オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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2016/2/27 『履いて捨てるほどいる』→『掃いて捨てるほどいる』に訂正しました
2016/5/21 「へろへろ」 → 「ヘロヘロ」に2カ所訂正しました
2016/6/1 「ブロンド」 → 「プラチナブロンド」訂正しました
2016/10/5 「異業種」→「異形種」訂正しました
 1か所、一字下げしてない所がありましたので、一字下げました。
2016/11/13 「9階層」→「第9階層」、「務めだし」→「務めだし」、「視線」→「視点」、「来ている」→「着ている」、「沸いている」→「湧いている」訂正しました


第一章 序~カルネ村編
プロローグ


「では、またどこかでお会いしましょう」

 

 そう言って、最後のギルメンがログアウトしていった。

 

 そうして誰もいなくなった円卓の間、座る人のいない椅子をその骸骨は眺めていた。

 剥き出しの頭部は皮も肉もなく、眼窩には赤黒い光がともっている。

 それは死の支配者(オーバーロード)という種族。ユグドラシルの中では魔法を極めたアンデッドの最上位種にあたる。

 彼の名はモモンガ。

 ユグドラシルの中でも悪のPKギルドとして名をはせたアインズ・ウール・ゴウン。

 そのギルドマスターだ。

 

 今日はDMMO-RPG「ユグドラシル」のサービス終了日。

 彼はここで、かつての仲間たちが最後の別れを告げに来るのを待っていたのだ。

   

 

 だが、もう誰もいない。

 

 全員にメールを送り、何人かは会いに来てくれたが、その最後の一人も行ってしまった。

 

 身じろぎもせず空虚な視線で、最後のメンバー「ヘロヘロ」がいなくなった椅子を見つめ続ける。

 やがて、ため息とともに立ち上がり、壁にかけられている一本の杖に目を向けた。

 七匹の蛇が絡まりあい、それぞれの口には様々な色の宝石が咥えられている。

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器であり、ギルドの栄光の象徴でもある。

 今まで、壁に飾られたきり一度も手にしたことがないその杖にモモンガは手を伸ばした。

 

 

 

 その時、ログインを告げるシステム音が響いた。

 

 

「やあ、モモンガさん。お久しぶりです」

 

 その声にモモンガは振り向き、

 

「どうも。よく来てくださいました。ベルモットさん」

 

 ようやく生気のこもった声を返した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 うわー、まずい!

 いつまでかかるんだよ、このアップデート。

 確かに、ここ数か月やってなかったけど。

 

 時計の時間を何度も眺め、作業の進行具合を示すバーを睨み続ける。

 今日はDMMO-RPGユグドラシルの最終日。

 わざわざ鈴木さんにメールをもらったんだから、さすがに顔を出さない訳にはいかない。

 

 ――いかないんだけど……。

 

 それなのに、仕事が終わって、さっそく入ろうとしたら、ログインするにはアップデートが必要ですとかメッセージが出て――

 

 ――今、ずっとそのアップデート作業中だ。

 

 

 ユグドラシルか……。

 最近はご無沙汰だったが、昔はとにかく寝る間も惜しんでプレイしてた。ゲームの中で仲間もできて、一緒に冒険して、みんなで拠点を作って、オフでも会って……と。

 

 

 くさい言い方だが、かけがえのない時を過ごした。

 

 

 

 だが、そのうちに皆は少しずつゲームから離れていった。

 

 それは当然だ。

 一部の例外を除いて、ゲームをしてても食べていけない。リアルで金を稼がなくてはならない。リアルの生活を優先しなくちゃならない。

 そうして、引退していった仲間たちを寂しく思いながらも、いつしか俺もプレイすることが少なくなっていった。

 

 俺の場合、リアルで忙しくなっていったというのもあるが、ある時、ふと、やりつくしたと感じてしまったからだ。

 昔から、そうなんだが、ついちょっと前まで必死でやっていたことなのに、ある日突然、心が冷めきってしまうのだ。なぜそんなことをやる必要があるのかと。本当にスイッチが切れたように興味がなくなってしまう。そして、全ての意欲がなくなった後は、心血注いでまでやったものを壊して捨ててしまうのが常だった。

 

 

 ユグドラシルもそうだった。

 自分のキャラは育て切った。

 仲間の育成もほぼ完成した。

 自分の所属するギルドも上位につけるまでになった。

 

 ――そう考えた瞬間、ゲームをする意味が分からなくなったのだ。

 

 俺も現実ではそこらに掃いて捨てるほどいる、ただの一般人だ。

 現実に不満を感じながらも、こういう事は間違っている、こうなればいい、何とかしたいとは思いつつも、だからと言って自分が何かできるわけでもなく、といった程度の人間だ。

 そんな自分にとって仮想世界は楽しかった。

 はっきりと『悪』を明言しロールプレイするギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に所属し、世界中を旅して廻った。様々な敵を倒し、幾多の財宝を手に入れた。

 ユグドラシルという仮想世界を荒らしまわった。

 ユグドラシルは生活の一部だった。

 

 

 だが、その糸はふっつりと切れてしまったのだ。

 

 

 

 最初は少し疲れただけだろうと、その後もゲームを続けていたが、全てがただ無意味な作業にしか思えなくなった。

 そうして、ログインする機会が1日置きになり、3日置きになり、1週間置きになり、1か月置きになり……。

 

 キャラ自体はまたいつかやるかもと思い、消しはしなかったものの、こうしてログインするのは数か月ぶりという有様だった。

 

 

 

 ――っと、ようやく終わった!

 

 時計を見ると、うわ、ちょっと拙い。

 とにかく急ごう。

 即座にログインする。

初期の出現地点は当然、アインズ・ウール・ゴウンの本拠地。ナザリック地下大墳墓。その円卓の間だ。

一瞬、視界がぶれたと思った次の瞬間。

激しい水音とともに体が水面にたたきつけられた。

何が起こった!

慌てて岸まで泳ぎ着き、周囲を見回す。

ん?

ここって第4階層の地底湖か? 

第9階層と間違ったか?

久しぶりだったからなぁ。

 

とにかく岸へ上がる。電脳法によって定められた仮想世界の特性上、特に濡れた感触はないが、濡れている状態だと〈炎上〉に対して耐性がある。まあ、あっても仕方ないし、さっさと乾かそう。待っていても数分で通常状態にはなるため、こんなことにアイテムを使うなどと昔の俺だったら絶対にしないが、今は時間がもったいない。

コンソールを開くと見慣れたパラメーターやアイテム、そしてログアウトなど表記のほか、なんだか見覚えのないものとかもある。まあ、今はいいや。それよりアイテムだ。

どうせ最後だからと、完全状態回復のエリクサーを使うと一瞬で状態異常がない通常状態に戻った。

うん、何度も言うが、こんなことでアイテムを使うのはもったいないが。

と、そんなことより、急ごう。

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使って、第9階層の円卓の間へ転移する。

懐かしい光景が目に入った。

黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓に、それを取り囲むように設置された41の椅子。

毎回、ログインした時はここを出現地点にしていたものだ。

誰もいないのか?

そう思って、辺りに目を向けると――

――いた。

とても懐かしい、あの人だ。

「やあ、モモンガさん。お久しぶりです」

 

 壁にかけられたギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』に手を伸ばしていたその人は声に振り向き、

 

「どうも。よく来てくださいました」

 

 と、嬉しそうに声を返してくれた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「ああ、すみません。なんだかインしようとしたら、アップデートが必要ですとか表示されて、それがいつまでも終わらなくてですね。こんな時間になってしまいました」

「……ああ、そういえば。しばらく前にアプデが来てましたね。その時、結構面倒でしたよ」

「そうだったんですか。いや、本当に間に合わないかと思いましたよ」

「いやいや。とにかく、よく来てくれました」

 

 そう言って笑顔アイコンとともに、かつての仲間を見上げた。

 

 一言でいえば巨大という他ない体躯だった。

 ユグドラシルでは、戦闘の時には体が大きければ大きいほどリーチが伸びるなどの利点が発生する。また、それに伴う体重の増加も攻防ともに有益だ。ただ、大きくすればいいというだけではバランスが崩壊するため、先のメリットに伴い、当たり判定の肥大化や速度の低下というデメリットも負うことになる。

 そのため、たいていのキャラでは身長2メートル弱程度まで。巨漢キャラでも2メートル20程度に収めるのが普通だ。

 だが、今現れた人物はその標準をはるかに上回る、異形種でしか選べない3メートル弱という、PCとして設定できる限界値ぎりぎりの巨躯をしている。

 その体は全身が青白くひび割れ、暗緑色に濁った瞳を覆う瞼はなく、口元は頬の皮膚が溶け落ち耳元まで尖った歯が覗いている。異様に上半身が大きい躰にまとうやや時代がかったスーツやYシャツは肩口から裂け、それら薄汚れた服とは対照的な一点の汚れもない深紅のネクタイと腰にぶら下げた金時計。頭には黒の紳士帽をかぶっている。そして、特筆すべきはその小山のような背中には幾本もの剣や槍などの武器が突き刺さっているということだ。

 ユグドラシルではフレッシュゴーレムの上位種である《フランケンシュタインの怪物》というアンデッドである。

 

その巨体をモモンガは見上げる。

 ベルモット・ハーフ・アンド・ハーフ。

 

 その巨大な体を活かしたパワーでのごり押しキャラと思いきや、その背に刺さった各種武器には自在に空中を飛ばすことができるフローティング・ウエポンが組み込まれてあり、それを使った遠隔攻撃、またそれらの武器を直接手にしての様々な属性攻撃の使い分け、さらにあまり向いているとは言えないものの暗殺者系のスキルを利用した死角に潜り込んでの攻撃と、意外と多種多彩な攻撃方法を誇る。その分、どれかに特化した純戦士や純暗殺者には劣るのだが。

 そんな攻撃的な前衛キャラでありながら、当の本人は実に慎重派だった。口では眉を顰めるようなブラックジョークやダークなネタを好みつつも、あくまで行動は常に理性的。他のギルメンが様々な作戦を立てて動く中、それが失敗した時のことを考え、保険策を用意し、退路を考えておき、こんなこともあろうか思ってと様々なアイテムを用意していてくれた。

 

ふむとベルモットはいかつい頭で周囲を見渡す。

「おや、ところで俺だけですか?」

「ああ、ほんのちょっと前までヘロヘロさんがいたんですよ。本当にタッチの差でしたね」

「え? そうなんですか? しまったな」

 

 そして、先ほどモモンガが手にしようとしていた物に目を向ける。

「ふむ。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンですか。せっかくですし、持っているところを見たいですね」

 と水を向けた。

 

 モモンガはいたずらを見つかったような子供の気分で、杖へと手を伸ばした。

 手にとると、半透明のエフェクトが次々と苦悶の表情を浮かべては溶けるように消えていく。

 骸骨姿のモモンガが持つと、まさに世界を支配しようとする暗黒の魔王のようだ。

 

「はっはっは。かっこいいですよ、モモンガさん」

 DMMO-RPGという特性上、キャラクターの表情こそ変わらないが、明らかに照れているということはベルモットにもよくわかった。

「いかにも悪の組織の首領としか思えないですね」

「くっ、小童が、調子に乗りおって。俺の真の力を見せてくれる!」

「ははは! いいそうですね」

「くっ、だが忘れるな。人の心に悪ある限り、私のような存在は何度でも現れる!」

「定番ですね」

「くっ、殺せっ!」

「ペロロンチーノさんがいたら、ゲイ・ボウで突っ込まれますね」

 かつての仲間を思い出し、たがいに笑いあった。

 

そしてモモンガとベルモット、二人は昔語りしながら玉座の間へと移動した。どうせなら、最後にもう一度行ってみようというモモンガの提案だった。

道すがら、近況を語り合ったり、昔の冒険を懐かしんだりした。

 第10階層に控える執事と6人のメイドたちを見て、こんなキャラも作ったなと話しながら、自分たちについてくるよう命じた。

やがて玉座の間へとたどり着く。

 細部まで行き届いた飾りや装飾に、自分たちのことながら、よく作ったなぁと感心するような部屋の出来栄えである。

 部屋の中央、階段状になった最上部に水晶から切り出したような玉座が鎮座している。その脇には純白のドレスを身に纏った女性。だが、その腰からは黒い翼が生え、頭部にもヤギを思わせるねじ曲がった角が伸びている。 

 モモンガの視線がその女性、ナザリック大地下墳墓階層守護者統括アルベドに止まる。

 彼女本人というよりも、彼女が手にしている物に。

 

真なる無(ギンヌンガガプ)か……」

 

 取り上げようかとも思ったが、ベルモットからの「いいんじゃないですか。もう最後なんですから」という一言にその気も無くなった。

 そう、最後なのだ。

 もう何があろうとそれは覆らない。

 すべてが終わる。

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 あ、まずったかな?

 

 アルベドの持っていたワールドアイテム。

 それをどうすべきかと迷っている空気があったため、「いいんじゃないですか。もう最後なんですから」と軽く言ってしまったのだ。

 

 最後。

 

 そう、最後だ。

 それはどうしようもないことであり、とても残酷なことだった。

 

 

 特にモモンガさんにとっては。

 

 モモンガさんの現実での話はそれなりには知っている。

 かろうじて小学校までは卒業できたものの、そのまま企業へと勤めだし、そしてずっと過酷な環境で働いてきた。親兄弟、肉親家族も今はなく、天涯孤独の身。当然、待遇は決して良くなく、リストラされてのたれ死ぬよりはましだというような程度。

 

 そういう話自体は珍しくもない。掃いて捨てるほどいる。

 アインズ・ウール・ゴウンのギルメンにも似たような状況の人間は何人かいた。ユグドラシルや他のDMMO-RPGの全プレイヤーで数えたら、それこそとんでもない数だろう。

 そんな多くの人間たちが、心のよりどころとしてDMMO-RPGに熱中していた。

 もちろんアインズ・ウール・ゴウンのギルメンたちもだ。

 その中でもモモンガさんが、このユグドラシルに入れ込んでいたのはよく知っている。

 いつぞやなんぞは、もらった賞与を全部レアアイテムのガチャにつぎ込んだほどだ。最初は「さすがはモモンガさん。俺たちに出来ない廃プレイを容易にやってのける。そこに痺れる。憧れるぅ!」と大はしゃぎで煽っていたウルベルトさんも、段々と声をかけることもできなくなり、最後には黙り込んでしまっていた。そして、ついに当たりを引き当てたときはギルメン全員が歓声をあげたものだ。その直後、試しにとやってみたやまいこさんが一発で引き当ててものすごい微妙な空気になったが。

 

 

 

「そう言えば!」

 

 重くなりかけた空気をごまかそうと、ことさら大きな声をあげる。

 

「さっきログインしたら、なんだか見たことない表示があったんですよ」

 

 久しぶりで操作をミスって池に落ちたことは誤魔化しつつ、あらためてコンソールを開いてみると、やはり記憶にないような項目が何個かある。特にこのあちこちについている『new』とかいうのはなんだろう?

 モモンガさんに聞いてみると、UI強化で追加された機能らしい。追加されてから一度も見たことがない機能や新規に手に入れたアイテムにつくんだそうな。

 

 

「……そうだ。新規アイテムに『ホレス・ピンカートンの部屋』っていうのは無いですか?」

 

 

 言われて見てみると、確かにある。何だろう?

 

「言うより使ってみたほうがいいですよ。ただ全部見て選択すると長いんで、選択表示が出たら左、右、左、左と選択してしまえばいいです」

 

 ふうん。まあ、確かに時間もないしね。

 『ホレス・ピンカートンの部屋』を選択して、言われた通り、左、右、左、左と指でさっと選択する。

 

 そこに表示されたのは次のような選択肢だった。

 

 

 

 『ホレス・ピンカートンの部屋』はあなたのPCの外見を変更するアイテムです。使用しますか?

  

       ▷はい    いいえ

 

 外見は自分で調整しますか?

 

        選択   ▷ランダム

 

 この外見でいいですか?

 

       ▷はい    いいえ

 

 これで決定します。一度決定したら、同アイテムを使用しない限り変更はできません。よろしいですか?

 

       ▷はい    いいえ

 

 

 

 

「――ん?」

 内容を理解する前に、すでに指は選択を終えている。

 次の瞬間、光が全身を包んだ。

 

 そして、光が収まると、

 

「なんだ、こりゃー!」

 俺は自分の姿を見て叫んだ。

 

 

 

 視点が違う。

 さっきまでは、はるか上からモモンガさんを見下ろしていたのに、今は玉座に座るモモンガさんを下から見上げている。

 と、モモンガさんの腰かけている水晶の玉座に映った自分の姿を見て、

 

「なんだ、こりゃー!」

 

 俺は再度叫んだ。

 

 

 そこにいたのは少女だった。年齢は10歳程度。髪はほとんど白に近いプラチナブロンド。後ろやサイドは腰まで長く、前は眉毛辺りで揃えられたいわゆる姫カットとか呼ばれる髪型。さいわい服装は着ているキャラによってサイズがアジャストされる設定なので、脱げ落ちることもなく今の身体にぴったりだが、小柄な少女がぼろぼろの紳士服を着ている姿はおかしな仮装のようだ。

 

 

 

「あはは! 引っ掛かった!」

 

 我らがギルマスは、そう声をあげて笑っていた。

「それ、ちょっと前に運営がプレイヤー全員に配ったお試し用の外見変更アイテムですよ。びっくりしました?」

「そりゃびっくりしますよ! 何やってるんですか」

「はっはっは。まあ、いいじゃないですか。最後なんですし」

 

 ああ、なるほど。

 そう、最後だ。

 確かにもう最後だ。

 

 

 こんなばか騒ぎも悪くないじゃないか。

 

 

「うあー、騙されたー! モモンガさんの事、信じていたのに!」

「ふはははは。人は信じて騙されるのではない。騙されるために信じるのだ、信じるという行為は騙される為の前戯でしかないのだよ」

「こんなイタズラ、るし★ふぁーさんでもない限りしないと思ってたのに!」

「いや、それってひどくないですか?」

「素に戻らないで下さいよ。まあ、最後だし、いいですけどね。モモンガさんは使ってみたんですか?」

「ええ、試しに使ってみましたよ」

「ほほう。どんなキャラに? バインバイーンな女キャラですか?」

「い、いや違いますよ。普通のキャラですよ」

 

 もしこれがリアルだったら、確実にモモンガさんにはぶわっと冷や汗が湧いているだろう。

 

「では、どんな? うそを言うとミジャグジ様に舌を抜かれますよ」

「いや、オーバーロードだから舌ないし」

「ではおとなしく白状するがいいでしょう。おそらくモモンガさんが作ったのは、おっとりした年上お姉さんタイプのキャラですね」

「そ、それにしてもベルモットさん、ランダム作成で美少女になってよかったですね。それってある程度統一性はあるにしても、基本各パーツランダムですから」

「美少女ですかぁ。ふむ、見た感じ確かに美少女っぽいですね。これって戻れるんですか」

「ああ、課金して同じアイテム買わないとダメですね」

「え? 戻れない?」

「ええ。無料で配っといて、うっかり使ったら戻るのに課金が必要とかいう腐れ外道仕様です」

「そりゃあかんでしょう。ヘイト買うだけです」

「まあ、ヘイト買っても、その頃には終わるの確定してましたし」

「そういや、モモンガさんは使ってみたって言ってましたけど、わざわざ課金アイテム買って、戻したんですか?」

「はい。2、3日やって飽きて戻しましたよ」

「ふむ。乳揺れも2、3日で飽きたと」

「いや、いいじゃないですか、その話は」

 

 そう言って笑っていると、玉座のすぐ脇にいるアルベドが目に入った。

 

「アルベド……たしかタブラさんものすごい長い設定とかつけていませんでした?」

「あ、なんかそんな記憶が」

 モモンガさんが手を伸ばし、コンソールからアルベドの設定を開いてみると、次の瞬間、凄まじい量の長文設定が流れてきた。

 

「「長げぇ!」」

 

 うわぁと呟いてだらだらとスクロールしていく。とてもじゃないが全部読む気はしない。時間もないし。

 そうして一番下までたどり着いた時、最後の一文が目に入った。

 

『ちなみにビッチである』

 

 

 ……何これ?

 ギャップ萌えとかいっても、これはどうなんだろう?

 

 と、ふと思いついた。

 

「モモンガさん。これってギルド武器持ってる今のモモンガさんなら、変更できるんじゃないですか?」

「あ……」

 

 呟いたモモンガさんがギルド長特権を使ってアクセスすると、設定の本画面が開けた。

 

「消しましょうか?」

「うーん。ただ消すっていうのも……」

「あ、じゃあ、こんなのはどうです?」

 

 そう言ってモモンガさんは文字を打ち込む。

 

 

『ギルメンを愛している』

 

 

「いやいや、ここでヘタレてどうするんですか。こうしてしまいましょう」

 

 モモンガさんの横から文字を打ち込み、さらに書き換えた。

 

 

『モモンガを愛している』

 

 

「い、いや、これは……」

「まあ、いいじゃないですか。ほらギルマス特権で決定ボタンを押して」

「え? ええぇ」

 

 ためらいつつも、モモンガさんは『決定』を選択した。

 

「おお、本当にやった。まさか、本当にやるとは。とんでもないギルマスの行為にベルモットはドン引きである」

「いや、ひどいですよ。自分で言っておいてー」

「ははは、いいじゃないですか。最後ですし」

「ははは、まあ、いいですね。最後ですし」

 

 そういって二人で笑いあった。

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 そうして、終わりの時は来る。

 

 今日という日が終わる時がくる。

 

 12年の長きにわたって、続いたユグドラシルが終わる日が。

 ユグドラシルの中で伝説として語られたアインズ・ウール・ゴウンの終わる日が。

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 




元の姿のベルモットは、顔を除いては、INJUSTICEというゲーム中のソロモングランディ、及び同キャラ別コスチュームのボスグランディをイメージしてます

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