オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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第58話 フォーサイト、残る2人の戦い

「今!」

 

 少女の声と共に、綱が力を込めて引っ張られる。

 木材の束が音を立てて倒れ、道行く馬車の前に転がった。

 

 目の前に突如、丸太が転がったことに馬車を引く馬は驚いて竿立ちとなった。

 その馬の挙動に、思わず手綱を引く馬車の御者も慌てた様子で腰を浮かせる。

 

 

 その刹那、横合いから光が飛んできた。

 自然界ではあり得るはずもない、燃える火とも太陽の反射とも違う、それ自身が発するまばゆいばかりの光。

 それは魔力の塊であった。

 

 飛来する不可思議な光に触れた御者は、その接触した右肩にまるで獣に追突されたかのような激しい痛みを覚え、そのまま御者台から吹き飛ばされた。馬車から弾き落とされた勢いのまま、立ち並ぶ倉庫の石壁に身を打ちつける。

 

 

 地面に倒れ伏し、その身に走る苦痛に呻き声をあげる男には目もくれず、その魔法を放ったアルシェは停止した馬車に駆け寄る。ロバーデイクもまた、周囲に警戒の目を向けつつ、その背を追う。

 

 馬車の荷台を覗き込むと、その広い空間にたった一つ、灰色の細長い布袋が転がっていた。

 アルシェは馬車に飛び乗り、その袋の中から突然刃が飛び出してこないか警戒しつつも近寄り、袋の口を結んでいる紐をほどいた。

 

 

 

 そして、袋を下ろす。

 

 そこにいたのは幼い少女。

 アルシェと同じ色の髪を持ち、アルシェに似た容姿の幼い少女。

 

 

 彼女は突然、視界を覆っていた布が取り除かれ、目を刺すランタンの灯りにまぶしそうに(まぶた)を細めたものの、やがて光に慣れたその目を大きく見開いた。

 

 驚きに声をあげようとしたものの、それは口に(くわ)えさせられていた猿ぐつわによって阻まれた。

 アルシェは固く結ばれていたそれをほどいてやる。

 

 ケホケホとせき込んだ後、少女は声を出した。

 

 

「アルシェお姉さま……」

 

 

 ずっと待ち続けた、もう会えないかと子供心にも思った愛する姉の姿に、クーデリカはぼろぼろと涙をこぼす。

 アルシェもまた涙を流し、その胸に大切な妹を抱きしめた。

 

「クーデ……ごめんなさい」

「お姉さま……」

「大丈夫……もう大丈夫よ」

 

 そう言って再び、ぎゅっと抱きしめた。

 その胸の中から嗚咽(おえつ)の声が響く。

 

「アルシェ、今は急ぎましょう」

 

 馬車の外からかけられたロバーデイクの声。

 その声に、彼女は抱いていたクーデリカの身を離した。

 

 

 ――そうだ。今はまだ安心できる状態ではない。クーデを安全な場所まで連れて行かないと。

 

 

 アルシェはクーデリカの身体を袋から引っ張り出す。その身に(まと)っていたのはこれが人間に着せるものなのかと、怒りを覚えるような代物。麻袋を上からかぶせ、手と頭を出す穴を空けただけのような、ただ申し訳程度にその身を覆うだけの物だった。

 胸の内よりこみ上げる感情を抑えこみ、アルシェはクーデリカの手を縛っていた縄を切る。

 起き上がった彼女の肩を抱き、馬車の外へと降りた。

 

 その少女の粗末な格好と、誰かに殴られたらしい青あざの浮かんだ頬を見たロバーデイクは思わず顔をゆがめる。回復魔法を使おうかという考えが頭をよぎったが、とにかく今はこの場を離れるべきだと思い直した。

 

 苦悶の声をあげつつ起き上がった御者に向かって、『この事は他言無用です。もし言ったら、あなたがどこにいても絶対に捜しだして殺しますよ』と脅迫しておく。

 このように凄んで見せることはロバーデイクにとって不慣れなものであったが、武装した巨大な体躯を持つ男が自分にのしかかる様にして発した言葉に男は震えあがった。痛む身体を抱え、まるでゼンマイ人形のように何度も首を縦に振る。

 もちろんそんな男の態度など信用出来るものではないが、とりあえず少しでも時間稼ぎになればいい、自分たちが帝都を出るまで追手が辿りつけなければそれでいいという程度の考えであった。

 

 

 

 そして足早にこの場を離れようとした、その時――ロバーデイクがアルシェとクーデリカを抱え込み、身を投げ出すようにして敷石の上へ転がった。

 

 

 金属鎧を身に纏った身体の下敷きになり、その重さに顔をしかめつつも、驚きに目を丸くするアルシェ。

 

 その頬に、赤い雫が飛び散った。

 

 

 周囲を見回すと、今の今までそこにいたはずの御者の男の姿はなかった。

 

 彼女のすぐ脇。

 そこに男の生首だけがごろごろと転がって来た。

 

 

 再びロバーデイクが二人を抱えたまま、石畳の上を転がる。

 ほんの数瞬前まで彼らがいた場所に、虚空から飛んできた赤い光弾が幾本も突き刺さる。

 

 

 見上げると彼らの上空には、青白く光る小望月(こもちづき)

 その僅かにかけた月に重なるように黒い影が浮かんでいた。

 

 風になびく黒のローブに身を包んだ、干からびたミイラのような奇怪な姿。

 だが、その枯れ木のような手の中には、たった今、彼らを襲った赤い光と同じものが浮かんでいる。

 

 

 

「…………」

 

 そいつはゆっくりと高度を下げ、地面へと降りたった。

 

 

 ロバーデイクは立ち上がり、女性二人を(みずか)らの背に隠す様に前に出る。アルシェもまた、クーデリカをそいつの視線にさらさぬよう前へ出るが、彼女の口からは抑えきれない(うな)り声が漏れた。

 その声にちらりと、後ろに立つアルシェの顔を覗きこむ。彼女は額に脂汗をにじませ、歯を噛みしめて、その朽ち木のような小柄な人物を睨みつけていた。

 

「どうしました?」

「……ロバー、気をつけて。そいつ……第五位階魔法まで使える」

「!?」

 

 息をのむロバーデイク。

 そんな彼らの姿など気にも留めぬ(てい)で、そいつは足元に転がる御者の男の生首を手にとった。

 

 

 それを自分の真上に持ち上げる。

 

 

 滴る鮮血が切り落とされた首元から流れ落ち、その下でぽっかりと大きく空けられた、そいつのしわくちゃな口の中へと消えていった。

 奇怪な事に、まったく喉が上下する様子もないのに、どれだけ経っても口内に入った血液はその口の端から溢れ出ない。まるで底の無い暗黒の穴の中へ消えて行くかの如く、滴る鮮血がそいつの喉の奥に消えていく。

 

 するとどうだ。

 そいつの身体に異変が起きた。

 

 まるで乾燥させた干物を水に浸したかのように、その身体が体積を増す。

 アルシェの背丈よりも小さかったその身体が、見る見るうちに大きくなり、またその厚みも急激に膨れ上がった。

 

 明らかに異様であった。

 生首から滴る血液の量などたかが知れているのに、その増えた体積は人間一人分などはるかに多い。どう考えてもありえない現象だった。

 

 

 やがて、「ふぅ」という息を吐く声と共に、そいつは手にした生首を放り捨てた。

 

 

 その体は、先ほどまでのミイラのような姿とは全く異なる。

 実に奇怪な異形の姿。

 くすんだ緑色の肉体。全身ははちきれんばかりの、人間としてはいささか奇異な形の筋肉に覆われており、見ているだけで威圧感を憶えるほどの巨躯であった。その背丈、胸板は対峙するロバーデイクをも上回る。

 そして、より目を引くのがその背。

 蝙蝠の翼、その皮膜を引き裂いたような、奇怪な手と言っていいのか脚と言っていいのか、不可思議なものが左右一対生えていた。

 

 

 そいつは額の両脇に生えた突起状の角を撫でつけ、その牙の突き出た口を動かした。

 

「初めまして、諸君。自己紹介させていただこう。私の名はズル=バ=ザル。秘密結社ズーラーノーンにおいては、十二高弟という大役を担っている者だ」

「ズーラーノーン!? それも十二高弟!!」

 

 ロバーデイクとアルシェは息をのんだ。

 

「知っているようで何よりだ」

 

 そいつは満足そうに頷く。

 

「さて、本題なのだがね。私の希望としては、君たちの後ろにいるその娘、そいつを引き渡してほしいのだ。おとなしく言う事を聞いてくれるかね?」

「引き取って何をするというのです? 邪神への生贄にでもするというのですか?」

 

 敵意を隠さぬロバーデイクの問いに、異形の怪物(モンスター)と化したズル=バ=ザルは動ずることなく何でもないことのように答えた。

 

「ああ、そうだとも。その娘を生贄に捧げたいのだ。もっとも邪神への生贄と言っても、本当の邪神に対してではなく、ただそういう体裁をとっている祭りの出し物に過ぎんがな。まあ、そういう訳だ。別に生贄にささげられたからと言って、その娘の魂が邪神の下で永遠の苦痛を受けるなどという事はなく、ただ死ぬだけだから安心したまえ」

「た、ただ死ぬだけですと! そんなふざけた話を受け入れるとでも!?」

「君は神官のようだから、本当の邪神とは関係ないという意味で言ったのだがね。まあ、ただ寄越せと言われても、メリットがない状態では君達も首を縦には振らないだろう。だから、条件を提示しようではないか」

「条件?」

「ああ、そうだ。もし、おとなしくその娘を譲ってくれるのなら、君たちが我々の組織に入ることを認めようじゃないか。先ほど喋っていたようだが、そちらの女性は見ただけで私が使える魔術位階まで分かったようだな。生まれつきの異能(タレント)かな? それともマジックアイテム? まあ、どちらにしても、有能な人材は得難いものだ。2人とも、ズーラーノーンに入らないかね?」

「……は!?」

 

 その突拍子もない提案に、2人は思わず呆気にとられた。

 

「それを私たちが受けるとでも? 自分の妹を犠牲にしてまで」

「冷静になって考えてみたまえ。君も魔術の道を歩む者だろう? 我々、ズーラーノーンは普通の、表の世界には出てこない知識、技術を有している。これに触れることのできるまたとない機会だ。肉親への情ごときで棒に振っていいものではないと思うがね」

 

 そう言うと、ズル=バ=ザルはその奇怪な顔に穏やかな笑顔らしきものを浮かべて語りかけた。

 

「先ほども言ったが、私はズーラーノーンの中では十ニ高弟と呼ばれる地位についている。この私が推薦するならば、君たちも我らが結社の一員として認められよう」

 

 

 その言葉にアルシェとロバーデイクは顔を見合わせる。

 そして2人は答えなど決まっていると互いに笑みを浮かべた。

 

「そう。私たちの答えはこれよ!」

 

 アルシェは瞬間、〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を飛ばす。高レベルの魔法より、速射できるという判断からであり、もしそれが当たったら、怯んだその隙に逃げ出そうとした意図からのものであった。

 しかし、その白い光弾はズル=バ=ザルの手から放たれた赤い光弾によって中空で撃墜された。

 

「交渉決裂か。仕方がない。倒してしまうとしよう。ふむ、そうだな。生贄は多い方がいい。君たちも捕まえるとしようか。邪神への生贄というなら、神に仕える神官というのもいいだろうし、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の君の方はその娘を妹と呼んでいたから、君もまた貴族なのだろう? 貴族の生贄が増えれば連中も喜ぶだろうしな」

 

 そう言うと、ズル=バ=ザルはその上半身を前のめりに倒し、彼らの方へ一歩踏み出した。

 ズンという重い足音と共に、敷かれた石畳に亀裂が走る。

 

 

 明らかなまでに圧倒的な強者との戦い。

 アルシェとロバーデイクは恐怖と諦念が湧いてくるその心を必死で抑え込み、絶望的なまでの戦闘に身を投じた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 トン。

 もともと重くもない身体であるが、その体重を殺して屋根の上に着地した。

 

 フムとつぶやき、きょろきょろとその辺を見回す。

 周囲にはたくさんの建物が並んでいるが、やはりここ以外にない。

 赤レンガで出来ており、三本の塔がある倉庫というのは。

 

 

 ベルは物音を立てぬよう、こそこそと屋根の上を動き回り、眼下の様子を探る。

 通常の民家などとは明らかに大きさの異なる巨大な建物が見渡す限りに整然と並んでいる。その建造物群には生活の臭いなどなく、人の営みの中で自然発生的に作られたものではなしに目的を持って計画的に建てられたものだという事を感じさせた。

 

 辺り一帯の周辺地域には全くと言っていいほど人気(ひとけ)がないのだが、この建物の周辺にのみ、隠れ潜むように人間らしき影が動いているのが見て取れた。

 そして、時折馬車がやって来ては、そこから降りた人影が倉庫の中へと吸い込まれていくのだ。

 だが、そうして入った数を数えるとすでに倉庫内にはたくさんの人間がいるはずなのに、ベルがあちこちの明り取りや換気の窓などから覗き込んでも、倉庫内に人影を見ることは出来なかった。

 おそらく、この倉庫にはどこかに秘密空間が隠されており、そこへ行っているのだろう。

 

 

「うーん……。この辺にしておくかな」 

 ベルはつぶやいた。

 

 こっそりと忍び込んで内部の様子を調べてもいいが、……そこまでする必要もないだろう。

 内部に潜入しても中の者達に見つかりはしまいとは思うが、ベルの目的は会合場所の特定である。その特定が済んだのであるから、後の事は隠密行動に特化した者達に、この倉庫を調べさせた方がいい。

 そもそもこうしてやっては来たものの、今のベルには今回の件などもはや重要でもなかった。どうでもよかった。今、ベルの意識は期せずして手に入れた秘宝をどうするかの算段の方に向いており、こちらの事などさっさと誰かに丸投げしてしまいたかった。

 

 

 ベルは〈伝言(メッセージ)〉を使う。

 

《もしもし、アインズさん》

《あ、どーもです、ベルさん。その後、どうですか?》

《さっき言った倉庫。あれ、見つけましたよ。今、そこの屋根にいます》

《おお、そうですか。ええっと待っててくださいね。今、〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉動かしますんで。……いいですよね?》

《はい。もうOKですよ。監視とかなさそうですし》

 

 そうして待つこと、しばし。

 

《うーん。すみません。ちょっと見つけられないんですが》

 

 そんな返答が帰って来た。

 

 

《倉庫街にある赤レンガの建物で三本の塔がある倉庫ですよ。えーと、E-3地区の》

《それは分かっていますが、結構似たような塔がある建物が多くてですね。うーん、どれだろう……》

 

 この付近には三本塔がある建物は少ないとはいえ、他にもある事はある。それに建物の材質が赤レンガかどうかは近寄ってみないと分からない。ベルもまた地図がある上でロバーデイクが指さした場所から見当をつけて探したのだが、それでも発見するのには少々時間を費やした。多くの倉庫が立ち並ぶこの中から〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉に映る映像だけで見つけるのはそれなりに時間がかかってしまうだろう。

 

《ベルさん、今、その倉庫の上にいるんですよね。なにか目印とかお願いできますか?》

《目印といいますと?》

《一度〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉の視点を上空にあげて広角で見るんで、何か光源とか……そうだ、武器に火をつけて上に飛ばしてくれませんか?》

《武器に火を? んん? 何かの武器に油でもかけて、火をつけたものを上に放り投げろって事ですか? いや面倒そうですけど。それに上に何かを放り投げて、そして落下してきたところをつかみ損ねて下にでも落としたら、屋根の上に俺がいる事がばれて拙いことになるのでは》

《いや、そういう事ではなくてですね。ほら、ベルさんの武器で》

《はい?》

《いえ……ほら、フローティングウェポンの中に火属性をつけられる剣があったじゃないですか。あれを発動させて上にあげてもらえれば》

《えっ?》

《えっ?》

 

 

 ベルは自身のアイテムボックスを開いてみる。

 その中に放り込んだ死体やら、手に入れたばかりの『傾城傾国』を横に押しのけて内部を漁る。酒瓶やら、着替えやら、貰ったお菓子やら、拾った金目のもの、露店で買ったなんだかよく分からない物やらのさらに奥、なかばその身を虚空に空いた空間に突っ込んでごそごそとやり、ようやくその奥から目当ての物を見つけ出すことに成功した。

 

《おお、あったあった。フローティングウェポンだ》

《……ベルさん。もしかして、自分の武器のこと忘れてましたね?》

《いや、最近ずっと使ってなかったんで……》

 

 正直な話、最後にいつ使ったのか、はっきりと思いだせなかった。

 

《うーん、これ全部あるかな? えーと、1、2、3……》

 

 1つ1つ指さして数えてみる。

 

《……あれ? 1つ足りない気がする》

《1つ足りないって……いや、ちょっと! そんなもの無くさないでくださいよ!》

《あれぇ? おっかしいなぁ、どこやったんだろう?》

《ちゃんと探してくださいよ! 下手に流出したら、大問題じゃないですか》

《……んー? もっと奥にしまったっけかな? 剣がもう1本あった気がするんだけど……》

《剣ですか? ……そう言えば、たしかソリュシャンに武器を何個か預けておく事にするとか言ってませんでしたか?》

《ん?》

 

 記憶を探る。

 

《あー……そうだ。……たしか、そんな事をした気が……。うん、そうです。いちいちアイテムボックスから取り出すのが面倒なんで、ソリュシャンの体内に何個か……そうだ、結局1本だけ預けてましたね》

《そんな大事なこと忘れないでくださいよ》

 

 そんな小言を聞きつつ、久しぶりに触る事になった自分の武器の中から一本の剣を手にとる。柄を握るとその属性の力を発動させる。瞬く間に揺らめく炎がその白銀の刀身に纏わりついた。握ったベルの手が離れても、剣はその場にとどまり続ける。

 そして、上空へと舞い上がった。

 

 当然のことながら炎を纏わりつかせた空飛ぶ剣など、何の気なしに見上げでもすれば下からでも見えてしまうため、かなり首を曲げなければ地上からは見えない程度の高さまで上げる。

 そこでしばらくくるくる回していると、再び〈伝言(メッセージ)〉が繋がった。

 

《見つけましたよ。炎の剣ですね》

《はい。その真下です。下ろしますね》

 

 上空に浮かんでいた剣を下降させる。

 ほどなくして、それは再びその手のひらの中へ戻った。刃を包んでいた炎を消す。

 

《おお。いました、いました。ベルさんを見つけましたよ。この建物ですね。じゃあ、帝都に展開しているアンデッドたちを集めて……って、ベルさん! なんです、その格好は?》

《恰好?》

 

 言われて自分の姿を見下ろした。

 そう言えば、先ほど釘にひっかけて服は大きく裂けたままだった。その格好のまま、屋根の上を風を切って飛ぶように移動してきたので、その上半身はもはやすっかり露わになっており、しかも腰のあたりにかろうじて残っている布切れも返り血で汚れている有様だった。

 その未成熟ながら艶めかしい肢体を惜しむことなく夜気に晒したその姿は、特殊な趣味の人物であればのっぴきならぬ事態になること間違いなしであった。

 

《R18ですなー》

《ベルさんの年齢ですと、それも危険ですけどね》

《大丈夫です。外見はともかく中身は18歳以上ですから。このゲームに登場するキャラは全員18歳以上です》

《ペロロンチーノさんが言っていた魔法の言葉ですね。それよりどうしたんですか。その有様は?》

《あーっとですね。ほら、さっき言った、そのダミーの待ち伏せの件で戦闘になった時にちょっと……》

《ああ、なるほど。……じゃあ、もう場所は分かりましたから帰ってきて、着替えでもしてください。そっちには別の者を送りますよ》

 

 ベルはそれを了承すると、交代要員として、隠密系に優れた怪物(モンスター)を送ってくれるよう頼んだ。

 

 

 すると、屋根の上に立つベルのすぐ脇に〈転移門(ゲート)〉が繋がった。

 そこから数体の怪物(モンスター)達が現れる。

 そいつらは皆一斉にベルの前で膝をついた。

 

「ベル様、ハンゾウ並びにシャドウ・デーモン4体、アインズ様の命により参上いたしました」

 

 大枚はたいて作ったハンゾウまで送ってきたことに少々驚いたものの、ベルは一つ頷くと彼らに後の任務、この会合場所らしき倉庫のさらなる調査、ならびに未だ発見できていないクーデリカの行方の捜索などを命じた。

 

 一糸乱れず了承の返事をした異形の者達。

 ベルはその中のリーダー格であるハンゾウに一つのアイテムを手渡した。

 

「これは?」

「ああ、それを持っている者と位置を入れ替えるマジックアイテム。いざというときはボクと君を入れ替えるから、ちゃんと持っていてね」

「おお……。こんな私めを心配してくださるとは、なんともったいない。お任せください! このハンゾウ、必ずやこの任、見事果たしてご覧に入れます!」

 

 感動に打ち震えるハンゾウ。

 そんな彼から視線を外すと、ベルはアインズが開いた〈転移門(ゲート)〉へと足を向けた。

 

 

「じゃあ、後はよろしくー」

 

 

 そうして魔法で作られた漆黒の中へと姿を消すベルの足の下では、一台の馬車が倉庫の中へと入っていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ただいまー」

 

 部屋に入ってくるなり、いつもの調子でクレマンティーヌが声をかけた。

 

「おかえりなさいませ。クレマンティーヌ様」

 

 その声に振り向いた、神官がランプの光に照らされたクレマンティーヌの姿を認め、頭を下げた。

 クレマンティーヌはカツカツと机に近づくと、水差しからコップに水を注ぎ、一息に(あお)った

 

 

「私んとこは特に妨害もなく、すんなりいったよ。生贄の方もばっちり連れてきた」

「おお、それは良かった。これで、今日の『儀式』は執り行うことが出来ます」

 

 神官は安堵の息を漏らした。

 今回もまた、なんらかの妨害が入って『儀式』に支障が出れば、帝国でのズーラーノーンの足掛かりを失う事にもなりかねない。そうなれば盟主様の期待を裏切ってしまう事になりかねない。

 そんな愁眉(しゅうび)を開く彼を見やり、クレマンティーヌは肩をすくめた。

 

「ま、そうだね」

 

 クレマンティーヌは薄暗いランプに照らされた室内を見回す。

 

「それより、アンタ1人? ズルちゃんは?」

「ズル=バ=ザル様はまだお帰りになられてはおりません」

「じゃあ、生贄の方は? 私が一番最初?」

「はい。他の生贄はまだこちらには届いておりません。クレマンティーヌ様が運んできた者が1人目になります」

「ふーん。そうなんだぁ」

 

 ネコ科の動物をおもわせる彼女の、その怪しげな光をたたえる目が細まった。

 

「もしかして、やっぱり妨害でもあったのかなぁ? たしか、ルート的には私のとこが一番遠回りだったはずだよねぇ」

「たしかに予定より遅れてはいますが、妨害があったと考えるのは早計では? まだ誤差の範囲内と思われます」

 

 そう言いながら、男は懐から地図を取り出す。それを傍らの机の上に広げた。

 書面を見るのに、薄暗いランプの灯りでは適さなかったため、〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉を点け、ランプの灯を消す。

 

 

「ん?」

 

 さっと周囲に視線を巡らすクレマンティーヌ。

 殺気こそ放ってはいないが、異変の一つも見逃すまいと感覚を張り巡らせる。いつでも攻撃にも回避にも、そして逃走にも動けるよう、豹を連想させるしなやかな肉体をたわめ、その形のいい腰を落とした。

 不意に警戒の姿勢をとった彼女に、どうしたんだろうと神官は不思議そうに声をかけた。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 彼女は注意深く、辺りを(うかが)ったまま言う。

 

「なんだか今、……部屋の影が揺らめいた感じがしてさ」

「それはおそらくランプの炎の揺らめきでしょう」

 

 彼はそんなクレマンティーヌの様子など気にも留めずに、卓上に広げた帝都の地図に目を落とす。

 しばし、周囲に警戒の目を向けていたクレマンティーヌであったが、やがて気のせいかと腰のスティレットにかけていた手を下ろし、地図上で生贄のルートを辿る神官の指先に目をやった。

 

 帝都を詳しく書き記したその地図には3種に色分けされた線が、帝都中に張り巡らされた街路と絡み合い、最終的に一つの点、すなわちこの倉庫へと続いている。

 

「クレマンティーヌ様が護衛につき、通って来たのがこの青のルート。そしてズル=バ=ザル様が護衛についているのが、こちらの赤のルートになります。確かに経路で言うならばクレマンティーヌ様のルートが距離は長いですが、他のルートもまたそれなりの距離があり、且つ入り組んだ場所を通りますので、時間がかかっても仕方がないかと」

 

 その答えを聞いても、クレマンティーヌはにやにやとした笑いを顔に浮かべ、そのほっそりとした顎先を指で突いていた。

 

「いんやぁ、それを考えても、先に着いてておかしくはないんだよねー。やっぱ、他の二つに何かあったのかなー? ちょっと、行ってみようかなー?」

 

 その言葉にはさすがに彼も慌てた。

 

「お待ちください。生贄を護衛してこの会合場所についた後は、この場の守備につくという話ではありませんでしたか?」

「そう言いはしたけどさー。本当にどっかの誰かが妨害にでも走ってたら、そこで戦闘が始まってるかもしれないんだよ。うはー、楽しそうじゃん」

「それは考えすぎでは? 先ほども言いましたが、本当に妨害が入ったのかは分かりません。少々遅れているのも別の要因、例えばなんらかの理由で予定していたルートから外れ遠回りした、もしくは輸送の馬車に不具合があったなどの可能性もありますよ」

「だから、ここであれこれ考えてるよりもさ、私がちょっと行ってみりゃいいじゃん」

「いえ。クレマンティーヌ様がそちらに向かった結果、すれ違う可能性もあります。それにすでにこちらに出席する貴族たちは集まっておりますし、まだ一人だけとはいえ生贄となる娘もこの場に来ているのです。一人いれば『儀式』は出来ますし、ここは下手に動かず、こちらで待機されるのが良策かと思います」

 

 熱弁する神官の言葉に、はいはいと手をぴらぴら振ってみせる。

 

「分かった、分かった。んじゃ、まあ、いいよ。私はここにいるよ」

「分かっていただけて、ありがとうございます」

 

 神官は再度頭を下げた。

 

「でもさ。私が一緒に来たのって、公爵がどっかから手配してきたどっかの貴族の血を引く娘であって、例のフルト家のクーデリカじゃないんだよ。確かにそっちでも『儀式』は出来るけど、今日集まってきた貴族たちは今度こそフルト家のクーデリカを殺せるってはしゃいでいるんじゃん? それでやっぱり、貴族とはいえ別の人間だったら、また文句いう奴が出るんじゃないの?」

「それでしたら、その話はこちらが流したものという事にしなければよいのでは? 先だってクレマンティーヌ様ご自身が、誰か別の者に責任をなすりつけることを提案されていましたから、ウィンブルグ公爵がその辺は上手くやるでしょう」

 

 その答えは頷けるものだった。

 公爵とて無能ではない。もし仮に、現状の噂が流れた上でクーデリカ不在のまま儀式が行われたとしても、そのロベルバドとやらが本来は違うのに、当てこすりで今度の生贄こそフルト家のクーデリカであるなどという勝手な噂を広めたんだとでも、流言を飛ばすのだろう。後は貴族同士での勢力争いであり、その辺はクレマンティーヌが関与するところではない。

 

 

「それにクーデリカの護衛にはズル=バ=ザル様がついておられます。万が一、何者かに襲撃を受けても、あの御方に敵うものなどいようはずもありません」

 

 そう言って、我が事ではないのだが胸を張る神官。

 対して、クレマンティーヌはわずかに口の端を釣り上げ、秘かに嘆息した。

 

 

 ――『あの御方に敵うものなどいようはずもありません』、ねぇ……。

 

 

 ズル=バ=ザルは強い。

 本気を出したらあれに勝てるものはそうそう居はしない。

 だが、勝てる者が皆無という訳ではない。

 

 

 彼女は頭の中に、自分の知っているズル=バ=ザルより強い者を思い浮かべる。

 

 

 漆黒聖典である彼女の知識の内で、そのような人物は幾人か知りえていた。

 本国にいる漆黒聖典の隊長。彼ならば確実だ。

 それにあの五柱の神の装備を収めた聖域を守る番外席次『絶死絶命』。

 他の漆黒聖典の者達ならば互角くらいか? まあ、彼らは死んだというから数に数えなくてもいいだろう。

 思わず、頭の中にあの忌々しい兄の姿が浮かんできたが、頭を振ってその姿を消し去る。

 

 

 その他、何人か思い当たる人物の姿が脳裏をよぎったのだが――。

 

 

 ――その時、ふと不思議な人物の姿が頭に浮かんだ。

 

 

 

 美しい少女の姿が。

 

 南方で着用されるスーツという服。

 それも女物ではなく男物を身に纏ったプラチナブロンドの少女。

 

 

 

 ――え? 誰だっけ?

 

 不意に浮かんできたその人物にクレマンティーヌは混乱する。そんな少女など会った事もないはずだ。

 それがなぜ、突然頭に浮かんできたのか?

 

 

 ――妙だ……何か忘れている気がする……。

 

 

 クレマンティーヌは必死で頭を働かせる。

 野生の獣のように美しく、常にふてぶてしい表情を浮かべているその顔に、突然渋面を浮かべた彼女の事を神官が不審げに見つめるが、そんな彼には目もくれず、彼女は記憶をたどる。

 

 

 ――少女……。あの少女はどこで見たんだったか。

 何か鮮烈な記憶が……。

 メイド……そう、メイドだ。金髪のメイドがいた。そのメイドの身体に、私の身体が潜り込んで……。

 スレイン法国の秘宝……アンデッドを生み出す……そう、エ・ランテルでカジットに渡した秘宝。

 ……エ・ランテル?

 

 

 

 クレマンティーヌの頭の中で何かが形になりかけた。

 

 

 だが、その時、バタンと音を立てて扉が開かれた。

 その突然の音に、彼女の脳裏でまとまりかけていた何かはすっかり掻き消えてしまった。

 

「神官殿、こちらは全員が集まりましたぞ。生贄の方はどうなっていますか?」

 

 靴音高く近づいて来たウィンブルグ公爵。

 神官は軽く息を吐くと、温和ながら威厳をたたえた顔つきで彼の方を向いた。

 

「ええ、すでに生贄は1人届いております。残りにつきましても、もう間もなく届くことでしょう」

「おお、そうですか! なら、今日の集会は大丈夫ですな」

「はい。では少々早いですが準備に移りましょうか」

 

 そう言うと、神官とウィンブルグ公爵は連れ立って部屋を出て行った。

 一人残されたクレマンティーヌは、先ほどの記憶の残滓をかき集めようとしたが、すでに雲散霧消(うんさんむしょう)したその断片は、手で海の水をすくうかのように、刹那に浮かび上がっては再び手の届かぬ深淵へと消え去っていく。

 そこへ倉庫の警備を担当している者が、この後の警備体勢について聞きに来た。クレマンティーヌは釈然としない思いであったが、別に思い出すのは後でもいいかと気を切り替え、彼女もまた部屋を出て行った。

 

 

 

 誰もいなくなった室内。

 机の上に置かれた〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉のランタンだけが室内を照らしていた。

 

 

 すると、壁に長く伸びた椅子の影から、手甲に覆われた手が音もなく生える。

 そして、机の上に置かれたままとなっていた、生贄の輸送ルートが記された地図に伸ばされた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ぐああぁぁっ!」

 

 ロバーデイクの巨体がまるでゴミクズのように吹き飛ばされる。

 

 絶望のあまり目の端に浮かんだ涙をきつく目を閉じて弾き飛ばし、アルシェは〈雷撃(ライトニング)〉を唱える。

 だが、その(いかづち)もまた、緑の巨人の右手より放たれた赤い光線によって中空で撃ち落とされた。

 

 アルシェの魔法を撃ち落とした光線を放った右手を引き戻すと同時に、今度は左手より赤い光弾が放たれる。

 それは避ける間すらなく、魔法を使った直後のアルシェに着弾する。

 肉より体の内部にまで浸透するような痛みに、アルシェは体をびくつかせ、固い石畳にその身を打ち据えた。

 頬に冷たい石の感触を感じる彼女に、クーデリカの悲痛な声が届く。

 アルシェは全身に感じる痛みをねじ伏せ、再び立ち上がった。

 そんな彼女のそばに、起き上がったロバーデイクが肩を並べた。

 

 

 絶望の中から必死で闘争心をかき集め対峙する彼女らを前に、ズル=バ=ザルはというと、その元よりはるかに長大となった肩をすくめて見せた。

 

「やれやれ。困ったものだな。死なない程度に手加減するとなると、なかなか勝手が分からん。これ以上、力を加えてしまうと殺してしまいかねん」

 

 そうして、再び彼らに声をかけた。

 

「もう一度言うが、降伏する気はないかね? 大人しく降参して、我が軍門に降るのならば、君たちをズーラーノーンに加えてやってもいいのだが」

 

 

 その言葉にアルシェは血を吐き捨てた。本当はイミーナが時々やっていたようにツバをはこうと思ったのだが、すでに口の中は切れて血まみれであり、唾液より血液の方が多かった。

 

「答えは『くそくらえ』よ」

 

 その言葉と共に、手にした杖を音を立てて地面に突き立てる。

 杖の石突がたてた夜気に響く甲高い音に、無理矢理闘志を沸き立たせる。

 

 

 その言葉を聞いたズル=バ=ザルは、本当に困ったという風に頭を振った。

 

「やれやれ。これほど頑固とはな。……しかし、そろそろ時間も迫ってきている事だし、いい加減、生け捕りにして『儀式』の生贄にするというのは諦めるかな」

 

 

 そう口にした瞬間、ズル=バ=ザルの手の中に揺らめく赤い光がより一層輝きを増した。

 

 拙いとアルシェらが思うより早く、その光が広がった。

 そして放たれた赤い光を受け、アルシェとロバーデイクの身体は弾き飛ばされた。

 

「きゃああぁぁぁーーーっ!」

 

 

 その威力はこれまでのものと格段に違った。

 まさに次元の違う強さのものであった。

 

 アルシェが立ち上がろうとした刹那――喉の奥から何かが湧き上がってきた。

 せき込みながら吐き出すと、それは真っ赤な鮮血であった。

 

 どうやら内臓にまでダメージがいったらしい。

 臓腑の奥から湧き上がる血液に呼吸もままならなくなり、アルシェは膝をついたまま、動けなくなってしまう。

 

 

 そんなアルシェにクーデリカが走りより、(すが)りつこうとする。

 

 ――逃げて、クーデ。

 

 そう言おうとするも、言葉の代わりに吐き出されるのは口腔の赤い液体であり、それは言葉にはできなかった。

 

 

 ズル=バ=ザルはその少女の姿を見ると、何もない虚空を掴み、それを引き寄せる動作をした。

 クーデリカの身体が、何かに引っ張られたかのように宙を飛ぶ。

 

 悲鳴を上げるその小さな体が敷石の上を転がり、巨躯の妖術師はさらなる魔法を唱えた。

 青白い光の輪がクーデリカの身体に幾重も纏わりつく。少女の身体はその光に縛られたように、身動きが取れなくなる。

 

 

 妹を助けようとアルシェは駆け寄ろうとした。しかし、酷使され続けた彼女の身体はその意思に反抗して、膝をついた状態から足を一歩踏み出す事までしか許さなかった。

 

 そんな彼女に目をやり、ズル=バ=ザルは無情にも戦いの終わりを告げる。

 

「すまないが、そろそろ終わりにさせてもらうよ。なに、死は終わりであり安らぎでもある。気を楽にすることだ。抵抗すると痛むことになる」

 

 再びズル=バ=ザルの両手の光が増し、ロバーデイクが覚悟を決め、アルシェの視界が押さえきれない悲嘆の涙ににじんだ瞬間――。

 

 

 

 ズン!

 

 

 耳を聾するかのごとき轟音と共にすぐそばの倉庫、その石壁がはじけ飛んだ。

 

 

 

 突然の事に誰もが言葉もない。

 

 もうもうとたちこめる土煙の中から現れたのは、戦闘の場にはふさわしくない、黒いぴしりとした執事服に身を包んだ品の良さそうな老人。

 

 

「申し訳ありません。どうやらお取込み中の御様子ですが、失礼させていただきます」

 

 突然の闖入者は呆気にとられる全員に対し、落ち着いた様子で挨拶をした。

 その中で唯一、その人物を見知っていたクーデリカは声をあげた。

 

 

「セバス様!!」

 

 

 




 ズル=バ=ザルというオリネームをつけられたうえ、オリスキルでパワーアップまでしたのに、いきなりセバスに出会ったでござるの巻。

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