯戦争ではあまり利用していない体育館へと足を踏み入れる。

 するとライダーの読み通り、体育館では複数のブースが設けられており、祭りの出店のような賑わいを見せていた。

 地上での記憶がないので何とも言えないが、一般的な学園祭とはこのような光景のことを言うのだろうか?

 視線を巡らせてどんなブースがあるのか把握しようとしていると、またも特徴的で見覚えのある髪が人ごみの中に消えていくのが見えた。

 今度は見逃さないように目で追っていたのだが、その近くにあった光景に思わず二度見してしまった。

「えっと、ラニ?」

「由良さん、ごきげんよう」

 僅かに頭を下げて礼儀正しく挨拶をする褐色の少女。

 彼女がこうしてイベントに参加しているのも意外といえば意外なのだが、それ以上に違和感があるのが……

()()、ラニのバーサーカーだよね?」

「……はい」

 視線の先にあるのは複数あるブースの中の一つ。

 手芸部か何かが出店している編み物体験教室なのだが、そこに明らかに雰囲気の違う優雅な男性が座って黙々と作業を行っていた。

「私もさきほど知ったのですが、どうやら生前から編み物が趣味だったようで。

 こうして立場を気にせず没頭できると珍しく上機嫌でしたから」

「ラニはこうして作業してるのを見守ってる、と」

 はい、と頷くラニ。

 バーサーカーの趣味に驚きは隠せないが、手慣れた様子で作業を行う姿を見ると納得せざるを得ない。

 というか手際が良すぎるから教える側のNPCがどう対応すればいいかわからず落ち着かない様子だ。

「それにしても、バーサーカー的にはクリスマスってどうなんだろう?」

「本来我ら教徒が祝うのは誕生祭ではなく復活祭であり、そもそも生誕祭の日程には諸説あるのだが……

 まあこちらを楽しむことが復活祭を蔑ろにすることに繋がるわけでもない。

 純粋なイベントとして楽しむのに関しては問題なかろう」

 完全に独り言のつもりだったのだが、作業が一段落したバーサーカーの耳に届いていたらしい。

 彼なりに解釈したうえで楽しんでいるようだ。

「あのアサシンめは異教のイベントに発狂していたところを監督係の神父に取り押さえられて隔離されていたがな」

 ……そういえば姿が見えないと思っていたが、どうやら俺が校舎に移動する前に大変な出来事が起こっていたらしい。

 ほどなくして満足した様子でブースから出て来たバーサーカーの手には、明らかに複数の編み物が握られている。

 その一つ、紙袋に入れられたものをバーサーカーは俺に手渡してきた。

「これは?」

「ついでに作ったものだ。余からのクリスマスプレゼントとして受け取るがいい。

 中に入っているものは本来贈る時期が違うのだが、このタイミングでしか渡せそうにないのでな。

 3月1日まで取っておくといい」

「あ、ありがとう……」

 そしてラニの方へ向き直ると、もう一つを彼女へ差し出した。

 半円のような三角形のような形で、三方向から穴が開いた、ものすごく見覚えのある形状のそれは……

「なんでパンツ?」

「見ているこっちが寒くなるのでな」

 まったく、とあきれた様子で語るバーサーカーの視線にいるのはもちろんラニ。

 渡そうとしているもの、そしてバーサーカーの言動から導き出される答えは……

「っ!?」

 反射的に視線が下に向きそうになったのを寸前で堪え、代わりにラニの顔を見る。

「合理的ではありませんので」

 顔色を変えることもなく、久々に機械的で無機質な無表情でそう告げられた。

「世界は広いですね、主どの」

 うん、君も人のこと言えないと思うけどね。

 

 

 一通りブースを見終えて校舎へと戻ってくると、空はすっかり茜色へと移り変わっていた。

「ライダー、今日は楽しめた?」

「はい、もちろん!」

 喧騒から離れた本校舎の2階を、満面の笑みを浮かべるライダーと共に校舎を歩く。

 今朝の賑わいがウソのように静かな校舎だが、その無音は不思議と不快ではない。

「主どの、そういえば主どのはサンタどのに何かプレゼントのお願いはしないのですか?」

 ふとライダーがそんなことを俺に聞いてくる。

 プレゼントか……

 そういえば考えてなかった。

 いつもは聖杯戦争のことばかりで、そういうことを考える余裕もなかったと言えばそれまでなのだが。

 叶うかどうかは別として、せっかくそういう日なのだから考えてみてもいいのかもしれない。

「といっても、とくに欲しいものはないし……」

 ならばと、ここ最近で強く願ったことなどはないかと考えを巡らせていく。

 しかし、改めて考えてもなかなか出ないものだ。

 結局マイルームへと続く2-Bの教室の前まで何も出てこなかった。

 だというのに、戸に手をかけた瞬間、頭の中にあった靄が晴れるような感覚に襲われた。

 

 ……ああ、そうか。この世界は――

 

「――サラにもう一度会いたい、かな」

 戸を開き、マイルームへと転送される。

 何の変哲もない、いつも使っているマイルーム。

 少し前まで2倍の広さがあった、今は一教室分の広さの空間。

 気付けば、さっきまで一緒にいたはずのライダー……霊基を変質させる前の牛若丸はどこにもいない。

 教室を模したマイルームの中には俺と、窓際に身体を預けている女性の二人きりだった。

 銀色の髪を後ろでまとめ、カソックや修道服を改造した服装に身を包んだ麗人。

 そして、5回戦のモラトリアム中に消滅した、俺の仲間だった人。

 違和感はあった。

 端末のメールの文面からしてすでに何回戦か進んでいるのは確かなのに、1回戦、2回戦ぐらいに戦った対戦相手の影があったのだから。

 でも意図的に考えないようにしていた。

 このつかの間の夢を壊したくなかったから。

 しかし夢は覚めるもの。終わりのない夢はない。

 だからその現実を自分に突きつけるように口にする。

「これは、夢。

 五回戦が終了し、疲弊した俺の心を癒すためにSE.RA.PHが設けた休息期間。だよね、サラ」

 いや、目の前にいる女性にその名前で問うのは正しくない。だから言い直す。

「正確には、サラの姿をした、俺にとってのサラの役割に配置されたNPC、かな」

 その問いに目の前の銀髪の女性は困ったように肩をひそめた。

「やっぱり、この姿を見たら気付いてしまうか。

 彼女の思考をトレースした私だからその答えに辿り着いたから、鉢合わせないように逃げ続けてはいたんだが……

 ムーンセルに強制的に配置させられてしまったようね」

 声も口調も挙動も記憶にある彼女と全く一緒だというのに、雰囲気が違うだけで結構別人に見えるものだと変なところで感心してしまう。

「その言い方だと、ムーンセルに造られた存在なのにムーンセルより俺のことに詳しそうな感じだけど」

「当たり前だろう。お前に詳しいキャラを作るのに必要なのはその条件を満たす人物の情報だ。ムーンセル自身がお前に詳しくなる必要はない。

 というか、ムーンセルはキャラの性格は設定できても、その後のキャラの思考回路や行動に関しては干渉できないんだ。

 できるのはゲームキャラの配置まででしょうね」

「俺に詳しい人物がライダーじゃなくてサラだったっていうのは、ちょっと思うところはあるけど」

「あいつはあいつで頑張ってお前を理解しようとはしている。

 ただ天才のあいつと凡人のお前じゃ根本が離れすぎてるから、少し時間がかかるだけさ。

 お前のためを思う気持ちだけなら間違いなくライダーが一番よ」

 そこで一旦会話が途切れる。

 心地のいい静寂がしばらく続き……

「……でも、ここにいるのがサラでよかったかも。

 あの時はゆっくり話す余裕はなかったから」

「そんな話すことあるか?」

「一つだけ、ね。

 でもどこかでは伝えたいと思ってたから」

 彼女の隣に陣取り、一度呼吸を整えるために深呼吸を行う。

 あのとき言えなかった言葉。

 こうして五回戦を勝ち抜けたからこそ、言える言葉。

「ありがとう、サラ。もう俺は大丈夫。

 また、戦えるよ」

「無理はするなよ。

 と言っても、お前には無駄でしょうね」

 サラと同じ見た目をした女性は、言うことを聞かない子供にあきれるように、しかし慈愛に満ちた優しい表情で笑う。

 不思議なことに、その表情はあのとき最期の言葉をかけられたときの状況と重なった。

 ノイズのせいでほとんど見えなかったが、あのときもこんな風に笑いながら消えていったのだろう。

 ……うん。それがわかっただけでも、この夢の世界には感謝しなくてはいけない。

 そして俺の心のケアが済んだからか、俺の身体が光に包まれ始める。

「お別れ?」

「そうみたいだな」

「そっか。

 そういえば、この世界で貰ったものとかってどうなるの?」

 ラニのバーサーカーからもらった、赤と白の糸を使って作られたお守りを見せながら尋ねる。

 それに舞に頼んだプレゼントの件もある。

 サラと同じ見た目のNPCは顎に手を置いて考えるそぶりをするも、すぐにお手上げといわんばかりに両手を軽く上げた。

「それは私にもわからない。普通に考えれば消えてなくなるだろうな。

 けど、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないわね」

 その言葉を最後に意識は途切れた。

 

 

 カーテンの隙間から零れる日差しで目が覚める。

 いつもと変わらない、何の変哲もない朝。

 ただ、天井がいつもと違っていた。

「ここは、保健室?」

「主どの、目が覚めましたか!?」

 こちらの顔を覗き込むように少し大人びた、源義経の霊基へと変質させた自身のサーヴァントの顔が視界いっぱいに映りこむ。

「ライダー……なんで俺保健室に?」

「決戦場から帰ってすぐに倒れてしまったんです。

 あのアサシンとの死闘は激しいものでしたから、おそらく疲労が限界に達したのだと思いますが……

 無事目覚めて本当に良かったです」

 心底ホッとしたように胸をなでおろすライダー。

 心配してくれたライダーに感謝の意も込めて彼女の頭を数度撫でていると、保健室の戸が開かれた。

「やっほー。倒れたって聞いたけど大丈夫?」

 セミロングの茶髪を後ろでまとめ、白いブラウス、濃い茶色のベストとスカートという他の生徒とは違う衣装に身を包んだ少女。

 一回戦のときからお世話になっている購買委員の天梃舞だった。

 つい最近の出来事のせいで、購買部から抜け出しているという状況に一瞬警戒してしまうが、彼女の片手に握られた小包を見て警戒を解いた。

「舞どの、どうしてここに? それにその小包は?」

「ああこれ? どういうわけか君宛てに配達のアイテムがあってね。

 なかなか来ないから特別に購買部抜け出して探してたんだよ。

 というか、うち配達なんてやってないのになんで配達させられてるの?」

 そう言いながら手渡された小包を開き、中身を確認する。

 ……ああ、やっぱり。

 桜を含めた三人が首をかしげる中、俺一人だけが納得し満足する。

 一日限りの幻想は終わりを告げた。

 そして、また新たな一日が始まる。




ヴラド公の編み物のくだりが書きたくて始めたらいつのまにか一話分ぐらいの分量に……

ひとまず今年の更新はこれで最後です
皆さまよいお年を

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。