オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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2016/4/29 「転移門(ゲート)〉要因として」 → 「転移門(ゲート)〉要員として」訂正しました
2016/5/4 「アウラとマーレは黙り込み」 → 「アウラとシャルティアは黙り込み」訂正しました
2016/10/9 ルビで小書き文字が通常サイズの文字になっていたところを訂正しました
2017/5/18 「口を聞いて」→「口を利いて」、「体制」→「態勢」、「押さえつけ」→「抑えつけ」 訂正しました
 句点と読点が間違っていたところを訂正しました。


第33話 救援――出陣

「なるほど、そういう事だったのか」

 

 ザリュースが得心したと声をだした。

 

 ここは〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉の集落の集会所。この地に住まう蜥蜴人(リザードマン)達の他の家屋と同様、湿地に突き立てられた杭の上に立つ、数十人が一度に入れるような広い板張りの部屋だ。もっとも今は板壁の一部が破れ、その上を覆う屋根も半ば吹き飛び、半屋外となっている。

 

 今、その部屋には8名の人物がいる。

 人と呼んでいいのか迷う者もいるが、ザリュース、ゼンベル、シャースーリュー、リュラリュース、そしてアインズとシズ、それと〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉並びに〈朱の瞳(レッド・アイ)〉の族長達である。

 

 

 今、蜥蜴人(リザードマン)達は怪我の治療や集落の復旧に取り掛かっている。

 蜥蜴人(リザードマン)の全5部族――〈小さな牙(スモール・ファング)〉はすでに壊滅状態だが――共同でだ。

 

 

 落とし子の襲撃から、いくばくかの時間が経った。

 他の者達が先の戦闘で壊れた箇所の修復や、次なる戦闘に備えた準備をするなか、リーダーである者達は今後の対策を話し合うため、こうして一つ所に集まり、情報を交換していた。

 

 

 そこで、村を離れていたザリュースに対して、これまでの経緯が説明されていた。

 

 ザリュースがナーガの協力を求め、〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉の集落を離れた後、残った者達は他の蜥蜴人(リザードマン)2部族との同盟に動いた。

 〈朱の瞳(レッド・アイ)〉は比較的簡単に話がまとまったものの、〈竜牙(ドラゴン・タスク)〉に関してはシャースーリューが現在の族長であるゼンベルと決闘して納得させるという事態になった。

 

 そうして、それらの部族が合流したところに、ゴブリンとオーガが村に現れた。

 

 〈緑爪(グリーン・クロー)〉の者達はその姿を知っていた。

 あのナーガの使いだった。

 

 その者達の口からザリュースが行った交渉の内容が語られた。

 

 ナーガ――リュラリュースは協力を約束し、こちらの同意さえあれば、合流もやぶさかではないと。そして、ザリュース本人はかつて魔樹を封印したという人間たちの力と知恵を借りるために森の外を目指していったと。

 

 その話を聞いた蜥蜴人(リザードマン)達の胸中は様々だった。

 ザリュースは人間たちの協力を取り付けに森の外へと向かったという。

 自分たちを(さげす)み、迫害する人間たちが自分たち蜥蜴人(リザードマン)の話など聞くはずがないではないか。むしろ、自分たちの英雄であるザリュースが人間たちに襲われ、失われるだけではないか?

 そもそも、このゴブリンたちが持ってきた話は本当なのか? こいつら自身がザリュースを殺しておいて、味方のふりをして村に入り込み、自分たちを襲う気なのではないか?

 話を聞いた者達は、そんな事を考えた。

 

 だが、シャースーリューを始めとした族長達が宣言した。

 

 彼らを信用する、と。

 今はそんなことを言っている場合ではない、と。

 ゴブリンやオーガだから、そしてナーガだからなどと言わず、種族の違いを超えて協力すべき時である、と。

 彼らを信用し力を合わせるべきだ、と。

 

 

 蜥蜴人(リザードマン)達から告げられた協力の意を伝える知らせを持って、ゴブリンは急ぎ己が拠点へと戻った。

 

 そして、再度戻ってきた時には、人間の身体に蛇の下半身を持つ恐るべき力を有する怪物(モンスター)、話に聞くナーガと数名のオーガ、トロールを引き連れていた。

 

 そこでリュラリュースは蜥蜴人(リザードマン)の族長たちと会合を開き、正式に魔樹に対抗するための同盟を組むことを約束した。

 

 

 その時、〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉の集落に、甲高い擦過音が響いた。

 蜥蜴人(リザードマン)が発する警戒の声だ。

 

 慌てて集会所を飛び出すと、ここ最近で新たに作られた木の柵や泥の壁の向こうから、巨大な樹木の怪物(モンスター)、世界を滅ぼす魔樹の『落とし子』の群れが迫って来ていた。

 

 

 ――そうして、その場にいた者達で防戦していたところ、ザリュースがアインズらを連れてもどり、あとは知っての通り、その偉大な魔法で『落とし子』を一掃したという事だ。

 

 

 

「事の次第は分かった。それで聞かせてくれないかね? その世界を滅ぼす魔樹とやらについて」

 

 静かに口に出された仮面の魔術師の言葉に、その場の者達は誰しもが押し黙った。

 

 その人物に対しては、勇猛であることを誇りとする蜥蜴人(リザードマン)達ですら気後れしてしまい、下手な口を利いてはいけないという本能的なものが働いていた。

 

 実際、彼らの目の前で振るわれた天の星々すら動かす偉大な魔法。そして、ザリュースの口から語られた、剣を手にした戦いですら当代の〈凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)〉の持ち主である彼自身をも凌駕(りょうが)するというほどの圧倒的な戦闘力。

 彼らはこの援軍としてやって来た謎の魔法詠唱者(マジック・キャスター)にどう接すればいいか、計りかねていた。

 

「ふむ。では、わしが知る限りの情報をお教えしましょう」

 

 静まり返った中、リュラリュースが語りだす。

 およそ、この場にいる蜥蜴人(リザードマン)すべてとまとめて戦えるであろう彼だが、すでにアインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔法詠唱者(マジック・キャスター)の力をその身で体験していた。

 つい先ほど力試しにと戦い、その身に刻まれた傷跡は、()の人物が渡した、この地に生きる者には再現出来ぬ赤きポーションによって完全に治癒していた。

 

 そうして、語られた内容。

 すでにザリュースに話してはいたため、彼から先に聞いた内容とほぼ同じものではあったが、より仔細なものだった。

 アインズはそれをうなづきながら聞く。

 

「そうか。それで、その魔樹本体がいる場所は分かるか?」

 

 アインズが特に聞きたかったのはそれである。

 それに対しリュラリュースは、この蜥蜴人(リザードマン)の集落からの行き方を語って聞かせた。

 

 アインズは聞かされた内容を〈伝言(メッセージ)〉でナザリックにいるベルに伝える。

 ベルはその情報をもとに〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉に映る画面を動かしていく。

 

「どうされましたかな?」

 

 自分の話を聞きながら、時折口をはさんでは、また急に黙り込むアインズの様子に、リュラリュースは疑問を口にした。

 

「ああ、お前の話をもとに魔法で居場所を探っているのだ」

「なんと! 信じられん……。魔樹の居場所はここからはるか遠く。そんな遠くまで見通せる魔法を使用されていたのですか! いったい、どのような魔法で……。〈千里眼(クレアボヤンス)〉でも距離が遠すぎて見通せぬはず……」

 

 微妙に勘違いしていたようだが、特に手の内をさらすこともないと、訂正はしなかった。

 

 そうしているうちに、ベルはどんどん〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉の視点を進めていた。

 

《ええっと、3つの尖った岩……ああ、これか。ここを北に進むっと……。んーと、そして……お! なんだか森が枯れてる一帯がありましたよ》

 

 ベルから語られた場所をリュラリュースに確認すると、アインズの行使している(と思っている)魔法に対する感嘆の言葉とともに、まさにその付近であると言った。

 アインズはそのことを伝え、近辺を探ってほしいと送った。

 

《はいはい。この付近ですね。一回、上にあげてみるか……。あ、例の『落とし子』が何体かいますね。じゃあ、あの辺にズームして……お、何かが……っ!?》

 

 驚いたようなベルの思念に、アインズは尋ねた。

 

《どうしました?》

《これは……もしかしたら、釣れたかもしれませんね》

《プレイヤーですか?》

《いえ、それは分かりません。……ですが、高レベルキャラみたいです》

《へえ。一体、何が映ったんですか?》

 

 興味深げに聞くアインズ、それに対しベルは否定の言葉を返した。

 

《映りませんでした》

《?》

《アインズさん、憶えてますか? この〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビユーイング)〉って、対監視魔法とかで反撃されるのを避けるために、そういう対策をとっている者を見ようとしたら強制的に遮断するよう設定しているのを》

 

 アインズはしばし目を宙に動かし、記憶を探る。

 

《……ああ、そう言えば。色々なアイテムを付与して、そんな風に設定し直しましたね》

《ええ、そうです。それが発動しました。見ようとした瞬間、効果が切れましたよ》

《つまり、なんらかの対監視措置を有している存在という訳ですか》

《はい。今までそんなことが出来る存在なんて、この世界では見当たらなかったんですが……。これは注意が必要ですね》

《どうします? やっぱり手を貸すのは止めておきましょうか?》

《いえ。ある意味、ようやく掴んだ尻尾です。誰のものか、どんなものかは分かりませんが、調べないという選択肢はありません。ですが、より警戒は必要です。とりあえず万が一を考えて、そちらに増援を送りましょう。誰を送るかはこれから考えますが、しばらく待っていてくださいね。俺はこれからニグレドの所に行きます。アレの探知でしたら、より強力ですから、その魔樹を捉えられるかもしれません。そういう訳ですみませんが、これからしばらくは緊急の〈伝言(メッセージ)〉はアルベドにお願いします。では》

 

 〈伝言(メッセージ)〉が切れた。

 視線を戻すと、集会所にいる誰もが黙り込むアインズの顔を仮面越しに見つめている。

 

「ふむ。どうやら相手はなかなか強力な存在らしいな。魔法による探知を妨害された」

 

 そしてゆっくりと、自分に視線を向ける者達を見回し、言葉をつづけた。

 

「これは少々本気を出さねばならぬかもしれんな。なに、心配はいらん。たかが、捜査の魔法一つ防がれたからと言って、我が魔導の奥義を打ち破ることは出来ん。だが念のため、私の配下の者達もこちらに呼び寄せるとしよう。魔樹の討伐におもむくのはそれからだな」

 

 アインズの宣言に、安堵のこもった息が漏れた。

 

 この桁外れな魔法詠唱者(マジック・キャスター)の魔法すら妨害する。世界を滅ぼす魔樹がそれほどまでに強大な存在であったという事実に、アインズが当初の話と異なり、協力を止めると言い出す可能性が一瞬頭をよぎったのだが、それは杞憂だったようだ。

 

 そうして、話はこれからどうするかという話題に移った。

 あまり大軍で言っても、森の中では蜥蜴人(リザードマン)はあまり上手く立ち回れない。それに装備の問題もある。いくらかは金属の武器などもあるが、それは戦士階級全員に配れるほどでもない。

 その為、蜥蜴人(リザードマン)の中でも精鋭を40名ほど選抜し、アインズやリュラリュースらとともに討伐隊を結成することになった。

 残りの者達は討伐隊が魔樹本体へ攻撃を仕掛けに行っている間、村を守る。その際、『落とし子』が現れたら、あまり防御に固執せず、退避を優先させるとい指針が決められた。

 

 当面の方針が固まり、張り詰める様に緊迫していた場の空気が、やや弛緩したものに変わる。

 

 

 その時、ザリュースが口を開いた。

 

「〈朱の瞳(レッド・アイ)〉の族長よ。少々いいだろうか?」

 

 言われた〈朱の瞳(レッド・アイ)〉の族長――正式には族長ではなく族長代理だが――アルビノ特有の白い身体を持つ蜥蜴人(リザードマン)、クルシュ・ルールーはその顔を向けた。

 

「なんでしょう?」

 

 討伐におもむく精鋭部隊の中には当然クルシュも含まれている。戦いの前に、彼女が使える部族一、いや、おそらくこの湖に住む蜥蜴人(リザードマン)随一(ずいいち)である森司祭(ドルイド)の力、その詳細が聞きたいのだろうかと思った。

 

 皆が注目する中、再度ザリュースが口を開いた。

 

 

「結婚してくれ」

 

 

「「「「「「は!?」」」」」」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 いまだ天高くある陽光が集落の湿地、そしてそこから繋がる対岸すら見とおせぬほどの広大な湖を満たす水をきらめかせ、そこから突き出す丈の長い水草の緑と相まって、みずみずしい生命の息吹を感じさせる。

 普通なら誰しも思わず目を奪われる様な美しい光景だが、それを前にしたアインズは腕を組み、心ここにあらずとはるか遠くを見つめていた。

 その仮面の下に隠された顔にいかような表情を浮かべているのかは知るものもない。

 

 

 やがて誰に聞かせるでもなく、ぽつりとつぶやいた。

 

「……恐ろしいな……」

 

 

 その言葉をたまさか通りかかった、集落や防御柵の復旧のために木材を運んでいた者や、これからおもむく戦いに備え武器を用意していた者達の耳に入った。

 

 その言葉に、蜥蜴人(リザードマン)達は思わず息をのんだ。

 

 彼らはこの仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が人知を超えた力を持つ存在であることを、先の戦いでよく理解している。

 あの天に輝く星を落とすという常識はずれな魔法、自分たちがあれだけ苦戦していた『落とし子』をたやすく滅ぼしつくす偉大な御業。

 

 それを使いこなすような人物でさえ恐怖するほど、あの世界を滅ぼす魔樹というものは凄まじい存在なのだろうか?

 蜥蜴人(リザードマン)達の我知らず早まる鼓動が、その胸の内を激しく打ち鳴らしていた。

 

 

 そんな周囲の者達の様子など気にも留めずに、アインズは物思いにふける。

 

(恐ろしい……。初対面で、しかも人前で、いきなり『結婚してくれ』だと!? あれが、あれがリア充というヤツなのか!! な、なんという……。しかも、言われた白い蜥蜴人(リザードマン)――クルシュだっけ――もまんざらでもないようだったし……。これがペロロンチーノさんが言っていた『ただし、イケメンに限る』というヤツなのか? 蜥蜴人(リザードマン)の顔の良し悪しとかは分からないけど)

 

 思わず身震いするアインズ。

 その様もまた周囲の蜥蜴人(リザードマン)は見ていたわけだが、そこへ〈伝言(メッセージ)〉が届いた。

 

《もしもし。アインズさん、聞こえますか?》

 

 すでに聞きなれた声に、アインズはようやく気を取り直した。

 

《はい。どうも、ベルさん。聞こえてますよ》

《どうもー。それで早速ですが、魔樹の件です》

《どうでしたか?》

《ええ。ニグレドのところに行って探知してもらいましたよ。ニグレドのところに行って探知してもらいましたよ》

《……それはお疲れさまでした》

 

 わざわざ二度言ったベルに斟酌(しんしゃく)してねぎらいの言葉をかけた。

 

《……まあ、それはいいとして》

 

 疲れた口調でベルは続ける。

 

《さっき、〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉が切れた辺りを調べてもらったんですがね。やっぱり、いましたね。なんだか、凄いでかい怪物(モンスター)が》

《ほう。それで何かわかりました? それとザイトルクワエとかいう名前については?》

 

 先ほどリュラリュースから聞かされた話、おそらく200年程前に来たという冒険者たちはその魔樹の事をザイトルクワエと呼んでいたらしい。聞き覚えのない名前にアインズはその実力を計りかねていた。

 

《まずはニグレドの探知越しの調査ですが、さすがに探知魔法越しでは実力は測りかねますね。ですが、調べた限りという前提がつきますが、どうやらそいつは複数存在するとかではなく1体のみ。それと、『落とし子』とやらは結構いますけど、それ以外は味方となるものはいないみたいです。そしてザイトルクワエですが、見つけましたよ。タブラさんの残した百科事典(エンサイクロペディア)にありました》

《おお。ありましたか。私、名前すら聞いたことも無かったですけど》

《俺も知りませんでしたよ。クトゥルー神話に出てくる植物っぽい怪物(モンスター)みたいですね》

《あー、なるほど。そう言えば、タブラさんってそっち系のファンの人たちと、ユグドラシルにいるクトゥルー神話由来の怪物(モンスター)めぐりとかしてましたからね》

《タブラさんの書き残しによると、レベル的には80くらいだとか。主な攻撃手段は6本の触手攻撃と種を飛ばす攻撃みたいです》

《あ、レベル80ですか。そのくらいなら、そんなに心配する必要もありませんでしたか》

《ただ、ちょっと気になる事もありますね》

 

 ベルはわずかに言いよどんだ。

 

《その魔樹をザイトルクワエと呼んだという人物。つまり、それを知っているって事はクトゥルー神話の知識がある人物だったってことですよね》

《……プレイヤーですか?》

《その可能性は高いと思います。まあ、生きているかは分かりませんが、死んでいないとも限りませんな。リュラリュースにそれを語ったっていう、そのドライアードに会ってみて、もう少し詳しく話を聞いてみたいですね》

《そうですね》

 

 ふと、アインズは周囲を見渡す。

 仮面の目を向けられた蜥蜴人(リザードマン)達は、思わずびくりと背を震わせた。

 

《……それで、こちらはじきに蜥蜴人(リザードマン)達の出撃態勢が整いそうですが、準備出来次第、魔樹のところに出発するという形でいいですか?》

《いえ、そうなると移動手段は歩きですよね? それだと、おそらく何日もかかると思いますので、魔樹のいる場所から少し離れたところに、〈転移門(ゲート)〉を繋げましょう》

《〈転移門(ゲート)〉ですか? それだと、万が一監視している者がいたら、こちらが転移手段を有していることに気づかれませんか?》

《その危険性はあります。ですが、何日も見通しのきかない森の中を移動し続けるよりは安全でしょう。長期間にわたって警戒網を敷き続けるほうが、こちらの手の内をさぐられる可能性が高いと思います》

《あー、なるほど》

《それに、何日も旅するのめんどいでしょう?》

《まあ、確かに》

《ですから転移地点付近の安全確認、それとこっちの準備が終わったら、また連絡しますね。まあ、魔樹付近まで魔法で転移することが出来る。今、配下の者達にその準備させている所なので少し待て、とか言っておいてください》

《了解です》

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ほどなくして、蜥蜴人(リザードマン)達の準備が整った。

 

 集落の中央にある広場に皆が集結する。

 

 彼ら、湖に住む蜥蜴人(リザードマン)のなかでも選ばれし40人の精鋭。その中にはもちろん、ザリュース、シャースーリュー、ゼンベルの姿もある。〈白竜の骨鎧(ホワイト・ドラゴン・ボーン)〉に身を包んだ〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉の族長や、先程告白を受けた〈朱の瞳(レッド・アイ)〉のクルシュの姿もある。

 

 そしてリュラリュース率いるオーガ、トロール、ゴブリンらもだ。

 彼らは本来、同盟の締結におもむいたところで、そのまま戦闘に参加することになったために人数はさほど多くはない。その為、魔樹のところに向かう途中、彼らのねぐらに立ち寄り、そこで待機させている戦力を補充していく事を提案をしてきた。

 

 蜥蜴人(リザードマン)達は、最初から移動も数日がかりになると思っていたため、多少の遠回りにはなっても戦力が増えるのは良い事だとそれを許諾した。

 

 だが、この中で魔樹を倒す切り札となる魔法詠唱者(マジック・キャスター)がそれに異を唱えた。

 

 なんと、彼の魔法で魔樹のいる近くまで一気に転移が可能だというのだ。

 それも全員がだ。

 魔樹が方々に散らばっている『落とし子』を集結させ、防御の態勢を整える隙を与えず、本体を即座に倒してしまおうという策であった。

 

 もちろん、このアインズ・ウール・ゴウンと名乗る人物の魔術の腕前を疑う訳ではないが、それでも戦力は多い方が良いのは自明の理である。そのため考え直すようやんわりと打診したのだが、アインズは自分直属の配下の者達も同行させるから大丈夫だと太鼓判を押し、半ば強引に話をまとめてしまった。

 不安がなかったわけではないが、彼の強さは皆よく知りえていたために、その当人が自信を持って言うことに、異論を呈することは出来なかった。

 

 やがて、アインズがつぶやいた。

 「準備が整ったようだ」と。

 

 その武骨な小手に包まれた手を振るうと、何もない空間に突如、半球状の黒い霧か煙、もしくは闇そのものとでもいうようなものが出現した。

 

 不意に、その中から一人の人影が現れる。

 

 全身を黒の全身鎧(フルプレート)で身を包み、バルディッシュとカイトシールドを手に(たずさ)え、鮮血のようなマントとサーコートを身に(まと)っている。

 

 その鎧の人物は堂々とした姿で、その場にいた者達全員の視線が交わされる中を横切り、仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の前で膝をついた。

 

「アインズ様、お待たせして申し訳ありません。アルベド、御身の前に」

 

 その絶対の忠誠を前に、アインズは鷹揚(おうよう)にうなづいた。

 

「うむ。ご苦労。それで首尾は?」

「はい。すでに準備は整っております。どうぞ向こうへ」

 

 そう言うと立ち上がり、(おの)が主が湧き上がる闇へと向かう道を譲る。

 何の躊躇もない足取りでアインズは足を進め、その闇の奥へと姿を消した。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 〈転移門(ゲート)〉を抜けると、そこは森の中だった。

 特に知識もないアインズの目には、どこの森のどのへんなのかは判別もつかなかった。

 

 森と森の隙間、やや広い林間の合間に丈の低い下生えと灌木だけが生えている空間があった。

 

 そこには一人の人物が待ち構えていた。

 薄緑色のフード付きローブに身を包んだ人物。見たところかなり横に広い身体をもつ、いわゆる肥満体形の人物だ。

 その人物はフードの奥から覗く金髪を揺らし、現れたアインズに膝をついて頭を下げた。

 

 その姿を見てわずかに動きを止め、そして辺りをきょろきょろと見回し、アインズは尋ねた。

 

「……ソリュシャンか? どうしたのだ、その姿は? ベルさんはいないのか?」

 

 その言葉にソリュシャンは、ブクブクと膨れたその体を起こした。

 

「ここですよ」

 

 声が聞こえた。

 よく聞きなれた、鈴が鳴るような少女の声。だが、どこから聞こえているのか、いつもの姿が見当たらない。

 

 見ると、ソリュシャンが首元にしていた襟巻の合わせ目がもぞもぞと動き、やがて白く細い指がそこから突き出た。その少女の指が上下に動くと、空いた隙間からまつ毛の長い瞳が覗いた。

 

 はたから見るとまるで心霊写真のようなその姿に感じたわずかな動揺をアンデッド特有の精神鎮静で抑えつけ、落ち着いたような口調で声をかけた。

 

「そこにいたんですか。なぜ、そんなことを? ドッキリですか?」

「狙ったわけではないですけどね。ほら、一応、監視されてる可能性も考えてですよ」

「なるほどそれで、そのソリュシャンの姿は? それを考えてそんな格好に変えてるんですか?」

「ええ、それも兼ねてですがねっ……!?」

 

 急に言葉が止まり、覗いていたベルの目が見えなくなった。アインズがそれを疑問に思う間もなく、ベルの目が覗いていた隙間よりも下、襟もとを押さえている合わせ目の下付近から赤い瞳が覗いた。

 

「ああ、アインズ様。我が愛しの君。なんと凛々しいそのお姿。この私が御身に危害を加えようとするものなど、すべて滅ぼしてみせんしょう」

 

 その言葉の直後、ぎょろりと覗き込むような赤い瞳が消えた途端、今度は緑の瞳が覗き込んだ。

 

「ちょっと、シャルティア! あんまり動かないでよ、狭いんだから。あ、アインズ様、任せてください。あたしはばっちり任務をこなしてご覧に入れます」

「こら、ちび! アインズ様のお姿を拝見するという行為を邪魔するとは何考えてるんでありんすか!」

「あーもう、ごそごそ動かないの! 邪魔なんだから」

「邪魔とは何でありんすか! アンタが……」

「うっさい! だいたいあなたが無理矢理ついてくるから……」

 

「あっと、その、シャルティア様、アウラ様。あまり動かないでくださいませ。いくら身体の小さい御方々とはいえ、三人は少々無理が……。」

 

 困った声を出すソリュシャンのローブに包まれた身体が、文字通り、中に別の生き物がいる様に蠢く。

 

《まあ、こんな有様でして》

《なるほど》

《本当はザイトルクワエが〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉みたいな転移封じをしてくる可能性も考えて、戦力としてアウラとマーレをソリュシャンの中に入れて連れてくるつもりだったんですが、アルベドがアインズさんの護衛として行くって聞いたら、シャルティアが自分も行くと聞かなくてですね。本当は〈転移門(ゲート)〉要員としてナザリックに、残っていてもらいたかったんですが》

《まあ、シャルティアって最近は〈転移門(ゲート)〉での運搬ばっかりでしたからね》

《便利ですからねぇ、〈転移門(ゲート)〉は。まあ、それはそれとして》

 

 わちゃわちゃと続く言い争いは無視して、状況を説明する。

 

《ええと、まずここはザイトルクワエがいる場所から少し離れた森の中です。ここからしばらく行くと、周囲の木々が枯れはてている広場があり、その中央部、地面の下で普段は眠りについているようです。今は、その周辺には数体の『落とし子』がいるようですね。まあ、そのくらいです。それでこちらの戦力としては、基本はアインズさんにアルベド、そしてシズの3人で対応してください》

《基本はベルさんたちは戦わないんですね》

《はい。基本的には俺たちは抑えです。あくまで向こうの強さ次第ですが、必要と判断したら先程も説明したように転移封じ対策として同行している俺、アウラ、シャルティア、ソリュシャンが適宜参戦します。もちろんそれ以外にも、この場にいないデミウルゴス、コキュートス、マーレを始めとした支援部隊も、いつでも投入出来るようナザリックで待機済みです》

《なるほど》

 

 その説明を聞き、万が一の備えもしてくれている事にアインズは安堵した。

 

《それで防諜の方は?》

《現在、ナザリックの(しもべ)たちを使って、この近辺及びザイトルクワエがいる地点を囲むように監視網を構築済みです。ザイトルクワエ本体がいるところには直接の監視はないんですが、今もニグレドが魔法による監視を続けていて、何か動きがあったら俺のところに連絡が来る手はずになっています》

《そうですか。それで今のところ、なにか異常は?》

《現状では何もなし。プレイヤー等、高レベルキャラの気配はありませんね》

《ふむ》

《それと念のためですが、蜥蜴人(リザードマン)の集落がある湖の対岸側に、イグヴァ指揮下の部隊を隠して配置しています。〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビユーイング)〉を持たせてありますんで、蜥蜴人(リザードマン)が何かおかしな動きを見せたときはすぐに報告するように言ってありますし、もしこちらに何かあって定期連絡が届かなくなったら、証拠隠滅の為に蜥蜴人(リザードマン)の集落を滅ぼして、口封じするように命じてあります》

《おかしな動きとは? もしかして蜥蜴人(リザードマン)とかも疑ってます?》

《もしも、今回の一件自体が俺たちをはめる罠だったりしたらという可能性ですよ。ナザリックの影響下にあるカルネ村に助けを求める者が来る。そこで聞いた話の範囲では、敵は大したことがない。そう思って協力したら、実は対監視能力まで持つ強キャラが裏にいるとか、ちょっと怪しいですからね。警戒するにこしたことはありません》

《確かに警戒はしたけれど、実際は気の回し過ぎ、取り越し苦労とかだったら、それはそれでいい訳ですからね》

《ええ。そうです。実はちょっと気になる事がありまして》

《なんです?》

《森の奥、これから魔樹のところに行く途中なんですがね。なんだか人間らしい死体がありました》

《ん? それはなんなんです?》

《いえ、まだ魔法による遠隔視で見つけただけなので素性なども全く分かりません》

《ふむ。……ザイトルクワエを目覚めさせたのがそいつらとか?》

《その可能性も否定できませんね。とにかく、それについては行く途中に調べるとして、最悪の状況も想定し、その場合でもナザリックに被害が出ないように考えなくてはなりません。……まあ、そうならない可能性もあるんで、あまり気に病むこともないですが。念のため、警戒だけは怠らないという感じに》

《そうですね》

 

 一通り打ち合わせを終え、うんうんとうなづくアインズの耳には――出来るだけ聞かないようにはしていたものの――いまだ口喧嘩の声が聞こえてくる。

 

「ああ、もう! いい加減黙りなさいよ!」

「アンタが黙ればいいでしょうが!」

「ただでさえ狭いんだから、いちいち叫ばないでよ! あたしは耳がいいんだから」

「うるさいのはそちらでありんしょう! だいたい……」

 

 

 本当にいつ果てるとも知れない口論に、いい加減止めようかとアインズが思った、その時――。

 

 ――荒れ狂うような怒気が叩きつけられた。

 

 

 見ると、アインズが通ってきた〈転移門(ゲート)〉の闇の向こうから、黒の鎧に身を包んだアルベドが姿を現していた。

 

「あなたたち。アインズ様の御前で、何を下らないことをやっているのかしら?」

 

 心胆の奥まで凍り付かせそうな冷徹な声。

 その声に、アウラとシャルティアは黙り込み、ソリュシャンは身を震わせ、関係ないアインズとベルまで思わずビクリとした。

 

 アルベドの後ろからはシズと、瞬く間にはるか遠い地へと移動するなどという魔法に目を見張る蜥蜴人(リザードマン)、並びにリュラリュースらが続いた。

 

 シャースーリューが思わずつぶやく。

 

「い、いったい、ここは……?」

《ザイトルクワエのところまで、歩いて1時間くらいのところですよ》

「魔樹のところまで、人の足でおよそ1時間くらいと離れたところだな」

 

 すかさず〈伝言(メッセージ)〉で伝えられたベルからの情報を、アインズがもっともらしく説明してやる。

 

「なんと!」

《まあ、もっとギリギリまで転移場所を近くしてもいいんですが、あまり近くを転移場所にすると、転移直後に即攻撃を受ける可能性もありますし》

「本当はもっと近くまで行くことも可能なのだがな。しかし、あまり近くに転移すると、こちらが態勢を整える前に襲い掛かられる可能性があるのでな」

 

 その説明に「おお」、「なるほど」等、感嘆の声があがった。

 

 

 その声を耳に受け、アインズはばっとローブの袖を振り、皆の耳目を集めると、あらためてこれから魔樹打倒の為に戦いにおもむくことを告げた。

 

「皆よ! 今、この場にいる者達は誰もが豪胆かつ勇敢なる魂を持つ勇者であるという事は十分に理解している。だが、これ以上先は邪悪なる樹木の悪魔が住まう領域。その生命の保証は、いかな私とて出来ぬ。もし、この先の戦いにおもむくことにわずかなりとも躊躇する者があれば、先ほど皆が通ってきたあの闇を通って村へと帰るがいい。私は決して(とが)めだてはせぬ。(さげす)みもせぬ。皆の心のうちに任せよう」

 

 その場に集う者達は、そのアインズの言葉を聞いても、誰一人として躊躇どころか身じろぎ一つしなかった。

 

 アインズは満足そうにうなづく。

 

「皆の心はよくわかった。では行くとしよう。世界を滅ぼすという魔樹を倒しに! 皆よ。忘れるな。この戦いは残してきた家族、同胞を助けるためのものだけではない! この世界に、生きとし生けるもの全ての為の戦いであると!」

 

 その言葉に――皆一様に、勇壮なる雄たけびを緑深い森林にとどろかせた。

 

 

 

 そうしてアインズを先頭に、世界を滅ぼすと言われる魔樹、プレイヤーからはザイトルクワエと呼ばれた伝説の怪物(モンスター)を討伐する為、恐れを知らぬ亜人たちの混成部隊は、うっそうと茂る濃い緑が重なり合う森の中へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

《ええと、こっちでいいんですよね?》

《はい。そっちに行って……そこ。その木を越えて、ちょっと右手の方に獣道が……はい、そうです。それです。それに沿って、そのまま進んでください》

 

 格好良く先頭を行く割には、肝心の道を知らないアインズの為に、ベルが〈伝言(メッセージ)〉でナビを続けていった。

 

 

 

 




 ザイトルクワエ戦まで書こうかと思ったんですが、そこまでたどり着けませんでした。
 妙なところで区切ってしまったので、次回は少し短めになるかも。



~おまけ~

 テンポを崩しそうだったので考えはしたものの、本編中ではカットした力試しのアインズVSリュラリュース戦です。


 〈鋭き尻尾(レイザー・テール)〉の集落中央にある広場。
 いまだ幾人もの蜥蜴人(リザードマン)達が壊れた建物や柵の修復に追われる中、族長たちや戦士階級に属するの者達に囲まれる形で、仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)、アインズと強大な力を持つナーガ、リュラリュースが向かい合っていた。

 今、彼らがこうしているのは、これから互いの実力を見極めるための試合を行わんとする為だ。

「よいかな、魔法詠唱者(マジック・キャスター)よ。お主の魔法の強大さは先ほどの魔法で分かったが、肩を並べて共闘するためには、それ以外の実力も見極めねばならん」
「構わんとも。さっさと始めるとしよう」
「ほう、余裕じゃな。では、行くとするか」

 そういうと同時にリュラリュースは〈火球(ファイアー・ボール)〉を唱えた。
 人の半身程の火の塊が空を飛ぶ。

 だが、アインズはそれを避けもせず、身を撃たせるに任せた。
 それはアインズの身体に届くやいなや、かき消すように消滅した。

 その様に目を見開く周囲の者達。
 アインズはお返しとばかりに魔法を唱えた。

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「ぬう! 〈火炎抵抗(レジスト・ファイア)〉」

 アインズの手から飛んだ火球の群れがリュラリュースの身体を捉える。
 だが、その爆炎が収まった後からは、ほのかな赤い魔法の光に包まれた半人半蛇の姿が現れた。

「ふはは。先ほどの魔法も含め、火系統の魔法が得意なようじゃが、これで火炎のダメージは半減よ。さて? 次はどうする?」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

 あざけるようなリュラリュースにアインズは再度、同じ魔法を唱える。

「ははは。だから言ったじゃろう。火炎ダメージは、その半分しか効果を発しはしないと」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「愚か、愚か」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「馬鹿の一つ覚えじゃな」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「いや、だからじゃな……」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「火炎の効果は半減しとると……」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「少しは人の話を……」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉」

「い、いや、ちょっと待……」

「〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉、〈魔法三重化(トリプレッドマジック)火球(ファイアー・ボール)〉……」




「申し訳ありませぬ。あなたの実力は十分わかりました。許して下され」

 リュラリュースは焼け焦げた体を抱え、ひれ伏している。

 これくらいで見ている蜥蜴人(リザードマン)達も含め、実力はアピールできたかな、と振り向くと――。

(あれ?)

 なにやら、見ていた蜥蜴人(リザードマン)達は微妙な表情を浮かべている。
 凄いと言えば凄いんだろうが、なんと言っていいのかという困ったような表情を。

(おかしい。何故、こんな目で見られるんだろうか?)

 アインズはベルに〈伝言(メッセージ)〉で相談してみた。

《いや、そりゃ、言葉に困りますよ》
《え? 駄目でした?》
《凄い魔力の持ち主ってのは分かったでしょうが、あの戦い方は無いでしょう。延々三重化した〈火球(ファイアー・ボール)〉撃ち続けただけですから。格ゲーで言えば、判定の強い技を延々出し続けたようなものですよ。もっと、見せ技とかを使わないと》
《あー、そうでしたか……》

 言われて困ったような表情を仮面の下で浮かべる。

 しばらく悩んだものの、《まあ、いいか》という結論に達した。
 とにかく強者と思わせることには成功したんだし、あとはまあ、微調整で何とかなるだろう。

 そう気を取り直すと、体中焼け焦げているリュラリュースにポーションを放った。
 「使うがいい」と声をかける。

 それを手にとったリュラリュースは目を丸くした。
「こ、これは一体……。あ、赤いポーションとは……」

 その言葉に、アインズは少々驚いた。
 まさか薬学を研究しているでもないナーガが、赤いポーションの価値を知っているとは。

「ふむ、その価値が分かるならば話が早い。使ってみるがいい」

 言われて、リュラリュースは恐る恐るその中身を口にする。
 すると、ほんの一瞬前まで全身に感じていた痛みが、瞬く間に消え去った。
 驚いて自らの身体を見下ろすと、体中の焼け痕が痕跡すら残さず無くなっている。

「お、おお……。伝説に聞く、劣化しないという赤いポーション。そして、これほどの効果を持つ物を保有し、それをたやすく人に分け与えるあなたは一体……」

「もう一度言おう。私の名はアインズ・ウール・ゴウンだ」

 静かに語られた言葉に、リュラリュースは深く頭を下げた。
 そのリュラリュースの態度を見て、自分たちですら倒すことなど到底不可能なナーガの心服を得るこの魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいかに偉大な存在なのかと、蜥蜴人(リザードマン)はあらためて理解した。

「まあ、これくらいでいいだろう。今後の事を話さないかね? それと、今の現状も。何せ、私とザリュースは先ほど、この地についたばかりなのだから」

 その言葉に、蜥蜴人(リザードマン)を束ねる族長たちは、落ち着いて話せる場所として、村の集会所へと案内した。

 
 


 
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