オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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2016/2/5 ベルが冒険者のランクをうろ覚えというのが分かりづらかったので、該当部分のセリフをすこし修正しました
2016/3/24 魔法詠唱者のルビが「スペル・キャスター」だったのを「マジック・キャスター」に訂正しました
2016/10/7 「ー」が「-」となっていたところを訂正しました。
 単語の後に「〉」がついていないところがありましたので、つけました。
2016/12/1 「別に人間」→「別の人間」 訂正しました
「始めて」→「初めて」、「恣意的」→「恣意的」、「(おもんばか)って」→「(おもんぱか)って」訂正しました。


第19話 漆黒の英雄

 カジットの身体が崩れ落ちるのを見届け、大剣を振って汚れを払うと鞘へと戻す。

 

 そして霊廟の方へと足を向けたが、途中でモモンは立ち止まり、クレマンティーヌの方を振り向いた。

 

 一瞬、びくりとしたものの、クレマンティーヌは猫なで声で話しかけた。

 

「いっやぁ、助かったよ。最後、凄かったじゃん。あれって何、実力を隠していたとか?」

「ふむ。そうだな。相手の手札がどれだけあるか、どれ程の強さのものを隠しているか、即座には判断できなかったから、手の内をさらさず探っていたんだ」

「ふーん。そうなんだ。あれがあなたの本気ってヤツ?」

「いや。まだ、切り札はあるがな」

「そ、そうなんだ……」

 

 クレマンティーヌはごくりとのどを鳴らした。

 

 あれより上があるのか……。

 ……ブラフか?

 いや、こいつならあってもおかしくない。そう思わせるだけの何かがある。

 

「それにしても、あなたって一体何者? モモンって名乗ってたけど、私、そんな名前聞いたことないけど」

「ああ、つい先日、冒険者登録をしたばかりだからな」

 そう言って、首にかかった銅のプレートをはじいて見せる。

「ふうん。じゃあ、どこから来たの? 冒険者になる前は何してたの?」

「……冒険者にそういう事を聞くのはマナー違反だと思うが?」

「だぁってさー、強い人間の事だもん。気になるじゃん」

 

 モモンは微かに苛立ちを交えた声で(たしな)めたが、クレマンティーヌはそれでもくらいついた。

 

 これほどの強者の情報。

 知っておいて損はない。

 いずれ自分が法国を裏切った際にも役に立つかもしれない。上手くすれば味方に出来る可能性もあるし、最悪でも敵に回すようなことはしたくない。

 生まれはどこなのか? 仲間はあの女神官と巨獣以外にいるのか? なんらかの後ろ盾(バック)はあるのか?

 ――そして、強さの底はどれほどなのか?

 

 とにかくクレマンティーヌは、偶然の結果とはいえ、ともに肩を並べて戦ったのだ。

 この縁は利用しない手はない。

 声を聞くに中身は男らしいから、女の武器を使ってもいいかもしれない。

 こう言っては何だが、自分は顔もいいし、スタイルも抜群だ。可愛らしさというのはないが、女性の魅力というのなら十分にあると自負している。

 ……まあ、あの女神官と比べられるとアレだが。

 

 そうして、とりあえずその鎧に包まれた身体に、自分の身を擦りつけてやろうかと歩み寄った時――

 

 

 チャリン。

 

 ――冒険者のプレートが落ちた。

 

 クレマンティーヌの鎧につけられていた幾多の冒険者のプレート。

 自分が殺した冒険者から奪った記念品。

 あらかたカジットによって剥ぎ取られたと思われていたが、ちょうどスケリトル・ドラゴンの指が当たっていたせいでカジットの眼に届かなかったものがあったらしい。だが、むしり取られはしなかったものの、強大な力で壁に押し付けられ圧迫されたことで、止めていた金具が緩んでいたようだ。動いた拍子にこすれ、鎧から外れて落ちてしまった。

 

 しかも悪いことに、それはクレマンティーヌのブーツにあたって跳ね、モモンの足元へと飛んでいった。

 

 モモンはそれを何気なく手にとり、しげしげと眺める。

 

 その様子にクレマンティーヌは冷や汗を流した。

 

 まずい!

 冒険者のプレートには、そのプレートの持ち主の名前がしっかりと刻まれている。

 先ほどの戦いの最中、カジットははっきりと自分の事をクレマンティーヌと呼んでいた。冒険者のプレートを見れば、そこにある名前はクレマンティーヌとかけ離れたものだというのは一目瞭然だ。そうなれば、なぜ他人のプレートを持っていたかと疑問に思うだろう。

 それに気づいた時、このモモンがどんな反応をするか……。

 

 どうする?

 モモンが何らかの反応を示す前に殺すか?

 だが、あれほどの腕前の戦士に?

 瞬く間に殺されるのが落ちだ。

 

 逃げるか?

 その背にあの剣を投げつけられないことを祈る事ぐらいしかできないが。

 

 誤魔化すか?

 クレマンティーヌという名前は通称もしくは偽名で本名はプレートにある名前だと。

 だが、大量にあるプレート一つ一つに書かれていた名前など、いちいち憶えてもいない。プレートにある名を聞かれたら、一発でばれてしまうだろう。

 

 どうするのが最も生存率が高いか、クレマンティーヌが判断に困っている間に――。

 

 

 ――モモンは手にした金のプレートをクレマンティーヌに差し出した。

 

 

「え?」

 

 クレマンティーヌが反応に困っていると、モモンは首をかしげ「どうした?」と言って、さらに差し出してきた。

 思わず、冒険者のプレートを受け取る。

「え、ええと……うん、あんがとね」

「ああ、冒険者のプレートは失くした場合、自腹で再発行してもらわなくてはならないのだろう? 気を付けておくことだ」

 

 まるで何の心算も感じさせずにさらっと話す。

 

 

 いったい何を考えているのだろう?

 このプレートが自分、クレマンティーヌの物ではないと知ったうえで渡すことで、こちらに恩を売ったという形にしたいのだろうか?

 そうなると、自分が法国の人間だと知っている?

 まさか?

 ただの冒険者、それも銅のプレートの冒険者が、そんな情報網を構築しているはずがない。

 ……いや、銅のプレートだからか。

 つまり、どこかの組織の人間が新しいアンダーカバーとして冒険者に登録したばかりという事も考えられる。まあ、さすがにいきなり銅のプレートがというのもおかしな話だが、逆に意図的なものだと推測することもできる。

 都合よく考えたいなら、自分の色香に誘われて……というのもなくもないだろうが。

 いや、そうした場合、恩を売るより弱みを握るほうが確実だろう……。

 

 考えれば考えるほど、思考の海にのまれていってしまう。

 いったい、こいつは何を考えている?

 

 

 まさかとは思うが、これほどの人物がプレートに書かれた文字が読めなかった、などという馬鹿な話はあるまい。

 

 

「うん、ごめんね。あんがとね。じゃ、また、いつか会おーねー」

 

 その辺に投げ捨てていたフード付きマントを拾って羽織り、その身体を隠した。鎧につけられていたプレートのほとんどは剥ぎ取られていたが、何個かはまだ残っている。特に背中側。それが誰かに見つかったら、少々拙いことになる。見ないふりをしてくれたこの男の、どんな思惑があるかは知らないが、気遣いも無駄になるだろう。

 

 とにかく、相手の意図が何であれ、ここはいったん退くべきだ。

 顔は繋いだんだから、また偶然を装って会いに来てもいい。

 

 冒険者モモンか……。

 もしかしたら、これから台風の目になるかも。

 

 様々なことを思案しながら、足早にクレマンティーヌは去っていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 クレマンティーヌが立ち去ったのを確認してから、モモン――アインズはルプスレギナに声をかけた。

 

「周囲に敵および、第三者はいないか?」

 その問いに「はい、おりません」と答える。

 しかし、その答えにやや硬いものを感じ取って、アインズは振り返った。視線の先でルプスレギナはぷくぷくと頬を膨らませている。

 

「どうした?」

「はい。だって、アインズ様。あのガイコツとか、特にあの女っす! あいつらアインズ様にあんなに失礼な口ききまくりやがってんすよ。私に一言ご命令くだされば、あいつらに至高の御方に対する口の利き方を体に叩きこんでやったっすよ。フルボッコっすよ!」

 

 ぶんぶんと両手を振りながら熱演する。

 

 誰も見ていないとはいえ、アインズ様と呼ぶのは止めて欲しかったが、とりあえず人のいない所ではもういいやという諦観がここ数日で心の中には生まれている。

 正直、プレアデスの中では人当たりの良さそうだったルプスレギナだが、それでもアインズ扮する冒険者モモンが下に見られた時はちょくちょく暴走しそうになった。その都度、〈伝言(メッセージ)〉でストップをかけなければならなかった。

 アンデッドで大騒ぎしていたこのエ・ランテルに戻って後、特にクレマンティーヌと遭遇してからは、基本的に喋ることを禁止しなければならないほどだった。さすがに敵意の視線を向けるくらいは大目に見ていたが。

 

 とにかく、いつまでも騒がせておいても仕方がないので、(なだ)めることにした。

 

「落ち着け、ルプスレギナよ」

 その言葉に、ルプスレギナはゼンマイ仕掛けのように動いていた口と体の動きをピタッと止める。

 

「ルプスレギナ。お前が我が事のように私を(おもんぱか)ってくれていたことはよく分かった。だが、あいつらにある程度、好き放題言わせていたのも私の策の内だ。気にすることはない。だが、それでも私の為に怒ってくれたことは嬉しく思うぞ」

 

 そう言って、手甲越しだが頭をなでる。

 ルプスレギナは不満そうだった顔から一転、ぱあっと明るい顔になった。

 

「おお、アインズ様。今、私の中のルプスレギナ袋は急速に充てんされてるっすよ。もう超必殺技も3回は連発できそうなほどっす」

 

 意味はよく分からないが、とにかく機嫌は直ったようだ。それで、もう一度周囲に敵はいないか確認したが、やはりいないという。

 

「じゃあ、もうこれは解いてしまってもいいか」

 その答えを聞き、アインズはその身にかけていた魔法を解く。

「〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉を解除、と。あと、……ああ、もう面倒だ。この鎧もいいだろう」

 

 一瞬で、漆黒の鎧が消え、いつものグレート・モモンガ・ローブ姿になる。

 

 「ふぅ」と息を吐きながら、ぐるぐると肩を回す。

 「あぁーっ」と声を出しながら、ぐぅーっと伸びをする。

 アンデッドだから疲労はないものの、やはり重い金属鎧を身に着けているというのは動きに制限があって、煩わしいものだ。

 それにヘルムのスリット越しに周囲を見るというのも、最初は物珍しくて楽しかったものの、だんだん視界の狭さにうんざりしてきた。久しぶりに見る遮るものの無い視界というのは実に快適だ。

 

 そうしていると目の端に、先程モモンの大剣の一閃で倒したデスナイトが地に横たわっているのが映った。

 

「リュース。もういいぞ」

 

 そう声をかけると倒れ伏し、やられたふりをしていたデスナイト=リュースがむっくりと起き上がる。

 

 

 何のことはない。先程の戦いはただの自演だったのだ。

 

 最初はさっさとズーラーノーンの連中を倒して終わらせようと思っていた。

 だが、先行したシャドウデーモンから、すでに墓地では冒険者のプレートを付けた女とアンデッドを操る骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)が戦っているという報告がきた。それも冒険者のプレートを付けた女の方が優勢で死霊術師の方が押されている。倒されるのも時間の問題だという。

 

 これはさすがに焦った。

 

 避難所であれほど大見得切っておきながら、いざ現場についてみたら、諸悪の根源はもう別の人間に退治されていましたでは立つ瀬がない。

 

 そこで、ベルが墓地周辺に移動させていたアンデッド部隊の中から、見栄えのするリュースを骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)の増援として送り込むことにした。

 思惑通り、情勢は一変。女は一転ピンチに陥る。

 そこを正義のヒーローよろしく助けに入った。

 あとは自分の戦士としての実力を計るための練習試合がてらリュースと戦い、頃合いを見てわざとシールドバッシュを食らって霊廟の陰へと姿を消す。そこで〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉を使って、100レベル戦士として華麗に再登場。そして、すべての敵を片づけてみせたという訳だ。

 

 しかし、あのクレマンティーヌという女が倒れたリュースにとどめを刺そうなどと言い出さずにいてよかった。

 自分の攻撃によって瀕死状態になっているところへ、さらにもう一撃喰らうとさすがに死ぬからな。あの女がデスナイトは一撃では絶対に倒されないというのを知らずにいてくれて助かった。カジットとかいう骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)はさすがに知っていたみたいだがな。

 

 とにかく今現在、あと一撃のダメージで死んでしまう。ちょっとつまづいたり、坂道で前ジャンプした程度で死んでしまったら後味が悪い。

 そこで、魔法で負のエネルギーを当ててやると、見る見るうちにリュースの傷が治っていく。

 喜びにリュースは雄たけびをあげようとした。

 

「おっと、雄たけびは無しだ、リュースよ。お前はやられた事になっているんだからな」

 

 慌ててリュースは口を手で押さえた。

 声は発しないまま、嬉しそうに体を揺らしている。

 正直、見た目は不気味だが、こうして喜んでいる姿を見ていると案外、愛嬌がある気がしてくる。可愛らしいペットのような感じがして愛着心もわいてくる。

 

 そうだ。

 ペットと言えば……。

 

 振り向くと、ハムスケが墓石の陰から顔をのぞかせている。

 墓石は人間の腰くらいしかないので、ハムスケのそのでかい図体は丸見え状態だ。

 

「あのー……もしかして、殿でござるか?」

「そう言えば、この本来の姿を見せたのは初めてだったか。これが私の本当の姿だ」

「なんと! そうだったのでござるか! なんとご立派なお姿。このハムスケ、さらなる忠義を尽くすでござるよ!」

「うむ……ちょっと声が大きすぎる。すこし静かにしろ」

「これはそれがしの忠誠の思いを表してるんでござるよ!」

「いや、お前な……」

「おお、忠誠の思いなら負けないっすよ」

 

 ルプスレギナまで加わってきた。

 

「殿! このハムスケ、殿の偉大なお姿に感動したでござる!」

「アインズ様! この世のすべてまで見通すその御見識! まさに智謀の王という言葉しかないっすよー!」

 

「ちょ、ちょっと声を抑えろ」

 

「殿の御威光溢れるその姿、なんと素晴らしい!」

「アインズ様の偉大なる魔導の奥義、この世に比肩するものなんかいないっすねー!」

(……王よ……)

 

「ん? 今何か、声が……」

 

「殿の卓抜(たくばつ)たる力、このハムスケ、感嘆のあまり言葉もないでござるよー!」

「ひゃっほー! アインズ様、最高っすよー!」

(……偉大なる死の王よ……)

 

「ちょっと、お前ら、静かに……」

 

「殿ー! 殿ー!」

「アインズ様ー! アインズ様ー!」

 

「やかましい!」

 二人をダブルチョップで黙らせる。

 

 頭を押さえている連中を無視して耳を澄ませると、声はカジットの遺体の方から聞こえてくる。

 死体を漁ってみると、その手の黒いオーブが発信源のようだ。

 インテリジェンス・アイテムというヤツか。〈上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉を使ってみると、……まあ、微妙な感じの能力が色々あった。

 なんだか、尻が痒くなるような美辞麗句を延々並べたてていたが、それほど重要そうなアイテムとも思えなかったので――。

 

「リュース、持ってろ」

 傍らのリュースに投げ渡した。

 

「え? いいんすか? そいつに渡して」

「探知魔法対策は行ったが、それで完全に安全だとは言い切れまい? だからリュースに持たせる。生者であるハムスケに持たせて、おかしな影響を受けても困るしな」

「なんと、殿! それがしの事を心配してくださるとは! このハムスケ一層の……」

「さっすが、アインズ様! その深謀遠慮、まさに……」

「だから、やかましい!」

 

 再び脳天にダブルチョップを当てる。

 ちょっと涙目のハムスケとルプスレギナを置いて、霊廟内へと足を踏み入れる。

 がらんとした室内の最奥部、祭壇の上に目当ての物があった。奇妙にねじくれた筒先からこんこんと霧を湧き出し続ける、奇怪な姿のマジックアイテム。

 ピッと指で触れると、一瞬、空ぶかしするような音がして霧の発生が停止した。満足そうにうなづくと、それをアイテムボックスへと放り込む。

 

 そして、外へと足を向けながら、〈伝言(メッセージ)〉を使った。

 

《もしもし、ベルさん。今、いいですか?》

《はいはい。こちらベルです。ちょうど、こっちは一区切りついたところですよ。何かありました?》

《今、例のアイテム停止させて、霧の発生を止めましたよ》

《おお、お疲れさまでした。じゃあ、エ・ランテルに行ってるナザリック勢は撤退させますね》

《はい、そちらはお願いします》

《それでどうでした、首尾の方は?》

《ええ、ばっちりですよ。ズーラーノーンの魔法詠唱者(マジック・キャスター)はちゃんと倒しました》

《お疲れ様です。あ、ズーラーノーンの連中はちゃんと全部殺してしまってくださいね。可能ならば、死体にも復活出来ないように魔法なりアイテムなりで処置しといてください》

《ずいぶん厳重ですね》

《実はですね。ズーラーノーンの人間なんですが、もしかしたらアイテム渡した時の俺の姿を憶えてるかもしれないので》

《えっ! 〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉使ったんじゃないんですか?》

《ええ、使ったんですが、思ったより魔力の消費が激しくてですね……。嫉妬の魔将(イビルロード・ラスト)の魔力が尽きかけてしまったんで。まあ、なんとかアイテムの出どころだけ、つじつまは合わせたんですが、完全にその時の記憶が消しきれたかちょっと微妙なんですよ》

《ああ、なるほど。〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉の実験はしたものの、あの時は私がやりましたからねぇ。私と嫉妬の魔将(イビルロード・ラスト)では総魔力量に結構な差がありますし》

《しかも、その時、記憶を変えてアイテム渡したのって、なんだか法国の人間らしくてですね。下手に生き残ったり蘇生されたりすると、俺の事が法国にばれる可能性も……》

《そりゃ、拙いですね。分かりました。そちらは何とかしておきます》

 

 霊廟の外に出て、地面に散らばった死体に目をやる。

 フードを着ている死体が二桁近くある。これがズーラーノーンの者達の死体なんだろう。だが、それ以外の人骨や死体も、そこらに多数転がっている。

 これを全部やるとなるとかなり面倒だ。

 ……しかし、念のためという事もあるから、やっておいた方がいいだろうな。骨が折れる作業だが。

 

《む……》

《どうしました?》

《いえ、ちょっと……》

 

 ……骨が多くて骨が折れる……絶対にうけないだろうから、言うのはやめておこう。

 

《おっと、そうだ。墓地に来た際、ズーラーノーンの魔法詠唱者(マジック・キャスター)と戦っていた冒険者を助けたんですが、それは良かったですよね?》

《冒険者ですか? それはオッケーですよ。冒険者を助ければ、冒険者モモンの評判が上がりますし。どんな奴だったんです?》

《金級の女戦士でしたよ》

《ええっと、たしかエ・ランテルではミスリルが最高で……んー? その下が……金……でしたっけ? で、その下が銀、鉄、銅と。おお、じゃあ、結構高い地位の冒険者を助けたんじゃないですか》

《そいつの目の前でデスナイトを倒してみせましたよ》

《そりゃあ、いいですね。名声もうなぎ上りですよ。……あれ? 女戦士って、一人だけだったんですか? チームとかじゃなくて?》

《ええ、一人でしたね。……ふむ、どうやってここまで来たんだか……》

 

 疑問に思ってふと辺りを見回すと、目につくものがあった。

 

 霊廟脇の地面。

 

 そこにいくつもの冒険者のプレートが散らばっている。

 

 なるほど。

 おそらくズーラーノーンの骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)は、これまでにも幾人もの冒険者を殺めてきたのだろう。そうして、殺した冒険者から冒険者のプレートをトロフィー代わりに奪っていたのだろう。

 きっと、あの女戦士はその殺された冒険者の知り合いで、ずっとあの骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)を追っていたんだな。ずいぶんと互いの事を知っていたようだったから、よっぽど長い間狙い続け、執念でここまでたどり着いたのか。

 そんなに追い続けるとは……。

 きっと、殺されたのは同じパーティの仲間……恋人という線もあるか。

 

 まあ、いい。

 エ・ランテルにいるならまた会う機会もあるだろう。

 向こうも、また会おうねって言っていたし、その時にでも、それとなく聞けばいい。

 

《じゃあ、とにかく、ここでやることは終わりましたし、あとは避難所に戻りますね》

《はい。凱旋になりますから、かっこよくお願いしますね。あ、そうそう。あの威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)って、まだいます?》

 

 言われて思念を飛ばしてみる。

 

《ああ、いますね。どうやら、あの後、2回ほどアンデッドの群れが襲ってきたらしいですけど、全て撃退したらしいです》

《じゃあ、せっかくですから、避難所に戻って事件の解決を伝えたら、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)連れて、残ったアンデッドの掃討でもしてください。良いパフォーマンスになります》

《はい了解しました。では、また》

 

 そうして、〈伝言(メッセージ)〉を切った。

 

 

 

 その後、〈転移門(ゲート)〉を使ってリュース、並びに近辺で戦闘の間、雑魚アンデッドを召喚していた死者の大魔法使い(エルダーリッチ)らをナザリックに送り返し、再び〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉を使って、漆黒の全身鎧(フルプレート)を作成して身に着け、避難所へと帰還した。

 ずっと晴れることのなかった霧が晴れたことで、もしやあの人物が解決したのでは、と思っていたらしい避難民たちからは盛大な歓声を浴びた。

 組合長のアインザックらからは、事の顛末を聞かれたので、今回の首謀者はズーラーノーンという組織の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が何らかの儀式によって引き起こした事件だ、倒した死霊術師の遺体なら墓地に転がっているから確かめてくるといい、と言って威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を引き連れ、街中に残ったアンデッドたちの退治に向かった。

 

 神々(こうごう)しいオーラを放ち、その偉大なる姿にたがわぬ攻撃によりアンデッドを滅ぼしていく威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)。それを従え人々を救っていく、銅のプレートを首にかけた漆黒の全身鎧(フルプレート)の人物。

 

 その姿は絶望に打ちひしがれていた街の人間たちに強烈な印象を与えた。

 

 途中で威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の召喚時間が切れたため、その後は自力で倒しながら進む羽目になったが、あちこちに孤立した者たちを助けていくことで、冒険者モモンの名はエ・ランテル中に知れ渡った。

 

 

 誰ともなく、冒険者モモンの事を『漆黒の英雄』と呼び讃え始めた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ふむ。私のいなかった間に何か異常はなかったか?」

「はい。すべて順調でございます」

 

 ナザリック地下大墳墓の第9階層。

 そこをナザリックの支配者であるアインズと、やや下がって守護者統括アルベドが歩いていた。

 

 冒険者としてエ・ランテルにおもむき、そこからカルネ村、そしてまたエ・ランテルへと動いたため、しばらくぶりの帰還となる。

 まめに〈伝言(メッセージ)〉で状況は聞いていたが、やはり目で見て、実際に会って話を聞かないと不安になるのが元下っ端サラリーマンのアインズだ。こうしてナザリックに帰ってきて、皆が普段通りなのを見て安心する。

 

 やがてたどり着いたのは執務室。

 

 ベルがいるはずなのでノックをして扉を開けると――。

 

 ジャララララッ!

 

 音を立てながら、内側から流れてきた金色の波がアインズの足元を包み込んだ。

 驚いてよく見ると、見慣れたユグドラシル金貨ではない。ええと、たしか王国の金貨だ。それに所々に色とりどりの宝石や装飾品も交じっている。

 

 部屋の中に目を向けると――

 

「はーっはっはっは!」

 

 部屋中に積み上げられた、このアンデッド騒ぎのどさくさに紛れてエ・ランテル中から盗み出してきた金銀財宝の山の上、どこから持ってきたのか悪趣味なサングラスに葉巻を咥えたベルが高笑いをあげていた。

 

 

 




 クレマンさん、ベルの連絡ミスとアインズ様の勘違いのおかげで生存です。
 ヤッター!

 リュース、遠距離攻撃ができないという弱点を克服した、魔法攻撃ができるデスナイトになりました。
 スゴイ!


 これで書籍2巻分は終了になります。
 いただいた感想ですが、誤りの指摘以外に返信できなくて申し訳ありません。
 偶にですが、活動報告のほうで疑問への回答などさせていただいておりますので、それでご容赦を。

 お読みいただきましてありがとうございました。

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