Fallout:J   作:札幌統合最高司令部

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【VoiceLog:2020/13/3 JSDF-JointHQ"Sapporo"】

あーあー。諸君がこの記録を読んでいるということは、既に誤投稿された第四話は削除されていることだろう。正直な所、私も感想を知らせる通知が来るまでは作品の存在を忘れていた。お察しの通りあの第四話は四年前の私が編集途中で放棄した文章である。仮設定として2020年に設定して居たのが、システムが正常を保っていたが故に投稿されてしまったようだ。
しかし安心して欲しい。本作の続編を望む盟友の声は聞き届けられた。

それでは正式版第四話をお送りします。



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【VoiceLog:2078/11/2 JMSDF-2ndPTSq FG‐054"Aoba"】

今日は西暦207……司令官、青葉は悪い子になります。

コホン、本日は紀元2737年2月11日です。国民の祝日に関する法律に則れば今日は祝日、つまりお休みです。
ねえ司令官。今日ぐらいはおやすみしましょうよ。わざわざこんな、こんな所に来なくても良かったじゃあないですか。


ねえ、


司令官。


あんなところ、いかなきゃ良かったんです。



……認識番号JSFG‐054ML027B「青葉」、アウト。


4

 人類は、残すのが好きだ。

 

 

 多くの人は自分がこれから死ぬと知った時、なにか意思を、生きた証を残したがる。それがごく当たり前のことであっても、である。言葉にしなければ、形にしなければ、その証は絶対に残らないからだ。

 

 では何故残すのだろう。

 

 存在を後世に知ってもらいたいからだろうか? いやしかし、大物政治家ならともかくとして、一般人の生活など残るのだろうか。

 

 原子エネルギーは、世界を変えた。灯籠やガス灯は駆逐され、日常生活は電気で満たされた。世界が平和に沈んでいたあの時代と、歴史の教科書に載っていた江戸時代。そして防護服を着なければ化物になるしかないこの時代。

 

 それらがどうして、等号(イコール)で結ばれるのだろうか?

 

 

 

 

 

 建造物、と一口に言ってもいろいろある。

 

 

 人が住むための家。

 

 自然の、時には同胞の脅威から身を守るための防御施設。

 

 その両方の意味を兼ね備えた城や砦。

 

 

 ……いや、そんな小さな話は止めよう。

 

 侵略者の侵入を防ぐため延々と築かれた城壁。

 

 政治的イベントとして、またその権力の強さを後世に持ち越すために積み上げられた精密な墓。

 

 人々が心の平安を得るため、都市のど真ん中に建立した寺。

 

「残ってたんですね」

 

「高層ビルに護られたお陰だろうな」

 

 かつて、江戸の町を一望できたという山がある。こんな小さな山から江戸を一望できるなんて俄には信じられないものだが、江戸が東京特別区の半分ほどの大きさであること、そして視界を遮るような建物がなければ見渡すことも出来たのだろう。

 

 

 そう、建物だ。

 

 

 人類はその二つの手で道具を作り、その道具を使うことでさらに大きな工作機械を生み出した。それらは巨大な建造物を次々と作り出し……そして都市には竹のごとくにょきにょきと高層建築が建てられた。

 

 私の目の前にもその高層建築物の群れが広がっている。コンクリートジャングルとは随分的を得た言い方だと思う。それぞれの事業主が、異なる技師、建築デザイナーを雇って積み立てられた各々の牙城。全てが異なる性質を持ち、そして全てが同居している。まさにジャングルと形容するに相応しかった。

 

 

 だがしかし……それもこれまでだ。

 

 

 

 時は、数時間ほど遡る。

 

 

 

「すごいですねぇ、これが華の帝都ですかぁ……」

 

「今となっては見る影もないが、な」

 

 しかしそれでも興奮の材料には十二分らしい。私の前を往く彼女は、心底楽しげに双眼鏡を覗いている。

 

 私は彼女の楽しみを邪魔しないよう。それ以降は何も言わずに手元の地図に視線を落とした。

 携帯式コンピューターに地図を表示すればいいだろって? いや、私が見ているのは軍用の地図だ。本当の機密は、紙媒体で保存するのが一番いい。そうすればハッキングが大の得意だった中国人にだって視られることはない。

 

 

 

 ここは荒川のちょっと手前。川辺にドンと建てられた高層マンションの屋上。高さとしては平均的な高層マンションよりちょっと低いぐらいだが、しかし周囲を見渡す分には丁度良い。

 私たちは、休憩がてらにこれから目指す街の状況を確認しているのだ。

 

 

 目の前に広がるのは――――遠目に見るだけならば東京の街並み。

 

 

 知っての通り、かつての東京二十三区は隔離されている。これは人民解放軍の統治部隊が、”元日本人”が一箇所に固まることを恐れた故だろう。奴らは私の祖国を下したが、だからこそ祖国の底力を恐れていた。

 

 反乱を防ぐためには、この民族が『錦の御旗』の下に集う事態を避けねばならない。

 

 そう考えた彼らが、人口密集地を解散させようとするのは当然の流れだ。モノの流れを断ち、水を、電気を東京区民から奪った。

 

 東京から人間という人間は消えた。「極東省のほうがまだマシ」と、多くの人間が関西へと逃れた。倭人自治地区とは、もはや戦略的価値も政治的な価値もない場所だ。

 

 人を失うということは即ち、メンテナンスを失うということである。確かに高層建築物が風雨に耐えられる。地震があってもそれ自身が倒壊するということは滅多にない。

 

 だが、だからといって、それが永遠に在り続けるわけではないのだ。

 

 

 伸縮材(ゴム)を交換しなければ、いつかは窓ガラスが割れる。

 

 避雷針が錆びれば、いつかは火災が発生する。

 

 そして……いずれは建物自体が倒壊する。

 

 

「……」

 

 

 若かりし日、馬鹿な友人たちと歩いた街はどうなったのだろう。そんなことを考えてしまう。どうなってるかなんて、とうに予想がついているだろうに……。

 

 だがしかし、だ。

 

 その友人たちの行方だって、私は全てを把握しているわけではない。

 

 可能性はいつだってあるのだ。どんなに小さくとも、可能性は。

 

 

「司令官っ」

 

 

 とんっ。

 

 

 私を放射能から守ってくれる、分厚い防護服に横Gが掛かった。いや横Gという表現はおかしいか……確かなぬくもりがぶつかってきたのだ。

 

 私は目を落とす。そこには背中からもたれ、こちらを見上げる相棒の姿があった。艤装部分は横に置かれている。いつの間に双眼鏡に飽きてしまったのだろう。

 

「……どうした、青葉」

 

「司令官、何してたんですか?」

 

「何ってそりゃ、地図をだな「やめてください」

 

 青葉は私の言葉を遮る。海上自衛隊だって一応は軍隊組織だ。上位下位の序列ははっきりさせないといけない。青葉の行為はそういったルールに明らか反するものであったが、しかし私は許容していた。

 

「司令官が地図を見ていないことぐらい、青葉でなくたって分かります」

 

「……」

 

 まあ、それもそうだろう。はっきり言って私はまともじゃない。だが一方、自身がまともでないと自覚できるくらいには落ち着いている。

 

 ギリギリの精神状態なのだ。

 

 

 彼女のおかげで、ギリギリを保ってられる。

 

「……いやなに、寄り道するならどこがいいかな、と過去の観光地を思い出していただけだよ」

 

「観光地?」

 

 青葉はなにを、と言わんばかりの表情でこちらを見遣った。

 

 

 

 

 

 そして、その観光地がここ。愛宕山である。

 

 ぱんぱかな重巡洋艦の愛宕山ではない。動乱前の住所に従えば東京特別区のひとつである港区。特別区には珍しい自然に形成された愛宕山。出世階段とも呼ばれる急峻な石段も、FCに支えられた防護服なら月の上にいるように楽々登れる……もっとも、月に行ったことはないが。

 

「なあ青葉。ここは特別区の最高峰なんだよ」

 

「いやでも、周りの方が高いですよ?」

 

 駄目だな。どうもこの旧式(レトロ)な兵器は目の前の飴細工(ビルディング)が山に見えるらしい。ここに来るまでに記憶媒体が逝かれてしまったのか。いや、それともこれまでに積み上げた国民の山が高すぎるのか。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。ここまで来たのには訳があるのだ。

 

 

 

 結論から言えば、東京は破壊されなかった。もっと正確にいうなら、破壊するほどの価値がなかった。

 中国にもアメリカにも、もはや余裕などはなかったのだ。アメリカはほぼ全ての資源を使い尽くし、中国もほぼ全ての戦力を使い尽くしていた。東京には確かに申し訳程度の核は撃ち込まれたが、それは東京を更地にするには到底足りない。

 

 だからこうして、青葉と私はここで世界を視ることが出来る。

 

「青葉、時間は」

 

〇六三〇(マルロクサンマル)です。司令官」

 

 遅れ知らずの原子時計が組み込まれた青葉が、寸分の遅れもなく答える。そしてその視線は、東へと注がれている。

 

 紫だちたる雲のほそくたなびきたる……そんな表現をした詩人が居たという東の空。それは次第に明るくなり、放射能に染まった東京湾の向こうから自然の核融合炉が現れる。

 

 それは水素の融合炉。人類が夢見て、ついにはその身を滅ぼした炎。

 その悪魔の光が、どうしてこんなに神々しく見えるのだろう。

 

「夜明けだ。軍艦旗掲揚用意!」

 

 久々に踵を鳴らさんばかりの勢いで命令口調になった私を、青葉はどう思っただろう。

 

 今日まで掲揚しなかったじゃないですか。

 青葉は陸に上がってるんですから、軍艦旗はいらないですよ。

 司令官、軍艦旗掲揚は始業時と決まっています。まあ24時間365日営業なんで、どこが始業時なのかもう分かりませんけれど。

 

 

 こんなところだろうか。ところが私の予想に反して、青葉は笑って言うのだ。

 

 

「ラッパ、吹いてもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君が世は

千代にやちよに

さざれ石の

巌となりて

苔のむすまで

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、青葉……今日は、行かなくちゃ行けない場所がある」

 

 

 

 

 

 

 




解説!

【東京特別区】

 日本における事実上の首都。動乱以前はあらゆる機能と情報がこの地に集約されたが、動乱と東北以南の割譲に伴ってその機能は札幌へと移転された。
 少なくとも現時点でその機能を受け継ぐ存在はいない。


【軍艦旗掲揚】

 軍艦の所属国を示す軍艦旗は、航海中は原則として常に掲げる。また艦艇が停泊中においても、業務始めから終わりまで掲げられることがある。海上自衛隊では、軍艦旗掲揚時にラッパで国歌を奏でていたのだという。


【我が君は 千代にやちよに さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで】

 古今和歌集に登場する句。
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