入力長いので
2016/10/5 ルビの小書き文字が通常サイズの文字になっていたところを訂正しました
「・・・・・・」→「……」訂正しました
2016/11/13 「どんな目に合うか」→「どんな目に遭うか」 訂正しました
会話文の最後に「。」がついているところがありましたので、削除しました
2017/2/8 「ロープ」→「ローブ」訂正しました
〈
広場の中央に村人たちが集められ、その手前に十人程度の騎士たちが。
そして、そのさらに手前でデスナイトが雄たけびをあげていた。
デスナイトが剣ではなく、その盾を振るう。シールドアタックを受けた騎士はゴミのように吹き飛ばされ、他の騎士もろとも倒れこんだ。デスナイトはその盾の縁を起き上がろうともがく騎士の膝へと叩きつけた。悲鳴を上げて転がりまわる騎士。デスナイトは悠々とその傍へと歩み寄り、同じようにもう片方の足、右手、左手と順に粉砕していく。
両手両足をへし折られ、芋虫のようにもがくしかない仲間を見て、他の騎士たちが怯えた悲鳴をあげながら後ずさりする。
そのうちの1名が我を忘れて逃げ出した。
だが、デスナイトはその巨体に似合わぬ俊敏な動きで一瞬のうちに回り込み、頭頂部から股下まで一気に切り裂いた。
二つになった死体がどうと倒れる。
上空から3人でその様子を見ていたが、やはり警戒するほどのことはなさそうだな。むしろ、デスナイトだけでも十分すぎるくらいか。
そんなことを考えていると、騎士の一人が声を張り上げた。
「き、きさまら! あの化け物を押さえろ!!」
「ベ、ベリュース隊長……」
「お、俺はこんなところで死んでいい人間じゃない! お前ら、俺の盾になれ! 時間を稼ぐんだ!」
すがすがしいほど小物で悪人チックなことを言ってくれる。
そいつの大声に、デスナイトが昏い眼下にともった赤い光の視線を向けた。
デスナイトが足を進める。
「ま、待て! か、金をやる!」
一歩。
「200――」
もう一歩。
「い、いや500金貨だ!」
デスナイトの動きが止まった。
代わりに別のものが動いた。
体を切断された地面に倒れた騎士、その死体がベリュースの足を掴んだのだ。
「――おぎゃああぁぁぁ!」
デスナイトに殺され
ベリュースは足をつかんでいる手を跳ね除け、飛びのこうとするものの、バランスを崩し仰向けに倒れこんだ。
衝撃に一瞬閉じた目を開けると、そこにはこの世のすべての生命を憎む赤い炎があった。
デスナイトがフランベルジュをベリュースの胸に突き立てる。
「たじゅ、たじゅけで! お、おかね! おかね、あげまじゅ! おああぁぁ……」
叫んでいたベリュースの声が小さくなり、痙攣する身体が動きを止めていくと、辺りにすすり泣く声が残る。先ほどまで絶対的な優位に身を置いていた騎士たちが、一転、処刑を待つ無力な死刑囚へと転じたのだ。
そこへ声が響いた。
「そこまでだ。デスナイトよ」
先ほどまで暴虐の嵐となって吹き荒れていた死の化身、巨大なアンデッドがピタリと動きを止める。
騎士たちは声がした上空を見上げた。
そこには三体の影。
一人は漆黒の鎧を着て、巨大なバルディッシュを手にした人物。その体形から女性だろうか。
一人は紫色の不思議な服を着た少女。あの服は南方で着ているというスーツという服だろうか?
そして、最後の一人は見た瞬間、怖気が走る人物。豪奢な飾りがついたローブを身に纏い、泣いているような怒っているような印象を受ける奇怪なマスクをかぶった
「さて、諸君。自己紹介しようか。私はアインズ・ウール・ゴウンのものだ」
その言葉に騎士たちは困惑の表情を浮かべて、顔を見合わせる。
アインズ・ウール・ゴウンなどという言葉に聞き覚えはない。
「……アインズ・ウール・ゴウンだよ。知らないか……この名はかつて知らぬものがいないほど轟いていたのだがね」
だが、首を振って
「そうだ。我が名を知るがいい。この世界に、再びこの名を轟かせよう! 私の名は――アインズ・ウール・ゴウン!」
その瞬間、上空の
「――さて、お前たち。お前たちはこの村の人間たちを、抵抗するすべのない人間たちを殺戮した。まさかとは思うが、自分たちは他人を殺してよいが、自分たちは他人に殺されるのは嫌だとは言うまいな」
その言葉に騎士たちに震えが走った。
助かったのではない。今度こそ本当に死が訪れると。
慌てて言葉を繕おうとするが、それを仮面の魔術師は手で制した。
「何も言うな。悪を為すものに慈悲はない」
そう言うと両手を高々と掲げた。
〈
瞬間
轟音とともに、騎士たちのいる周辺すべてが天空へと昇る火柱に包まれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《あ……》
《どうしました、ベルさん?》
《いや、あいつらの死体、調べてみたかったんですけど。こっちの連中ってどんなもの持っているのかとか。あと、死体があれば、色々実験に使えますし》
《……あー》
《まあ、やっちゃったものは仕方ないですね》
《すみませんね》
《いえいえ、あらかじめ言っておかなかった俺が悪いですし、次に殺すときには気を付けましょう》
《ええ、そうですね。次にたくさん殺すときは、出来るだけ死体が汚れないような、きれいな殺し方をしましょう》
《ええ、その時はお願いしますよ》
《いえいえ、こちらこそ何かありましたらお願いします》
《ははは、ユウジョウ》
《ユウジョウ》
〈
怯えながらも、村人の集団の中から一人の年配男性(たぶん村長だろうか?)が前へと進み出た。
「あ、あなた方は……?」
「ふむ。……先ほど申したように私はアインズ・ウール・ゴウンという者です。こちらはベルさんに、アルベドです。この村が襲われているのを見て助けに来た
助けにきたという言葉を聞いて、村人から安堵の声が漏れる。
だだ、村長は少し表情を緩ませたものの警戒の様子がうかがわれる。
「は、はい。それはありがとうございます。ええと、……では一体どれほど報酬をお支払いすれば……」
「なに、報酬などいりませんよ。困っている人を助けるのは当然の事ですから」
モモンガさんの言葉に、村長はさらに困惑の色を深めた。
確かにそうだ。
タダより高い物はない。
モモンガさんはたっちさんRP中だから、特に考えもせずにそう言ったのだろう。だが、何の見返りも求めずに助けてくれた人間、それも二桁の騎士を一瞬で倒せるとんでもない力を持った強者など、どう扱っていいのやら。下手に機嫌を損ねたら、その力が自分に降りかかってくかもしれないと考えたら、対応に困るのは当然だな。
ここは打算的に金銭でも求めるのが正解だったか。
とりあえず、いったん空気を換えよう。
「ええと、すみません。とにかく、今は先ず怪我人の治療や亡くなられた方の埋葬などをやられてはいかがですか?」
俺の提案に、村長はようやく息をついた。
「あ、ええ、そうですね。申し訳ありません。先ずはそちらを先にさせていただければ。お礼などはその後で……」
モモンガさんが頷いたのを見て、後ろの村人たちに指示を出す。
村人たちも、糸が切れたように腰を下ろす者、お互い抱きしめあう者、怪我をした者の手当てをする者、家族の安否を心配して駆け出す者、ようやく危険が去ったことを実感したようだ。
その喧騒から離れて、俺たちはモモンガさんの〈
モモンガさんに鑑定の魔法をかけてもらう。本当に低レベル層の魔法が一応かけてあるだけのようだな。
念のため、周囲を探してみる。
このメンバーで少しでも探索系のスキルがあるのは俺だけだ。モモンガさんやアルベドはそんなものは保有していない。ましてや、デスナイトは言うに及ばず。
そうして、その辺を調べながら、モモンガさん――アインズ・ウール・ゴウンさんか――に話しかけた。
「それで、アインズ・ウール・ゴウンって名乗ってましたけど……」
「ええ、考えたんですがね。モモンガではなく、アインズ・ウール・ゴウンと名乗った方がいいかと思いまして。この世界のどこかには、もしかしたら他のギルメンがいるかもしれません。その時、この名を聞けば我々がいることに気が付いて、接触してくるでしょう」
「確かにそれはそうですが……」
そうなんだけど、デメリットもあるよなぁ。
俺たち以外のプレイヤーがアインズ・ウール・ゴウンの名を聞いたら、絶対とは言わないが、かなりの確率で敵対してくるだろう。アインズ・ウール・ゴウンはかつて悪のPKギルドとして名をはせた存在だ。よく分からない異世界でユグドラシルプレイヤー同士、ゲーム時代の事は置いておいて手を結ぶ、という考えでも無い限りはいきなり攻撃してくることもあり得る。
「これは俺のわがままです。皆で作ったアインズ・ウール・ゴウンの名を個人で使うなんて……。ですから、ベルさんも含めた他のギルメンが反対したら、この名を名乗るのは止めるつもりです」
そう言って、まっすぐ俺を見つめてきた。
本当に真摯な視線だ。
OK。
そこまで言うなら、わざわざ反対することもないだろう。どうせ、この世界のことは何もわからないんだ。もし他のプレイヤーがいる気配があったら、その時に臨機応変に対応しよう。かえって、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターであるモモンガよりも、個人名でアインズ・ウール・ゴウンと名乗っていたほうがいい可能性も考えられる。聞きおぼえのあるギルド名を名前にしている事を疑問に思って、いきなり攻撃しかけてくる前に接触を図ってみようとしてくるかもしれないし。
それに、モモンガさんがアインズ・ウール・ゴウンを個人で名乗ることについても、モモンガさんは他のメンバーたちがユグドラシルにログインしなくなっていく中、たった一人でずっとアインズ・ウール・ゴウンの名を守ってきたのだ。この人以外に、その名を名乗れる人がいようはずもない。
「分かりました。賛成しますよ」
「ベルさん……」
「では、これから呼び名はゴウンにしましょうか? それともアインズ? さすがに毎回フルネームは長いので」
「そうですね。アインズでよいのでは?」
「ええ、じゃあそうしましょう」
傍らに立っていたアルベドに声をかける。
「アルベド。君はどう思う?」
「非常によくお似合いの名前かと思います。私の愛する――ゴホン。至高の御方々をまとめられていた方にふさわしいかと」
その答えに頷く。
「うん、じゃあ、アインズさん。コンゴトモヨロシク」
「なんで片言なんですか?」
名前こそ変わったが、変わらぬ口調で笑いあった。
結局、焼け焦げた地面で服が黒く汚れながらも探索した結果、本当にそれ以上何も無いようだ。アンデッドで疲労無効が無かったら、がっくり膝をついていたところだったろう。
とりあえず、鎧と剣をまとめ、デスナイトに背負わせる。
……それにしても、消えないなこいつ。
もうユグドラシルでのデスナイトの召喚時間は過ぎてるんじゃないか? こっちの世界では時間で消えないとか?
そうしていると、誰かがこちらに走り寄ってきた。
誰だ?
振り向くと、さっき助けた三つ編みの子とその妹(たぶん)の二人だった。
モモンガ――アインズさんたちが受け答えをしている。
二人は幾分緊張した面持ちで頭を下げた。
「あ、あの! ……先ほどは助けてくださってありがとうございました」
「ああ、その後、危険はなかったかね?」
「はい。あの後は何事もなく。……え、ええと、私はエンリ。エンリ・エモットと言います。こっちはネム」
「はい。ネムです。さっきはありがとうございました」
「ふむ。エンリにネムか」
「はい。あ、あの……お名前は……?」
「ああ、私はアインズ・ウール・ゴウンという。こちらの黒い鎧を着ている者がアルベド。そして、そちらの少女がベルさんだ。……そっちの骸骨騎士は私が召喚したアンデッドだ」
「そうなんですか……ええと、皆さんは家族なんですか?」
「む?」
「あ、いえ、……てっきりゴウン様とアルベド様が夫婦で、その娘さんがベル様かと……」
「ぬ! ……い、いや、違うぞ」
とりあえず、くふーとか言いながらアルベドが悶えているのは無視する。
「ベルさんは私の仲間だ。アルベドは……大切な――し……ん、いや、そ、存在だな」
後ろでアルベドが雄たけびをあげ、こぶしを突き上げているのは無視する。
「あっと、そうそう」
そろそろ、口をはさんだ方がよさそうだ。
「ええっと、エンリ」
「はい」
「君さ、アインズさんの事って話した?」
「?」
「いや、つまり、今は仮面をつけているけどアインズさん素顔の事とか、村の人たちにさ」
そこまで言ったところ、エンリはこちらの聞きたいことに気づいたようだ。
「いえ、誰にも言っていません」
「村長さんにも?」
「はい、誰にもです」
ふむ。
ということは、とりあえず、アインズさんがアンデッドだということはエンリとネム以外には知られていないようだ。
……どうするか?
まさか、殺すということはない。いや、本当にそれ以外ナザリックを守るために手がないとかならともかく、現状ほとんどメリットがない。
《記憶操作》の魔法?
まあ、ありかもしれないが、そこまでするほどか? それにその魔法がどれだけの効果があるのか分からない。
考えた末――
「ええと、エンリ。それにネムも。ちょっと聞いてほしいんだ。アインズさんが――あの仮面の下がアレだってことは誰にも言わないでいてほしいんだ。わかるよね? 本当に通りすがった、危機に陥っていたこの村を助けたくらいアインズさんは善良な人なんだけど、正体がアンデッドというだけでどんな目に遭うか……」
「はい。分かりました。先程も申した通り、この事は誰にも」
良かった。
とにかく何とかなったか。これで「落ち着いて考えたら、やっぱりアンデッドは信用できない」とか言い出したら殺さなきゃいけない所だった。殺すこと自体は簡単でも、近くに人がいるという状況の中でばれないように、不審がられずに、というのはいささか面倒だ。悪くすれば、あの騎士たちが持っていたアイテムが暴発したという設定で、せっかく助けた他の村人何人か巻き込んで爆発とかもやらなきゃいけない所だった。
「あらためて言いますが、皆さんのおかげで助かりました。本当に、本当にありがとうございました」
そう言って、再度深く頭を下げる。
下を向けた顔の表情は見えないが、地面にぽとぽとと水滴が落ちる。
ああ、そう言えば。この村娘――エンリは騎士に襲われるところだったんだよな。そこを中年男性に助けられた。そして、その中年男性は死んだ。たぶんエンリの父親といったところだろう。
そして、彼女たちの周りには母親らしき人物もいない。母親も死んだか。
つまりエンリとネムは庇護者のいない二人きりの身というわけだ。田舎の村だから、それなりに助け合いもするのだろうが、まともな労働力もない女子供二人で生活できるのか? 最悪、エンリ、もしくは二人ともどこかに売られたりするのかもしれない。
――ふむ。
もしくはある程度、手助けしてやってもいいかもしれない。
我々の現在最大の目的は情報だ。
情報は欲しい。
だが、こっちが情報を求めていることは可能な限り、他には知られたくない。
この世界にどんな者たちがいるのか分からない。ここを襲った騎士たちのように弱い存在ではなく、かなりの強者がいるかもしれない。また、個の力はなくても組織力というものがある。
こちらには情報がないというウィークポイントをさらした場合、どんな策略を仕掛けてくるか分からない。
そう考えた場合、この村を助けて永続的に援助することは、それなりのメリットがある。
この村は近隣に人が住んでいない田舎の村だ。我々がここに関わっても、噂話等として情報が流れていくことは少ないだろう。それに、ここの村人にとって俺たちは命の危機から救ってくれた救世主だ。最初から好意を集めている状態なのだから、こちらに便宜は図ってくれても、いきなりこちらが不利になる事をする可能性も少ない。
それに――
――この村は大した戦力もないから、何か不測の事態が起きても、簡単に村ごと殲滅できる。
そうした算段を考えていると、先ほどの村長がこちらに走り寄ってきた。
「どうしました。村長殿」
「はい、ゴウン様。実は馬に乗った戦士の集団がこの村に近づいてきているらしくて……」