オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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2016/6/19 「うなづけなる」 → 「うなづける」 訂正しました
2016/10/9 「。」が2つ続けてついているところがありましたので、1つ削除しました
2017/5/17 「口腔」→「口腔へ」、「エ・ランテル来る」→「エ・ランテルに来る」、「断末魔」→「断末魔の悲鳴」、「体勢」→「態勢」、「姉さん」→「姐さん」、「収める」→「治める」、「触る」→「振る」、「来た」→「きた」、「行く」→「いく」 訂正しました


第29話 諸勢力の思惑ー4

「ふう。こんなものかしら」

 

 イミーナはテーブル上の硬貨を数え終わった。

 それを種類ごとに別々の皮袋に、切りのいい数だけ分けて入れていく。硬貨で最も多いのは金貨だが、白金貨も少なくない数がある。

 

 開け放たれた鎧戸から差し込む日の光が、彼らフォーサイトがエ・ランテルで定宿としている部屋の中を照らしていた。

 

 ほどなく作業も終わり、口を縛った袋をテーブルの脇にのける。そこには同じような袋のちょっとした山が出来ていた。

 

 肩を回して「あー」と声をあげるイミーナに、「お疲れさん」と葡萄酒が入った革袋をヘッケランが差し出した。

 それを受け取ると、その口元を大きく開けた自分の口の上にやり、袋の腹をしぼる。革袋の口から葡萄酒が一筋の流れとなってイミーナの口腔へ向けて飛び出し、そのまま袋を上に向け、流れる紫色の液体が喉奥へと消えていく。

 

 ひとしきり咽喉(のど)を潤した後、それを金髪の男へと返した。

 ヘッケランも同様にして、中の液体を腹に収め、最後は革袋を完全に上にして、ぽたぽたと滴る水滴を舌で受ける。

 

「全部飲んじゃっていいの?」

 その問いに笑って答えた。

「なに。こんな安酒、その気になればいくらでも買えるさ。何なら湖一杯に葡萄酒を満たして、そこで2人で泳ごうか?」

 

 その答えにイミーナも微笑む。

 彼の言葉通り、今、テーブル上の袋に入った金だけで、樽にして、いや荷車(カート)単位で一体いくつの酒を買えるだろうか。

 

 

 彼らの気分は明るい。

 これほどの大もうけをしたのは久しぶりだ。

 

 当初、エ・ランテルに来たらアンデッド騒ぎに巻き込まれ、自分たちも焼きが回ったと思っていたら、次には飛んだ幸運が次々と舞い込んできた。

 

 エ・ランテルでは、ミスリル級が常駐する冒険者のランクとしては最高だった。

 そして、そのミスリル級はアンデッド騒ぎによって数を減らしている。

 つまり、ワーカーながらミスリル級に匹敵する戦力を持つ彼らの重要度はとても高くなったのだ。

 

 その為、高い金を積むことになってもワーカー、フォーサイトへ頼みたいという依頼が次々と舞い込んできたのだ。

 

 しかも、それらの依頼は冒険者組合が仲介するものも多かった。

 

 くだんのアンデッド騒ぎにより、衛兵や冒険者にはかなりの犠牲が出た。

 そうして起きた冒険者不足のため、本来、冒険者がやるべき仕事などもワーカーらに割り振ったのだ。冒険者より割高なワーカーへの金を払ってまで。

 

 普通、ワーカーは冒険者と違って依頼されてもすぐには飛びつかず、自分たちで裏をとる必要がある。

 冒険者組合のように後ろ盾がないためである。

 普通に依頼を受けたら、おかしな陰謀に巻き込まれたり、捨て駒にされたり、報酬が払われなかったり、終わった後濡れ衣をなすりつけられたりなどという事は日常茶飯事だ。

 その為、自分たちの足を使い、金を払ってでも、依頼の裏取りをする必要があった。

 だが、今のエ・ランテルではちゃんと冒険者組合が確認した仕事がワーカー料金で舞い込んでくるのだ。本来の経費であるはずの調査費用もかからない。

 まさに割のいい仕事だった。

 

 そして、今回の野盗討伐の依頼。

 フォーサイトらはその討伐団に参加したが、途中離脱とされ、報酬はもらえなかったものの、アジトにあった金は同行した冒険者らの判断により彼らにも分けてもらえたし、副次的に手に入れたあがり(・・・)は大きかった。

 

 

 空になった革袋を台の上に放り、傍のベッドに腰かける。

 イミーナはテーブルを離れ、その脇に腰をおろした。

 

 ヘッケランがわずかな動揺に身を震わせるその肩に、こてんと頭をのせる。

 

 

 彼らフォーサイトは4人パーティーである。

 もちろん四六時中一緒にいるという訳ではない。

 ないのだが、それでも二人きりになれるという時間は貴重だ。

 

 今、ロバーデイクとアルシェは、数日前の『死を撒く剣団』討伐におもむいた際に手に入れた物、そのなかでも高額で厄介な交渉が必要であろう代物を売りに行っている。

 しばらくは帰ってこないだろう。

 

 

 室内という事で鎧を外しており、布の服越しに互いの体温を堪能していた2人。

 だが、「そうだ」という声を発して、ヘッケランが立ち上がった。

 

 体重をかけていた相手がいなくなり不満顔のイミーナ。

 ヘッケランは部屋を横切り、片隅に置いていたバックパックに手を突っ込んだ。

 

 

 そして、中の物を確認し、ゆっくりとイミーナに振り返る。

 

「なあ、イミーナ」

「なに?」

「あ、あのな……」

 

 喉が張り付いたような感覚を覚える。ごくりと生つばを飲んだ。

 

 今までヘッケランは幾多の敵と戦ってきた。大型のサーベルウルフやマンティコア、果てはエルダーリッチまで。恐怖を覚えたことはあったが、今この瞬間ほど、緊張したことは無い。

 

「その……」

 

 ヘッケランの雰囲気に、イミーナもまた、なんだろうと不審に思った。

 

「……プ、プレゼントがあるんだ」

「プレゼント?」

 

 意を決したようにヘッケランは深呼吸すると、バックパックから手を引き出した。

 

「こ、これを、お前に!」

 

 バッと中にあった物を前へとかざす。

 

 

 それを見た瞬間、イミーナは息をのんだ。

 

 それは一目見ただけでも、服飾の世界とは無縁なイミーナでさえ素晴らしいと分かる逸品。

 

 

 ヘッケランが手にしているのは白銀に輝く女性用ワンピース。

 首元は詰襟になっており、腰の脇には深いスリットが入っている。

 何より目を引くのは、金糸で描かれていた五本爪の竜が空へと向かい飛び立っていく様。

 見るものが見れば分かる、チャイナドレスとよばれる衣服。

 

 

 それは法国では『ケイ・セケ・コウク』の名で、そしてユグドラシルプレイヤーには『傾城傾国』という名で呼ばれる、ワールドアイテムであった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 キィ。

 

 わずかに蝶番がきしむ音を立てる。

 ウエスタンドアを揺らして入ってきたのは、厚手の服の上にゆったりとしたローブを羽織り、手には鉄の杖という、いかにも魔法詠唱者(マジック・キャスター)という格好の人物。

 だが、その服に包まれているのは、まだ十代中盤から後半といった少女だ。

 

 その少女――アルシェは宿の中を見回す。

 

 いくつかテーブルはあるもののそれらはほとんどが(から)のままで、人が座っているのはたった一つ。

 そちらへと足を進める。

 

 一人、椅子に座っていたロバーデイクは近づいてきたアルシェに気づき、口元に近づけていたコップを卓に戻した。

 

「やあ、どうでした? 高く売れましたか?」

 

 その問いにコクリとうなづく。

 

「うん。結構な値になった。それに交渉も早く済んだ」

「そうですか。こちらもですよ。街がこんな有様ですから、もっと買いたたかれるかと思ったんですがね」

「逆にこんな有様だから、お金のある人は大金を積んででもいい武器や防具、マジックアイテムとかを欲しがるのかも」

「なるほど」

 

 ロバーデイクは得心し、うなづいた。

 

 

 ここはエ・ランテルによくある、旅の者を対象にした宿屋。

 あまり飾り気のない屋内は、宿として過ごした年月を端々(はしばし)にうかがわせる様相ながらも、部屋の隅まで丹念に掃除がされており、今日の金にも困るような者達が群がる場末の宿とは違うものを感じさせた。

 彼らフォーサイトは少々懐が温かかったこともあり、エ・ランテルに来る前、人づてに聞いていたこの宿にずっと逗留していた。

 ここは普通、彼らワーカーや冒険者らが泊まるような宿ではなく、都市を渡り歩く旅の商人が泊まる宿なのだが、あいにく先日のアンデッド騒ぎ、そしてその後の治安の悪化により彼らの足が遠のいたため、今はほとんど貸し切り状態だった。

 

「ああ、そうだ。この装備とかマジックアイテムとかを売ったお金ですがね。これらに関してなんですが、ヘッケランは自分を頭割に含めなくていいと言っていましたよ」

「? どうしたの?」

「いえ、ちょっと。あの時、手に入れた装備ですが、その一つを自分のものにしたいんだそうです。ですから、その代わりに、それ以外のものを売った分は私たちで3等分してくれていいとの事です」

 

 アルシェはわずかに首をかしげて「ふぅん」と言った。

 

 今日、2人は先日の冒険者組合からの依頼、『死を撒く剣団』討伐に行った際に手に入れた装備やアイテムを売りに行ってきたのだ。

 

 

 結局、『死を撒く剣団』討伐は空振りだった。

 

 ねぐらを襲ったものの中はもぬけの殻。野盗はすでに逃げ出したのか、だれ一人いなかった。いたのは捕まっていたと思しき女性が数名程度。冒険者側の被害は、罠に引っ掛かった者が怪我をしたくらい。

 

 それでも念のため、アジト内や周辺を捜索してみようという話になった。さすがに成果なしでは帰った後の報告もしづらいという思いもあったのだろう。

 

 その時、ヘッケランがそう言えばと、先程出会ったダークエルフの話を口にした。

 アジトから出てきたダークエルフの少女2人が、「中にはもう誰もいない」と言って立ち去ったという。

 

 その話を聞いたイミーナは思案顔になった。

 

 そして、探しに行こうと言い出したのだ。

 

 イミーナは半分エルフの血を引いている。その為、人間の社会で暮らしていくのに色々と苦難や不都合があったのは想像するに難くない。

 ワーカーとして生活していく中で非情さが身についていたものの、この時、ほんの気まぐれと言ってもいいが、その2人の事が心配になったのだ。

 

 

 だが、その提案は安易にはうなづけるものではなかった。

 

 この場の冒険者たちは野盗討伐という目的の為、これから消えた野盗の捜索をしようとしているところだ。

 そんな中、そのダークエルフを探しに行くのは、途中で依頼を放棄したと言われかねない。

 

 それに、ここに来た冒険者の中でミスリル級は『天狼』のみ。それ以上はいない。

 つまりフォーサイトが抜けることは最強の二つの内、一角が抜けることになる。そうなれば、冒険者たちにも危険が及びかねない。

 

 ヘッケランは、イミーナの気持ちも分かるが、なんとか説得しようと考えた。

 だが口を開こうとしたところ、そこへロバーデイクもまた賛同の意を示した。

 ワーカーながら彼は善良な性根を持っている。彼としても、あの少女たちの事が気になったのだ。

 アルシェは中立の立場を維持し、チームの方針に従うと言った。

 

 ヘッケランは皆の考えに頭をなやませたものの、結局、ダークエルフの捜索に行くことにした。

 たしかに依頼未達成で今回の報酬はもらえないかもしれないが、すでに自分たちはこの街でかなりの額を稼いでいる。依頼一つ分、稼ぎが減っても特段問題もない。それに、どう見ても野盗たちはすでにこの近辺にはおらず、とっくにどこか遠くへ逃げ出しているだろう。

 

 そう決断したヘッケランは、『天狼』のベロテに先のダークエルフとの遭遇の一件を話し、自分たちがそのダークエルフを探しに行くため、捜索を抜けることを伝えた、

 そして、彼女ら2人がいなくなった方向へと、樹海の奥に足を踏み入れた。

 

 

 小一時間もすすんだろうか、不意に先頭を行くイミーナが制止の声をあげた。

 皆、足を止め、鎧の音すらたてぬよう身動きを抑えた。

 

 他の3人の耳には何も聞こえなかったが、イミーナの優れた聴覚は奇妙な音を捉えていた。

 

 はるか遠くで、鳥が高い鳴き声をあげながら飛び立つ音がする。

 それも大量の鳥が一斉に。

 

 

 異変を感じとり、イミーナはそちらへ向かい足を速めた。

 仲間たちも、藪に足をとられながらも、それに追随する。

 

 やがて、ヘッケラン達の耳にも段々と様々な音が響いてきた。

  

 鳥や獣のたてる警戒の声。

 空気を震わせるような低い音。

 そして、人間の断末魔の悲鳴。

 

 

 彼らは警戒の態勢をとり、物音を立てぬよう金属鎧の金具には布を詰め、緑の壁に囲まれた道なき道を進んでいった。

 

 

 突然に、視界が晴れた。

 

 林間にぽっかりと空いた空き地。

 まるでその一カ所だけ――とはいっても十分に広大であるが――業火で焼けつくされたような、奇妙な黒の空間。

 

 アルシェが地面に手をやると、まだ温かいものを感じる。

 だが、明らかに日に照らされた日向の温かさではない。

 

 火だろうか?

 だが、その割には燃えた跡があるのは、この一帯だけ。周辺への延焼はないようだ。焼け焦げた樹木のすぐそばに、新緑の壁がある。

 

 魔法だろうか?

 しかし、こんな広大な範囲を焼き尽くせる魔法など聞いたことがない。彼女が知る限り、最高の魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるフールーダ・パラダインですら、これほどの魔法は不可能だろう。

 

 なら、一体何が?

 疑問に頭を悩ますうちに、イミーナから「来て!」と声が上がった。

 

 イミーナの傍らに集まる。

 その足元には、焼け焦げた死体。それがいくつか転がっている。

 おそらく何かは分からないが、この辺りを焼きつくしたものに巻き込まれたのだろう。

 

 だが、彼らの視線の先にある物は死体そのものではなく、その体に纏った、この炎でも燃え尽きなかった剣や鎧など。

 おそらく魔法のかかっているであろう装備だった。

 

 

 通常の冒険者であれば、はるか昔の遺体などが身に纏っていた装備とかならいざ知らず、死んだばかりの遺体から装備を剥ぐなど忌避する行為である。

 

 通常、遺体を見つけた場合、かさばる物は遺体とともに埋葬し、かさばらない物は冒険者組合に所定の手続きを経て提出する。それを遺品として手にしたい者は市価の倍の価格で引き取る。金がない者には気の毒だが、そうしなければ、赤の他人が知り合いと称して持っていってしまう為だ。そうして一定期間、引き取り手がない場合は、発見した者に受け渡されるか、冒険者組合が適切な価格で買い取り、発見者には金が支払われる事になる。

 これが遺体を見つけた冒険者がとる通常の手順だ。

 建前上は、という注釈はつくが。

 

 

 だが、彼らはワーカー。

 冒険者ではなく、金の為に生きる者達である。

 そのような不文律には縛られず、また遺体を漁る事に躊躇する理由もない。

 

 フォーサイトの面々は――ロバーデイクは渋い顔をしたものの、周囲に転がる死体から金目の物を漁った。マジックアイテムを装備している遺体もかなりあり、普通の冒険者などではないという事はうかがえた。

 それらの遺体はすべて黒く焼け焦げ炭化しており、見たものに怖気(おぞけ)を走らせる、恐ろしい形相と姿形をしていた。

 だからと言って、彼らの手を止めるまでには至らなかったが。

 

 

 その時、また別の死体を探ろうと、焦げた草木を払いのけたヘッケランの手が止まった。

 その掌の下にあったのは、焼かれてもその美しさを損なうことない、見たこともない白銀の輝きを持つ衣服。

 

 それを見た瞬間、その脳裏には一つにビジョンが浮かんだ。

 

 この美しい衣服を身に纏ったイミーナの姿が。

 

 

 ヘッケランは、そばにいたロバーデイクの肩を組み、彼に頼んだ。

 

 この服を自分個人でもらう事。

 その代わり、ここに落ちていたマジックアイテム等を売却した分の金は、自分はいらない事。

 そして、このことは女性陣、イミーナとアルシェには黙っていてほしい事。

 

 真剣な表情を浮かべるヘッケラン。

 勢い込んで近づけられた顔に、困ったような表情を浮かべたものの、ロバーデイクは首肯した。

 

 ヘッケランとイミーナの二人については、からかいはするものの、神官として、そして友として祝福している。別に二人の仲をこじらせる気はない。それにヘッケランは自分の取り分を減らしてまで頼んだのだ。それには応えてあげたかった。

 

 ロバーデイクが女性陣の方へ声をかけ、そちらの手伝いに行って、その目を引いている間に、ヘッケランはナイフで遺体の頸や腕を切り、竜の文様が描かれた白銀の衣服を剥ぎ取ると、さっとバックパックの中にしまい込んだ。

 

 

 

 そうして、彼らはエ・ランテルへと戻ってきた。

 一応、その後もすこし探したものの、ダークエルフの少女二人の痕跡は見つからなかった。

 

 フォーサイトが抜けた後の『死を撒く剣団』討伐は結局、野盗には一人たりとも会う事は出来なかった。その為、依頼は完全達成とはみなされず、報酬は半額のみ。

 まあ、フォーサイトは途中離脱という扱いなので、その報酬は貰うことは出来なかったのだが。

 しかし、ねぐらに残された資産についてはフォーサイトもアジト内へ突入した時の参加メンバーだという冒険者らの判断で、彼らにも頭割した金額が配られることになった。

 

 その際、探しに行ったダークエルフは結局見つからなかった事は、皆には説明しておいた。

 

 だが、森の焼け跡の事は言わなかった。

 もし言った場合、じゃあ、そこにあった死体の装備は誰が持っていったんだという話になり、自分たちに疑いの目が向けられる羽目になりかねなかったからだ。まあ、実際持っていったのは自分たちなわけだが。

 

 そうして、あの時拾ったアイテムの売却先を探していたのだが――。

 

 

 アルシェはとりあえず、荷物を置きに部屋へ戻ろうとした。

 2階への階段に足をかける。

 

「そうだ! 売ってくるのが、かなり早かったみたいですが、どこへ行ったんですか?」

 

 ロバーデイクが慌てるように、問いかけてきた。

 突然、大きな声を出したロバーデイクに驚きながらも、アルシェは振り返る。

 

「魔術師組合。この前の件で伝手(つて)が出来たから」

 

 先だってのズーラーノーン騒ぎの際、たまたま、フォーサイトが立てこもった避難所にはエ・ランテルの魔術師組合の組合長であるテオ・ラケシルがいた。その時の縁により、ラケシルとは知己となり、マジックアイテムの買い取りもスムーズに行ってもらえたのだ。

 

 通常、冒険中に拾ったアイテムというのは、持てる量には限界があるため、よっぽどのものでない限り大抵は売り払うのが冒険者の基本である。

 だが、大抵の物ならばよいのだが、少々扱いに困るのが高価な物だ。

 

 そういった物は店先ですぐに値段の判別が出来ないため、いったん店に預けて調べてもらい、後日、金を受け取りに行くなどといったことをする場合も多い。

 その際、冒険者ならば冒険者組合がある程度信用先となるため、店側も冒険者側も互いに安心して取引が出来るのだが、そういった後ろ盾がないワーカーは少々困る事になる。預けた物を預かっていないと言われたり、安物とすり替えたりなどの詐欺にあう事もあるし、店側も買い取った後でそれが実は盗難品であることが分かって官憲に調べられたりと問題になる事が多いので、通常の店では取引を断られることも多い。

 その為、大抵は胡散臭い故買屋などの裏の店に行くことになる。

 当然そのようなところでの交渉は厄介であり、気を付けないと買いたたかれることになるため、売買には時間がかかる。 

 そういった意味で、信頼のできる魔術師組合で買い取ってもらえたことは実に幸運だった。

 

 

 再度、アルシェは2階への階段を登ろうと足をかける。

 だが、そこへ再びロバーデイクが焦ったような声をかけた。

 

「ああ、私の方は故買屋へ行ってきましてね。紹介されたギラード商会というところに行ったんですが、長引くかと思ったら、すんなりといきましたよ。なかなかいい額で買い取ってもらいました」

 

 それには興味をひかれ、アルシェは足を止めた。

 

 ロバーデイクが持って行ったのは魔法のかかった武器など、一目では値がつけにくい物。そのような物を大した交渉もなしで高い金を出すというのはどのような店なのだろう。よっぽどの目利きがいるのだろうか?

 

 

「じゃあ、話を聞かせて。でも、ちょっと待ってて、荷物を置いてくるから」

「いえ! まあ、話なら今しましょう。帰ってきたばかりですから、まず飲み物でもどうですか?」

 

 三度(みたび)、階段を上りかけるアルシェ。だが、そこへまた声をかけるロバーデイク。 

 さすがにアルシェは不審げな表情を浮かべた。

 

 なぜ、ロバーデイクは自分が2階に上がろうとすると、それを止めるように声をかけるのだろう?

 2階に何があるのか?

 

 どうしても気になった。

「うん。じゃあ、私もミルクでいい。持ってきて」

 

 階段にかけた足を下ろし、そう言った。

 ロバーデイクは安堵の息を吐き、この店には給仕など居ないため、カウンターへカップを取りに腰を浮かせた。

 

 ロバーデイクの目がそれた隙を見計らい、アルシェは2階へと駆けあがった。

 その背に「あ……!」という声が届く。

 

 そして、2階の部屋、自分とイミーナの2人部屋の前へとたどり着く。

 ノックをしようとした瞬間――誰かの声が聞こえた気がした。

 

 何だろう?

 

 耳を澄ます。

 それはヘッケランの声だった。

 

 「おお、似合ってるぜ! イミーナ!」、「ああ、凄いきれいだ!」、「ひゃっほー!」という興奮した声。

 その後、何か重いものがベッドに落ちる音。

 きゃっきゃという男女の笑い声。

 そして、……ベッドがきしむ音が耳に届いた。

 

 

 アルシェはその場で回れ右をし、1階に降りてきた。

 

 ぎこちない動きで、年季の入った頑丈そうな椅子に腰を下ろす。アルシェが生まれたころから使われていそうな椅子は、防具まで含めたアルシェの重みを受けても軋みすらしなかった。

 

 目の前のテーブルにヘッケランがミルクの入ったカップを置く。

 それを両手で掴み、口に含んだ。牛乳本来の味だけでなく、やや甘みが混じっている。僅かばかり蜂蜜を入れたのだろう。

 もう一口飲み、カップを下ろした。

 

 向かいの席に少し困ったような顔でロバーデイクが腰を下ろした。

 

「……あの2人ってそういう関係だったの?」

「ええ。私の知る限り、帝都を出る少し前あたりからでしょうか」

「そ、そうなんだ」

 

 再びカップを口に運ぶ。

 いつも人形のような顔が、今は赤みがかっていた。

 

 しばらく二人とも口を開かなかったが、ロバーデイクは顎髭をさすりながら言った。

 

「しかし、我々のパーティーも今後どうするか、考えなくてはならないかもしれませんね」

 

 その発言にアルシェは驚いて、彼の顔を見た。

 

「いえ、通常こういったパーティーは同性同士で組むのが普通で、我々のように男女混ざり合ったものというのは少ないんですよ。どうしても、男性と女性が一緒に行動していると、そこに恋愛などが生まれます。そうなるとパーティー内に不和が出来たりしますからね」

 

 それはアルシェも聞いたことがある。

 仲間内で相談する時に誰か一人の肩を持ったり、戦闘の時に恋仲の相手をかばったりと、パーティ内のバランスが崩れて、チームが崩壊するきっかけになったりするらしい。

 

「まさか、あの二人はそんなおかしな事にはならないと思いますが……。ですが、私も今まで、そうやってチームが分裂したのを何度か見てきましたからね」

 

 フォーサイトが無くなる。

 それを考えたとき、アルシェの背に冷たいものが走った。

 

 とても利己的な考えだが、このパーティーが無くなったら、自分は一体どうやって金を稼げばいいのだろう? 

 アルシェはパーティー間を渡り歩いたことは無い。仲間が欲しがっていた、特に魔法詠唱者(マジック・キャスター)を探していた彼らと偶然にも知り合い、それからずっと旅をしてきた。

 

 自分には実家の為に金が要る。いくら稼いでも、貴族だった時のように湯水のごとく金を使う父と母。そんな彼らのために金を稼ぎ続けなければいけないのは馬鹿らしい。だが、そうしなければ自分の妹たちがどうなるか分からない。それに実家の使用人たちもいるのだ。彼らとその家族も路頭に迷う羽目になる。

 今まで自分が稼いできた金は、そちらにすべて流してきた。その為、パーティーを組んでいても、自分だけは装備は劣悪なままだった。

 今までフォーサイトの面々は、そんな自分を見ても何も言わないでいてくれたが、他のパーティーに移ったらそうはいかないだろう。なにせ、一人だけ悪い装備をしているという事は、その分戦力が下がるという事なのだから。

 どうすべきか……。

 

 沈んだ顔で物思いにふけるアルシェ。

 その顔を見て、ロバーデイクは息を吐いて言った。

 

「そうですね……。何をするにしても、そろそろ帝国に戻りましょうか? それから考えても遅くはないですし」

 

 もともとフォーサイトは帝国の帝都を足場として活動していた。本来、エ・ランテルに来たのは、カッツェ平野でのアンデッド狩りのついでに、ちょっと買い物に寄っただけだったのだ。割と報酬のいい仕事を回してもらえていたので長居してしまっていたが、確かにそろそろ帰ってもいいかもしれない。

 

 それにアルシェはまた実家に金を渡さなくてはならない。

 帝都を離れる前に一度、まとめて返したため、次の返済までにはまだまだ日があるはずだが、エ・ランテルでの件のように不意のアクシデントなどがあるかもしれないことを考えると、余裕を持っておいた方がいい。

 

「まあ、とにかく、ゆっくり考えましょう。何も今日明日で決めなければいけないことでもありませんし。そもそも、パーティーが解散するかも決まっていないんですし。なにがどうなるか、先の事は分かりませんからね。慌てることはありませんよ」

 

 酷い顔をしていたのだろう。アルシェを安心させるように微笑みかけ、ロバーデイクは自分のカップを彼女のカップに、コンとぶつけた。

 アルシェは顔をあげ、肩の力を抜いて座り直し、同じようにカップとカップを打ち合わせた。

 

 口にしたミルクは甘い味がした。

 

 

 

 1時間後、そろって階下に降りてきたヘッケランとイミーナ。

 2人は予想より早くロバーデイクとアルシェが帰ってきていた事に内心慌てたが、何でもないようにテーブルに着いた。

 

「先ほどはお楽しみでしたね」

 

 にやりと笑って言うロバーデイクに、ヘッケランは慌て、イミーナは顔を赤くした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ん……」

 

 曲げていた腰を起こし、大きく伸びをするエンリ。

 暖かな日の当たる所で体を動かしていたため、下着が汗でしめり、すこし気色悪い。

 

 その背に、少し離れたところにいたカイジャリが声をかけた。

 

「姐さん! 少し休んでいていいですぜ。俺らがやりますから!」

 

 顔を上に向けるエンリ。太陽は真上、空高く上っている。

 

「そろそろお昼にしましょうか。ネムが準備してくれているはずですし」

 

 その声に、周辺にいたゴブリンたちが一斉に歓声をあげる。

 手にしていた道具を手に、村の門へと皆、足を向ける。

 昼食は何だろうとワイワイ話しながら、一様に楽しげな雰囲気を醸し出している。

 

 そして、堀に渡された跳ね橋を渡り、異様に立派な石造りの門をくぐると――ささっとその陰に身を隠した。

 

 そうして、小さな声で尋ねる。

 

「いました?」

「ええ、今日もいましたぜ。一体、何なんだか?」

 

 ため息をつく一同。

 そこへ、ンフィーレアとネムが大きなかごを手に、並んでやって来た。

 

「やあ、お疲れさま。どうだった?」

「やっぱり、私たちだけじゃ、どうしても手が足りないよ」

「まあ、いくらゴブリンさんたちの力を借りても、村一つ分だからね、それにあまり門から遠くへはいけないし」

「うん」

 

 そういうエンリの目が門の影に身を潜めている、暴力的な死の化身のようなアンデッド――デスナイトのリュースに向けられる。

 門柱の裏にピタリと背をつけて立つその首からは、おぞましい恐怖を感じさせる姿態とは裏腹の可愛らしいポシェットを下げていた。

 

 これはエンリが作ったものだ。

 普段は村で警備の任務に就いているものの、しばらく前にアインズの指示で村を離れ、そして戻ってきた時には、その手に黒いオーブを握っていた。

 それから、どこで何をするにしても、そのオーブを手にしたままだったので、それでは持ち運びに不便だろうとポシェットを作ってオーブを入れ、首からかけられるようにしてあげたのだ。

 低い唸り声をあげながら、体を左右に揺らしていたので、喜んでいたんだろう。

 ……たぶん。

 

 そのリュースが何故、今、カルネ村への入り口でその身を隠すようにしているかというと、エンリを守るためである。

 

 そして、何故そんな風にエンリを守らなければいけないかというと……。

 

 

「…………エンリ」

 

 門の上に作られた(やぐら)へ上り、身を隠すように壁際へと近づくと、先にそこにいたアインズの使い、シズに声をかけられた。

 

「どうも、シズさん。何か動きは?」

「…………ない」

 

 そう言うと望遠鏡というアイテムを渡してくれた。それを使い、外側からは見えないように偽装された覗き窓から村の外を見る。

 この望遠鏡というアイテムを使うと、遠くの物がものすごくよく見える。一体、どのような魔法がかかっているのかはエンリには分からなかったが、使い方は教わってるため不都合はなかった。

 

 その円く切り取られた視界の先。

 緑に支配された森の外縁。あの奥はトブの大森林へと続いている。

 そこに奇妙な姿があった。

 

 薄茶色のフード付きローブを頭からかぶった奇妙な人影。

 あれが、今、カルネ村の者達が警戒している謎の人物だった。

 

 

 

 あれが現れたのは数日前。

 

 周辺を監視していたシズが発見した。

 不審な人物がいるとンフィーレアに連絡し、望遠鏡で確認した彼が、万が一を考え壁の外で農作業していた村人たちへ村に戻るよう合図を送った。

 すぐさま門を通って村の中へ退避する中、ゴブリンやオーガたち、そしてリュースらは防衛態勢を整えた。

 

 だが、その後待てど暮らせど、何者かが攻め寄せてくる気配はない。

 

 (やぐら)で監視し続けていたシズによると、村人たちが逃げ始めた際には驚いた様子を見せたものの、門の内側に逃げてからは門が見通せる場所に陣取り、じっと動かずにいたらしい。

 

 その日は、そのまま警戒態勢を続けたが、向こうも何も行動を起こす事はなかった。

 

 

 翌日、村の外に出たのはエンリとゴブリンたちだけだった。

 

 前夜に会合が開かれ、あの謎の人物が何者なのか分かるまでは、外に出るのは控えた方が良いと決まった。

 だが、塀の外にある畑をそのままにはしておけないし、まったく向こうと接触する機会も無しではいつまでかかるか分からないため、ゴブリンに守られたエンリが村の外へ出て、畑仕事などここ数日中にやらなければいけない作業をすることになった。

 もちろん、向こうが何らかのアプローチをしてきたときは、交渉なり、戦闘なり対処する。

 

 だが、あくまでエンリの身の安全を最優先するという、当然の事は皆で確認した。

 その為、作業する範囲は門の近くのみ。

 すなわち、危険が迫った時にはゴブリンたちが足止めし、その間にデスナイトのリュースやオーガたちがすぐに駆けつけられる所でのみ、という事になった。

 

 そうして数日、なかば囮代わりのエンリがゴブリンたちと共に行動していたものの、フードの人物は何もする気配がない。だが、こちらに関心がないというわけではなさそうだ。その証拠に、エンリらが動くと、その姿が見える場所へと移動する。

 

 村の方ではかえって動きがないことに当惑していた。

 畑仕事の中でも急ぎの作業だけエンリらにやってもらっているが、本来、農作業は山ほどやることがある。しばらくは何とかなっても、このまま作業が出来ないと、収穫に深刻な被害がでる。そうなれば、納める税が足りなくなり、自分たちが飢える事態になりかねない。

 

 カルネ村の住人はほとほと困り果てていた。

 

 

「どうしやすかい、姐さん? なんでしたら、やはりとっ捕まえましょうか?」

 

 カイジャリがそう提案するが、なかなか首を縦に振ることはできない。

 

 まず、相手が何者なのか、敵ならば戦力がどれくらいあるのかが全く分からない。下手に手を出して、藪蛇になっては困る。

 それに相手がいる位置が問題だ。

 あのフードの人物はトブの大森林へと続く森の外縁付近にいる。村から出て捕まえようと追いかけても、その間に樹林の奥へと逃げ込むだろう。あの者が森の中での活動に長けているかは分からない。だが、追いかけ捕らえるのは困難であることは予想できる。

 

 ちなみにシズならば、遠距離からバッドステータスを与える弾丸を用い、狙撃することでたやすく捕縛することは出来たのだが、エンリらはそんなシズの能力など知らない。

 

 その為、カルネ村全体の方針としては、警戒はしてもこちらからは手は出さず、相手の動きを見守るという消極策しか出来ないでいた。

 

 

「もうちょっとだけ、待ってみましょう。それでどうしても、動かないようでしたら、シズさんを通じてゴウン様に相談することも考えましょう」

 

 そういうと、先ほどネムが持ってきてくれた昼ごはん、パンの半ばにナイフを入れ、そこに野菜や肉を挟んだものを頬張った。

 

 

 そして、午後の作業を始める。

 そうは言っても、さすがに村の入り口に近い範囲のみのため、そろそろやることが無くなってきた。出来るだけゆっくり、小休止を挟みながら作業をする。

 

「動きやしたぜ」

 

 不意にゴコウが声をかけた。

 「顔を向けないようにしてください」と注意を受けたので、うつむいたまま目だけを向けると、今まで森と呼べる範囲から出る事がなかったフードの人物が草原へ歩み出てくる。

 その足は一直線にこちらへ向かってきていた。

 

 さりげない(てい)でゴブリンたちが動く。

 エンリの周囲に展開し、いざというときは自分の命を捨ててでも自分たちの主を守るために。

 

 そっと目をやると、門の入り口付近ではリュース並びにオーガらがいつでも飛び出せるように構えていた。

 大丈夫、ネムはいない。

 ンフィーレアは家へと戻っているところなのだろう。

 

 その様子を確かめてから、エンリは体を起こし、フードの人物が歩み寄るのを待ち受けた。

 

 

 やがてエンリと20メートルほどの距離を置き、フードの人物が相対する。

 

 大きい。

 ごくりとエンリが唾をのんだ。遠くにいたときは気づかなかったが、こうして近くで見ると、上背は2メートル弱はあり、ローブに隠されはっきりとは分からないが、体の厚みもかなりある。

 

 エンリのすぐ後ろにはゴブリンたちが並んだ。

 これはまず話してみようというエンリの意向の為だ。だが、もしほんのすこしでも不穏な動きを察知したら、すぐにエンリの盾になれるような距離に控えている。

 

 

 草原を風がなびく。

 

 どちらも言葉がないまま、時間が過ぎる。

 その硬直にじれ始めたとき、フードの人物が声を発した。

 

「……ここはエ・ランテルか?」

 

 奇妙な、息が抜けるような不思議な発音。

 その声にも、その問いにも、不思議に思いつつ、だが気圧されてはいけないと、エンリは凛とした声を発した。

 

「いえ。ここはカルネ村です」

 

 その答えに、フードの人物は微かに体を揺らしただけだった。

 

「……話しているお前は何者だ? このゴブリンたちをまとめているのはお前か?」

 

 その問いには、横からジュゲムが胴間声をあげた。

 

「おう! この方こそ、俺たちが忠誠を誓うエンリの姐さんよ!」

「……村にはオーガらもいた。そいつらをまとめているのも、そのエンリという……人間のメスか?」

「そうだ! オーガたちも、このエンリの姐さんの命令なら何でも聞くぜ。姐さんの為ならば、俺たちは全員、命だって捨てる覚悟だ!」

 

 ジュゲムの宣言に顔が赤くなりそうだったが、ここでうつむいてはいけないと、視線はフードの人物からそらさなかった。

 

 

 しばらく、身じろぎもせずに立っていたその人物は、やおらローブの下から手を出した。

 黒い鱗に包まれた、短いかぎづめの生えた手。

 

 その手に驚くより早く、頭部を隠すフードを掴み、一気に投げ捨てた。

 

 

 その中に隠されていた姿を見て、エンリは息をのんだ。

 

 全身が黒い鱗でおおわれ、見るからに筋肉が発達した屈強な体躯。

 だが、何より目につくのは、長い尻尾の生えた直立した蜥蜴とでもいうべきその姿形。

 

 

 蜥蜴人(リザードマン)

 

 

 それはおとぎ話の中でしか聞いたことのない姿。

 

 おそらく一生目にすることすら無かったはずの種族の登場に、エンリは現実から乖離(かいり)した感覚に襲われていた。

 

 だが、その彼女の前で、その蜥蜴人(リザードマン)は片膝をついて(こうべ)を垂れた。

 

 

「カルネ族の族長エンリよ。俺は緑爪(グリーン・クロー)族のザリュース・シャシャ。人間の身にしてゴブリンやオーガら異種族たちをもまとめあげるお前に頼みがある。我が種族の為に助力を願いたい」

 

 

 




 ラナーの思惑もやろうと思ったのですが、書いてみたら、現段階ではラナーが一人で延々考え続けるという展開になり、際限なく長くなったので、今回は断念しました。

 ヘッケランはちゃんと『傾城傾国』を女性陣の目につかないように、こっそり洗って干してから渡していますよ。




 ―― 一連の時系列です ――


 アウラとマーレ、漆黒聖典、ツアーが戦闘。
 マーレの魔法により、隊長を除いた漆黒聖典とブレインが死亡。
 アウラ、マーレ、エクレア離脱。

   ↓

 魔法の持続時間が終了。
 重傷を負った隊長が離脱。
 それを確認した後、ツアーも離脱。

   ↓

 戦闘から30分後。現場にフォーサイト到着。
 『傾城傾国』並びにかさばらないアイテム等を回収。

   ↓

 戦闘から半日後。現場にベルが到着。
 フォーサイトが持っていくのを断念したかさばるアイテムを回収。死体に罠を仕掛ける。

   ↓

 戦闘から丸1日後。法国の部隊を引き連れ、隊長が現場に戻る。
 漆黒聖典の遺体を回収しようとして、ベルが仕掛けた罠に引っ掛かり二桁の被害を出す。

   ↓

 戦闘から数日後。ブリタら冒険者が現場に到着。
 残されていたブレインの死体を調べようとして、ベルが仕掛けた罠に引っ掛かりブリタら全滅。

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