Fallout:J 作:札幌統合最高司令部
ああ、最悪です。
Code:CherryBlossomsに健康への被害の調査という項目があった理由がようやく青葉にも理解できました。
考えてみたら放射線による『普通の』健康被害なんて分かりきっているんです。
Code:CherryBlossomsの定める健康への被害とは、生物のミュータント化を調べることだったんです! よく考えたら当たり前ですよね……こんな継続して放射能を浴び続ける状況なんて、全面核戦争でも起きない限りありえないんですから!
北海道はそこらじゅうに核が落とされたからそもそも人間はほとんど死んでしまった。でも倭人自治地区は違う。
……ここにいる人たちは……。
司令官が故郷の街に帰るのを阻止しなきゃ……絶対いい結果なんか待ってない。
でも……青葉に止めることはできません。
嗚呼、軍艦青葉の英霊さん、もし本当に青葉に宿っているのなら、どうか司令官の心を救ってください。
……認識番号JSFG‐054ML027B「青葉」、アウト。
車を失ったハイウェイ。山の間を縫うように進むアスファルトの……失礼、アスファルトの原料である石油はとうの昔に枯渇していたんだったっけ。
まあ原料が枯渇しようとアスファルトは直ぐにダメになるわけではない。そもそも日本で道路工事が異様に多いのは湿潤な気候による劣化が早いという理由よりも純粋に処分しなければいけない石油アスファルトが多いせいだ。
石油は、コスト面の問題から原油として輸入、日本で蒸留し、必要な原料とするのが一般的である。石油アスファルトというのは重油やらガソリンやらを取り出したあとに残るいわば「お残し」である。
無論、かつての日本の繁栄を支えたのがこのアスファルトにより舗装された陸上交通網だったことは疑いようがない。
しかし、使われるアスファルトはお残し。道路の工事予算も地方自治体の残った予算を使い切るため……つまりお残し。
不思議な話だが、こんな無駄遣いで繁栄が成り立っていたのである。
大昔の偉い人は書いた。
『各個人が自己の利益を追求すれば結果として社会全体において適切な資源配分が達成される』
結果はこれだ。配分の比率は正しかったのかもしれない。だが配分の
こんな調子だから共産主義の増長を許したのだ。
まあ、既に祖国を失った流れ者に過ぎない私だからこそ、こんな風に偉そうに言えるのだが。
「司令官司令官!」
と、遠くより聴き慣れた声が。
「ん? どうした青葉」
視界の先でセーラー服姿の……その割にはやけに重武装の少女が手を振っている。
「スゴイことになってますよぉ!」
そう言いながらハイウェイの先を示す彼女。丁度彼女の立つあたりが急カーブになっていて、その先の様子は確認できない。
本来なら声をはっきり聞きとることはできないであろう距離だったが、
「何があったんだ、報告しろ」
「百聞は一見に如かずですよ、司令官! いいから来てください!」
「……写真を撮ってデータ転送してくれればいいだろうに」
「ご生憎ですが、青葉、デジタルカメラ持ってません!」
「……かさ張るだけのフィルム式に何の価値があるって言うんだ」
そう言えば、耳に突き刺さらんばかりの抗議が聞こえてきた。
「もぉ! 司令官は本当にレトロの良さを理解してませんねぇ!」
……こういう時だけは、普段便利な『感覚共有』も無駄な機能となる。
カメラはデジタルじゃダメなんです! フィルムこそが正義なんです! そう訴える彼女の声。うるさい。
「ネガから浮かび上がるこの世の写し絵、その価値分かります?」
「……最新技術で作られた
私の最後の相棒である青葉……彼女はヒトではない。
この放射能まみれの世界を汚染服なしで歩いている時点で察してくれていただろうが、彼女は自立思考型の小型無人機だ。分類上は「FG型護衛艦」と呼ばれているので、無人船と言ったほうが適切かもしれないが……ともかく彼女は兵器。
だから私は彼女を放射能測定器&簡易除染車として数百メートル先を歩かせていても罪悪感が沸かないし、自身の命令で部下が死ぬかも知れないという恐怖に怯える必要もない。
もっとも、この「学習機能」と称した皮肉なほど人間味のある思考回路は勘弁して欲しいものだが……。
……いや、勘弁して欲しいと思っていたのも核戦争前の話。
今やその人間味は、私がこの世界で人間性を保てる最大かつ唯一の要因だった。
そんな彼女は私の考えていることを露ほどにも知らず、私の放った「最新」という言葉に抗議する。
「五十年代製ですから旧式です!」
知らんがな。いや知ってるけどさ、フィルムで撮る写真が広く使われていたのなんてもう半世紀以上前の話。比較対象にならない。
「そして、青葉はレトロには目がないんです!」
……レトロ好きな兵器なんて、全くおかしな話である。
進歩をやめた兵器、軍隊は必ず敗北するというのに。
「……最近の懐古主義には呆れるよ、まったく」
「青葉は好きですけどねぇ?」
というか早く来てくださいよ、と青葉。
やれやれと歩みを進める。
そして目に入ってきたのは……
「関東地方……ですね」
「……予想はしていたが」
関東地方。温暖湿潤気候のおかげで十分な水源を確保し、人々を養う場所としてはかなりの好条件を揃えている。
しかしその関東平野、山間を抜けた先に広がっていたはずのその土地に緑は一切ない。田園やら畑やらは見事に灰色に染まり、遠目に見える民家も傾いて見えた。
まあ、ここまで来るまでに見た木々だって皆々枯れていたのだ。別に驚くことでもあるまい。
それでも……現実を直視するのは、辛い。
私が幸せな幼少期を送ったのは関東地方の南部。あそこにも同じ風景が広がっているのだろうか?
そうに違いない。
しかし私は、「実際に見るまで」そうでないと強く否定することだろう。
そして故郷の町に辿り着いたとき……その意固地な希望は再び打ち砕かれるのだろう。
「……」
「司令官! ログを残しませんと!」
仕事するんでしょう? 彼女はこちらに優しく微笑む。防護ガラス越しでもちゃんと伝わって来る彼女の感情が……おっといけない。彼女は兵器、その建前を忘れるな。
「……上司に命令とは、流石だな」
「促しただけですって」
ひどいなぁ。という彼女の声を右から左に流しつつ、私は記録テープをセット。ボイスログの記録を開始する。
これは海自風に言ってみれば航海日誌のようなもので、毎日つけるものだ。別に就寝前につけなくてはならないという規則もないので、こうやって忘れないうちにつけておく。
……青葉もログをとっているはずだが、彼女はどんな内容を記録しているのだろう?
「2078年1月の9日、海上自衛隊第二特務戦隊活動記録……本日、我が隊は東北自動車道を抜けて旧茨城県へと到達した。移動制限の関係からここ数キロに自動車は一台も放置されておらず、代わりに降り積もった放射性降下物が出迎えてくれる。おかげで我々の移動手段は徒歩のみとなり、当初の見立てより到達が二日も遅れた」
「計画遅れの一日分は、誰かさんが誰かさんの腰を立てなくしたせいですけどねぇ」
「……黙れ青葉、公式な記録として残るぞ?」
「別に青葉の汚点とはなりませんよ?
彼女はしてやったりと笑みを浮かべる。そこまで来て、彼女がなぜこのタイミングでログをとることを薦めてきたのかを理解した。
「お前……これを吹き込みたかったのか」
「あ、バレちゃいました?」
そりゃバレるよ。というか私もどうしておかしいと思わなかったのだろう。まんまと嵌められた。
「後でとり直すか……」
「えぇ~」
――――
「……地図の通りなら……アレが羽黒山だな」
灰で埋め尽くされた田んぼの先に鎮座した山。普段は常葉樹により深緑を湛えているはずの羽黒山も……木々が枯れ果て、今は裸にされていた。
……なぜか頭の中ではとある気弱な重巡艦娘が裸にされた風景しか見えてこn
「青葉、見えちゃいましたっ!」
がしんっ。腹に走る衝撃。
「司令官……一体なにを考えているんですかぁ?」
遅れて理解するのは私が腹にパンチを食らったということ。犯人は、もちろん青葉。
「青葉、防護服の上からとは言え痛いんだぞ……?」
というかお前にも痛みは伝わるだろうに……そう続けようと思ったが、
「手加減はしましたよ?」
そういう彼女はいまだ拳を怒らせていた。
……ああなるほど、怒ってるのね。私の思考回路に。
たいへん情けない話だが、この運用担当官というポストに就いてしまって以来、どうも風景を見るたびに艦娘の姿を思い出してしまうのだ。実際軍艦の名前は景勝地やら自然現象から付けることが多いので当たり前と言えば当たり前なのだが……いやな思考回路になってしまったものだ。
それにしても。
「……感覚共有では、思考は読み取れないはずだが?」
「思考は読み取りませんでしたが、司令官の興奮は読み取れましたので」
そもそもいきなり羽黒山の話をしだすあたり、意識してるのがモロバレですよ?
そこまで彼女は無表情で言う。
次に浮かべるのは哀れみの表情。
「まったくもぉ、青葉という存在がありながら……」
「お前は関係ないだろうが……」
「へぇ? そんなこと言っちゃいます?」
「ああいうね、俺は……」
いつもの調子で掛け合いを始めようとした私だったが、目の前の部下は私の方を向いていなかった。
「司令官……あれ」
「ん、どうした?」
彼女の見る方を見ると。
そこには、人影が。
「生存者……?」
生存者。とても喜ばしい単語だ。
しかし私はそのに疑問符を付けてしまう。
なぜか? 簡単だ。
まずここは高速道路。人民解放軍占領下の東北関東の境には移動制限がかかっていたはずで、人はおろか車もいないはずなのだ。
にも関わらず、『彼ら』はこの高架の上に屯している。いや屯しているというか、私たちを見つけて集まってきたという表現が妥当だろうか?
とにかくどうしてこんなタイミングで来るのかが謎なのである。
次に身なりだ。皆々何らかの服を纏っていたがしかし、着こなしていないのだ。
コーディネートのセンスの欠片もない、ダサい格好である。
そして皆々ハゲている。加えて皮膚は変質し、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
「ちゅ、う……解放ぐ、n、だぁっ!」
「ころ、セ」
「こロせ!」
「コろセ!」
言葉遣いも荒い。というよりか、その言葉遣いはあまりに稚拙であった。
「友好的な生存者じゃあ……なさそうですね……」
青葉も彼らの姿見にはドン引きらしく、言葉がやや詰まる。
「……中国の、生体兵器……か?」
真っ先に浮かんだ可能性はそれであった。日本だって艦娘を作るのだ。中国が同じことをできないはずがない。
……実戦投入するには、ちょっと洗練されてないけれど。
「いやいや司令官、あいつら私たちのこと人民解放軍と勘違いしてるんですよ?」
そんなことある訳ないじゃないですか、と青葉。
「じゃあ何だって言うんd……っ!」
その瞬間、背後にも気配。
「コロセ!」
「コロせ!」
「ありゃりゃ、包囲されちゃいましたね……」
「致し方あるまい……青葉」
私は声を低くする。その「合図」に青葉も纏う雰囲気を変える。
「合戦準備」
――――
正直に言おう。強くはなかった。
なんせ私は歴戦の自衛官。従えるFG型護衛艦の練度は公式99である。
しかし問題は……。
私は倒した筋肉モリモリマッチョマンの変態の死体から「あるもの」を取り出す。
「国民背番号カード……」
書かれているのは住民台帳を元に作られた11桁の数字と、おまけの1桁で計12桁。
動乱期以前からの日本国民である証拠だ。
「洗脳された民間ゲリラ……って訳じゃあないですよね?」
同様に死骸の身元を調べている青葉が迷うように発言する。
「……まさか、沖縄事変じゃあるまいし」
仮にそういう類のものだったとしても、ここまで筋肉モリモリマッチョマンではないだろう。
「なぁ……青葉……」
なにを口に出すのをためらっているんだか。
もう答えは分かりきっていることじゃないか。
「なんですか……司令官?」
青葉も同じことを考えているに違いなく、声のトーンは低かった。
「……いや、何でもない」
口に出さずとも、現実は目の前に横たわっている。
これが、核戦争後の世界ということか。
解説!
【感覚共有】
FG型護衛艦が「個性」を保持していることは前述の通りだが、これは思わぬ副産物をもたらした。
……コンピューターが感情をもち、その計算回路が人間により近いものとなったのだ。
これが海上自衛隊を一時期とはいえ『絶対的な最強』たらしめた所以である。
FG型護衛艦の個性……つまり艦娘と心を通わせた運用担当官は、その艦娘と感覚を共有することを可能としたのである。
人間の魂を電子回路に当てはめる試みは随分昔からなされていたが、このように「人間を機械に近づける」のではなく「機械を人間に近づける」というやり口は初めてであった。機械に魂にも似たものを持たせることで、人間と機械は融合することが叶ったのである。
その成果の一つが、この「感覚共有」である。無人であるFG型護衛艦。これが見て聞いて感じたことが、全てその運用担当官に伝達されるようになったのだ。
必要とされる運用担当官はFG型一隻につきたったの一人。
一兵卒が一隻の軍艦と同等の働きを成せるようになったのである。
……当然ながら、これは人間自体を兵器化する取り組みであった。
組織でなく、一個人を兵器として育てる取り組みであった。
だからこそ……内部の運用担当官に裏切り者が出たとき、効率的にそれを排除することは叶わなかった。
【筋肉モリモリマッチョマンの変態】
車は盗む、シートは引っぺがす、私は拐う、娘を探すのを手伝えなんて突然メチャクチャは言い出す。かと思ったら人を撃ち合いに巻き込んで大勢死人は出す、挙句は電話ボックスを持ち上げる。あんた人間なの!?
お次はターザンときたわ!
(映画『コマンドー』より)
……人間ではなく、放射能の影響を受けたミュータント。厳密に言うなら元人間。なぜこのように変異してしまったのかは謎。