オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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 本当はこの70話は1つの話だったんですが、前半、オリキャラしか出てこないうえ、グロシーンがあるので2つに分けます。
 グロシーンが苦手な方はこの第70話ー1を飛ばして読んでも、話は繋がります。










 それでは、グロシーンが大丈夫という方だけ、このままお読みください。

 飯テロ注意。


2017/1/12 「態度を現す」→「態度を表す」 訂正しました


第70話ー1 王都にて①

「ここだ」

 

 先頭に立つひときわ大きなトロールが指さした先に、皆は目を向ける。

 その先には一軒の食堂らしき建物があった。

 

 しかし――。

 

「こ、ここですか?」

 

 そう、トロールのゴブツは戸惑いの声を漏らした。

 彼がそんな態度を表すのも無理はない。彼の所属する部隊の隊長、トロールのザグが連れてきたのは、やや高級そうな感はあるが、ごくありふれた人間用の食堂を思わせる店構えである。

 ザグの後に続く者達、彼らは手にした武器も、その身に纏う服装も、そして種族すらも異なる面子であったが唯一、首のネックレスだけは共通のものを下げている。

 そんなザグ率いる部隊の隊員たちは皆一様に、その醜い顔に困惑したものを浮かべていた。

 

 

 ――こんなところで、トロールやオークを満足させるような食事が出るのだろうか?

 

 

 そんな彼らの内心を見透かしたかの如く、ザグはその口元に笑いを浮かべた。

 

「ふふふ。入ってみれば分かる」

 

 

 カランカラン。

 扉のカウベルが音を立てて、客の来訪を伝える。

 

 その音を聞き、中にいた人物がこちらを振り向いた。

 

「ようこそ。いらっしゃいませ、ザグ様。お待ちしておりました」

 

 その姿を見て、ゴブツはなるほどと納得した。

 室内にいたエプロンを胸にかけた人物、それは彼と同じトロールだったのだ。

 

「こちらへどうぞ」

 

 案内されるままに、彼らの体格からすれば明らかに小さい入り口を頭を下げて潜り抜け、室内の中央にドンと置かれたテーブル、それを囲むように置かれた座席に腰を据える。

 

 

 誰もが物珍しそうに、この店の内装を見回した。

 それは明らかに、彼らがかつて住んでいた荒野ではありえなかったような細かく手の行き届いた造り。

 

「ふふふ。この店は元は人間がやっていた店だったんだが、俺たちがこの街に来てから、元あった店をこいつが俺たち用に作り替えたんだ」

 

 自慢気なザグの説明に、皆なるほどと頷いた。

 言われてみれば、自分たちが腰かけている椅子も複数の樽を縄で縛りつけ、その上に厚手の布をはった即席のものだ。

 だがこの街のいたる所にある、人間の使う小さな、彼らが座っただけで潰れてしまうようなやわな椅子ではない事に好感が持てた。

 

 

 そうしている間に、テーブルについた彼ら――上座に座るザグを含めトロール4名に、オーク3名というザグ隊の面々の前に酒が運ばれてきた。

 

 

 小さな(かめ)ほどもあるジョッキを手に、ザグが皆に話しかける。

 

「今日、皆に集まってもらったのは、はっきり言えば打ち上げだ。先日の制圧作戦において、我々は敏捷にして果断な行動をとり、多大な戦功をあげることができた。それに対する労をねぎらうのが目的だ。今日は遠慮せずたっぷり飲み食いしてくれ。そしてともに飯を食い、親睦を結ぶことで、より一層チームワークを良くし、皆の今後さらなる活躍を期待したい」

 

 

 簡単な挨拶の後に続く、「乾杯!」という掛け声。

 全員で唱和すると、皆一斉に手にしたジョッキを口にする。

 

 

「ぷはあっ! 美味い!」

 

 ゴブツは思わず口にした。

 亜人たちが作る雑な酒ではなく、人間の手になるビール。

 食事に関しては各種族ごとに好みはあるが、酒に対する味覚はどの種族もさほど変わるものではない。だが、酒造りには細かい手間と作業がいる。亜人たちの作る酒というものは、どうしても雑なものになってしまいがちだ。そのため、そういった事でもコツコツとやる、人間の手になる酒はやはり一味違う。

 

 

 そして、最初に出てきたサラダ、そしてスープを味わう。

 サラダはごく普通の葉物をザクザクと切ったものだ。上に香辛料を混ぜたドレッシングがかかっているものの、基本的には野菜本来の味である。

 

 柄杓のようなスプーンを手にとり、次はスープに取り掛かる。

 野蛮なビーストマンらは、熱いスープも手づかみで食べるが、トロールやオークのような進んだ文化を持つ者は、そんな無作法にして下賤な事などしない。

 

 先ず、具をすくうことなく、汁のみをすする。

 塩味のスープにわずかに垂らしたごま油が食欲をそそる。

 

 そして、次にその椀の中に沈んでいる具の肉を口にする。

 柔らかい。

 舌の上でとろけるように肉がほぐれていく。おそらくまだ若い、子供の肉を時間をかけてよく煮込んだのだろう。

 その味につられて、もう一欠片(かけら)口にする。

 

 それを噛んだ瞬間、ゴブツは驚いた。

 先ほどのものとは触感が異なる。先ほどの肉片は柔らかい歯触りだったのに、こちらはしっかりとした歯ごたえがある。そして、その筋状の肉を噛みしめると、じんわりと人肉の旨みが口の中にあふれだす。

 

 そこで彼は気がついた。

 

 ――これは一つのスープに2種類の肉を使っている!

 柔らかい子供の肉と、年寄りの少し硬いが深い味わいのある肉、2種類の人肉を使う事で味にメリハリをつけている!

 

 見れば他の者達、卓を囲んでいるトロールもオークも同様に、その味の変化に驚き、かつその美味さに舌鼓を打っている。

 

 

 ――なるほど。確かにこれは良い考え。

 皆で一つの卓を囲み、同じ料理を食べる事で同じ隊の者達に、親近感と連帯感を生むことが出来る。

 

 ゴブツは彼の上司、トロールの勇者ザグの知恵に心のうちで感嘆した。

 

 

 

 彼らは、王都リ・エスティーゼ制圧の為に、八本指への援軍としてこの街に派遣された亜人たちである。

 もともと、彼らはローブル聖王国とスレイン法国との国境にあるアベリオン丘陵付近の荒野に棲息していた。その地において各自バラバラの集団を形成し、特に部族間、そして種族間同士の行き来もなく、交流といえば争いのみという生活をしていたのであるが、しばらく前に状況を一変させることが起きた。

 

 その地に現れた悪魔が率いる謎の怪物(モンスター)達が、瞬く間にその荒野の一角に自分たちの領地を確保し、そこを拠点として、周辺に住まう者達を制圧し、さらには自分たちへの従属を求めてきたのだ。

 

 当然ながら、それに対し誰もが反発した。

 しかし、彼らは圧倒的な力でもって、その抵抗をねじ伏せた。それにより、多くの者はおとなしく膝を屈し、それでも反抗した者は苛烈にして容赦なき扱いを受けた。

 

 そうして従属に同意した者は、そのまま彼らの拠点たる『牧場』で働くことになっていたのだが、そこへ今回の王都制圧作戦の話が持ち上がった。

 

 なんでも、遠く離れた人間たちの町を制圧するのに、自分たちを従える悪魔と繋がりのある人間だけでは力が足りないため、『牧場』で働く亜人たちの中から、そこへ派遣する戦力を募集するという。

 そんな事をしなくとも、自分たちを力尽くでねじ伏せた、あの悪魔やアンデッドを使えばいいのではないかと思ったのだが、何やらそれらの戦力は極力使いたくないらしい。出来るだけ自分たちが関わっている事を、知られたくないような話をしていた。

 詳しい事情は分からなかったものの、『牧場』での気の滅入るような仕事よりも、武器を持った相手と勇敢に戦い、敵地を制圧するという、彼ら本来の気性にあった仕事の方がマシに思えた。

 

 その為、多くの亜人たちが、この人間の都市であるリ・エスティーゼにおける、八本指のクーデターのためにやって来たのだ。

 

 

 だが、そこで困ったことが生じた。

 彼らがこの地で行動するにあたり、彼らの新たな主たちはチームを組ませたのだが、そのチームというのは、個別の戦力的なものを考慮して組み合わせたものであり、彼ら個人個人の性格、相性にまで考えを巡らせたものではなかったのである。

 

 これまで、彼らが仲間として肩を並べてきたのは同じ種族および部族単位で、である。

 しかし、新たな編成ではそういった枠組みを考慮せず別部族、時には別種族の者達までもが同じ部隊に組み込まれたのだ。

 

 このトロールのザグが率いる1-5ザグ隊も、トロールとオークの混成部隊である。

 この部隊で幾度か、人間相手に戦闘を繰り広げたのであるが、気の置けない仲間たちで構成された集団での戦闘と異なり、いささかというか、かなりちぐはぐな行動が目立つ結果となってしまっていた。

 

 

 そこで一計を案じたこの隊のリーダー、トロールのザグは自分の部隊の者達を一緒に食事に誘ったのだ。

 

 今、彼の目の前では、トロールもオークも分け隔てなく、彼らの中でも腕利きの料理人が腕を振るった人肉料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わし、和やかに声を交わしている。

 ゴブツは、ただ力だけではない、ザグの賢さに舌を巻いた。

 

 

 そうして和やかに会話をしながら、食事をしていると、給仕の者が次なる料理を運んできた。

 テーブルの上の小皿や酒瓶を脇にのけ、その中央に巨大な木の皿をドンと置く。

 

 その上に盛られていた料理に誰もが目を剥いた。

 

 

「こ、これは……っ!?」

 

 

 刺身だ。

 

 大皿の上に置かれた少女の肉体。その胸部がくり抜かれ、そこに彼女から切り分けたであろう薄くスライスした肉が丁寧に並べられている。

 まさに極上の料理だ。

 

 そのあまりの豪華さに皆驚き、ごくりと喉を鳴らす。

 そんな彼らの幾多の視線を受け――皿に盛られた少女の目がぐるりと動いた。その細い躰がビクンと跳ねる。だが、両手両足を切り取られ、大皿に縛り付けられていたため、その抵抗はあくまで皿の上で意味もなくもがくのみにとどまった。

 

「おお、凄い。活け造りだ。まだ生きているぞ!」

 

 トロールの中でもごく一部の料理人には、人間を殺すことなく、各部の肉を切り取る特殊な調理法が伝わっている。きっと、この少女はそのやり方で調理され、まだ生きたまま肉を切り分けられたのだ。そして、食用部分を取り除かれた後、まだ息がある自らを食器として、先ほどまで自分の一部であった肉をその上に盛りつけられたのだろう。

 

 

 見るからに新鮮な刺身の登場に皆歓声をあげた。

 これほどの料理など、そうそう食べられるものではない。

 誰もが待ちきれないとばかりに、積み上げてある小皿をとり、それぞれに回した。

 

 少女の上に並べられた肉切れを手にとり、皿にとった醤油につけて口に入れる。

 まさに新鮮な証拠であるコリコリとした触感が口の中に残る。

 次いで人肉の甘みが口いっぱいに広がる。

 

 皆、喜んだ様子で次々と刺身に手を伸ばす。

 

 

 だが――。

 

「どうした?」

 

 その中で1人、浮かない顔をし、料理に手を伸ばそうとしない者がいた。

 言葉をかけられたギャスケルというオークは困ったように言った。

 

「すみません。俺、生の人肉とか駄目なんです」

 

 そうして彼は伏し目がちに言葉をつづけた。

 

「いや、あの……人間を生って怖くないですか? なんだか、その……寄生虫とか不安で」

 

 その言葉に、ザグは「ははあ」と頷いた。

 

「ああ、ちゃんとした知識のない奴が、そのまま切り分けたんなら、そういう可能性もあるがな。しかし、しっかりとした料理人が処理したんなら、そういう事はありえないから、安心して食べるといいぞ」

「で、ですが……」

 

 ギャスケルはちらりと皿の上に少女に目を向ける。

 そして、視線を落とした。

 

「すんません。やっぱり駄目です」

「おい!」

 

 そのにべもない否定の様子に、トロールの1人が思わず声をあげる。

 ギャスケルは叱責されたようにビクンと肩を震わせた。

 そして、彼は震える声で告白した。

 

「あ、あの……実は俺、牧場で……その……『繁殖』の方に回されてたんで、こういう生の人間の女を見ると、その時の事を思い出してしまって……!」

 

 その言葉には、誰もがウッと声を詰まらせた。

 

 

 彼らが以前いた牧場。

 そこでは悪魔たちの手により、交配実験なる検証が行われていた。

 すなわち、異種族同士でも子供が産めるかというものである。

 そこで特に力を入れて研究されていたのは、亜人や異形種と人間とのハーフが作れるかというものであった。周辺から集められた亜人たちはそこで、半強制的に異種交配を強いられていた。

 全く美的感覚も異なる異種族相手にである。

 よほど特殊な趣味のものでもない限り、誰だってそんな仕事は敬遠したい。 

 このギャスケルというオークは、その仕事を長く割り振られていたのだろう。

 

 

 和やかな空気であった会食の場が一転、重苦しい空気に包まれる。

 

「いや、だからと言って、食えないってことは無いだろう!」

「しかし、無理強いするのもな……」

「せっかくのザグ様の心遣いを無駄にするつもりか!?」

「そうは言っても、仕方がないだろう!!」

 

 同席していた者達が口々に声を荒げる。

 

 

 ――拙い!

 

 ゴブツは口をゆがめた。

 

 ――裏目っ……!

 裏目に出たっ……!!

 本来、皆の親睦を図るための食事会。

 だが、肝心の……よりにもよってメインディッシュをめぐって口論になってしまった。

 

 人間の刺身を食えないというギャスケルを責めるのはトロール達。

 対してオークたちは皆、彼に同情的だ。

 

 牧場での『繁殖』実験において、トロールはサイズ的な問題から、『繁殖』の仕事につくことはほとんどなかったのだが、オークは比較的人間と体格が近似しているという事から、そちらに回されることが多かった。

 

 トロールとオークの間にある垣根を越えて交流するための場だったのに、かえって両者に壁を作る羽目になってしまった……!!

 

 

 ゴブツは冷や汗が湧き出るのを感じながら、そっと上座に座るザグの顔色を窺った。

 

 しかし――。

 

 

 ――ウッ……!

 笑っている……!?

 

 彼の視線の先で、自らの計画した慰労を台無しにされた形となったはずのザグは、目の前で繰り広げられる口論に動ずることなく、その口元に笑みを浮かべている。

 

「ふふふふふ。落ち着け、お前ら」

 

 落ち着いた声に、唾を飛ばすほどの勢いで怒鳴り合っていたトロール、そしてオークもザグの方を振り向いた。

 彼らの視線を一身に集め、ザグはゆっくりとした口調で話しだした。

 

「くくく。まあ、いいじゃないか。好き嫌いは誰でもある。どうしても食べられないというものに強制することもあるまい」

 

 そう言って、不敵に笑った。

 

「それに、これはあくまでオードブル。メインディッシュはこれから、だからな」

 

 

 ――えっ!?

 

 その言葉に皆、耳を疑った。

 人間の活け造りなどという豪勢な料理の後に、さらにメインディッシュが続くというのか?

 

 全員の動揺を楽しむかのように微笑むザグは、カウンター向こうの料理人へと目くばせをした。

 料理人は頷き、カウンター下から、新たな食材をまな板の上へと並べる。

 

「うッ……! こ、これはっ……!!」

 

 

 そこにゴロゴロと並べられたもの。

 それは――まだ生きている人間の赤ん坊である。

 

 

 普通、人肉の中で口にすることが多いのは成人直後、及びそれから20年程度以内の年齢の肉である。拠点を離れ外を出歩くことが多いのは、そのくらいの年齢の者がほとんどなため、最も手に入れやすいからだ。それより若いものや年老いたものは、彼らの住まう拠点から出てくることが少なく、入手するには拠点の攻略が必要となる。結果、わずかに手に入ったそのような人間たちは、その拠点攻略に際し、功が大きかった者から順に割り振られるため、なかなか口にすることは叶わない。

 その中でも、死ぬ割合が大きい赤ん坊、それもまだ生きているものなど、よほどの事でもない限り口にすることなど出来はしない。

 それを今回は二桁に達するほどである。

 

 

 驚きに声もなく見守る中、料理人は慣れた手つきで手早く処理を進める。

 いまだ泣き叫ぶ赤子をすりこぎで叩き、骨を砕くと同時にその肉を柔らかくする。そして流れるような動作で内臓を取ると、さっと水で血を洗い、頭と手足を切り分け、さらに体を縦に割いてから胸や腰などに分割していき、食べやすい大きさにしてから串に刺していく。

 

 刷毛(はけ)たれ(・・)をつけ、火にかけると、食欲を誘う香ばしい匂いが店中一杯に充満する。

 

 ほどなくして彼らの前に、上手そうな匂いの串焼きが並べられた。

 

 

「どうぞ。人間の赤子の串焼き、たれと塩です」

 

 

 それに皆の目が釘付けになる。

 茶色くねっとりとしたたれ(・・)がランプの灯りを受け光り輝き、シンプルに塩のみで味付けしたものは白い肉にわずかに焦げ目がついている。

 この場の誰かは知らないが、思わずごくりと喉を鳴らす音が響く。

 

「本来は、人間の兵士が立てこもる拠点制圧の功績により、俺個人が権利としてもらったものだが……拠点制圧は俺たち、この部隊全員での功績だ。だから、皆で平等に楽しもうと思ってな」

 

 ザグの言葉にその場にいた全員が、その顔に感激の色を浮かべる。

 いかに、この上司が自分たち、部下の者の事を気にかけてくれているのかという事に気がついて。

 それを前にして彼は、上機嫌に笑った。

 

「ははは。まあ、せっかくの料理を前にして、余計な話はこれくらいにしておこう。それより、冷めないうちに食べてしまおうではないか」

 

 その言葉に、目の前に並べられたごちそうにもう我慢の限界となっていた彼ら、ザグ隊の隊員であるトロール並びにオークたちは、いまだ湯気をあげる串焼きの串に手を伸ばした。

 

 

 

 ゴブツは先ず、たれ(・・)を選んだ。

 串の一番先に刺されていた塊を口にする。

 

 ――美味い!!

 

 肉の表面を覆った甘みのあるたれ。そして、その中に押し包まれた肉本来の味。その2つが混ざり合って、得も言われぬハーモニーを生み出している。

 

 急いで次の肉にかぶりつきたい衝動を抑え、サラダに手を伸ばす。

 パリパリとした歯触り。瑞々しく青臭い味わいが舌の上に広がり、味を一度リセットする。

 

 そして、完全に0となった味覚の状態で、今度は塩の方に手を伸ばす。

 それを口に入れた瞬間、肉の表面に流れる油とそこへ振った塩とが舌上で混ざり合う。

 塩と油。

 それだけで極上の組み合わせが、人肉という主役をさらに引きたてる。

 

 そして噛みしめた刹那、ゴブツはハッとした。

 

 ――これはっ……!

 たれの方は骨砕きをしていたが、塩の方はそのまま!!

 これは、隠し包丁を入れて肉を柔らかくする反面、敢えて骨を取り除いたり砕いたりしない事で、骨のコリコリとした触感を楽しませているのかっ……!?

 

 そして、その食味が口腔一杯に広がっている状態でビール!

 冷たく冷やされたビールを一息に流し込む!!

 

 ――ぷはあっ! 最高だ!!

 

 

 その場にいたトロールもオークも先ほどのわだかまりなど忘れ、串焼きの美味さとそれに合わせるビールの味に皆喜び、酔いしれた。

 

 

 

 かくして、ザグ隊の団結――大成功っ!!

 

 

 

 

 そうして、和やかに笑いながら食事をつづける彼らの頭上。

 その天井裏にいた者が、眼下で繰り広げられる胸糞の悪くなるほどの凄惨な光景のあまり、カタリと音を立てた事に、幸か不幸か、彼らは気がつくことは無かった。

 

 

 




 最初、普通のグルメもの風にするつもりだったのに、中間管理職トネガワを読みながら書いたら、なんだか奇妙なノリに。


 漫画のグルメシーンといえば、アスラという漫画であった鬼たちが人間の美味しい食べ方を語り合うシーンが屈指ですね。

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