Fate/Problem Children   作:エステバリス

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爆死という概念のない人生なんて人生の山場が存在しない平坦な人生みたいなもんだぜ! あれ、そう思うと自然になんでも許せるような気がしてきた。




くえすちょんすりぃ それは、昔のお話

 

 

おにぃさんはけっ局、ぜん日ぶんの出場けんりをようにわたした。おにぃさんは「知り合いの作った値段も価値もないただのヘッドホン」って言って気にしてなかったふうに見えたけど、おにぃさんがみんなにねなさいって言ったあともずっと探してたの、わたしたちは知ってるの。

 

おにぃさんは口じゃそんなことないって、ただ頭になにもないのが気もちわるいだけって言ってたけど、ようやジン(ますたぁ)たちが出発してからおもむろにわたしたちをだきしめた。

 

きっと、おにぃさんはおにぃさんが気づいてないくらいにはそのひと/そのひとたちが気にいっていたんだっておもう。

 

うん、それならやっぱりこれでいいや。これがいいや。

 

わたしたちは、おにぃさんがおいてきちゃったもののかわりになろう。そのために、聖杯戦争は勝たなきゃだめだ。

 

おにぃさんがおいていった(わたしたちは)大じな家族になるために(家族がほしいから)

 

◆◇◆

 

雷鳴が響く夜の山中だった。

 

当時十歳の逆廻 十六夜は寝床に選んだ老人介護施設予定地で退屈そうにしていた。

 

"三日以内に俺を見つけろ"それまで様々な施設をたらい回しにされて、引き取り先の脱税記録やら何やらといった不正を興味本位でテレビ局に叩き付けて集まった多額の資金でゲームを始めた。

 

それなりにミスリードを揃えて用意したゲームだった。今日は三日目。

 

そう、このゲームを攻略した者は現時点でただの一人としていなかった。

 

「…………二十三時五十六分現在。俺の発見者なし」

 

「━━━二十三時五十七分現在。君の発見者()()

 

これでゲームクリアかしら? という軽い調子で掛けられた言葉に勢い良く振り向く。それと同時に壁に背を付けて警戒心を高めた。

 

しかしすぐにそんな事をする必要性の無さに気付いて肩を竦ませる。

 

「……ああそうだ。アンタらが攻略者。祝ってやるから姿を出せよ」

 

「随分口の悪い主催者やねぇ」

 

呆れたような胡散臭い関西弁が続く。もう一方からは……ただ息を吐く音。ゼェハァと嵐の山中を登った事を考慮するとこの声だけが普通だろう。少しだけだが姿の輪郭が見てとれる。

 

「ところで、自己紹介は必要かしら。逆廻 十六夜くん」

 

「……へえ、よく調べたな」

 

「と、当然だろ……はっ、ゲームの基本は相手を、良く知る事、だ。クセとか、思考とか、そういうのは、意外な所で見つけ、られるからな……っていうか、オマエら二人ともそんな変な格好で、息一つ切らしてないんだよ……!」

 

「んー、そうは言われてもなあ」

 

「そうそう、この程度で息切れするウェイバーくんの方が変なのよ」

 

「あーもう! とにかく、とんだヤンチャ坊主だなオマエ。福祉施設を巡れば二十四箇所、養父母を持つ事三十一世帯、その内引き取り手の隠蔽犯罪を暴く事二十一回。今やどの施設も家もオマエを受け入れる事はなくなっている」

 

「らしいな。けどよくそんなヤンチャ坊主んとこ来れたな。罠だって何個も張った。一番ちみっこいオマエなんか吹けば飛びそうだっていうのに」

 

「ああ、うん。アレくらいなら問題ないわ。ウェイバーくんもこう見えて結構修羅場は潜り抜けてるもの。でもピアノ線は他の人が危険だから外しておいたわ」

 

ポン、と放り捨てられるピアノ線。それはアタッシュケースのすぐ側の見辛い位置に置いたものであり、普通なら引っ掛かってそれなりの惨事、という腹積もりだったのだが━━━

 

「……よくアタッシュケースだけ持ち出さなかったな」

 

「そりゃ、僕らはキミに興味あったワケやしなぁ」

 

男と女がケラケラ、と笑う。

 

「……ま、他の参加者はお金の在り処を探すのに必死だったみたいだけどね。彼らはお金の写った写真から場所を割り出すつもりだったみたいね」

 

「そう仕向けるための写真だからな。海岸線の背景が映るように撮ったんだが、それだと簡単すぎるし趣旨も違う」

 

「でもあれだけのお金やろ? 子供一人が運ぶにはちょっと一苦労だったんやない?」

 

「それもミスリード。他にも幾つか用意したが、どいつもこいつも簡単に騙されやがる。はぁ、参加者の厳選はもっとしっかりすべきだった」

 

十六夜がそう愚痴ると女性も笑って同意する。

 

「同感。あんなやり方じゃ数は集まっても質は落ちる一方よ。盛り上がりにも欠けるし。そうね……試験的に別のゲームを開催して、それのクリア者にだけ本命のゲームを、というカタチの方がよかったわ。なによりの失敗は、『こんな大金持ったガキがいるわけねーだろバーカ』と大半の人間が思い込んでしまった事かしら」

 

それは始めてすぐに本人も気付いていた。故に少しムッとしたような、子供染みた反抗の感情を抱いていると、三人が姿形をしっかり確認できるまでに十六夜に接近して来る。

 

カツン、カツン。カラン、コロン。コッ、コッ。どれも登山には似つかわしくない音だ。ハッキリとした姿を現した三人の姿はこれまた、十六夜には奇天烈に映った。

 

「……オイ、アンタら。そんな格好で山登りしたのかよ」

 

「当然。私はこれが勝負服なんだもの」

 

「因みに僕らは()()()()()()これしか無かったからなんやけどな」

 

女性の姿は登山した、という一点を除けばそう変な格好ではなかった。赤紫のキャミソールの下に真っ白なロングコート。ヒールの入ったブーツを履いて両耳には左右対称の貝殻のイヤリングを着けている。

 

男性は見た目一番おかしい。和……いや、中華服か。片眼に眼帯を着け、全身を鮮やかな濃淡の服に底が少し厚い草履。本当にこんなダボつく格好で登山できたのだろうか。

 

ウェイバーという少年の方はよく見る学生と言った風のネクタイを締めたワイシャツの上にカーディガン。学生ズボンと革のローファー。そして何より目を見張るのは後生大事そうに羽織った全くサイズの合っていない赤いマントの存在だ。……いや、訂正。一番変だ。彼ら三人は誰も傘のような防水着は持っておらず、女性と男性は少なからず濡れているのに、彼だけは一切濡れた様子がない。

 

総じて、十六夜はこの三人に変な集団という第一印象を感じた。

 

「……意外と若いんだな、オバサン」

 

「ハッハーッ! 若いと言いつつオバサン呼ばわりとは中々肝が据わっているじゃないか十六夜くん。私の事は尊敬と敬意、そして敗北感を籠めて()()()()()()と呼びなさい」

 

「……なんだと?」

 

ピクリ、とその言葉に少し反応した。有り体に言えば敗北感を籠めて、というフレーズが気に食わなかったのだ。

 

「俺に、負けを認めろって言うのか」

 

「そうだとも。コレはキミが売ったゲームで、私達が買ったゲームだ。それなら主催者(ホスト)は主催者らしく勝利者を()()()()()()()()()()()。それが出来ないのならゲーム難易度や参加者の剪定以前に、主催者なんてやるもんじゃない」

 

十六夜は少し後退りする。この女性の放つ不思議な感覚に思わず感じた事のない鋭い感覚━━━有り得る話ではないと自覚しているのだが、もしかしたら自分はここで殺されるのではないかという未知の感覚が思わず彼を一歩、足を後ろに追いやっていた。

 

「……ねえ、十六夜くん。貴方は一体何の為にこんなゲームを開催したの?」

 

「……何?」

 

「もしかして『世界の何処かにいる自分を見つけて欲しい』なんていうクッソ下らない承認欲求? 本当にそうなのだとしたら心底から幻滅するわ。そして私達も自分達自身を嘲笑う。まさかこの程度のクソガキのために簡単なゲームを解いて山登りまでして、それが徒労に終わるだなんて随分と主催者を過小評価していたな━━━」

 

ズドンッ、という爆音が廃居内に響き渡る。金糸雀という女性と男性はわお、と言った風に。ウェイバーは割りとガチでビビったようにしている。

 

「……ねえ、十六夜くん。()()()()()()()()()? 貴方はそんな同情をタダ売りするような感情でこのゲームを開いたワケじゃないでしょう? 貴方は見つけて欲しかったんじゃない。見つけたかったのよ。この世の何処かにきっと、いや間違いなく居るであろう自分に匹敵する力を持つ某に。そして貴方は今、そんな小さな願いすらマトモに叶える事も出来ない自分に、自分のゲームにどうしようもない不甲斐無さを感じている」

 

図星だった。この女の言う事は何もかも図星だった。一から十まで、何処かに文句を付ける必要もない百点満点の解答をこの女は言い当てたのだ。

 

「……いいぜ。負けを認めてやる。で、俺はどうすればいい」

 

「……そうねぇ。じゃ、私が本当に面白いゲームというものを用意しましょう。開催期間は二年間くらいで。今回のゲームで得た多額のお金を使えばなんとかなるわ」

 

「それに参加して、俺になんか得でもあるのか?」

 

「ありますとも。もし私がこのゲームに勝てば……口の悪い。それでも愛らしい息子が出来る」

 

「そんで?」

 

「貴方が勝てば、私達三人は一生キミの遊び相手になってあげるわ。オプションで素敵な居場所も用意しましょう」

 

「は、はぁ!?」

 

その言葉にいの一番に反応したのはウェイバーだった。彼は聞いていない、という感情を全身で伝えるようにオーバーなリアクションを取る。

 

「聞いてないぞ金糸雀! ボクらはアンタ達を探す為に態々こっちに来たって言うのに、報告も出来ずに一生このクソガキの遊び相手になるだって!? 冗談じゃない! アンタもなんか言えよ蛟劉!」

 

ウェイバーが怒りながら男性━━━蛟劉の方に話を振ると彼はいやー、と曖昧に答える。

「そうしてもええんやけどなぁ。僕はウェイバーくんに土下座されてキミを此処に連れて来ただけやから、それに向こうの事は割りとどうでも良く思っとるし、帰れんならそれはそれでええんやない? 僕はキミがこの世界に居る間は一緒に居させてもらうよ」

 

「似非関西野郎め……!」

 

「こういう時は多数決よウェイバーくん。腕っぷしでもキミ本人が私達に勝てる道理はミクロもないし」

 

うぐっ……と言って引き下がる。向こうがこう言っている以上は彼が二人を説得する事は不可能だと悟ったようで、それ以上は何も言わなかった。

 

向こうの話は纏まったらしい。どうかしら? と金糸雀は問い掛けてくる。

 

「━━━……いいぜ。俺を楽しませてみろよ、主催者さん」

 

「ええ、今度は私が主催者(ホスト)として、貴方を楽しませてしんぜましょう」

 

こうして逆廻 十六夜は三人の男女と出会った。イグアスの滝の悪魔を探し、世界の果てを見に行き、最後に逆廻 十六夜の為だけに作られた、彼のような普通の人にない特殊な力を持って社会から溢れた子供達の児童福祉施設、カナリアファミリーホームに行き着いた。

 

戦地にも赴いたし、西遊記縁の地にも寄った。フリギアの王都ゴルディオンの跡地にも向かって、探せるロマンは全て網羅した。

 

心底から面白い旅だったし、とても有意義な時間だった。だが彼は思い知った。思い知ってしまった。

 

この世において最も神秘的でファンタジーなのは、逆廻 十六夜当人を置いて他にいないのだと。

 

◆◇◆

 

それは春日部 耀が十一歳だった時の話だ。

 

春日部 耀は一言で言えば不治の病を患っていた。科学技術が一種の究極にまで達し、治せない病はないとさえ謳われたこの時代において、耀は『不治』であった。足が動かない。身体が弱い。少し叫ぶだけで全身が酸素を求めるように咳き込む身体。それが春日部 耀という少女の容態だった。

 

ケホッ、と可愛らしく咳き込む。実際のところ彼女の症状は到底可愛らしいなどと形容できるものではないのだが。

 

長年行方をくらませていた父、春日部(かすかべ) 孝明(こうめい)は突如として彼女の前に現れ、長年姿を見せなかった分相応の……客観的な時間としては相応以上だったが、幼い娘の主観からすればまだまだ不相応な多くの土産話を語った。

 

「……鷲の嘴に、ライオンの身体を持つ動物?」

 

「ああ、グリフォンといってな。勇敢で強靭で、そして誇り高い。何せ鷲と獅子、空と大地の王だ。巨大な翼と力強い四肢で空を駆けるその姿はどんな獣よりも雄大だったとも」

 

静かに、しかし情熱的に思い出話を語る父は、遠い瞳で青藍の空を仰ぐ。

 

彼は珍しく背広姿でお見舞いに来た。娘の記憶にある父の姿は何時も野暮ったい服を着ていたので新鮮に感じる。

 

やや大柄だが整った体躯で、姿勢を正してベッドの横に座る父は物静かな風貌で娘に話す。

 

娘はそんな父と思い出を共有できない事が不満だった。彼女は少し拗ねたように足をパタつかせて物欲しそうに呟いた。

 

「……私も、グリフォンに会ってみたい」

 

「何?」

 

「グリフォンと友達になって、背中に乗せてもらって、父さんみたいに外の世界を見て回りたい」

 

紡がれた言葉は本人すら意外に思うほど強い語調だった。

 

しかしそれは決して叶わない事を彼女は知っている。

 

春日部 耀という少女は万能を謳うこの時代において尚匙を投げられる病に蝕まれているのだから。

 

そんな娘が父に着いていく、などと言っても父の足を引っ張るだけだと理解していたが、子供の我が儘だと解っていたが、それでも彼女はその想いを止められなかった。

 

真っ白な病室だけが自分の生きていられる世界である娘にとって、父の持ってくる話はどれを取っても、何を言っても絢爛と輝く太陽のような輝きを帯びていたから。

 

娘の我が儘を聞いた父はしかし、困った素振りも見せず静謐な瞳をそっと細めて呟いた。

 

「……そう、か。そうだろうな。この世界はきっと耀の夢見る世界には小さすぎる。なら、これもきっと一つの運命なんだろう」

 

「……え?」

 

「これを耀に預けておく。今の耀には何より必要な物だ」

 

そう言うと父は懐からペンダントを取りだし、娘の首にかけた。父は先端にある木彫り細工を娘の両手の中に収めさせつつ、優しい語調で話し掛ける。

 

「この系統樹を記したペンダントがあればグリフォンに会った時に役に立つ」

 

「え?」

 

「これさえ見に着けていればどんな獣でも、まして俺や耀ならこれさえあれば神霊にだって━━━いや」

 

習うより慣れろだ。そう言うと窓辺の陽だまりにいる三毛猫に目を向ける。

 

「にゃあ」

 

眠たげに鳴く三毛猫を無造作に持ち上げると、父はそのまま何の遠慮も無く耀に向かって放り投げた。

 

「わっ!?」

 

「ふぎゃ!?」

 

身体の弱い娘は飛んで来た三毛猫に吹っ飛ばされてベッドに背中を着ける。いきなりこんな事をしてきた父に文句の一つでも言わねばと思った時━━━

 

『ちょ、旦那! 何すんねん!』

 

「放り投げた」

 

『せやろな。ってそういう話とちゃう! 何で放り投げたかって聞いとんねん!』

 

「ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしてない」

 

『おどれぇ!』

 

三毛猫が、喋った。娘は驚きすぎてそんな反応しか出来なかった。自分は何か夢でも見ているのかもしれないと思いながら恐る恐る話し掛ける。

 

「……三毛猫?」

 

『んぅ? なんやお嬢』

 

「……人の言葉、喋った……?」

 

『ん? ……おお!? お嬢もワシらの言葉解るようになったんかい!?』

 

関西弁っぽく驚く三毛猫。初めて聞く声に心を震わせ、らしくもなく目を輝かせながら三毛猫を抱き上げる。

 

「凄い、凄い! 私、三毛猫とお話してる!」

 

「ああ、これがこのペンダント。"生命の目録(ゲノム・ツリー)"の力だ。どんな獣とも言葉を交わす事が可能になる。━━━でも、それだけじゃない」

 

父は娘に手を伸ばし、十一歳にしては小さな娘を抱き上げて床に降ろす。

 

そこで娘を二度目の衝撃が襲った。

 

立つ事も叶わなかった娘の両足は━━━今まで歩けなかったせいかフラついてはいたものの、確かに彼女の身体を支えていた。

 

「……う、そ……!?」

 

「嘘じゃない。このペンダントを持って色々な獣と接していけば、耀の身体は今よりもずっと強いものになる。この病院の外は勿論、学校や街に一人で出歩いても大丈夫だ」

 

そう言って父は娘から手を放す。まだ長時間立っていられない少女の身体はふらふらと揺れ、すぐにベッドに倒れ込んだ。

 

「……もっといっぱい動物と友達になったら、もっと歩けるようになる?」

 

「ああ」

 

「グリフォンとも、友達になれる?」

 

小首を傾げて問うと、父は途端に難しい顔になった。

 

「……さて、どうだろう。グリフォンと友達になれるかどうかは耀次第だ。それに、会えたとしても生半可な覚悟で彼らに近付くなを彼らは本当に気高く誇り高い。それでも対等な友人になりたいのなら、耀の全力をぶつけなければならない。……それこそ、命を賭ける程」

 

ドキリ、と父に睨まれて少し身体を萎ませる。脅し文句にしてはいやに本気で、重苦しいものだった。

 

「父さんは、命懸けでグリフォンと友達になったの?」

 

「ん? ああ……そうだな。俺の場合は命懸けというか、殺し合いというか……いや、若かった。酔いが回っていたのか? ともかく、神霊の加護付きとはいえドラコ=グライフと殴り合いするなんて今考えても……」

 

低い声音を小さくするととても聞き辛いものになっていく。都合が悪い時の父の癖だ。だが今回は見逃す事にした。

 

「……とにかく、耀も友人は大事にしろ。それは外で生きていく上で最も大事な財産だ。色々なカタチはあるが、うん、まあ、殺し合わない程度の仲でな」

 

「そんな事しないけど……それは父さんにとっても?」

 

「父さんにとっても。彼らがいなければ今の俺はいなかったし、母さんにも会わなかったな。つまり、耀も産まれてなかったって事だ」

 

遠い瞳で友や母を思い出しているのか、父はじっと夕陽を見つめる。夜になると娘の体調は一層悪くなる。彼女は急に体調を崩したように、しかしそれまでよりは幾らか軽い咳をしながら父を見る。

 

「……太陽が沈むな。そろそろ行かなければならない」

 

「……そう。じゃあ、見送りに行く」

 

折角歩けるようになったのだから、と娘はせめて病院の玄関先まで見送りたいと思いヨタヨタと立ち上がる。だが父が困ったように引き止めたので、諦めた。

 

父は娘の頭をゴシゴシと不器用に撫で回した後、静謐な瞳を細める。

 

「なあ、耀。なんで太陽は沈むんだと思う?」

 

「え? ……それは地球が回って、私達のいる場所からじゃ動いてない太陽が見えなくなるからじゃ」

 

「ロマンが無いな、耀は。……まあ、じきに太陽は本来の輝きを取り戻す。その時には、間違いなく耀は━━━いや」

 

自分から話を振って来たくせに、父は後腐れが残るような雑な話の切り方をする。

 

「宿題だ。どうして太陽は沈むのか。面白い答えを期待してる」

 

そう言うと父は娘をベッドに座らせる。

 

「━━━次は二年後の今日。月が綺麗に見える満月の夜に迎えに来る」

 

「……二年後?」

 

「ああ。そのペンダントがあれば耀の身体さ今よりずっと強いものになる。だから約束する。次は必ず━━━耀も一緒に旅をしよう」

 

何処か思い詰めたような声音で父は誓いの言葉を残し、娘の元を去って行った。

 

━━━孤独感に満ち溢れた病室に静寂が満ちていく。

 

娘は父との約束を反芻し、そっとペンダントを握りしめた。

 

 

 

その日を境に、娘は父との約束を果たすべく日々を過ごした。三毛猫をはじめに、様々な獣と交流を深め、絆を結び、出会いを重ね、己を鍛えた。それまで歩く事もできなかった娘の身体は、僅か半年を過ぎる頃には健常者と何も変わらないくらいの健康な肉体になった。

 

人生の半分を病室で過ごしたのだ。あの子には外の世界で生きる獣の友達を作る事がどれだけ新鮮であった事か。

 

むしろ、あの子にとっては同年代の友達と遊ぶ事の方が余程難しかった。

 

十一にもなれば同年代の女の子達はもうある程度のコミュニティを形成していたし、何より彼女の話を誰も信じなかった。父やグリフォンの話を馬鹿にされた時は悔しくて悔しくて、泣いた時もある。

 

その出来事が決定的な切っ掛けだったのだろう。あの子はそれ以降獣の友達とばかり接するようになった。

 

人間の友達が出来てもどうせ二年後には別れるのだから、むしろ友達は作るべきじゃないと周囲に壁を作っていた。

 

月日を重ねる毎にあの子は社会から孤立して、とうとう親族とも疎遠になって、獣達しか彼女に寄り付かなくなってしまった。獣達も、耀とは友達だったから心配をしてしまう。

 

自分達にかまけていないで、人間である耀は人間と仲良くなるべきなのに━━━

 

でも、獣達はそれを中々言い出せなかった。だって彼らは、あの子がどうして人間社会から孤立してしまったのかを知っているから。だからせめて、この子が人並みの幸せを手にできる時が来るまで━━━この子が友達になりたいと願った友達や、素敵な男の子に出逢うまでは、自分達が父や母に代わってこの子の家族になろうと決意していた。

 

 

 

そうして二年の歳月を過ごして迎えた、約束の日。夜風が強く吹く庭園の中心で、耀は三毛猫を胸に抱いたまま大粒の涙を流して頬を濡らしていた。

 

"二年後、満月の夜に迎えに━━━"

 

その日は、満月の筈だった。

 

月の周期的にも、満月なのは疑いようはなかった。

 

この日だけは、満月でなければいけなかった筈なのに。

 

野暮ったい服を着た父に娘の成長ぶりを見せてやろうと奮発して買ったノースリーブのジャケットや、動きやすい短パンを身に着けていた。

 

ちょっと背伸びして大人っぽく髪を伸ばしてみたりもした。

 

この日の為に、この時の為だけに、苦しい事も辛い事も乗り越えたのに━━━

 

━━━空にはそんなこの子の努力を嘲笑うかのように、ほんの僅かに欠けた十六夜(いざよい)の月が浮かんでいた。

 

結局、約束は守られなかった。

 

耀の父は、孝明は迎えには来なかった。

 

耀は、泣きながら伸ばした長髪を切り落とした。

 

僅かに欠けた月が戻るかもしれないという期待を籠めていたのか、あるいは何を思っていたのか。春日部 耀ではない私には解らない事ではあるのだが。

 

少女の髪は、太陽の光を跳ね返して輝く月に向かって翔んでいった。

 

 






飛鳥さんの過去話が無いのは、あれです。原作的にまだ話すタイミングじゃないからです。それだけなんです。

一先ず、ジャックの原作とは違う聖杯への願いはここで明かされました。なんでそう思うようになったのか、は……めっちゃ遠いです。もっと先です。





以下、いつものトーク


エドモン復刻か……この日をどれだけ待ち、そして希望したことか……!

とりあえずジャンヌを倒して手にした分の呼符を……っと。あ、サーヴァントか……ってオイオイオイ! カードが金色に光ってるじゃないか! これはエドモンか! 勝ったなガハハ……!?

ルー……ラー……!?

ジャンヌ!(二枚目)

……え、ええ……えっと……えっと……

違う、違う違う!! お前じゃない! お前好きなキャラだけど違う、違う違う!! 待って希望した結果がこれかよ巌窟王!

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