オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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2016/7/27 「復活にかかかる費用」→「復活にかかる費用」 訂正しました
2016/10/7 ルビの小書き文字が通常サイズの文字になっていたところを訂正しました
2016/12/10 「例え」→「たとえ」 訂正しました


第25話 決意

 ナザリック第10階層。玉座の間。

 

 

 今、そこには微妙な空気が流れていた。

 

 

 勢ぞろいした階層守護者たち。並びに守護者統括アルベド。

 支配者であるアインズにベル。

 そして、目下、困惑の種であるエクレア。

 

 

 

「確かに『離反』している状態のようだな」

 

 玉座の間のマスターソースを開いてみたところ、なんらかの手段によってNPCが敵対した時に起こるように、リストの名前がエクレアのところだけ黒くなっていた。

 

 しかし――。

 

 

 そこで、そもそもの疑問をベルは口にした。

 

「いや、……べつに離反状態になろうがいいんだけどさ。じゃあ、さっさと治してしまえばいいんじゃないの?」

 

 それはしごくまっとうな意見だ。

 

 確かにエクレアが何らかの外的要因でナザリックに反逆している状態になったのは事実だろう。

 だが、そんなものは、そういう報告さえ上げればいいだけの話だ。

 

 エクレアは1レベルキャラであり、ましてや戦闘することなど想定していないため、まともに武装すらしていない。

 はっきり言って、どんな魔法だろうが特殊能力(スキル)だろうが、効いて当然なのである。

 なら、さっさと回復してしまえばいいだけの話でしかない。

 いちいち離反した状態なのを、自分たちの目の前までひっぱり出してきて見せる必要などないのだ。

 

 なぜ、わざわざこうして玉座の間に皆を集めてまで報告する必要があるのだろうか?

 

 

 そんなベルの疑問に、アルベドがその美しい顔を困惑の色で曇らせ答えた。

 

「それが……治そうと思いエクレアをペストーニャのところに持っていったのですが、いかなる手段を使用してもこの状態が治らないのです」

「「え?」」

 

 アインズ、ベル共に思わず声を出してしまった。

 

 メイド長のペストーニャは、およそナザリックの中で、回復魔法の使い手としては随一である。

 ナザリックの者達はアンデッドも多いため、通常の回復魔法が使える者、並びに回復魔法が効く者も少ないのではあるが、とにかくもっとも回復というジャンルに長けた存在であることは言に及ばない。

 

 そのペストーニャの考えうる限りの魔法、治療等を駆使しても治らないというのだ。

 

 いったい、どのような効果がエクレアを襲っているのだろう?

 

《ベルさん、どう思います?》

《うーん。とりあえず、考えつくのはこの世界オリジナルの魔法……ですかね。ああ、そうだ。タレントという事も考えられますか。あれも、この世界特有ですし。さすがに武技は無いでしょうしね。武技とやらの全容がまだイマイチ分かりませんが》

《そうですねえ》

 

 アインズが「おそらくは……」と前置きし、今、ベルと〈伝言(メッセージ)〉で話した新たな魔法やタレント等の可能性を口にした。

 守護者たちは「おお……」、「ナルホド」、「さすが、アインズ様」と口々に感嘆の声をあげる。

 

 

《竜が飛ぶ前に老婆の服が光ったって言いますから、マジックアイテムという線も捨てがたいですが……。ともかく現物を見ないことには判別できませんね》

《調べに行かせますか? もしマジックアイテムならば、マーレの魔法の後でも焼け残っているでしょうし》

《ええ。そうしましょう。ですが、とりあえずはまずエクレアの方を何とかしないと》

 

 

 そうだ。

 現状は分かったものの、とりあえず今重要なのはこのエクレアをどうするかという事だ。

 

 ふぅむと唸りながら、顎を撫でるアインズの眼に入るのは、その右手人差し指にはまった指輪。

 特に飾りもないシンプルな物だが、その指輪には青い宝石が流れ星の様に3つ刻まれている。

 

 

 〈流れ星の指輪(シューティング・スター)

 

 使用した際、様々な効果を選べる汎用性の高い超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を本来必要な経験値消費無しに使用できるという破格のアイテムである。

 

 そう、超位魔法である〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を使えば、エクレアにかけられている状態異常が、たとえどんな手段によるものであろうと治るはずだ。

 

 だが――。

 

「エクレアに使うのか……」

 アインズは思わずつぶやいた。

 

 ぶっちゃけた話――もったいなかった。

 

 

 この〈流れ星の指輪(シューティング・スター)〉を手に入れるために、かつて鈴木悟が手にした賞与すべてをつぎ込んだのだ。

 いくらつぎ込んでもつぎ込んでも出る気配がしないガチャ。一回一回はそれほどの金額ではないにしても、何度も繰り返せば、いつの間にやら積もり積もって莫大な金額になる。

 目の前で自分の年2回出る賞与、給与1.5か月分が瞬く間に溶けていった。

 まるで際限なく続くような落下感。その背筋に粘着し、まとわりつくように怖気。

 思わず口元には笑いがこびりついていた。そのアインズの様子に、その時傍にいた他のギルメンたちも言葉をなくしていた。DMMO-RPG内だったからいいものの、ログアウトした後、ヘッドギアを外しリアルの姿を見たら、口からはよだれが垂れ、目元から頬や鼻筋辺りは流した涙がたまり、着ていたシャツの襟首までぐっしょりと濡れていて、ひどい状態だったのを憶えている。失禁していないのが奇跡だったと思うような有様だった。

 最後の最後で出たからいいものの、もしあれで出なければ数日は廃人のように床にひっくり返ったままだったろう。

 

 

 そんな思いまでして手に入れた〈流れ星の指輪(シューティング・スター)〉を……。

 

 

 もし仮に、これが他の者、例えば守護者たちだったとするならば、何の躊躇もせず――いや、さすがにちょっとは躊躇するかもしれないが――使用していただろう。

 ナザリックの戦力として決して欠かすことのできない者であるのだから。

 

 だが、今回の相手はエクレアである。

 即座には決断できなかった。

 

 もちろん、エクレアもまたアインズ・ウール・ゴウンのギルメンが作ってくれた大切なNPCである。けっして(ないがし)ろにしていい訳ではない。何とかしなければならない。

 

 だが、ナザリックがまったく見知らぬ異世界で活動していくうえで、まだまだ不測の事態が起こるかもしれないという状況下において、数えるほどしか切れないこの万能のカードを、実際戦力にもならないエクレアに使用してしまっていいものか。

 

 この、ナザリックを支配するとか喚く、ある意味癒し系ウザキャラのために。

 

 アインズは頭を悩ませた。

 

 

 

 その場にいる守護者たちも、妙案が思い浮かばず、玉座の間は沈鬱な空気に包まれていた。

 

 

 だが、その空気はベルが放った一言で吹き飛ばされた。

 

「いっそ、殺してしまったら?」

 

 

 あっけらかんとした口調に、その場にいたもの全てが絶句した。

 

 たしかにエクレアはナザリックの者達に(こころよ)く思われてはいなかった。むしろ腹立たしく感じていた者も多い。

 だが、かと言って殺してしまうというのは、冗談でならともかく、本当に行おうとする者はいなかった。

 なにせエクレアは、ギルドメンバーの一人餡ころもっちもちが手ずから創り上げた存在なのだ。

 常に口にする、自分がナザリックを支配するという台詞も、そうあれとして生み出されたため。そこには自分たちが想像だに出来ぬ理由があるからなのだという事は容易に推測出来た。

 そんなエクレアを消すというのは、至高の御方をも否定する行為となる。ナザリックに属する者にとって禁忌と言ってもいい。

 

 

 張り詰めた沈黙を破ったのはアルベドだった。

 

「確かにベル様のおっしゃられた方法は良い案かもしれません」

「あ、アルベド……それはさすがに」

「いいえ、シャルティア。これはしごくまっとうな事よ。落ち着いて考えなさい。今、エクレアはナザリックに反旗を翻している状態。この偉大なるアインズ様の支配するナザリックにね。そんな者を放置しているのが正しい状態だと言える?」

 

 その言葉に二の句が継げなかった。

 

 確かにアルベドのいう事は正しい。

 

 自分たちが最も優先すべきは、最後に残った至高の41人でありギルドマスターであるアインズ、ひいてはそのアインズが支配するナザリックを守る事である。

 このナザリックに属する者達は、その為にこそ存在しているのであり、その為にはすべてを捧げねばならない。

 

 そう、自らの生命も含めて。

 

 そして、それには当然、エクレアも含まれている。 

 

 今現在、エクレアは反逆状態に陥り、その治療法は分からぬまま。

 更にはそのことで、アインズの頭を悩ませる事態を引き起こしている。

 ナザリックに属する者として、この状況を放置しておくことは出来ない。

 

 それこそ、エクレアを殺してでも。

 

 

 その場にいた守護者たちの目に決意の色が浮かんだ。

 後は誰が手を下すかという決断だけだった。

 

 

 

 一瞬で室内に張り詰めた殺気に押され、思わずアインズの精神が沈静化を起こす。

 

 誰かがごくりとのどを鳴らす音が静まり返った玉座の間に響いた。

 

 

 その一変した空気を制するように、ことさら呑気な口調でベルが言った。

 

「んー、いや、ちょっと待って。えーと、みんな勘違いしてるかもしれないけど、別に『殺す』ってのは、存在を消してしまうって意味じゃなくってね。一度、エクレアを殺して、その上で生き返らせたらっていうこと」

 

 その答えにアインズはピンとくるものがあった。

 

「ああ、なるほど。この離反状態というのは、エクレア本人の自発的なものではなく、あくまで何らかの手段でもたらされた状態異常。それならば一度、最も強力な状態異常、すなわち『死』で上書きしてしまおうという訳ですね」

「そういう事です。それに幸い、エクレアでしたら復活にかかる費用も少なくて済みますし」

 

 なるほど、道理だ。

 NPCの復活にはそれなりの費用が掛かる。たしか5かけるレベルの4乗の金貨が必要になるんだったか。

 例えば、もし仮に100レベルキャラを復活させようとしたら、5×100×100×100×100でつごう金貨が5億枚かかる計算になる。だが、1レベルのエクレアならば5×1×1×1×1でたった金貨5枚で済む。

 

「まぁ、もし、それで駄目だったら、その時はまた別の方法を考えましょう」

 

 そう言って、ベルは一瞬ちらりとアインズの指に輝く指輪に視線を向けた。

 

 

 それに気づき、アインズは秘かに嘆息した。

 

 ベルも思い当たってはいたのだ。

 〈流れ星の指輪(シューティング・スター)〉を使い、超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を使えば、エクレアは治るだろうという事に。

 

 だが、この指輪を手に入れた際のあの一騒ぎはベルも知っている。知っているからこそ、アインズ自身が言い出さない限りは、ベルからは口にしなかったという事だ。

 

 

 こんなにも気を使ってもらっていたのか。

 

 

 この世界に来てから、ベルにはさんざん助けられた。

 アインズ一人だったら、自身の双肩にかかる責任の重圧に押しつぶされていたかもしれない。

 なにせ、自分の判断一つで、このナザリックに生きとし生けるもの全てが死に絶える可能性すらあるのだ。

 

 実際、すでに一度、自分はその重みに耐えきれず投げ出した。

 エ・ランテルで冒険者として自由気ままに生きたいと願った。

 

 その時ベルは、少し考えはしたものの、自分が代わりにナザリックの維持管理に回ることを快く了承してくれた。

 その後も、アインズが冒険者モモンとして名声を高め、正義のヒーローとして活躍している間に、自ら進んでエ・ランテルの裏社会を牛耳るという汚れ仕事を引き受けてくれていた。

 

 

 自分にはこんなにも支えてくれる人がいる。

 

 

 アインズは思わず謝罪したい気持ちになった。

 

 かつて自分は皆がいなくなったナザリックをたった一人で維持し続けてきた。一人、また一人と段々ログインしなくなっていくギルメンたちを恨みに思っていた。

 最終日、久しぶりにやって来たヘロヘロを始めとしたギルメンたちを見て、本当に懐かしく、無理をしてまでやって来てくれた皆の事を嬉しく思った。

 

 だが――。

 

 ――だが、その心の内には、タールのようにどろどろとしたものがあった。

 

 そんなにも気にしているのなら、何故、ログインしなくなったのか。何故、ナザリックを捨てたのか、と。

 笑顔アイコンを表示しながら会話していても、本当の心の内にはそんな思いが巣食っていた。表情が出ないDMMO-RPGであったのは幸いだっただろう。

 

 ベルモットがあの日現れ、見知らぬ表示の事を口にしたとき、心の内でささやくものがあった。魔がさしたと言ってもいい。

 ほんの少し、終わりまで数分だけの意趣返し。

 

 結果、ベルモットは見事に引っ掛かり、現在の少女の姿になった。

 そして、その変わり果てた姿のまま、この転移に巻き込まれたのだ。

 

 本来、もっと恨み言を言ってもいいはずなのだ。だが、ベルは多少冗談めかして口にするだけで、その事を本気で責めようとはしなかった。

 その後も馬鹿な冗談を言い合ったり、困った時には〈伝言(メッセージ)〉でフォローして裏方に回ってくれたりと、自分の支えとなってくれていた。

 

 

 自分は一人ではない。

 

 周りにいる守護者たちを見回す。

 

 誰もが、自分に対して真摯で敬虔な瞳を向けている。

 大切なギルメンたちの作ったNPC(子供)達。

 

 先ほどのエクレアを殺すという話も、彼ら自身の為ではない。すべて自分の為なのだ。彼ら自身にとっても仲間のエクレアを殺すというのは辛い選択だったろう。だが、彼らはこの自分――最後まで残ってくれたアインズの為ならと、その手を汚す決意までしたのだ。

 

 もし、アインズの身体が涙を流せるならば、その両目から溢れ出るものを止めることは出来なかっただろう。

 

 アインズは一人うなづく。

 

 自分はそんな皆の期待に応えよう。

 このナザリックのギルドマスターとして、出来る限りの事はしよう。

 

 

 アインズは万感の思いを込めて、玉座から立ち上がった。

 

「うむ。では、ベルさんの案を採用しよう。執事助手エクレアは一度殺害した後、復活させることとする」

 

 ナザリックの支配者であるアインズの力のこもった宣言。

 

 その場にいた者達は皆、深く頭を下げた。

 

 

 

 アインズの目がマーレと、その手のうちにあるエクレアに向かう。

 

 さて一度殺すという事だが、さすがに守護者たちにそれを命令するのは(はばか)られる。

 うーんと……ここはベルさんに頼むか。また、押し付けてしまう事になるが。

 

 

 だが、アインズの視線を受けたマーレは嬉しそうに微笑んだ。

 

「じゃあ、アインズ様。一度殺害するという事ですから、とりあえず、殺しちゃいますね」

 

 そう言って、止める間もなく、エクレアの首をぽきりとへし折った。

 笑顔のまま、外見だけは可愛らしいペンギンの首をひねる紅顔の男の娘。

 アインズとベルは心の中で(おおう……)とつぶやいた。

 

 確かに同じナザリックのNPCに危害が加えられるのは許せないが、それがアインズの命令であれば全く別だ。それに、これはエクレアを助ける行為にもつながる。

 マーレの心は、アインズの役に立てたという至福の気持ちでいっぱいだった。

 

 そっと丁寧に、マーレはつまんでいたペンギンの死体を玉座の間に続く階段の下へと下ろし、自分は後ろに下がりアウラの横へと並んだ。

 

 

 色々思うところはあったが、とりあえず予定通りではあるため何も言わず、アイテムボックスに手を突っ込み、ユグドラシル金貨五枚を放る。

 

 チャリンと音を立てて転がる金貨。

 

 首を折られたペンギンの死体。その周りに金貨が数枚転がっている光景は怪しげな宗教儀式を想像させた。

 

 

「では、エクレアの復活を行うか」

 

 微妙に気はそがれたが、あらためて宣言をする。

 ベルにはリストに書かれた名前の変化を確認するように頼み、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に、儀式を開始した。

 

 視線の先で五枚の金貨がまるで炙られたバターのように溶けると、金色の液体が一カ所に集まり、光を放った。白い光は何もない空間を膨れ上がり、ペンギンの姿を形作る。同時に、転がっていたエクレアの死体も同様の光に包まれ消えてしまった。おそらく死体の有無は、NPCの復活には関係ないのであろう。

 一瞬、その姿がまばゆい光を放った。

 次の瞬間、玉座の間に漂っていた寒気にも似た峻厳な空気は雲散霧消し、そこにはただ横たわるペンギンがいるだけだった。

 

 

 やがてエクレアはむくりと半身を起こし、プルプルと頭を振った。

 そして、自分が玉座の間におり、皆に囲まれていることに目をぱちくりとさせた。

 

 アインズはそっと、リストに目をやっていたベルに視線を向ける。ベルはこくりとうなづいた。

 

「おや、皆様方、おそろいでどうされました?」

「エクレアよ。お前はどこまで記憶を残している?」

 

 アインズの問いに首をひねりながらも答えた。

 

「ふむ。アインズ様。イマイチ問いの意味が分かりませんが? 私の明晰なる頭脳は記憶をたがえることなどありませんな。私はこれからアウラ、マーレの御両名と共に野盗狩りにおもむくところです。このナザリックを支配するには忠実な配下が必要ですからね」

 

 堂々とアインズの前でそんなことをのたまうエクレア。

 その場にいた者達から冷たい視線が交わされた。

 玉座の間の気温が数度下がった。

 比喩的表現だけではなく物理的にも下がっている。苛つきの感情を漂わせたコキュートスのためだ。

 

 若干、頬を引きつらせながら、デミウルゴスがエクレアの身に起きた一連のあらましを説明する。

 

「――そういう訳で、ベル様の進言により、君はこうして元に戻ることが出来たという訳だよ」

 

 それを聞いたエクレアはぺちぺちと翼を打ち合わせた。

 

「ほほう。なるほど。ベル様、あなたはどうやら私に次ぐ程、機転がきき頭が回るご様子。いかがですかな? 私の配下になりませんか? そうすれば、ナザリックが私の物になったあかつきには、階層一つくらいは差し上げてもよ……」

 

 みなまで言わせず、エクレアの身体が蹴り上げられた。

 はるか上のシャンデリアに派手な音を立ててぶつかり、ふたたび赤いカーペットが敷かれた床へとべしゃりと落ちる。

 その背にアルベドのハイヒールが突き立てられる。

 

「この馬鹿鳥……。至高なるアインズ様のお手を煩わさせたばかりでなく、その所有物である金貨を使用されてまで生き返らせてもらったというのに、お前という奴は……」

 

 こめかみには青筋が浮き上がり、怒りに震えながら、そのままぐりぐりと踏みにじる。

 エクレアは倒れたまま、べちべちと床を叩いた。

 

 

 守護者たちがその周りを取り囲む。

 

「こいつ、もう10回くらい殺して生き返らせてもいいんじゃない?」

 廓言葉も忘れて、シャルティアが言う。

 

「ホントホント! そう言えば、この世界の金貨って2枚でユグドラシル金貨1枚くらいなんでしょ。この世界の金貨でも復活できるか実験してみようよ」

 唾を撒き散らす勢いでアウラが叫ぶ。

 

「なるほど。この世界の物での代替か。実験してみる価値はあるかもしれないね」

 眼鏡を押し上げながら、デミウルゴスまで加わった。

 

「あ、はい。その実験がうまくいけば、ナザリックの為になりますね」

 おどおどとした様子ながらも、マーレがそう口にする。

 

 コキュートスは言葉は発しなかったものの、その口から冷気を吐き出した。

 

 

 

 その様子を眺めながら、アインズとベルは安堵の息を吐いた。

 

《どうやら大丈夫そうですね、ベルさん》

《ええ。上手くいったみたいで良かったです。それと、状態異常は『死』で上書きできるというのも分かりましたし、NPCの復活の実験も出来ましたから。そのうち、蘇生魔法の実験もやってみたいところですね》

《ああ、そちらも試してみないとダメですね。でも、下手な相手では試せませんね》

《うーん、確かに。蘇生魔法を使って生き返らせたら、復活場所はその場ではなくその者のホームでとかだったりして、ナザリックの情報をみすみす持ち帰られたとかなったら困りますし……。まあ、そちらはおいおいという事で。とりあえず、今やるべきことは例の集団の調査ですね》

《ツアーという白銀の全身鎧(フルプレート)と、法国の……漆黒聖典でしたっけ?》

《ええ。まずは彼らと戦闘になった場所の調査ですね。運が良ければ、何か装備とか残ってるかもしれませんし》

《エクレアを洗脳したものの手がかりがあるといいんですがね……。調査隊は当事者であるアウラとマーレに率いらせますか?》

《いえ、面が割れてますから何かあるかもしれないので、それは止めた方が良いでしょう。俺が行きますよ》

《手間をかけさせてすみませんね》

《なぁに、これくらい。大した手間でもありませんよ。アインズさんは執務室から〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉でのバックアップをお願いします。アウラとマーレも一緒の方が良いですね。画面を見ながら〈伝言(メッセージ)〉を送ってもらえれば》

《はい。分かりました》

 

 そしてベルは伝言を切り、床に転がるまるまるとしたペンギンを取り囲む輪へと足を進めた。

 じゃれ合いを止め、今後の指示を出すためだ。

 

 

 

 その背を眺めながら、アインズは思う。

 

 

 いまだ、この地の事は分からないことばかりだ。

 ある程度の情報を取得し、ナザリックを害することが出来るような者はいないと思っていたのに、脅威となる可能性を保有する者達の存在が判明した。

 

 100レベルキャラのアウラ、マーレと戦うことが出来る、ツアーという人物。

 受けた者の精神を瞬間的に剥奪する、判別不能な攻撃手段を持つ法国の存在。

 探せば、この地のどこかにはさらなる強者が身を潜めているかもしれない。

 

 ナザリックの安寧の為には、まだまだ猫が爪先であるくように警戒を続けていかなければならないだろう。

 

 

 だが、心に不安はない。

 

 

 自分には友人がいる。

 この苦難の道を共に歩んでくれる友人が。

 

 かつての友人たちは、一人を残して、自分の目の前からはいなくなった。

 しかし、友人たちが残してくれたNPC(子供)達は目の前にいる。

 

 彼らと一緒なら、たとえどんな苦海に身を置こうとも、決して諦めることなく乗り越えていける。

 

 脳裏によみがえるかつての光景。

 ギルドメンバーたちと共に、ユグドラシルの九つの世界を駆け抜けた。

 全ギルド最多となる11ものワールドアイテムを集めた。

 1,500人からなる討伐隊をこのナザリック地下大墳墓で撃退した。

 アインズ・ウール・ゴウンの名をあまねく轟かせた、あの輝かしくも懐かしい昔日の栄光。

 

 あの日々は決して無益なものではない。

 

 

 確固とした思いを胸に彼らの輪へと歩み寄る。

 響いた足音に振り向いた皆の顔を見て、その骨だけの虚ろな胸に固く刻んだ。

 

 

 

 

 自分はこれからも、ずっと彼らと共に歩もうと。

 

 

 

 

 




エクレア「はっ! 気がついたらネクタイが無くなり全裸に! そして、私を取り囲むケダモノのような視線。私に酷いことをするのですね! エロ漫画の様に!」
全員(イラッ)

 
 NPC復活にかかる金貨の計算は捏造で適当です。
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