Fallout:J   作:札幌統合最高司令部

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【VoiceLog:2077/31/12 JMSDF-2ndPTSq FG‐054"Aoba"】

もーいくつー寝るーとーお正月ー……。はあ、ひとりで歌うと空しいですね。これ。
今日は大晦日。年末大掃除は二か月前に終わったら……後は除夜の鐘を突くだけですね。誰が突くんでしょう? 京都とかまだ生きてるんでしょうかね?

まあそれよりも、昨日探索した旧JAの施設でおそばが見つからなかったことが問題です! どうするんですかおそば! 戦争勃発時の10月だったらたぶん収穫期じゃないんですかねぇ……年越しそば、食べたかったなぁ……。

まあともかく、司令官に必要なRad-アウェイも確保できましたし、今年の年越しは無事に出来そうですね……よかった。

ではこの辺で。
認識番号JSFG‐054ML027B「青葉」、アウト。



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 原子力エネルギー。

 

 

 人類が生み出してしまった最大威力の兵器であり、制御不能なエネルギー。

 

 これの登場により、人類は破滅の時をただ待つ身となった。

 

 

 ――――だが、驚くべきことが起きた。

 

 

 ヒトは原子力を武器としてではなく、

 無限に近いエネルギーの源として活用し始めたのだ。

 

 ただのSFだと思われていたテクノロジーが生活を一変させた。

 

 家事を担うロボット。

 

 原子力で動く車。

 

 携帯できるコンピューター。

 

 

 ゼウスは人類より火を取り上げた。

 

 人類は寒さに怯えた。

 だからプロメテウスは人類に火を与えた。

 

 「プロメテウスの火」という言葉は、まさにこの原子力エネルギーのためにあったのではあるまいか。

 

 未来は、希望に満ち溢れていた。

 

 

 だが、21世紀になり……アメリカンドリームは終りを告げた。

 

 

 ここは、その終わりの序曲が始まった場所の一つだ。

 先ほど言った通り、人類は無限に近い量の原子力エネルギーを手にした。だがそれは決して制御下に置いたという意味ではない。

 

 チェルノブイリ、スリーマイル……挙げればキリがない。

 

 だが、私のような日本人にとってのプロメテウスの火は、ここがその象徴だ。

 

 

「それにしても、まさかこんなにたくさんのRad-アウェイがあるなんて……」

 

 青葉、信じられません。そんな風に感慨深く呟くのは私の部下であり、兵器でもある存在。

 そして今となっては……世界で唯一、私と祖国を共有できる存在。

 

 きっと私の一番は、いつの間にか彼女になってしまったのだろう。

 だから彼女にそんな空しい思いさせたくなくて、声を無理矢理にでも明るくする。防護服越しにでも伝わるように。

 

「Rad-アウェイ開発のきっかけはこの職場の待遇改善が望まれたことだからな……ここになければどこにあるって話だよ」

 

 かつての日本政府が所謂「石棺作戦」を嫌い、年に数千人の人的資源を必要とする一大工事現場となった旧福島県の双葉郡。

 

 私の視界の中には、かつてF1と呼ばれた六つの建屋がそびえ立っていた。

 

 

 時間が経過したせいか錆びついている保管ボックスからRad-アウェイを取り出す。58年製。古いが……まぁ使えるだろう。

 

「中国に持ってかれたものだと思っていたんですがねぇ……」

 

 中共っておっちょこちょい? そんなことをいう彼女。確かにここにRad-アウェイがあるのは火を見るよりも明らかであり、しかし在庫が全然減っていなかったのはおかしな話ではあった。

 あぁちなみに、Rad-アウェイというのは携帯型の放射能除去薬だ。放射能に汚染されることを完全に防ぐことは出来ない。なら除去してしまえばいいと開発されたのがこのRad-アウェイ。

 ……実のところ、どうやって作っているのかは全く分からない。日本だと太平洋製薬がライセンス生産してたんだったかな?

 

 分からないからこそ重要な戦略資源であるはずで、まさか中国が占領した際に持ち帰らないはずがない、つまりここにはもう残されてないだろうと踏んでいた。

 しかし在庫はほとんど手つかず。本当にラッキーである。

 

「おっちょこちょいというか、本当に知らなかった可能性はあるな……計画上はとうの昔に終わっているはずなんだし」

 

 実際、作業員の反抗を恐れ、Rad-アウェイはこういう風に分かりにくい所に隠されているはずで、省庁の資料がなければ私も見つけることは叶わなかっただろう。

 

「日本ってそんな情報戦強いですっけ?」

 

「……思考ルーチンがそれ向きだからってお前と運用担当官の私が駆り出されるぐらいには終わってたよ」

 

 ですよねーと返すのもいつもの調子。自律思考が可能な記憶兵器故の「個性」と聞いているが……いったい誰がこんな思考ルーチンを組んだのやら。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 かつてここはこの施設の管理棟として使われていたらしい。未来を創る六つの棺桶の制御系はこの施設に集中し、あの災害の時も最前線として機能したようだ。

 当然ながら「事故」を想定して作られているこの施設、放射線防護も完璧な訳で、除染を行うための設備も整えられている。

 

「居住区は……ここで確認する限りは問題なさそうだな」

 

 東北に上陸して約一週間。放置されていた車両などを借用させていただくことで予想以上に早く移動できていた私たちだが、流石に休養は必要である。

 

 そして放射能は待ってくれない。休養を取りたいのなら、即ちこのゴツゴツの防護服を脱ぎたいのなら、放射能に怯えずに済むシェルターに逃げ込むことが必要であった。

 

 そう言う意味では、大量の作業員を動員していたこの設備。休息をとるには最高の場所だろう。

 

 

 制御盤のログから居住区に汚染の形跡がないことを確認した私は、部下へと命じる。

 

「じゃあ私は先に居住区に降りるぞ……管理棟内の索敵、及びトラップの設置を」

 

「了解ですっ!」

 

 ここまで誰もいなかったのだから今更必要ない措置かもしれないが、こればかりはやっておかないと安心できない。

 

 職業病……というよりか、この時代のせいなのだろう。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 前述の通り、原子力エネルギーは素晴らしい存在である。

 

 だからこそ、その管理と維持、運用には、どんなコストを割いても構わない。

 

 そう言った考えもあり、2077年現在、軽度の体内汚染――――放射性物質を体内に吸い込んでしまうことである――――なら完全に取り除けるほどにアンチ放射能の技術は発展している。Rad-アウェイなどの服用タイプもあるけれど、やはりオーソドックスなのはこちらの備え付け型の除去装置であろう。

 

 とはいえ防護服を着ている私にとって体内除去装置は関係なく、防護服の上からシャワ―を浴びることで放射性物質を洗い流すのみ。念のため放射線測定器(ガイガーカウンタ)で安全を確認。

 

 

 そして居住区――――工事の長期化が懸念されるなか、2030年代に増設されたものだ――――へと降りた私は、ひとまず管理職のオフィスへと向かう。

 

 無論、人民解放軍の占領下で、この施設がどのように扱われていたかを知るためだ。

 

 

「……」

 

 資料を漁ってゆく、2032、2045、2053……。年ごとに仕分けされた分厚いファイル。

 

 

「Rad-アウェイを初めとする物資が放置されている時点で予想はついていたが……やはり連中はここを訪れてすらいないようだな」

 

 まあ、当然のことかも知れない。国際原子力機関はなんでだがこの施設で起きた事故を最高ランクの事故だと定義したし、実際政府の廃炉までの計画は延期に延期。事実東北を割譲するまで廃炉作業は終わっていなかった。

 

 どれほどことが深刻なのかも分からないこの施設。

 今更半世紀前の遺物に関わりたくないと思うのも本音だろう。関東東北を極東省に編入せずに倭人自治地区としたのも、案外これが理由かもしれない。

 

 

「司令官、除染済ませてきましたよぉ!」

 

 おや、どうやら部下が仕事を終えたようだ。居住区に降りてきたということは、既に除染も済ませているだろう。

 私はオフィスを出て……

 

 

「……何をやってるんだ、お前は」

 

 

 HENTAIというのは海外のネット界隈でも意味が通じるらしい。誠に誇らしく、また不名誉なことであるが、日本は変わったことばかりをやりたがる。

 

 

 アメリカでのロボットはとにかく機能を追求する、多少浮いていても構いはしない。

 

 対する日本のロボットは、溶け込むこと、自然さを追求する。

 人間らしい見た目。人間らしい仕草。人間らしい性格。

 

 そして目の前の相棒は人型の自律思考兵器。

 

 ちょっとばかしの幼さを感じさせる顔だち、その割にはしっかり発達してる身体。機能美という言葉もあるだけにその洗練された筋肉――――厳密にはタンパク質など一グラムも使われていないのだが――――により引き締められたラインは見る者を引き付ける魔力がある。普段は後ろで括られている紫色の髪も今は解放されていて、むき出しになったその細い肩に僅かにかかる。

 

「……服ぐらい着ろ」

 

「タオル巻いてますよ?」

 

 確かに、生まれたままの姿ではない。バスタオルを身体に巻き付けているおかげで、規制されることはないだろう……服はどこに行ったかという問いは、恐らく除染の際にびしょびしょに濡れたから干している、と返されるだけなので聞くだけ無駄だ。

 

 ……しかし、見えそうなのに見えないのが一番くるというもの。巻き付いたタオルが身体つきを余計にはっきりとさせてタチが悪い。

 

 さてはて、なんとコメントしたものか。

 そんな風に迷いを見せたが最後、彼女はにたりと口角を吊り上げる。

 

「あれぇ? もしかして司令官、青葉に欲情しちゃった?」

 

「あのなぁ……」

 

 予想通りの展開に呆れていると、彼女はいやいや! と語気を強めて言う。

 

「別に青葉、兵器にたっちゃう司令官に失望したりなんてしてませんからね?」

 

 そりゃあ毎日狭苦しい防護服じゃあストレスも溜まるでしょう。そんな分かってほしくもない理解をされる。

 

「……勝手に言ってやがれ」

 

 そう吐き捨て、廊下の椅子に腰かける。長椅子だったので彼女も真横に腰かけ、そしてすぐさま腕に手を回す。

 除染の際、ご丁寧に温水を使ったようだ。髪の毛も肌も生暖かい。

 

「ところで……司令官にとっては久々に生で吸う空気ですね、一言お願いします!」

 

「……防護区画の湿った空気であれ、開放感が凄まじいよ」

 

 今のは会話の流れを変えたかっただけだろう。

 とりあえず適当に返す。

 

 久々の何もない時間。

 

 二人――――厳密には一人と一ユニット――――を照らす電灯。

 原子力電池の最大の特徴はその寿命の長さだ。発電所が機能せずとも居住区には十二分な電力が供給されている。原子力を本当に使いこなせていれば、今私たちがいるこの施設も、其処ら中汚染された故郷の姿もないだろうに……そんな感傷に浸りたくもなる。

 

 ああそうだ、この施設ならFC(フュージョン・コア)も手に入るかもしれない。出力の調整が自由にできる非常に便利な電池であるFC。

 

 私が来ている防護服はギリギリ人力でも行けるタイプ(なお軍仕様)だが、やはり補助動力としてのFCは欲しい所。

 正直……これがないと戦闘行為は不可能である。

 

 隣の青葉は内蔵の原子力で動いているのでFCは必要ないのだが……かと言って彼女だけに戦闘を任せるのは考えものである。

 

 そんなことを考えていると、となりから声が聞こえた。

 

 

「さっ司令官、今夜は長いですよ?」

 

 彼女が私にすり寄ってくる。

 

「……はぁ?」

 

 ちなみに彼女の背丈は私より低い訳で、顔を合わせようとすると嫌でも目に入る青葉山。若狭富士を名乗るだけに美しい膨らm……。

 

「……あれ? なに勘違いしてるんですか司令官?」

 

 今日は、大晦日でしょう?

 

「……」

 

 大晦日。一年が終わる節目の日。来たるべき正月に備えて、人々は大掃除をしたりおせち料理を作ったりもする。

 年が変わる瞬間を迎えようと、夜更かしをする人間がもっとも多い日。

 

「もしかして変なこと考えちゃったんですかぁ?」

 

 いやはや、若いですねぇとケラケラ笑う。

 

「……その頭を除夜の鐘にしてやろうか?」

 

「そんな乱暴にしたら青葉壊れちゃいますよぉ」

 

 

「はぁ……とりあえず作業服でも何でもいいから探して着て来い、命令だ」

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

「司令官、ヌカコーラですっ」

 

「お、そんなものもあったのか」

 

 差し出されたロケット型の瓶を受け取る。キンキンに冷えてはいなかったけれど、まあ細かい要望はなしだ。

 蓋を外す。

 

「それじゃあ」

「今年一年お疲れさま」

 

 乾杯。ごくりと炭酸の強い飲料を飲み込む。

 

「それにしても……今年一年、本当にいろいろありましたねぇ……」

 

 振り返るように青葉が呟く。振り返ろうとしても『あの日』以降のことしか出てこないかった。悲しいとは言わないが、なんというか……空しくはある。

 

「来年は……どうなるんだろうな」

 

 時計を見れば、年が明けるまであと数時間。

 来年……つまり2078年は、人類に、いや私たちにとって全く異なる一年となるだろう。

 

「そろそろ放射能の生態系への影響の調査も始めないとな……多くの動植物が死に絶えたが、全滅したわけではないし……」

 

 そう言えば、心底うんざりした様子になる彼女。

 

「えぇ……全面核戦争の勃発時における行動命令(Code:CherryBlossoms)、ちゃんと履行するんですか……? アレ結構面倒ですよ?」

 

「とはいえ他にすることもないしな……長期的な目標が必要だ」

 

 となると、私に出来るのは精々、記録を残すこと。

 やるべきことは記録だけじゃない。食料など物資の調達も、これからは全て自前でやる必要がある。来年は忙しくなるだろう。

 

 

「司令官」

 

「ん、なんだ?」

 

 すり寄ってきてた彼女は一旦身を離し、それからぽふっと身を預けてきた。

 

「未来のこともいいですけど……とりあえず三が日くらいはゆっくりしましょうね?」

 

「……そう、だな」

 

 

 「よいお年を」なんて冗談でも言えなくなってしまった時代。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




解説!

【Rad-アウェイ】

 細かいことは知らんけど、なんか放射線による人体への影響をなくせる。
 すごい。

【F1】

 言わずとも知れた、東京電力が保有する観k……おっと誰かが来たようだ。


【全面核戦争の勃発時における行動命令(Code:CherryBlossoms)】

 自衛隊札幌統合最高司令部の定める作戦要綱。

①自国民の保護。
②戦力の集結。
③放射能による健康被害・環境への影響の調査。

 以上の三点に主軸を置いたもので、②が達成されなかった時点で各部隊は指揮官の判断に基づき現地解散することが可能となる。
 ちなみに、この部隊は札幌司令部の壊滅を確認した段階で隊を現地解散した扱いとなるはずなので、この作戦を継続する義務はない。

 発令符牒は”サクラチル”。


【カイジョウジエイタイのHENTAI】

 ”ビッチ・フリートガール”で検索すると面白いことになる。
 一応真面目な話をしておくと、青葉を初めとするFGタイプの護衛艦は『水陸両用かつ人的資源を必要としない効率的な兵器』の開発を目的として作られたものであり、戦闘開始のトリガーを握る運用担当官以外の人員は必要としないのが特徴である。
 バイタルに故障が出ない限りは、自身で整備を行うことが出来るのだ。

 ……正直、兵器には絶対いらない機能も積んでいる。ある意味では機械人間の試作ともいえよう。
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