Fate/Problem Children 作:エステバリス
fateのブランド力とロリコン&子煩悩の読者様方に感謝と恐怖ガガガ。
もうランキングに乗ったんならより高いランキングを目指して満足するしかねぇ……!
「聖杯……戦争?」
"契約書類"を見た耀が呟いた。
「そう、聖杯戦争。ゲーム名やルールにある通り……文字通り聖杯を求めてサーヴァントが互いに争い合うというゲームさ」
「その聖杯戦争と私達にいったいどういう関係があるのかしら」
次にジキルへ疑問を投げ掛けたのは飛鳥だ。ジキルはうん、と頷くと白夜叉がジャックからギフトカードを四人に見せる。
驚き方は多様であったが、驚くポイントは皆同じようなものだった。
「持ってるわね……参加条件の"暗殺者の器"と"器の秘技"……」
「それにしても名前だよ。これって」
「ジャック・ザ・リッパー……1888年、産業革命真っ只中のイギリスで発生した連続猟奇的殺人事件の犯人の呼称……それが、ジャックだってのか……!?」
「そんなことが……!?い、いやしかしジキルさん、と仰いましたよね。ジャックさんは明らかに子供ではないですか。その彼女がそんなことが可能なのでしょうか!?」
黒ウサギの指摘は、指摘というよりもなんてものを召喚してしまったのかという意味合いが強かった。
しかし飛鳥と耀は知っている。彼女が困惑していたとはいえ、ワータイガーと変貌したガルド=ガスパーに一切の抵抗を許すことなく抑えつけていたことを。
なにより―――黒ウサギと十六夜も含め、初対面の時に黒ウサギに対して見せた言い様のない"虚構"/"冷たさ"。あんなものは幼子が放っていいものでは到底なかった。
否定しようにも、否定するより肯定する方がまだマシな材料ばかりだ。"六本傷"の食事処や道中に見せたあどけなさはまさしく幼子のそれであったが、それすらも今では不思議と、かえって不信感を駆り立たせてしまう。
「そうだね、じゃあ彼女がジャック・ザ・リッパーであることの証明……と言ったら変だけど、少し話をしようか」
ジキルは自らのギフトカードを提示する。
そして、また驚愕。彼にもあるのだ。いくつか存在するギフトと共に―――"暗殺者の器"、"狂戦士の器"、"器の秘技"の三つが。
「改めて自己紹介をしようか。僕の名前はヘンリー・ジキル。この名前に聞き覚えは?」
ジキルは自らの紹介をすると、十六夜がその名前にピンと来たような反応をする。
「……ある。切り裂きジャックが台頭する二年前にイギリスで出版された中編小説、ジキル博士とハイド氏に登場する主要人物の名前だ」
「まさか、貴方はそのヘンリー・ジキル当人とでも言うの?」
十六夜の言葉に釣られて飛鳥は彼に詰め寄った。それを聞いたジキルは少し嫌なことなのか、苦い顔をしながら頷く。
「その通り―――あるいは、ヘンリー・ジキルのモデルになったウィリアム・ブロディーかもしれない。その辺りは謎ということにして、いずれにせよ僕がその"ヘンリー・ジキルと称されるような存在であるのは確かだ。これを知った上で話を聞いてもらった方がわかりやすいと思ってね」
ジキルが指を鳴らすと、黄金の羊皮紙が姿を表す。その羊皮紙には"聖杯戦争"というタイトルが刻まれている。
それをジャックが手にすると、やはりそれに四人も集まる。
「聖杯戦争はね、基本的に人類史になんらかのカタチで名を残した人間や、人間が著した物語がサーヴァントとして選ばれるんだよ。言いたくはないけど、彼女や僕みたいなマイナス方面で名を残していてもそれには該当する」
知名度の是非はともかく、なんらかの文献さえあればサーヴァントはサーヴァントとして認識される、というのはまさにこの二人がいい例だ。
未だに正体がはっきりせず、しかしその知名度は全世界でもかなりのものである、実在した人物。シリアルキラーのジャック・ザ・リッパー。
そしてロンドン以外ではお世辞にも知名度は高くなく、しかしモデルや実体がはっきりとしている、非実在のヘンリー・ジキル。
ほぼ真逆であるが、二人は共にサーヴァントである。
「勿論、アーサー王やヘラクレスといったプラス方面での武勇を持つ者もサーヴァントとして選ばれる。何度も言うけど、重要になるのは人類史に名を残した人間、あるいはその人間の物語であること」
半神半人や神として扱われなくなった元・神は一応人間として扱われるみたいだけど、と付け加える。
「そして重要なのはもう一つ。サーヴァントの名前のこと」
「名前?」
「ああ……そういうことか」
ジキルの言葉に十六夜は一人だけ納得する。その様子を不満に思ったのか、飛鳥はジキルと十六夜に催促をする。
「十六夜くん、一人だけ納得してないでどういうことか説明してほしいわ。ジキルさん、貴方もよ」
「ああ、悪いなお嬢様。じゃあ例えばの話だ。自分に超強い、有名なサーヴァントがいるとする。そのサーヴァントは弱点の踵以外は不死だ。お嬢様はそのサーヴァントの弱点を知られないためにはどうする?」
「それは名前の秘匿じゃないかしら。今十六夜くんが言った通りのサーヴァントなら、名前が判明すれば長所も弱点もわかってしまうのだから……あっ」
「そういうことだ。サーヴァントの名前が判明すれば対策も簡単に練られる。そうなれば苦戦は必至……そういうことだよな?」
十六夜のニタニタとした、好奇心の深い目がジキルに問いかける。
その目はお前だって例外じゃない、と挑戦的なものも含まれていた。ただ説明するだけにしても態々ジキルは自分の名を明かしてきたのだ。その真意はわからないが、それが致命的であることは彼も承知であるはず。
「そういうことになるね。だから僕らは自分達に与えられたこの器のギフトから拝借して"セイバー"、"ランサー"、"アーチャー"、"ライダー"、"キャスター"、"アサシン"、"バーサーカー"と呼ばれるのが基本だ。彼女ならアサシンと呼ばれる」
ジャックもその言葉にこくんと頷く。ジキルの話の内容を理解したかあるいは、最初からそれを知っていたか。
あまり深く考える必要はないのだが、ジャックにしては少しばかり奇妙な反応だった。
再びジャックへ向かった疑いの視線。当の彼女は自分を皆が見ていることの理由がわからないという風に首を傾げていた。それが数秒続いたかと思うと、そんな疑りを晴らすかのように、それまで基本的に閉口を保っていた耀が口を開く。
「それより、ジキルはどうしてそんなことを教えてくれるの?ジキルとジャックが違うコミュニティのサーヴァントなら、二人は戦うのが普通だよね?」
「僕はこの戦いにさして興味はないからね。マスターの方もそうみたいだし、悪用する者がいれば戦うだけだよ」
ジキルはさも当然、という風にギフトカードから取り出したコーヒーを口に含みながら答える。その姿は彼の穏和で紳士的な性格を表しているかのようだ。
「強いて願いをいうなら……正義の味方として悪人を打倒したい、と言ったところかな。ほら、そんな願いだったら態々聖杯戦争に勝ちに行く必要なんてないだろう?」
確かに、ジキルの言い分は理にかなっている。ただ悪しき者を打倒するためだけに聖杯戦争に参加するのなら、態々所属するコミュニティの幹部が好意的に接している組織のサーヴァントと敵対する理由はない。
とはいえジャック・ザ・リッパーは殺人鬼であることには違いない。
故にジキルが懇意に説明をしているのはただの親切心ではなく、彼ら"ノーネーム"や無辜の民達に危害を加えるのであれば聖杯戦争の参加者として敵対し、殺すという意図も含まれているのだ。
「聖杯戦争で大事なのはそれくらいだ。あとは、そうだね。聖杯戦争の参加者のサーヴァントは準備期間が始まった数年前から召喚され始めているから、ギフトゲームの経験っていうのは差になるかもしれないね……聖杯戦争はそのルール上、ギフトゲームの最中に並列して戦闘が起こりうる。そうなれば聖杯戦争とギフトゲーム、二つのゲームのルールを同時に守りつつ戦わなければならなかったり、単純なようで複雑なんだ」
ジキルの説明が終わると同時に、彼が飲んでいたコーヒーが丁度なくなった。残念、と彼は呟きながらギフトカードにカップを仕舞う。
「さて……アサシンのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパー。最後に僕から質問だ」
「なぁに?」
ジャックは首をきょとんと傾げてジキルに応える。彼は表情を柔和な表情を冷酷なそれに変えて、そんな彼女にナイフを突き付けた。
「キミの願いはなんだい?もしキミの願いが悪しきモノであるのなら―――僕はキミのことをここで見逃すことは出来ない」
「ちょ、ジキルさん!?」
突然の行動に黒ウサギは焦り、ジキルを咎める。だが彼はあくまでその鉄面皮を崩さない。
彼はあくまで先程述べた願いに殉じているだけだ。正義の味方として、悪人となる可能性を否定できないジャックを試している。
そのジキルの想いを汲んだのか否か、ジャックもまたあどけない幼子ではない、箱庭に招かれた者としての形相へと移り変わり、彼の問いに答えるのだ。
「わたしたちは――――」
◆◇◆
その夜のことだ。黒ウサギ達のコミュニティの本拠へとやって来た彼らはその凄惨な状況を目の当たりにした。
僅か三年前の戦いとは思えないほどに風化しきった町並み。まるで談笑の最中にその命を絶たれたかのような、放置されたティーカップ。人の寄り付く気配のない場所であるというのに、虫の一匹も集まらない状況。
全てが異質だった。まるで数百年昔の戦いを現存したまま放置されたようにも見えるそこを突き進んで暫くした先に黒ウサギらのコミュニティがあり、そこで十六夜達はなんというか、熱烈な歓迎を受けた。
総数は約百二十人。そのうち彼らを迎えたのはそのうち六分の一のおおよそ二十人とのことだ。だいたいの紹介が終わり、今一行は―――
「……この子、すごい服装をしてるわね……」
「???」
……訂正。女性陣はお風呂場の脱衣室にいた。
本拠につくなり、「なにはともあれびしょ濡れになったし、お風呂に入りたいわ」との飛鳥の一言が事の始まりだ。
本来ならば"ノーネーム"はお風呂の水すらも貴重で、二年ほどはマトモにお風呂を使われていなかったようだ。
そんな時に十六夜が一行と別々に別れたときに"サウザンドアイズ"でちらと話に出た蛇神から勝ち取ったという水樹が役に立った。
これはほぼ無制限に水を放つ魔法の樹とでもいうようなもので、これでお風呂と共に当面の水問題が解決されたという。
ともあれ、女性陣はレディファーストということで今飛鳥、耀、ジャック、黒ウサギが脱いでいる。
で、飛鳥の発言だ。マントを脱いだジャックの姿は―――一言で言えば、それ服なの?だ。
上はボンテージスーツとしか形容ができない、ところどころベルトが巻かれていて布地が薄く少ないモノ。そして下はなんたることか、マイクロビキニ―――あるいはTバックと称されるような、そんなくらいしか布地がないものだった。
飛鳥に格好を指摘されたジャックは慌ててマントをひったくって自分の身体を隠す。そして潤んで赤らめた顔でこう言ってくるのだ。
「……あんまり見ないで……」
ゴンッ!と三人は揃ってその辺の壁に頭をぶつけた。恥ずかしいならなんでそんな格好をしているとか、お風呂なのだからそもそも脱ぐのは当然とか、色々と突っ込みたいことはあるのだが―――その表情が犯罪的だ。まるでこちらが小さな子供の服を剥いでこんな悪趣味な服を着せているようではないか。
「で、ですがジャックさん!お風呂はそもそも一糸纏わず入るもの。こういうのはなんですが……脱いでくださいませんか?」
「っ!?……や!やだ!」
黒ウサギの言葉に反発したジャックが脱衣室から走り去ろうとするが、それを瞬時に扉の前に立った耀が止める。
そして飛鳥が後ろからジャックを持ち上げて逃げられなくした。
ちなみに黒ウサギは子供に拒絶されたことがショックだったのか、その場で膝を折っている。なにかをブツブツと呟いていて、見るだけでそのダメージの度合いがわかるだろう。
「いいから!お風呂に入らないと身体が汚くなってしまうわ―――よ……」
強引にジャックの衣服を剥いた飛鳥が次に気に止めたのはジャックの肌だ。
銀髪とアイスブルーの瞳に似合うような真っ白な肌は誰が見ても綺麗だと思うだろうが、その身体には至るところに傷がついていた。頬のツギハギをはじめとして、包帯を巻いていた腕の下には裂傷の痕が残り、胸部の衣服に隠されていた部分には火傷の傷。内股はズタズタと形容しても問題ないほどに傷だらけと、見ているだけで痛々しくなってくる。
その傷痕は彼女がまぎれもなくただの人間でないことを証明しているようで、彼女らも改めて彼女がジャック・ザ・リッパーと呼ばれるような存在なのだと理解した。
そういえば、と耀は思い出す。ジャック・ザ・リッパーが名を残した十九世紀末は産業革命の真っ只中。
その頃のイギリスで女性が生きるために行っていた職といえば娼婦だろう。もしかしたら彼女は箱庭に招かれる前は……いや、切り裂きジャックとなる前の彼女は娼婦だったのだろうか。
それならば彼女の服装にも納得が行くし、ズタズタの身体も娼婦として生きているうちに特殊な嗜好を持つ輩にこのような目に遭わされたとしても不思議ではない。
―――因みに、切り裂きジャックが女性であるという説もある。これは殺害された五人がいずれも娼婦であるという点から考えられた一つ。他にもその殺され方があまりにも医学的に高度に殺されていることから正体は医者だの、夜目に警察に注意されることなく徘徊できることから警察など、諸説あるのだがそれは蛇足だろう。
「とにかく……!お風呂に入るわよ!」
「やだ!やーだー!」
「ワタクシって小さな子に拒否られるような変態的な要素あるのでしょうか……シクシク」
「……この様子を見てると本当にそうだとは思えないんだけどなぁ」
上だけ脱いだ状態で項垂れる黒ウサギと、ジタバタ暴れる全裸のジャックを抱っこしながらお風呂場に向かう、これまた全裸の飛鳥。
はっきり言って、切り裂きジャックについて思考するにはあまりに適していない状況だ。
耀は服を脱ぎながら軽く嘆息をすると、黒ウサギに早く立ち直るよう催促し、ジャックの頭を軽く撫でて浴場に入っていくのだった。
ジキルに言った願いの内容は秘密!なぜなら設定変更の都合で多少願いにも変化が生じているから!
さて、では本編では語りきれなかった箱庭の聖杯戦争について少し補完しておきたいと思います。
まずおたよりがありました。「箱庭って比較対象がおかしいだけでルイルイも鯖くらい強かったはずじゃ……」
問題ありませんとも。その辺は箱庭の聖杯が箱庭に合ったレベルに調節してくれてます。そもそも聖杯としての質が原作とは大幅に違います。あちらの聖杯が根源に至るための手段として作られた物に対して、こちらの聖杯は箱庭においてわりとよくある、修羅神仏の遊び心から生まれたものなのです。
魔術の根源にたどり着いていない人間がたどりつくために作ったものと、マジカルパワーが魃扈している箱庭の修羅神仏が作ったものならば、そもそもどちらの方が良質かは答えるまでもないでしょう。
そして次。これは質問にはなかったのですが、いやまぁ説明回にすら至ってなかったので当然なのですが、聖杯戦争に選ばれたサーヴァントは原作のような死者ではなく、基本的に生者です。ごく一部で例外はありますが。
なら問題児世界では既に討伐されてるアルゴールがいるけどメドゥーサは呼べないの?と思った方、安心してください、呼べます。
箱庭は過去未来現在と繋がっており、原作でも光明氏と耀さん、十六夜くんとクロアさんのように箱庭において長い、あるいはそれほどの時が経っていなくても外界ではその真逆になっている、という現象が起きています。第二部では時間の流れが繋がったようですが。
第一部時点ではその習性を利用して今箱庭にいる人物、箱庭で生涯を終えた人物の昔の姿、あるいは未来の姿で、かつ自身の未来の記憶を与えられて召喚します。
なのでメドゥーサとアルゴールは同じ時間の箱庭に同時に存在することができます。ジャックに関してはそれには該当しない事情がありますが。
……とりあえずはこんなところでしょうか。なのでサーヴァントは死んでるからこそだろJK、とか設定改編なんて信じらんねーよタコ、という方々は申し訳ないですがブラウザバック推奨です。
こんなにドヤ顔で言っておいて矛盾点とかあったら死ぬほど恥ずかしいですねwwww
というわけでみなさん!矛盾点あったら遠慮なく言ってください!ドヤ顔で語った作者に赤っ恥かかせられますよ!