ある日、部屋でブラムは鏡の前で立っていた。そして、構えを取った。
『ピッピッピッ、STANDY BY?』
変に低い声で言うと、手を上にあげた。
「変身!」
「何やってんのあんた」
後ろから声をかけられ、振り返るとティオネが立っていた。みるみる顔が赤くなっていく。
「い、いつからそこに……」
聞くと、ティオネはご丁寧にやってみせた。
「ピッピッピッ、STANDY BY」
「わぁー!待った待った!やめてくださいお願いします!ていうかノックくらいしてくださいよ!」
「何女々しいこと言ってんのよ。それより、約束は?」
「はっ?や、約束?」
「オムライス教えてくれるっていう約束よ!」
「………あー、本気ですか?」
「うん。これで団長の胃袋は私のものよ……!」
「分かりましたよ……。じゃあキッチンに行きますか」
ブラムは部屋を出た。
*
キッチンに集まったのはティオネだけでなく、ティオナ、アイズ、レフィーヤの三人もついてきた。
「………なんでいるんすか」
当然の質問である。
「なんでって……ついで?」
「女として、男の子に料理で負けるわけにはいかないんです!」
「………わ、私もっ」
ティオナ、レフィーヤ、アイズと答えた。それにため息をつく。もうどうにでもなれという感じだった。なんにせよ、ティオネが生徒の時点でマトモなお料理教室が出来る可能性などゴッさ低いのだ。それにその妹と乾パン切っただけで料理と言い張る女、まともな生徒はレフィーヤだけだろうが、そのレフィーヤにも変なスイッチが入っている。
(どうせ試食させられるのは僕だろうし……心を鬼にして全力で指導しないと僕の命が危ない)
心底そう思った。
「じゃあ、えーっと……とりあえず、料理始めますけど、はい、まずそこの剣姫さん、武器はしまってください。必要ありません」
「……えっ、でも…食材を切るのに……」
「食材はモンスターではありませんし、モンスターは食材ではありません。モンスターはあなたの心の中にいます。分かったらその剣を心の鞘にしまって二度と封印を解かないように」
言われて、シュンっと肩を落とすアイズ。
「じゃあまずはどんなオムライスにしたいですか?」
「どんな、とは?」
レフィーヤが聞いた。
「味の好みですよ。例えば僕は甘いほうが好きだとか」
「………子供だなぁ」
「そ、そこうるさい!」
ティオナの呟きを注意した。
「うーん、私は健康的なものにしたいわね」
「元気が出る奴!」
「強くなる奴……!」
「私も甘い方がいいかな」
二人ほど間違っていたが、訂正するのが面倒だったのでブラムは無視して料理教室開始。
だが、ブラムの思った通りひどいものとなった。オムライスを作るというのに何故か肉を持ってくるティオナ、とりあえずここにいる五人分作るというのに卵を200個持ってくるティオネ、火をつけるのにマッチを持ってくるアイズ。
「やめたい……」
開始1分でそう思った。
「ねぇブラムー、あたしあのフライパンでほいってやる奴やりたい」
ティオナが元気良く手を挙げた。
「いや、無理ですよ今は……」
どうせ卵を大きく上に飛ばし過ぎて天井を突き抜けることになる……と、思わずにはいられなかった。するとティオナはブラムの腕に抱き付いた。そして、上目遣いで涙目で震えるような声で言った。
「お願い……ブラム……?」
「やりましょう」
こいつも大概だった。と、生徒だけでなく先生もろともダメダメな料理教室は進み、途中で爆発したりつまみ食いしたり異臭がしたりしたが、なんとか完成した。
で、団長の部屋。コンコンとティオネさんがノックをした。
「入れ」
その声で全員で入室。
「団長!オムライスを作って来ました!」
元気良く笑顔でティオネが言った瞬間、フィンの顔色は激変する。さらに悪い事に、後から入って来たティオナ、アイズ、レフィーヤも皿を持っている。
「………ごめん、僕ちょっとお腹が痛くて……」
「正露丸です」
「さっきご飯食べたばっか……」
「僕達さっきまで食堂にいましたけど誰も来ませんでしたね。この部屋から食べ物の臭い後もありません」
「いや実はもうパンを買ってあるんだよ」
「おっと、うっかりそのパンを食べてしまった」
ことごとくブラムに逃げ道を潰されていくフィン。アイコンタクトで「お前を殺す」と言うと、ブラムが耳打ちした。
「………量はともかく、味は保証しますよ」
「どこにそんな保証がある!」
「僕が教えましたから」
「……………」
それを聞くと少し安心した。で、フィンの前にオムライスが4つ並べられる。
「……まずは、」
「はいはーい!あたしの!」
ティオナが一番乗りに手を挙げた。ティオネは舌打ちしたが、ブラムの「本命は最後までとっておかれるものですよ」の一言で速攻で機嫌直した。
「……んっ、美味しい。ほんとにティオナが作ったのかいこれ?」
「うんっ!ブラムに教えてもらって!」
これは安心できるとフィンはホッとした。で、アイズ、レフィーヤととりあえず二口ずつくらい食べていって、とうとうティオネの番。ゴクリと緊張気味に唾を飲み飲み、ティオネは「どうぞ」と皿を差し出した。
フィンはありがたくいただいた。もっさもっさと咀嚼する。
「……うん、美味しいよ。ティオネ」
「ほ、本当ですか⁉︎」
パァッと表情を明るくするティオネ。そして、男前にガッツポーズを決める。フィンは立ち上がり、そのガッツポーズの拳に触れた。
「成長したな」
「だ、団長〜!」
思わず涙ぐむティオネ。
「でも失礼、少しトイレに行ってくるよ」
「はい!」
笑顔でフィンはそう言うと、何故かブラムの襟首を掴んで引き摺りながら部屋を出た。
「へ?だ、団長?何を……」
ブラムが聞くも返事はない。そして、男子トイレ。フィンはいきなり倒れた。
「だ、団長⁉︎どうしたんですか⁉︎」
「………ティオネのアレ。ほんとにオムライスか……?」
「ええっ⁉︎お、美味しくなかったんですか⁉︎」
「……ぶっちゃけるとね。ティオナやアイズのより酷い。というかあの二人とレフィーヤのは普通だった」
「そんな!何で……⁉︎」
ハッとするブラム。途中でした異臭を思い出した。
「まさか、あれは……」
フィンを捨て置いて急いでキッチンに向かった。ティオネの使っていたフライパンに付着しているオムライスの一部を舐めた。
「……ッ!これは……!」
………アマゾネス産万能薬。味を犠牲にして、飲むだけで何でも完治される薬だ。ただし、使用後三日間は味覚が消える。
「なん、で……こんなものを……!」
ブラムは倒れて行く中、ティオネの台詞を思い出した。
(健康的なものにしたいわね……したいわね……したいわね………(←エコー))
アマゾネスは例外なく馬鹿なんだなと思った。