「忍者レッグラリアート!」
ティアの一撃が決まり、最後に残ったチンピラが倒れ伏した。
人通りの少ない通りを歩いていた貴族風の少女と護衛らしき男性、そこへ突然絡んできたチンピラたち。その男たちに勇敢に立ち向かった少年と、謎の女忍者という組み合わせ。
当事者たちであってさえ、互いの素性を計りかねる間柄である。
4勢力のうち、チンピラ連中はいなくなったが、残る三者とも互いの思惑を掴みかね、その視線を交えさせた。
お見合い状態から口火を切ったのはベルだった。
「ええっと。お二人とも、危ないところをありがとうございます。おかげで助かりました」
ぺこりと頭を下げると、にこりと笑う。
この姿になってから、いい加減長いため、子供っぽい演技はすっかり身についていた。
見た目美少女ににこやかな笑みを向けられ、他の2人は
ベルがこのような演技をしてまで、印象を良くしようと思ったのは純然たる打算からだ。
当初、彼らが戦っている間に、さっさとバックレようかとも考えていた。厄介ごとによって休暇がつぶれるのを嫌がったためだ。
だが、突然現れた女忍者を目にしたマルムヴィストが、ベルの耳にささやいたのだ。
『ボス。あの女、蒼の薔薇のティアですよ』、と。
蒼の薔薇。
ベルが情報を調べようと王都にはなったシャドウデーモンをことごとく倒しつくしたのが、王都をホームタウンとするアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』に所属するイビルアイらしい。
その者と同じパーティーに属する人間。
ベルとしては、是が非でも彼女から情報を引き出したかった。
今日、ベルは仕事でエ・ランテルを訪れているのではない。サボりである。帰ったらアインズに叱られることは間違いない。
だがそこで功績があったとしたら。
勝手な行動をしたとはいえ、ナザリックの為になる情報を入手しできたとしたら、その叱責は軽いものとなるだろう。上手くすれば、今後も一人で街を出る許可も取り付けられるかもしれない。
そう考えたベルは、ティアとは顔をつないでおくべきと考えた。
……一緒にいる少年が何者なのかはいまだに分からない。もしかしたら、このティアの仲間なのかもしれない。その為、
そんな思惑は知らずに、ティアもまた挨拶する。
「なに、私はたまたま通りかかっただけ。私はすべての女性の味方。とりわけ、美少女にとっては強力な味方になる。ところで見ず知らずの美少女、名前は?」
微妙に困惑する物言いだが、動揺を顔には出さずに、とりあえず自己紹介した。
「私はベルと言います。こちらは……マルコ。護衛のマルコです」
マルムヴィストの名前を出すのは拙いかなぁと思い、とっさに適当な名前を言ったのだが、ティアが食いついたのはそちらではなく、先にあげた自分の名だった。
「ん? ベル?」
ティアは忍者として諜報の訓練を受け、また実際にそちら方面の任務にたずさわった経験もある。だがそんな彼女であっても、突然思いもかけない所から出てきたその名には、思わず表情を変えてしまった。
『ベル』という名は、記憶にある。
ガゼフ・ストロノーフがカルネ村で会ったという
あらためて、ティアは自分が助けた少女に目を向ける。
その姿は、服装こそ違えど、ガゼフ本人から聞いたのと同じ。見た感じ、年の頃は10歳程度。髪は綺麗に整えられた白に近いプラチナブロンドを腰まで伸ばしている。すべすべとした白い手にはタコ一つない。
(まさか、本人?)
ティアがエ・ランテルにやって来た理由はいくつかあるが、その内の一つには
もっとも、それは可能ならばという優先順位の低いものであったが。
しかし仮に彼女が話に聞くベル本人だとしたら、いきなり思いもかけない獲物を釣り上げたことになる。
ティアは目の前の少女に、これまでと違った観察の目を向けた。
一方、名を名乗った時に見せたティアの様子に、ベルもまた目を細めた。
――なぜ、ベルという名を聞いただけで、こんなにも反応したのだ? まさか、自分の名を知っていた? いったいどこで?
そんな疑問が頭を渦巻く中、最初に彼女をかばった行商人風の少年が、さらに冷水をかける様なつぶやきを発した。
「ベル……ですか? それって本当の名前……じゃないですよね」
その言葉に、ベルはぎょっとして振り向いた。
目の前の10代半ばと思われる少年をマジマジと見る。
「え、ええ、そうなんですよ。実はこのベルっていう名前は本当の名前じゃないんですよ」
慌てた様に言葉を紡ぐ。
「本当にですね。ちょっと……本当の事が知られると色々と拙いことになりますものですから。ええっと、すみませんが、私の事はご内密に、ですね」
そう早口で、手をパタパタと動かし慌てた風に演技する。
本当は動ずる様子を見せずに取り繕うなどして対処するのがいいのだろうが、さすがにベルはそんな腹芸を貫ける自信はない。そこで、逆に大きく気が動転しているように見せることで、内心の動揺を誘うポイントがどこなのか悟られないようにしたのだ。
そう。
今、ベルはこれまでにないほど泡をくって
この姿になり、この世界に来て以来、いまだかつてないほどに。
ベルという名が本当の名前でないことは、それこそ自分の他はアインズしか知らない最大級の秘密である。
ナザリックの者達ですら知りえない事実だ。
それをこの少年は、いきなり見抜いてみせたのだ。
(今日、ソリュシャンを連れてこないでいて良かった……)
ベルは内心安堵した。
マルムヴィストにはばれても大したことは無い。彼にはナザリックの全容すら教えていないのだから、本名ではないと聞いても、ああ偽名なのかくらいにしか思わないだろう。
だが、ソリュシャンに――ナザリックに属する者に自分の名前が本当はベルではないと知られたら、色々と拙いことになるところだった。下手をしたら、ギルメンの娘であるといった設定も疑われて、ナザリックを追い出されることになるかもしれない。
ベルは内心冷や汗をかいた。
それにしても、この少年は一体どうやって見抜いたのだろう、という疑問が頭に浮かぶ。
真っ先に思い当たったのはタレント。
この世界特有の生まれながらの異能である。
もしや、嘘を感知する、真実を見抜く、心を読むなど出来るのだろうか? それとも、ピンポイントで他人の名前を判別できる能力なのだろうか?
どんなものかは判断は出来ないし、そもそもタレントなのか、別の手段なのかは分からないが、とにかくなんらかの手段があるのは間違いなさそうだ。
この少年には注意しなければ、と気を引き締めた。
そうして考えているうちに精神の強制沈静によってベルは落ち着きを取り戻した。
「その……言わないでいてもらえますか?」
少女の瞳に見つめられた少年は顔を赤くして、こちらもあわてて言葉を紡ぐ。
「あ、いえ、すみません。そんな詮索するつもりだったわけでは……」
「ええっと、こんなところで立ち話もなんですから、どこか場所を変えてゆっくりお話ししませんか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エ・ランテルの商業地区の一角。この辺りは、先のアンデッド出現の件でも被害が少なく、また比較的富裕層が多い地域の為、治安も安定している。少なくとも、いきなり強盗に遭うなどと言ったことは無い。たまにスリは出るが。
そんな地域にある飲食店。通りとしきる可動式の壁は開け放たれ、半解放された店内にはいくつもの丸テーブルとそれを囲むように椅子が置かれており、昼下がりの今現在もいくつかの卓が埋まっており、それぞれ談笑の声が聞こえてくる。
そんな店の片隅、通りに面したところにあるテーブルを4名の人物が囲んでいた。
「あらためてお礼を言わせていただきます。お二人のおかげで助かりました。ありがとうございます」
そう言って、ベルが頭を下げる。
「ところで、お名前をうかがってもよろしいですか?」
「私はティア。冒険者、蒼の薔薇のティア」
「ボ、ボクはアレックスと言います。ええと、行商人……見習いです」
緊張した面持ちでしゃべる少年に、ベルは優しく声をかけた。
「旅の商人さんなんですか。では、あちこち世界を見て回ったんですね。ぜひ、お話をお聞かせください」
ベルにとって、素性のしれないのはこの少年だ。ティアの方は冒険者であるという事がはっきりしているが(まさかプレートを偽造してまで、身分を偽ってはいまい)、彼が一体何者なのか判断しかねていた。それに、自分の名について偽名と見破ったのも気になる。
「それより、こっちも聞きたい」
ティアが口をはさむ。
「ベルとマルコと言ったが、この街の人間? 見たところ、お金持ちみたいだけど」
その質問は予期していたため、何ら言いよどむことなく答える。
「ええ、今はこの街にいます。住んでいるところは別の場所にあって、ときどきこちらを訪れているんですけど。実は、ちょっと今日はそちらを抜け出してきてしまいまして……。あ、それで先ほども言いましたが、私やこのマルコの名は偽名になります。本名を名乗ってしまいますと、その……色々とあちこちに迷惑が掛かってしまいますので……」
言った事は嘘ではない。
ベルがナザリックを抜け出してきたのは事実だし、ベルモットなのにベルと名乗っている事、マルムヴィストをマルコと言った事、そして、それらの事がばれるとナザリックやギラード商会に問題が生じる事も事実だ。
ベルがわざわざこのような言い回しをしたのは、2人を警戒したためである。
このアレックスと名乗った偽名を見抜いた少年もだが、ティアにもまた注意を払わなくてはならない。
この世界の事は未だ調査中だが、こちらで忍者というのは初めて会った存在であり、全く情報がない。ティアがどんなことを出来るのか、どんな能力があるのか不明である。
そのため、とりあえず嘘を言わずに誤魔化すような言い方をしたのだ。
そして、それは偶然にも功を奏していた。
ベルは先ほど、名前を偽っていることを見破った少年をそっと窺った。彼の顔には今の説明に疑念を呈している様子はない。
この少年の能力は未だ判別できないが、少なくとも今の説明には口を挟むことは無いらしい。
ベルの視線の先で、彼女に見つめられる形となった少年は特に動ずることもなく紅茶を口にしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アレックスと名乗った少年――漆黒聖典の隊長は紅茶を口にする。
不意に、ベルと名乗るこの少女から視線を向けられ、思わず挙動不審になりそうなところを紅茶を口にすることで誤魔化した。何とか動揺した様子を見せずに済んだが、今もその鼓動はバクバクと高鳴っている。
彼は表には見せないが、今はとにかく緊張しきりであった。
この少女が近くにいることもだが、蒼の薔薇のティアも同席していることからである。
王国の冒険者チーム『蒼の薔薇』
法国でもその名は轟き、一般の者達は彼女たちに好意的な印象を抱いている。彼女たちは、いわゆる正義と名の付くような行動をとり、それは広く知れ渡っているためだ。
だが、法国の中でもごく一部の者達、特に六色聖典の者達からは嫌悪されている。大局的な見地からすれば人間の為になることをも理解せずに、その場その場の近視眼的な正義感で行動する、と見られているからである。実際、人間種の為に動く六色聖典の行動を幾度も妨害し、時には実際に矛を交えることすらあった。
その為、今はまだ排除対象にはなっていないが、最悪、抹殺指令が下されるかもしれないという噂までたっている。
そんな蒼の薔薇の1人と、こうして接触することが出来たのだ。
この機会に出来る限り、彼女たちの情報、特に戦闘能力に関するものを入手しておきたいというのが、彼の心算であった。
忍者でもある彼女から上手く情報を聞き出せるか、逆に自分が言いくるめられるのではないかという不安もあったが、このマジックアイテムさえあれば大丈夫だろうと、自分の左手人差し指で、くすんで輝きすら発せぬ
この指輪こそ、先ほどベルの偽名を見抜いたマジックアイテムである。
その能力は他人が嘘を口にした場合、それが着用者には分かるというもの。
漆黒聖典の隊長であるという重責を担うものの、その内実はあくまでまだ少年である。立派な人物足らんと日々
この指輪が先程、ベルがその名を名乗った時に反応したのだ。
嘘を言っていると。
その為、なぜ名前を偽るのだろうと不思議に思っていたのであったが、それは今語られたベルの説明、実家をこっそり抜け出してきた所であり、そちらに迷惑をかけたくないからという理由で、なるほどと納得できた。
言った少女にもう一度目をやる。
彼の視線に気づいたベルが、笑みを向ける。
彼は手元の紅茶もう一口飲み、緊張でひりつきそうになる喉を湿らせ、この可憐な思い人の事をもっと知りたいと願った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ティアはコーヒーを啜った。
その苦みを舌の上で転がし、どうするか考え込む。
彼女がこの街に来て真っ先にやったことは、冒険者組合でアダマンタイト級冒険者としての地位を利用し、冒険者モモンに渡りをつける事だった。
だが、あいにくモモンは近隣での魔物の討伐に出払っていて、会うことは叶わなかった。
そこで、次なる任務。最近エ・ランテルの裏社会を掌握せんとしている者達の調査をしようと、治安の悪い裏通りを歩いていたら、たまたまチンピラ風の男に絡まれている上流階級の人間らしき女の子とその護衛と
動きを見るに、あの少年だけでも大丈夫だったかもしれなかったが。
とにかく、まったくの偶然によってかかわることになった、この少女がベルと名乗っているのが気にかかった。
ガゼフと共にカルネ村を救った
先の会話によると、目の前の少女の『ベル』という名前は偽名らしいが、そもそも、そのアインズ・ウール・ゴウンと一緒にいた少女がガゼフに語った名も本名であったかは分からない。
罠だろうか?
たしかにこの出会い自体、仕組まれた罠の可能性もある。もし探している本人だとするならば、この出会いは、あまりにも幸運すぎるといえるくらいだ。
ティアはベルと名乗る少女から紹介された、彼女の隣の席に腰掛けるマルコと言われた男に目をやる。
赤を基調にした布地に、金糸刺繍が無数に施されたはた目にも高級な服に身を包み、肩には服にそろえた外套をかけている。その合間から覗く腰のレイピアは、鍔元にまるで本物の薔薇のような装飾があつらえられている。
実際の姿は見たことは無かったが、その特徴的な姿はティアの耳に入っていた。
『千殺』マルムヴィスト。
八本指の中でも警備部門と呼ばれる荒事を得意とする部署で、その中でもアダマンタイト級冒険者に匹敵すると言われた最強の六腕に数えられていながら、現在はそれを抜け、エ・ランテルのギラード商会に籍を移した人物。
そんな男を護衛と呼ぶ少女。
そして、その名がティアも別の理由から探していたベルだという。
もしや、あのチンピラに絡まれていたのも自分をはめるための演技だったのではないか、という思いがティアの胸をよぎった。
――だが、せっかく掴みかけた情報源。たとえ罠だとしてもこの手を離すべきではない、とティアは腹を決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ベルは紅茶を啜って、自分の記憶をたどる。
本当は酒が飲みたいのだが、さすがにこの姿ではと思いとどまった。
考えるのは、ベルという名を名乗った時のティアの反応。
この名はこちらに来てから名乗り始めたものだし、そもそも自分の名を知っている相手はそれほど多くはないはずだ。
カルネ村の面々。それとギラード商会の中でも、元六腕の3人とギラード本人。後は……この前、カルネ村に来た冒険者『漆黒の剣』と、同じくカルネ村で一番最初に共に戦ったガゼフらの戦士団、それとあの時の法国の人間くらいか。
……ふむ。
落ち着いて考えてみると、最も可能性が高いのはガゼフらの線か。確かガゼフは王国に仕える戦士長であり、王都へと帰っていった。そして、蒼の薔薇は王都をホームとしている。なんらかの情報を伝え聞いていてもおかしくはない。
――まずったか?
もし、その線から知っているとすると、カルネ村に現れて以降、正体を表していない
……いや、かえって好都合かもしれない。
ここで、
カルネ村の件では、誰がどう見ても少女ベルよりアインズの方が上位者であり、目の前の女忍者もそう認識しているはずだ。
ならばこそ、自分が表に立った方がいい。
仮にアインズ本人が他の者と会話した場合、それは重大な意味を持つことになる。たとえ、騙されたとしても、一度、口にしたことを翻すなどすることは出来はしない。それは大きな信用の失墜に繋がる。
だが、そこでアインズより下位にあたるベルが代理として話していたのなら、それほど大ごとにはならない。たとえ後でその言を覆しても、泥をかぶるのはベルだけで済む。なんなら、後からアインズが出てきて、先の言は自分の意を下の者が誤って伝えたものだと言ってもいい。
なにせ、自分は見た目は少女である。泣いたり笑ったりすれば大抵の事は誤魔化せるだろうし、後で向こうが発言の責任云々と言ってきても、子供のいう事を真に受けたのかと言ってやれば、それ以上追及も出来ないだろう。
かぶる責任は少なく相手と話が出来る自分が相手をするのは適任な気がする。
そう考えると、この出会いは実に幸運だったと言える。
喉から手が出るほど欲しかった王都の情報持つ者、それも蒼の薔薇の人間と知り合うことが出来たのだから。
――いや、出来過ぎか?
こうも都合よく、都合のいい相手と巡り合うことが出来るなど……。
……罠か?
その可能性もある。
舌先で紅茶の渋みを味わいながら、ベルは考え直す。
――いや。やはり、ここはアインズ・ウール・ゴウンの関係者だというのは明言せず、とぼけておいた方がいい気もする。
必要なら、後から事情を話して接触すればいい。
向こうは蒼の薔薇という有名な人物だ。その気になればいくらでも渡りはつけられるのだから。
それに今はマルムヴィストと一緒にいるところを見られている。すでに知っているかは分からないが、少し調べれば、こんなに目立つ人間はすぐに分かるだろう。そうなると、エ・ランテルの裏社会にアインズ・ウール・ゴウンが関わっていることまではっきりしてしまう。
とにかく、向こうがこちらを知っていたと思しき態度をとった理由も探らねばならない。
それに、結局のところ、ティアとは別に自分に付いてきたこの少年は一体何なのだろう? もしかして、自分を探していた? そして、自分を見つけたから後を追跡し、息のかかったチンピラを差し向け、そこを助ける様に登場したのだろうか? それと、ベルという名が偽名と見抜いたからくりはなんだ?
現時点では、分からないことだらけだった。
ベルはその美しさと愛らしさをあわせもつ整った顔に、日が照るような笑顔を張り付けたまま、どう話を切り出し情報を探るべきか考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちなみにマルムヴィストは、われ関せずとばかりに、のんびりカフェラテに口をつけている。
彼は、アレックスと呼ばれた少年が自らのボス、ベルに恋心を抱いている様子だというのはすでに感づいていた。
そして、当のベルはそれには気づいていない様子である事も。
ついでに蒼の薔薇のティアの性癖も彼は聞き及んでいる。
マルムヴィストとしてはこれから起こるであろうこのドタバタ劇を、観客として特等席で呑気に眺め楽しむ腹積もりだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
各人の思惑が入り乱れる中、場の空気を和ますように、ベルは
「アレックスさん。紅茶に砂糖はいかがですか? 美味しいですよ」
そう言って、小瓶から白い粉をスプーンですくいあげる。
「ええっと、その……それって本当に砂糖ですか?」
「あれ、ばれちゃいました。本当はお塩です」
そう言って舌を出してみせる。いたずらを見つかって誤魔化す様子に彼は思わず頬を緩めた。
ベルはスプーンの上の塩を小瓶に戻すと、テーブル上の別の小瓶から白い粉をすくい、少年の紅茶に入れる。
少女が手ずから入れてくれたことに感謝し、彼は紅茶を口にする。
そして、口いっぱいに広がった味に、思わずむせかえった。
「ゲホッゲホッ。……これ、塩では?」
「あはは、引っ掛かった。実は両方とも塩の小瓶だったんですよ」
「えー、ひどいですよ」
そういって笑う少年のティーカップに、ベルがポットからお代わりを注いであげる。
「ティアさんもいかがですか? あ、これは塩ではないですよ」
ティアはベルの顔を窺う。
「塩ではないといったけど、砂糖でもないとみた。それはきっと小麦粉か重曹」
「残念。石灰でした」
「さすがに飲食物だけにして」
そう笑い合う姿は、
近くを通りかかった通行人も、笑いあう少年少女の姿に顔をほころばせた。
その様子からは、彼女らの腹の内など知るすべもない。
しばし、そうやってじゃれ合った後、ベルは(さあ、これからが本番だ)と腹を決め、ティアに声をかけた。
「ティアさん。お聞きしてもいいですか?」
漆黒聖典隊長が持っていた嘘発見の指輪は捏造です。
何かないと隊長がベルとティアの会話になかなか絡めなかったので。
すみません。
話がほとんど進んでいないのですが、今回の話の終わりまで一気にだと、あまりに長すぎて読みづらいので、一旦ここで切ります。
続きは明日辺りにでも。