早朝、アルバイトのシフトを終えた私は早々に自宅へと帰還した。アルバイト先から自宅への距離、徒歩にて約5分。近場であり、シフトの休憩中でも問題なく自宅に帰ってこれさえするナイスな勤務先である。
アルバイト先の店舗を出て大通りを少々歩き、二つ目の信号を左折。そこからビルとビルに挟まれた、薄暗く人気のない道をひたすら真っ直ぐ突き進めばあっという間の到着だ。
「相も変わらず静かな場所だな。」
そこには私の自宅であり、貸賃アパートでもある一軒の廃れた建物がぽつりと建っていた。
二階建てで、私の住まう部屋を含めると10部屋ばかりの小さなアパートである。他に住んでいる人間はいないのだが、一応これでも管理人を務めていたりする。
「ただいまっと。」
一人暮らしなので部屋にはもちろん私以外誰もいないのだが、私は日課として出勤時と帰宅時に言うようにしている。特に意味はないんだがね。
アルバイトから帰宅したら、第一に風呂で身体を洗い、風呂から上がったらその後テレビを付けパソコンを立ち上げ、ビール片手にぐだぐだと寝るまでの時間を過ごす。そして心地良い眠気が襲ってきたら、抗わずさっさと横に寝る。こんな毎日を私は送ってきたわけだが、今日は寝る直前になって思い出したことがあった。
「そういえば私宛の封筒があったな。」
重たくなって来たまぶたに私は何か月かぶりに抗って、封筒の中身を確認することにした。白い封筒を開封して、中にあった一枚の三つ折りされた紙を取り出す。
「なになに、『突然で失礼します。一身上の都合であなたのアパートに私の知人達を住まわせることにしました。朝方に一人目をそちらのアパートへ送ります。金銭、必要書類等は持たせてありますのでご心配なく。苦労お掛けしますが、彼女達の面倒よろしくお願いします。 八雲 紫』………ん?」
紙に書かれた文章を読み終えたは私は小首を傾げ、もう一度だけ文章を読み直した。内容は単純に言ってしまえば、八雲紫という人物の知人がこれからこの廃れたアパートに住むだけのこと。別段可笑しな話ではないのだろうが、管理人である私はこの文面に対して疑問を覚えた。
「何故このアパートを選んだ?」
ピンポーン
唐突に私の部屋に呼び鈴が鳴り響いた。この部屋チャイムの音がなるのは久方ぶりである。一体どこの誰であろうか?
入口へと向かい、ドアを恐る恐る開いた私の目の前には、なんとも可愛らしい黒髪ロングの女の子が立っていた。目があったのでとりあえず挨拶でもしようかと思ったのだが、女の子から発せられた言葉に先制されてしまう。
「あなたがここの管理人さんよね?」
「はいそうですけど、お嬢さんは一体?」
「あなたの名前は?」
質問に質問で返されてしまった。しかし当然か、相手のことを聞く前にまず自分からとも言うし。
「寿 禅(ことぶき ぜん)と言います。」
「ことぶき ぜん、ね……。私の名前が蓬莱山 輝夜、今日から期限付きだけどここに住むことになったからお世話よろしく頼むわね。」
「はぁ……よろしくお願いします?(お世話?)」