目の前のブラムが飛んだのを確認すると、女は「チッ」と舌打ちした。
「逃がすか!」
そう言うと、自分も崖から飛ぶ。だが、
「ありっ?」
自分でも思うほど、間抜けな声が出た。何故なら、崖沿いにブラムは立っていたからだ。自分の剣を二本壁に突き刺し、その上にアイズを抱えて立っていた。
「バイバーイ」
ブラムが言うと、女は崖の下の湖に落ちて行った。
「ふぅ……はい、終わり」
「すごいね、ブラム……」
「いえいえ、これくらい何とも」
と、言った時だ。下からズガン!と音がした。「へっ?」と下を見ると、女が壁を殴って拳を減り込ませて落下を阻止してた。
「うそぉおおおおおお!」
「逃がさんと言ったぁ!」
そのまま崖を駆け上がってくる。
「あわわ!やばいやばい!ヴァレンシュタインさん早く上あがって!」
「えっ?でも……」
「早く!」
ブラムは言うと問答無用でアイズを自分の肩の上に乗せて崖の上に上げた。
「いいですかアイズさん、間違っても僕を助けに来ないで下さいよ」
「えっ……?どういう意味……?」
「団長達を呼んできて下さいね!」
言うと、ブラムは足元の剣を抜いて飛び降りた。
「ブラム、何を……⁉︎」
アイズに言われるも無視した。このままでは、下の女に追い付かれるかもしれないし、何より敵に足場にしていた武器を与えてしまう。それだけは避けたかった。
「うわあああああっ!」
(! なんだ、逃げるのはやめか?何にせよ、片方はここで仕留める……!)
女は壁を駈け上がりながら拳を引いた。
「気合だけでは私は倒せんッ!」
女はそう言うと、拳を思いっきり振り抜いた。だが、
「《跳躍》!」
叫ぶと、ブラムの足元に透明のバネが出てきて、女の拳を避けた。
「ジャンプだと⁉︎」
「《跳躍》!《跳躍》!《跳躍》!」
さらに、女を囲むようにバネが三つ。
「⁉︎」
それを踏み台にしてブラムは突撃した。だが、
「甘いな、クソガキ」
ボスッ!とブラムの腹に直撃した。ガフッ!と血を吐き出す。
「痛い……⁉︎」
「踏み台の位置を確認出来れば攻撃は対処できる」
「…………」
苦しかった。おそらく内臓が破裂している。なんとか歯を食い縛る。が、それでも口を開いた。
「っ⁉︎」
「ナメるなァアアアアアアアッ‼︎」
ブラムはほとんどヤケクソだったが、僅かに唇を動かしながら、「跳躍」と呟いた。その瞬間、自分の足元に透明のバネが出現。
「っ⁉︎」
そして、人間ロケットのように思いっきり頭突きをカマした。
「………ぐっ」
空中に舞い上がる女とブラム。が、ブラムの意識はもうない。
「このガキッ……!」
その空中のブラムに拳を叩き込もうとした。だが、目の前に槍が置かれ、拳を阻んだ。
「っ⁉︎」
「僕の団員に、手を出すな」
言うとフィンは女の顔面を蹴って湖に落とすと、ブラムを抱える。そして、上に手を振った。リヴェリアが引き上げた。フィンはブラムを見る。白目を剥いて痙攣している。
「マズイな……リヴェリア、頼む」
「ああ」
で、治癒魔法を掛ける。
「内臓がいくつか破裂している」
「ええっ⁉︎」
レフィーヤが声を上げた。
「そ、それって大丈夫なんですか⁉︎」
「分からん……」
治癒魔法を受けるブラムを見ながらアイズは悔しそうに握り拳を作った。
(私が、もっと強ければ……)
下唇を悔しそうに噛んだ。その時だ。リヴェリアが「むっ?」と表情を変えた。
「………なんだ?」
「どうかしたのか?」
フィンが聞き返す。が、リヴェリアは答えない。代わりに頬に汗を流した。
「リヴェリア?」
「………ありえん」
「何がだ?」
「………傷が、全て治った」
「何?」
戻らないのはブラムの意識だけだ。
「………どういうことだ」
リヴェリアが呟いた。
*
翌日。一同は一旦地上に戻って、ロキに出来事を報告した。それから6日ほど経過した。そんな中、金を稼がなければならないティオナやら何やらはダンジョンに潜っていたのだが、アイズの様子がおかしかった。
モンスターを見つけては単独で突っ込み、絶滅させる。そして、一人の時は基本的に体育座りで悩んでいる。その隣にティオナが寄って声をかけるも、「大丈夫だから」の一点張り。
リヴェリアはため息をついた。
「アイズ、聞こえてる?」
「……え?」
アイズの隣のティオナは声を掛けられた。
「だからさ、もう相当のモンスターを倒してるし、結構お金も貯まったんじゃない?」
「そう…かな…」
「地上で普通に換金すれば3000万くらいはいくんじゎないの?レフィーヤ、今持ってる証文はどれくらいの金額?」
「待ってください。えーと……リヴィリの街で買い取ってもらったものだけだと1000万ヴァリスに届かないくらいです」
「うん。だからさ、そろそろ帰り時かな?って」
ティオナが言った時だ。ダンジョンからモンスターの大群が現れた。その瞬間、アイズが突撃した。
「あ〜もうっ、空気読めっての!」
「それは、ほら…モンスターですし……」
レフィーヤが苦笑いで言った。この後、アイズが残りたいというので、リヴェリアと一緒に残った。帰宅中、ブラムは少し暗い表情をしていた。
「ブーラム♪」
「………ティオナさん」
「どしたの?なんか暗いけど」
「いえ……その……」
ブラムの新しいスキルのことだ。「即死回避」というスキル。即死してもおかしくない、または即死レベルの攻撃を喰らった時、身体を自動で再生させるスキルだ。
このスキルが出た時、ブラムは少なからず嫌な気持ちになった。
「さらに囮役に向いてる身体になっちゃったなぁ……」
という理由で。
「だいじょーぶだよ。ブラム。今更囮役以外出来ないって!」
「ティオナさんって、本当に僕のこと嫌いなんですか?」
「ん?好きだよ?」
「うえっ⁉︎」
一発で顔が真っ赤になる。
「だって、友達じゃん」
「えっ?あっ、そ、そうですよね……」
「ンー?もしかして、恋愛対象だと思われてたと思ってたのかなー?」
「い、いえ!そ、そんなことは……え、えと……」
顔を真っ赤にして目をうずまきにしながら慌てる。
「ま、確かに前より男らしくなったよねー」
「えっ⁉︎ほ、本当ですか⁉︎」
「まだまだだけど」
言われて肩をショボンと落とした。
「コラ、ティオナ。何度も言うけど、あまりブラムを虐めないの」
後ろからティオネが言った。
「そうですよ。純粋な男の子の恋心を虐めるなんて酷いですよ」
レフィーヤも続いた。だが、それを聞いてブラムが顔を赤くしない理由がなかった。
「お前達なぁ……それは助けになってないよ」
フィンがブラムの頭を撫でながら言った。