オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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今回、ギャグパートです

基本的に延々ベルの一人語りで進みますが、おまけという事でご了承ください。


2016/3/24 魔法詠唱者のルビが「スペル・キャスター」だったのを「マジック・キャスター」に訂正しました
2016/5/21 「薬草を積む」 → 「薬草を摘む」 訂正しました
2016/10/5 ルビの小書き文字が通常サイズの文字になっていたところを訂正しました
2016/11/18 「表れた」→「現れた」 訂正しました


第10話 おまけ カルネ村経営SLG

 ベルはカルネ村へとやってきた。

 

 お供にはソリュシャンとこの前作ったデスナイト。

 

 その身はやる気に満ち満ちている。

  

 そう、これからカルネ村を発展させるのだ。

 ナザリックがこの世界に根を張るのに、まずは足がかりがいる。宝物殿にはユグドラシル金貨はひしめいているが、この世界での金が欲しい。いくら大量にあるとはいえ、ユグドラシル金貨は使っていればいつかは枯渇する。そうなる前に、こちらの金の補給体制が欲しい。

 そこで支配下に置いたといっても過言ではない、このカルネ村を運営し、最初の拠点としたい。

 

 このカルネ村の産業は、はっきり言って農業だけだ。村の畑で自分たちの食べるものをまかない、外貨を得る際は近隣にあるトブの大森林でとれた薬草をエ・ランテルに卸す。その資金を使って、エ・ランテルで生活必需品を購入する。鉱物資源はゼロ。一応狩猟は可能。ただトブの大森林は怪物(モンスター)が出没するため危険があり、まれに犠牲が出ることもある。

 

 うーん。やっぱり農業だろうか?

 とにかく食料が足りていることは、全てにおいて必須条件だ。飢えている状態では、その他の事に手を回す余裕もない。

 そうだな。

 まずは食糧問題を何とかすべきだろう。

 

 さしあたっては畑だな。

 

 

 ……。

 

 ……………………。

 

 …………………………………………何すればいいんだ?

 

 

 畑……?

 

 植物って地面に種を埋めておけば勝手に生えるんじゃないのか?

 汚染されている土地に種を蒔いても育たないというのは知っている。だが、この世界の土地は全く汚染もされていないから、ただその辺に蒔けばいいんじゃないのか?

 ああ、そうか。肥料をまくというのがあったな。でも、肥料ってどうやって作るんだ? 化学プラントなんてないだろう。

 うーんと……そうだ!

 『(たがや)す』とかいうことをするんだったか。

 ……なんでそんなことするんだ?

 

 ……さっぱり分からない。

 そもそもリアルでは植物自体ほとんど見たことがない。ましてや食用の作物なんて、超高級層向けにアーコロジー内の農場で作られていると聞いたくらいだ。植物っぽい風味をつけたらしいペーストを野菜風の形に固めたものが庶民にとっては一般的だ。現物がどんなものかはよく分からない。

 

 いや、待て。まずは落ち着こう。

 そうゲームの知識を思い出そう。俺は今まで、こういう経営、育成、戦略SLGはよくやっていた。その中には役に立つ知識もあるはず。

 ええと、まず――

 

  1.畑を作る場所を決める。

  2.そこに村人を配置する。

  3.一定時間で畑が出来る。

  4.さらに一定時間で作物が育って収穫が出来る。 

 

 ――役に立たねぇ!

 

 仕方がないから、エンリに聞いてみた。

 詳しく丁寧に説明してくれたが、いまいちピンと来ない。おそらく電気のある生活をしたことがないエンリに電化製品の説明をしてもさっぱり分からないように、農業の基礎知識がないからエンリが普通の事として言っていることが分からないんだろう。たぶん。

 ……図書館にでも行って、昔の本でも探してみようか。小説とかでもその辺の事を描写している物はあるだろうし。そうだ、後で司書長にでも聞いてみよう。

 

 ……とりあえず、畑の事は置いておこう。今は分からないし。

 じゃあ、次は……。

 考えていると、つんつんと足をつつくものがいる。見ると、餌を探している鶏が靴をつついていた。

 ああ、これは知っている。

 この鶏の足が鳥の腿になるんだ。子供のころ、社会科見学で食料工場に行った時の事を思い出す。高級チキン区画に入ると大きなプール上の培養層があった。そこで大量にクローン増殖された鳥の腿がぷかぷかと浮かんでいたのを思い出すな。一時期、その培養層で鳥人間が出来たと騒ぎになったっけ。

 ふむ。家畜か。

 育てるのに餌が必要になるが、その分栄養はたくさんあるはずだ。適切に育成が出来れば、畑より効率はいいかもしれない。

 なるほど、これはいいかもしれない。

 あー、でも、この辺りって放牧とか出来るのか? たしか放牧って、その辺の野原の草を家畜に食べさせるんだっけ? 特別な草……じゃなくていいんだよな。

 そういや、この辺って怪物(モンスター)に襲われたりしないのか? 放牧は危険かな? でも、それが出来ないとなると、食べさせる餌として畑でとれた飼料が必要になるな。いちいち飼料を買うとかないだろうし。

 ん?

 つまり、結局は畑が必要になるのか?

 

 ……え?

 農業の発展って無理じゃね?

 

 

 一応、最後の希望は薬草か。これはトブの大森林で採るから護衛さえいればいい。前もって必要とするものが要らない。

 

 そこでエンリに、この前あげた〈子鬼(ゴブリン)将軍の角笛〉を一つ使わせてみた。

 すると、どこからともなくわらわらとゴブリンの集団が現れた。遠巻きに見ていた村人たちが悲鳴を上げて建物の陰に隠れる。

 ユグドラシル時代は、ただ画一的なグラフィックの雑魚どもだったが、こうして現実としてみると、一体一体個性があるな。

 そいつらが全員整列して「エンリの(あね)さん、よろしくお願いしますっ!」と声をそろえたのには吹き出してしまった。

 真似してエンリに「エンリの姐さーん」と言ったら、顔を赤くして恥ずかしがっていた。

 そうしてからかっていたら、ゴブリンの中でも体格のいいリーダー格が「おうおう、誰だか知らんが、姐さんに失礼な口きいてんじゃねぇぞ」と凄んできた。

 まあ、俺はステータスを隠蔽する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)があるから強さが分からないのは仕方がないけどな。

 俺が何かする前に、ソリュシャンに即行でしめられていたけどな。

 ただ、お付きの者が強いだけだと思われていると後々なめられたり面倒そうなので、ちょっと力を見せることにした。そいつの襟首をちょいとつかみ、そのまま真上に10メートルくらい放り投げてやった。ちゃんと藁の山の上に落ちるようにしてやったから怪我はないようだったが、それを見てゴブリンたちは俺を怯えと敬意の眼で見るようになった。

 ただ、それを見ていたエンリやネム、村人たちもそんな目で見るようになった。怯え分の方がかなり強くだが。

 なんだか、今までより微妙に一歩分距離をとられるようになった気がする。

 

 

 とにかく薬草を取りに行こう。

 エンリ+ゴブリン集団と一緒に森の中へ。

 

 しばらく森の中を進むと、「この辺りです」と言われた。

 うーん。たしかに何か色々な種類の草がたくさん生えている……ようだ。判別できん。

 周辺の気配を探ってみるが、特に危険そうな存在は感じない。エンリに聞いてみると、この辺りはめったに危険な動物や怪物(モンスター)が現れない安全なポイントなんだそうな。その代わり、よく来て採ってしまうためにあまり一度に量は取れないらしい。もっと森の奥に行くと、あまりそこまで行って採る人間がいないために、大きく育った薬草がたくさん採れるとの事。だが、その辺りまで行くと怪物(モンスター)に遭遇する危険が増すし、下手をすると『森の賢王』と呼ばれる強大なモンスターの縄張りに入ってしまう危険性があるのだそうな。

 まあ、安全なポイントらしいし、俺とソリュシャンで警戒していれば敵の接近も察知できるだろう。

 戦闘もなさそうで暇だし、薬草取りでも手伝うか。

 エンリが「この草を集めてください」と一本の草を手にとって見せてくれる。

 

 草だな。

 何の変哲もない草だ。

 どうやって、見分ければいいんだ?

 「ええと、この葉っぱの先の形が――」と説明してくれるが、なぜだかよく理解できない。

 ゴブリンたちの方を見ると、彼らも分からないようだ。

「これですわ。ベル様」

 そう言ってソリュシャンが何かの草を手渡してくれた。じいっと見るが、何か違和感が。

 足元に生えていた草を一本引っこ抜く。

「ええと、これとこれは同じヤツ?」

 ソリュシャンはちょっと困った顔で「違いますわ」と答えた。エンリの方を向くと、彼女もうなづいている。

 だが、ゴブリンたちに見せると全員一様に首をひねる。見分けがつかないようだ。

 手にした二つの草を並べてよく見ると、なぜだかはっきり見えない。草があるのは分かるのだが、見分けようとエンリに言われた葉先などの細部に目を向けると、不思議なことにそこがぼやけて見える。

 

 一体なんだ、これは?

 原因はさっぱり分からないが、とにかく俺とゴブリン連中は戦力外らしい。エンリとソリュシャンが薬草を摘むのをボーッと見ている。

 

 しばらくそうしていると微かな気配がした。そっとソリュシャンに〈伝言(メッセージ)〉で合図をし、ソリュシャンの身体の中にしまっていたフローティングウェポンを飛ばす。狙いたがわず、木陰にいた野兎に命中した。

 このフローティングウェポンの管理にも頭をひねった。ずっと浮かべておくのも面倒で邪魔だし、アイテムボックスにしまっておくのもちょっと問題がある。毎回、使用するたびにアイテムボックスから取り出していると、アイテムボックスを開く、武器を取り出す、武器を飛ばすといった工程を行わなくてはならないため、即応性に欠けてしまう。そこで、そのうちの何個かをソリュシャンの体内にしまっておく方法を思いついた。粘体(スライム)のソリュシャンは身体の中にアイテム等をしまっておけるため、瞬時に、そして意表をついて攻撃できる。護衛として常に誰か一人つけていなきゃ駄目だと言われていたから、それもちょうどいい。

 草をかき分け、仕留めた野兎を掴み上げて振り向いたら、全員が唖然とした表情を浮かべていた。まあ、見た目的にはソリュシャンの整った美しい顔面から、突然に剣が飛び出したように見えるしな。

 

 とりあえず、薬草採取は出来たし、狩りも成功したから帰るか。

 帰りがてらエンリと話す。今の季節にここで採れる分はこれで終わりだそうだ。ただ、護衛があればもっと奥まで採りに行けるかもしれない、との事だ。

 うーん。奥まで採りに行けるのはいいけど、自然のものだと採ったらそのうち無くなるんだよな。ある程度の期間をあけて、今回はここ、次はあそことローテーションを組めば枯渇はしたりはしないのか? いっそ、栽培とか出来るといいんだけど。野草だと環境さえ合えば手入れもいらないんだよな? たぶん。

 なにかマジックアイテムで森の環境をそのまま建物の中に再現するとか……。さすがにカルネ村にそんなマジックアイテムを使うのはもったいないけど、第6階層に薬草植えとくとかはいいかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、村へと帰りついた。

 村の入り口に護衛として残していったデスナイトに異常はないか聞くと、異常とは何かと聞かれた。普段とは違った事だと答えると、普段の村の状況が分からないのでどんな状況が普段と違っているのか分からないと言われた。

 あー、もう!

 じゃあ敵は来たか、と聞いたらと来たという。

 

 ――えっ? 来たの!?

 

 デスナイトの足元を見ると、従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)となったネズミが何匹かちょろちょろと走り回っていた。とりあえず、そいつらは片づけておくように指示して、そのまま立たせておいた。

 

 じゃあ、この野兎を解体しよう。

 やり方は本で見たことがある。確かこう、足首の周りに切れ目を入れて……ん? なんだか、視界が暗く――

 ――ザシュッ! 気がついたら、ダガーが兎の腹を半ば貫いていた。

 

 ……なんだ、今の?

 

 それを見ていたラッチモン――村の野伏らしい――が代わってくれた。

 慣れた手つきで皮をはぎ、内臓を切り取って、肉を切り分けた。皮は大きく傷がついたので売り物にはならないが、なめして自分たちで使う分には何とかなるし、膀胱を切り裂いてしまったが良く洗えば食べるのには問題ないそうだ。

 

 しかし、気になるのは先ほどの事だ。何故だか、皮を剥がそうと刃を入れたあたりで意識が途切れるような感覚がした。なんだか、以前も似たような感覚があったような……。

 

 そうだ!

 この前、村を襲った騎士。あいつの腹を切り開こうとしたら、同じように意識が朦朧として、気がついたら大きく切り裂いてしまっていたんだ。

 肉を切り裂くと意識が途絶える? しかし、腕を切り刻んだ時は何ともなかったよな。足とか引きちぎった時も。あの時、腹膜を割いて内臓をひっぱり出してみようとしていたんだよな……。

 

 ん?

 もしかして――『解体』しようとしたからか?

 

 今回、兎を毛皮と食肉に『解体』しようした。前回は、人間の内臓を見てみたいという好奇心から『解体』しようとした。

 考えられるのは――職業(クラス)技術(スキル)の有無。

 あり得るかもしれない。

 何故だか分からないが、この世界はゲームの技術(スキル)や性質を受け継いでいる謎の世界だ。レンジャーの職業(クラス)や何かそれ関連の技術(スキル)あたりがないと『解体』と判断されることが出来ないとか? レンジャーか……。たしかアウラが持ってたな。後でアウラに出来るかどうかやらせてみるか。

 

 技術(スキル)の有無か……。

 エンリが畑仕事をするというので、ゴブリンたちが手伝う様子を観察してみた。ゴブリンたちは力があるので草むしりや刈った草の運搬などは手伝うものの、芽欠きや育苗などの細かい作業は出来ないようだ。ファーマーの職業(クラス)辺りがないと出来ないのだろう。しかし、細かい作業は出来ないものの、成人でも骨の折れる力仕事を肩代わりしてくれるために、女子供のエンリとネムしかいないエモット家にとってはものすごく助かっているようだ。あいつらがいれば、とりあえず、エンリたちは大丈夫だな。

 

 ……。

 

 ……………………。

 

 …………………………………………あれ?

 

 

 ――俺、いらなくね?

 

 この村を発展させようと思ったのに、使えそうな職業(クラス)技術(スキル)がない。単純に力仕事を肩代わりするくらいしか出来ることがないぞ。

 

 いや、待て!

 考えてみよう。何かできることがあるはずだ。確かに、畑仕事を始めとした細かな作業は出来ない。だが、さっき野兎をとったように狩りとかはできるじゃないか。狩っても自分では解体できないけど。あ、それに下手に森で狩りをすると、『森の賢王』を刺激するから拙いんだっけ。それに畑の方を何とかしようと思っていたのに、畑のものは狩りでは取れないし。

 

 ……狩り……穀物……森以外……。

 

 おお、そうだ!

 良い案を思いついた!

 

 

 ――穀物を持っている者から狩りをすればいいじゃないか!?

 

 

 うん。きっと街道とかを見張っていれば作物を輸送する馬車とかが通るだろう。そいつらを狙えばいい。いっそ、生産している農村の方を狙ってもいいな。そうして、周辺の穀物を一手に牛耳れば、穀物価格も上がる。そうすれば手に入れた穀物を売ることで、カルネ村の財政も潤うだろう。

 考えれば考えるほどナイスな案だ。

 さっそく、アインズさんに相談してみよう。

 

 

《駄目に決まってんでしょうが!?》

 

 怒られた。

 

《なんで、いきなりそんな話になってるんですか?》

《いや、だって、それ系の職業(クラス)技術(スキル)持ってないとなんだか手も足も出ないみたいなんですよ》

《武装関係だけじゃなく、通常の行動も制限を受けるってことですか?》

《ええ、試しにちょっと狩りで捕まえた動物を解体しようと思ったら、なんだか一瞬意識が遠くなってですね。気がついたらざっくりとやってしまっていました》

《ふむ。なるほど》

《まあ、そういう訳でして、そういうのが無いと生産関係とかも出来ないみたいなんですな。なら、持ってる奴から奪ってしまえばいいじゃないですか》

《……ひゃっはーとか叫びながら、村人から種もみを奪ってる光景しか想像できませんよ》

《うん。あいつら、正しかった。子供の頃に読んだ時は、村人から無理矢理奪うより自分で畑仕事すれば確実でそっちの方がいいじゃんとか思ってた。けど、何か月もちまちま農作業して、自分では何ともならない天候とかの心配して、うまく作物が出来るかどうかは割と運しだいとかやってられない》

《だからと言って、略奪とかは止めてください。よその作物奪ったら、そっちの人たちが困るでしょ。蛮族ですか、アンタ?》

《昔の偉い人は言いました。『ゴマと農民は絞れば絞るほど出る』、『折れた足をいじられると、彼は痛いが、わしは痛まない!』》

《とーにーかーく! 駄目ですよ! ガゼフがカルネ村に来た理由を忘れたんですか? この辺の村を襲っている連中の討伐に来たんですよ。我々が村を襲ったら、ガゼフが我々を討伐しに来るじゃないですか。王国を敵に回しますよ》

《む。今、ピーンときましたよ》

《今度は何です?》

《ガゼフが言っていましたよね。この辺りの村を騎士が襲撃していたって。という事は、カルネ村の近くには襲撃されて廃村になった所があるはずです。そこに行って、使えそうなものを漁ってきましょう》

《まあ、それくらいなら。一応、盗んだことにはなるんでしょうが……》

《いえ、我々は使える資源を保護しに行くんですよ。リサイクル。環境にやさしい》

《分かりましたから。くれぐれも慎重に。下手に目撃者とかに噂立てられないように気を付けてくださいね》

 

 ソリュシャンやエントマらを連れて、襲撃された村を探しに行く。

 この前、カルネ村を襲った陽光聖典の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の持ち物から、周辺の地図は手に入っていた。そして、その地図には5か所に印がつけられ、そのうち4か所はバツ印で消されていた。バツ印がつけられていなかった唯一の場所がカルネ村だった。という事は、このバツ印の場所が襲撃された村なのだろう。村長に周辺の集落の位置を聞いてみたが、やはりそのうちのいくつかが印の場所に重なっていた。

 念のため、印がついておらず、村長から場所を教えられた村を遠目から観察してみたが、何事もないように人が生活していた。

 次に印のある場所へ行ってみる。家々は焼け落ち人の気配のない廃村があった。

 日が暮れるのを待ってから、シモベたちに辺りを捜索させる。わざわざ家の地下室にまで油をしみこませてから火をかけたようで、使えるものは限られていた。

 食料は保存食がわずか程度しかないし、金目のものはとっさに地面に埋めたような形跡のある物しかない。

 

 ん? こんなもんか?

 

 気になって、アサシン持ちのソリュシャンに周囲を調べさせる。

 案の定、比較的新しい複数の足跡があった。焼け跡の上についていることから、すでに先客がいたらしい。

 

 ソリュシャンに足跡を追跡させる。どうやら馬で移動しているらしい。だが、こちらは馬よりは速く走れるし、夜の闇などどうという事はない。しばらくすると、火の明かりを見つけた。ここは地図上で印がついていた別の場所だ。

 こっそり近づくと、お楽しみの最中らしい。装備がバラバラの連中。だがガゼフの部下たちとは明らかに違う。まともに手入れもしていない武器防具。伸ばし放題のヒゲ。なにより、強さを追い求めつつも自らの強さを律するのではなく、ただ暴力に酔った獰猛な気配を漂わせている。

 

 第一『ならず者』発見!

 

 酒の飲み、笑い声をあげながら、若い女をソフトな表現で言うと『暴行』している。『乱暴』しているか? まあ、どうでもいいや。無造作に出ていき、上から頭を叩くと頭部が体にめり込んだ。突然の事にそいつらが呆然としているが、わざわざ正気を取り戻す間を与えるのも時間の無駄だ。適当に殴る蹴るして半殺しにする。何人かは死んだがどうでもいい。手をへし折った奴の襟首をつかみ、話を聞く。最初は混乱して喚き散らし、話すどころではなかったが、足もへし折ったら話をする気になったらしい。

 やはり、こいつらは野盗らしかった。たまたま襲われた後の村を見つけたので、残されたものを漁って移動したらしい。集めたものを出すように『お願い』したが、渋ったので鼻を引きちぎったら、全部の置き場所を教えてくれた。

 シモベたちに回収させていると、ボロボロの服というか端切れを身に纏った、先程『乱暴』されていた娘がひざまずいて感謝の言葉をかけてきた。年齢的にエンリと同じくらいかな。なんでも、この娘はこの村の者で、村が騎士に襲撃された際、両親とともに幸運にも逃げだせたらしい。だが、騎士たちがいなくなってから村へ戻ってきたところを野盗たちに捕まり、父親は面白半分に殺され、母親はさんざん嬲られた後に同様に殺され、娘の自分ももう少しで後を追うところだったらしい。そう涙ながらに語った。

 話を聞いている間に、食料や金の回収が終わったようだ。

 生きている奴は貴重な情報源として、死体はスタッフが美味しくいただくためにナザリックに運んだ。この娘は、自分のお付きをやってくれているご褒美にとソリュシャンにあげた。目撃者残ると困るし。

 

 トラブルがあったのはそれくらいで、夜が明ける前に全地点の調査、回収を終えることが出来た。

 食料は結構燃やされていたものの、そこそこ集まった。家畜は十数頭程度。死んだほかにどこかにいなくなったのもいるんだろう。まぁ、野生で生きてはいられないだろうが、さすがにそいつらを全部探すのは骨が折れる。金は銅貨が10,000枚程度。でも、結構ある気もするけど、金貨だと100枚にしかならないんだよな。

 

 とりあえず、カルネ村近くまで運び、そこで拾ってきた荷馬車に食料を載せ、家畜たちを連れてソリュシャンと戻ると村の人にはたいそう驚かれ感謝された。金だけは今後の活動資金としてポッケないないしておいたが。

 連れてきた家畜の餌は回収してきた穀物でもなんとか賄えるだろう。と思っていたら、なんでもこの辺りは放牧が可能らしい。基本的に『森の賢王』を恐れて怪物(モンスター)が森を出てくることは少ないし、まれに出てきた場合も家畜を放牧していると、そちらを襲って食べて満足して森に戻るので、かえって村が安全なんだそうな。そして、味を占めた怪物が再び森を出てくる前にエ・ランテルに行って兵士なり冒険者を頼むらしい。結構、考えてるんだなぁ

 

 うーん。

 でも、この回収って一回だけでこの先続けられるわけでもないんだよな。再び、やる事がなくなってしまった。

 どうしようか?

 もう一度、アインズさんに相談してみるか。

 

《もしもし、カルネ村への集めた穀物とか家畜とかの輸送終わりましたよ》

《お疲れ様です。野盗とかありがとうございました。みんな、美味しいって喜んでましたよ》

《そりゃ良かった》

《それで例の職業(クラス)技術(スキル)の件ですが、私も試してみましたよ》

《何やったんです?》

《料理です。ただ肉を焼いてみただけだったのに、肉を火にかけてから黒焦げになるまでの記憶がないんですよ。傍にいたメイドの話ではその間ピクリともしなかったらしいですが》

《おお、微妙に怖いですね。……どこからが『料理』になるんでしょうね? この前〈焼夷(ナパーム)〉で騎士達を焼きましたけど、あの時、意識飛んだりしなかったでしょ?》

《む? 確かに……。ああ、それとベルさんの言っていた解体ですが、やっぱり私も駄目でした。解体しようとすると意識がなくなるんですよ。でも、ニューロニストは出来ていましたから、解体そのものが出来ないという訳でもないと思います》

《ははあ、なるほど。ニューロニストはレンジャーはないけど、ドクター持ってましたね。これ関係も実験してみないといけませんねぇ。ところで、回収終わっちゃいましたから、もうする事ないんですけど~》

《はぁ、そうですね。じゃあ、村の発展はとりあえず置いておくことにして、再び村が襲われないように防備を固めたらどうですか? ベルさん、建築とか罠作成とかは出来たでしょ》

《おお、それナイスです。盲点でした。ふつうこういうSLGとかって、ある程度資金稼いでから、その金で戦闘に使う施設とか立ててたんで。金を使わずに出来る物はやってしまっていいですね》

《ええ。いいですけど、あまりやりすぎないようにお願いしますよ。この前みたいに、村を襲おうとしたりとかの極端な行動は無しで、ほどほどにしてくださいね》

 

 さっそく、エンリのところに行って計画を話した。そういう事は自分だけでは……、という事なので村長のところに行き説明する。村長はすぐに許可を出してくれた。やはり、襲撃を受け命の危険に晒されたばかりなので、再度、同様に襲われないようにする対策は復興と並んで優先課題だ。

 

 とりあえずは村へ入る街道部分に塀や掘を作ろう。先ず塀だが、これには資材がいる。襲撃で住む住人がいなくなった家を壊して資材にしても、多少の足しにはなるが、すべて賄うことは到底できない。

 そこで森に木材を伐採しに行かせる。『森の賢王』のテリトリーを侵さないように、村から少し歩いた地点で木を伐採し運んでくる。そちらにはゴブリン隊を護衛としてつけた。

 

 そして俺は堀の方を担当する。

 デスナイトに街道脇の地面を掘らせる。元からの剛力に加え、さすがアンデッドだけあって、疲労もなく休憩など取らずに作業が出来るため、一気に作業が進む。まあ、俺もアンデッドだし、力はデスナイトよりあるし、そして技術(スキル)もあるため、俺が掘った分の方が早く出来たのだが。

 

 塀と空堀を組み合わせ、そして空堀の村側の部分に石垣を作ることで高さを稼ごう。石垣の組み方は本で読んだことがある。たしか、一番下に基礎となる大きなしっかりした石を置く。そして斜面の土の部分に細かく砕いた石をびっしり詰め、壁面になる側が出来るだけ平らで斜面側に向けて細長くなっている形状の石を組んでいく。本の記憶をたどりながらやっていくと、意外と崩れずにうまく出来た。

 

 ふと気になって、試しにデスナイトにもやらせてみたが、案の定、うまく積めずに斜面を大きく崩してしまう結果になった。やはり職業(クラス)技術(スキル)がないと駄目なのだろう。そこでデスナイトには石垣に使う石の調達作業とその石を割る作業をさせた。

 ついでにソリュシャンにもやらせてみたが……あれ? 手で触れると石積みが崩れてしまうため失敗は失敗なのだが、それなりに組めている。ん? ソリュシャンって特にそんな職業(クラス)技術(スキル)もなかったよな。なんで、それなりには出来るんだ? ……まあ、後で考えるか。ソリュシャンには作業中の警戒を命じる。まさかないとは思うが、何者かが襲撃してくる可能性もある。いきなり襲わず、建築が半ばまで進んだところで襲うというのも、襲撃のセオリーの一つだ。昔、自分たちでやった手口だが、こちらが同じことをやられたくはない。

 

 石垣積みに慣れてくると、形を整えたくなる。この段は右斜めに組んで、次は左斜めに組んでと色々やってみる。いい感じだ。次は石を平らに切り出して四角形にして積んでみようか。そんなことをやっていると、「あの……そろそろ休憩されては……」とエンリから声をかけられた。おや、と思って空を見上げると、日が昇っている。あれ? やり始めたときには夕方だったのに。ああ、そうかアンデッドだから疲労もないし、食事もいらないし、あと俺は暗闇でも何の不都合もなく見ることが出来るから、一晩中作業してたのか。

 掘から上がると、塀づくりも進んでいた。穴を掘って、切り出した木材をそこへ立てる。あまり掘に近すぎて石垣に干渉しないように最初から位置は決めていた。立てた木材を基礎にして、粘土でレンガを作って壁にすればいいか。

 ふむ。そうだな。いっそ、今ある道部分も削ってしまって跳ね橋にしてしまおうか。防御力は増すだろう。入り口も枡形門にしてしまおうか。まっすぐには村に突っ込めないように。あ、でも、外の畑に行かなきゃいけないから、あんまり通行に支障をきたすのも駄目だな。普段は普通に通れて、戦闘時には門の内側に応急の塀を立てられるようにしておくか。

 とにかく門の脇には見張り台。出来れば(やぐら)が欲しいな。向こうが攻撃できない所から一方的に攻撃するのは戦術の基本の一つだ。ぷにっと萌えさんもそう言っていた。

 しかし、となると遠距離攻撃が出来る武装がいるな。俺、武器製造とかは出来ないからな。村に弓とか作れるやつはいるのかな……?

 何か代用できそうなものとか……。

 

 おお!

 素晴らしいことが分かった!

 見張り台に何か作れないかと色々やっていたら、固定式のバリスタは作れることが分かった。

 どうやら設置型の武器は罠作成の範疇という事で作れるらしい。

 いい感じだ。この調子でいろいろやってみよう。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ええと、ベルさん。私、言いましたよね。『ほどほどにしてください』って」

「お、おう」

 

 ナザリックの執務室。アインズさんと二人、〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉を眺めている。

 

 鏡面にはカルネ村が映されている。

 一見のどかな田舎の村だが、そんな村にふさわしくないような奇妙な箇所がある。

 一部、異様な要塞化がされているのだ。

 村を囲む塀はレンガと漆喰で塗り固められた強固な壁で形成され、見張り台や(やぐら)が併設されており、矢挟間や石落としなどもぬかりなく作られている。そしてその外側は空堀と水堀、石垣が組み合わされた防御陣地となっている。

 そのような異様に強固な防御が、村へと入る街道の周辺部のみに設置されている。

 それ以外の部分は手つかずのまま、何の防御もされていない。普通の木の柵すらない。

 はっきり言うと、街道ではない地点を回り込むと、あとは何の抵抗もなくあっさりと村に侵入できる。

 

「なんでこんなちぐはぐな構造になってるんですか?」

「いやあ、さすがに防壁でカルネ村全体を覆うとなると手間がかかりすぎて。とりあえず、村へと入る道だけでもって約束だったんで、出来る範囲でやっていたらそんな感じに」

「ベルさん、まだこの世界の事はよくわからないから警戒が必要だって自分で言ってましたよね。憶えてますか?」

「も、もちろん憶えていますとも」

「現段階では情報が不足しているから、出来るだけ世界にとけこんで行動し目立つ行動は控えた方がいいだろうって言ってましたよね?」

「ええ……」

「じゃあ、なんです、これは?」

 

 鏡に映し出されたのは、中世ファンタジーとしては明らかに時代設定が間違っているだろうという代物。

 

「た、対空砲……」

「あなたはいったい何と戦っているんですか?」

「い、いや、荒野の村とかだとランダムエンカウントでドラゴンとか出てきたりもしますし」

「カルネ村の人たち、今までドラゴン見た事あるって言ってました?」

「……いえ……」

「じゃあ、いらないでしょう」

「いや、することなかったんですよ。堀とか石垣とかはただ地面掘ったり、その辺の石とかで何とかなりますけど、塀とか作るには木材が必要になって、そっちの調達待っている間が暇になって」

「木材? 木を切るのに問題が?」

「ええ、なにぶん木材を運ぶのが結構手間なんですよ。それも村からけっこう離れたところのを切って運ばなきゃいけないので。村人やゴブリンたちがやってるんですが、どうしても農作業の合間を縫ってやっているのでなかなか……。俺やデスナイトまでそっちに行ってしまうと、村の防御が手薄になりますしね。今もゴブリンの半分以上がそっちに取られてるんで、エンリのところの農作業も滞りがちですし」

「ふむ、そうですか……」

 アインズさんは腕を組んで考え込む。

「つまり、新たに力仕事出来る人手が必要なんですね」

「ええ、まあ」

「分かりました。では、ストーンゴーレムをカルネ村に派遣しましょう」

「えっ?」

「3体もいれば、とりあえずは大丈夫でしょう」

「ええっ?」

「ストーンゴーレムは疲労とかもありませんから、ゴブリンの数十倍の働きが出来るでしょう。そいつらに木材の運搬などの力仕事を担当させれば、ゴブリンたちはエンリの手伝いに回れますよね?」

「だ、大丈夫だと思いますけど……」

「では、そうしましょう。あと、なにか必要とかいうものはありますか?」

「えーっと、そうですねぇ。……ああ、そうだ。鍛冶技術がある人間がいないって言ってましたね。エンリがゴブリンたちの装備を何とかしたいって言ってたんですが、村にはそういう事出来る奴がいないんで、どうしようかって話をしてました」

「そうですか……。では、サラマンダーの鍛冶師も2体ばかり派遣しましょうか」

「ぅえええっ?」

「その方がエンリたちにとっていいんでしょう?」

「ええ、いいとは思いますが……」

「では、そうしましょう。さっそくシズ辺りにそれらの人員を見繕うように言わなくては」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 執務室の扉を閉める。

 そして、フムと首を傾げた。

 

 なんでアインズさんは、あんなにエンリ達に肩入れするんだろう?

 

 ついさっきまで、俺がやったことはやりすぎだって咎める感じだったのに、エンリの話が出たらガラッと態度が変わった。ストーンゴーレム3体に鍛冶スキル持ちのサラマンダー2体って、明らかにやり過ぎなんてレベルじゃないだろう。

 

 なにかエンリ達って、アインズさんの琴線に触れるような事ってしたっけ?

 

 一目ぼれ?

 まさか。

 アインズさんの好みはスタイルがいい年上タイプの女性のはずだ。外見だけなら、アルベドがばっちりストライクなはず。

 じゃあ、他に何かが……?

 

 今までのエンリとネムとの関わりを思い返す。

 正直、さほど多くはない。

 〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉をいじっていて、二人を見かけたこと。二人を助けるために〈転移門(ゲート)〉で村へいった事。そして、初めての戦闘。怪我をしたエンリにポーションをあげて治してあげた事。村を助けた後で涙ながらにお礼を言ってきた事。そして、この前、ナザリックに招待した事。

 それらの光景を思い出す。そうして考えていると――ふと思い当たるものがあった。

 強烈な印象を与えた出来事が。

 

 ふむ。

 そうか、なるほど。あれか! 

 そういう事だったのか。ようやく納得がいった。

 

 アインズさん、あなたは――。

 

 

 

 

 ――着衣失禁フェチだったんですね。

 

 

 

 

 さすがに、このことはアインズさんの名誉のために、アルベドやシャルティアには秘密にしておこうと思った。

 

 じゃあ、シズのところに行こう。今頃はアインズさんからの〈伝言(メッセージ)〉でカルネ村に送る要員を集めてるはずだ。そいつらが来たら、一気に仕事が進むぞ。

 そうして俺は、これからカルネ村に作る城壁の構造をシミュレートしながら、廊下を歩いていった。

 




アインズ「なんだかどこかでものすごく名誉を棄損された気がする!」


ちょっとしたギャグパートのつもりが、なんだか長くなってしまいました。

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