「それじゃあ、今後のことを確認しよう」
フィンの一言で見張り以外の冒険者達が集まり、会議をはじめる。
「遠征の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今回は、59階層を目指す前に冒険者依頼をこなしておく」
「冒険者依頼……確か、ディアンケヒト・ファミリアからのものですか?」
「ああ。内容は51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取すること」
ティオネの確認に頷くフィン。
「51階層には少数精鋭のパーティを二組、送り込む。無駄な武器・道具の消耗は避け、速やかに泉水を確保後、この拠点に帰還。質問は?」
「はいはーい!なんでパーティ二つに分けるの?」
ティオナが元気よく質問した。
「注文されている泉水の量が厄介でね。カドモスの泉を二箇所回らなくちゃならない」
「うえー……めんどくさぁ」
「他に質問は?……ないなら、パーティメンバーを選抜する。……まぁ、まずはブラムとして、」
「な、なんで僕は決定なんですか⁉︎」
当然、反論する。
「カドモスのタゲを取るために決まっているだろう?君がいれば余計にカドモスを倒さなくても泉水を安全に確保出来るからだよ」
「僕の事なんだと思ってるの!完全に囮役じゃん!」
いつもの事だろ、と全員が思う中、フィンはブラムの肩に手を置いた。
「これは、お前にしかできない仕事なんだ。そして、僕は君になら出来ると信じてる。それでも嫌ならパーティメンバーから外すけど、どうする?」
「団長……任せてください!僕ならきっとやり遂げて見せます!」
チョロい、と誰もが思った。すると、ティオナが手を挙げた。
「はーい!あたしやるー!アイズも一緒に行こう!」
「うん」
「そもそも第一級冒険者に行かせないで誰に行かせるのよ……少数精鋭よ、わかってる?」
「じゃ、ティオネもこっちに決まりね!」
「ちょ、まっ、私は団長と……⁉︎」
ティオナの一存で素早く三人が固まった。
「リヴェリアはキャンプに残ってくれ。冒険者依頼の後のためにも、消費した精神力を休んで回復させてほしい。拠点の防衛も兼ねてね」
「やむをえないか……」
フィンに頼まれて頷くリヴェリア。
「レフィーヤ、アイズ達のパーティに入れ。私の代わりだ」
「は、はいっ……って、えっ⁉︎」
リヴェリアに言われて驚くレフィーヤ。
「問題ないな、フィン?」
「ンー、そうだね。いずれリヴェリアの後釜になってもらうんだ、いいだろう」
「はい。レフィーヤもこっちー」
サクッとティオナに回収される。
「これじゃと、もう片方は残った第一級で編成だのう。フィン、ベート、儂……後はラウルか」
ガレスが決めた。ベートが女姿勢を見ながら言った。
「……なぁ、こいつら大丈夫か?」
「んー……」
編成が不安過ぎた。狂戦士のティオナ、戦闘狂のアイズ、ダブルクレイジーズ以上に凶暴なティオネ、そして格下のレフィーヤときた。
「……そうだね。ブラムもそっちに入れようか」
「ええっ⁉︎お、男一人ですか⁉︎」
「何を今更……頼むからレフィーヤと二人で制御役になってくれよ。これは、君にしか出来」
「任せてください!」
即答されたものの、やはり不安だ。念のため、フィンはティオネに言った。
「ティオネ、君だけが頼りだ。頼むから僕の信頼を裏切らないでくれよ」
「お任せください!」
チョロいのが二人いた。
*
そんなわけで、ダンジョンに突入。
「ふぉおあああああッッ‼︎」
当然、モンスターに追いかけられているのはブラムだ。そのブラムを追かけるモンスターを横からティオナとアイズが掻っ捌く。
「プラム、避けて!」
「ふえっ⁉︎」
ティオネの声が聞こえた。目の前ではレフィーヤが魔法を詠唱していた。
「うそぉ⁉︎」
慌ててジャンプし、自分の腰の剣を抜いて天井に突き刺し、回避。その瞬間、真下を魔法が通り、モンスターの群れを焼き尽くす。
「あ、あっぶねぇ……」
「ブラムくん。上!」
「へ?」
レフィーヤに声をかけられて上を見ると、自分が天井に突き刺した剣のすぐ横からモンスターが生まれようとしていた。
「うそぉおおおお⁉︎……あれ?抜けねっ、マジ抜けねっ」
必死に天井から剣を抜こうとするが、深く刺さりすぎて抜けない。
「ふんぐごごごご!」
「もういいよ!剣は捨てて!」
「ええええっ⁉︎高かったのにこれ……!」
だが、捨てなければ自分が食われる。ブラムは剣をから手を離して着地した。
ブラムは自分の腰にある2本目の剣を抜いた。まぁ、剣を抜いたところで逃げて躱していなすだけなんだけどね。そんな事を繰り返しながら戦闘を開始して数分後、全部片付いた時にはブラムは超疲れてた。
「団長めぇ……さてはおだてたのはこのためだなぁ……」
「あんたねぇ、毎回気付くのが遅過ぎるのよ。ていうか、団長に頼りにされてるだけありがたく思いなさいよ」
ティオネから言われるも、ブラムはくわっと言い返す。
「こんなのただの釣りの餌じゃないですか!僕自身のステイタスは敏捷以外上がらないし……やですよこんなの……」
「ふぅーん?じゃあ私と冒険できるのもイヤなんだ?」
「いや、それはむしろ嬉しいんですけど……って、ティティティオナさん⁉︎」
急に耳元で声を掛けられて後ずさるブラム。
「ショックだなぁ、私と冒険するのが嫌だなんて……」
「ち、ちがいますちがいます!ティオナさんと冒険できるのはメチャクチャ嬉しいですしむしろそれ以上ない幸福だと思いますけど……えーっと、えーっと……あれっ?」
今更、すごく恥ずかしいこと言ってることに気付くブラム。顔が真っ赤になった。
「あはっ、可愛い〜」
「いやっあのっえっとっ……ごめんなさああああい!」
ダッシュで逃げ出した。
「ち、ちょっとブラムー!危ないわよ!」
ティオネが声を掛けるが戻って来なかった。
「ティオナ」
ジッとアイズがティオナを見る。無表情だが、それが逆に怖かった。
「な、なに……?」
「追って」
「だ、だってブラムの敏捷にはあのベートでさえ追い付けな……」
「追って」
「わ、分かりました」
慌ててティオナは後を追った。
「………って、追付けるはずないし」
完全に見失った。
「どこ行ったのもぉ〜!」
苛立つ心をなんとか抑えてティオナはダンジョンを進んでると、カドモスの泉に到着した。中にはブラムがいた。
「あっ、ブラム探したよ〜。ここ、カドモスの泉だよね?何して……」
と、言いかけたところでティオナは顔を顰めた。
「………くっさ」
「あ、ティオナさん」
いつになく真面目な顔でブラムが言った。
「これ、カドモスの死骸です」
「えっ……?」
「ドロップアイテムもそのまま……つまり、冒険者の仕業じゃない。それ以上のモンスターとかち合ったと考えるのが自然です。早くヴァレンシュタインさんや団長達と合流しましょう」
「ち、ちょっと待って。どういうこと?」
「今言った通りです。僕を襲ってこないことから、この部屋にはモンスターはいない。泉水はすでに回収しました。急ぎましょう」
さっきまでとは別人のような顔をするブラムだった。どうやら、異常事態には強いようだ。その時だ。
「あああああああああッッ‼︎」
悲鳴が聞こえてきた。
「! 何⁉︎」
「行くよ!」
ティオナに促されて、ブラムは頷いた。泉を出てダンジョンを進んでると、ラウルを担いだガレス、ベート、フィンが逃げていた。
「団長⁉︎」
「! ブラム!無事だったか!」
すると、隣にいたティオナが芋虫に切り掛かった。
「よせティオナ……!」
だが、ティオナは止まらない。芋虫を正面から斬った。
「体液に触れるな!」
フィンの声が響く。芋虫から体液が吹き出た。それがティオナの武器を溶かす。
「うそぉ⁉︎」
「だから逃げてんだよ!」
ベートが焦れたように言った。
「ていうか、アイズ達はどうした⁉︎」
「そ、それがぁ……」
ティオナが事情を説明。すると、フィンが怒りの笑顔で言った。
「二人とも、後で覚悟しとけよ?」
「ま、待って!僕被害者で……」
「知るか」
冷たい判定に二人は涙目になった。
「それで、アレなにぃ、フィン⁉︎冗談じゃないんだけど!もう、あたしの武器〜!」
「わからない。僕達も突然襲われた。泉に到着し、カドモスを倒して泉水を回収した後、アレと交戦。武器を失って止む無く逃走中さ」
「誰か怪我人は?」
ブラムが聞いた。
「僕らは問題ない。だがラウルが腐食液の直撃を浴びた」
「早く治療してやらんとこりゃいかんぞ」
ガレスが付け加えた。すると、後ろから『おおおおお!』とモンスターの断末魔が聞こえた。
「え⁉︎アレ、他のモンスターも襲ってるよ⁉︎」
「あの新種は僕らも他のモンスターも近づくもの全てに攻撃してる。むしろ、モンスターを率先して狙ってるような……」
ティオナの声にフィンが丁寧に答えた。
「団長、僕が向かった泉にカドモスの死骸とそのドロップアイテムがあったよ」
「ンー…決まりか。カドモスも倒すとはね……」
「共食いのモンスターかよ。はっ、これだから化物は……」
「ずっと下の階層に棲息しておったのが上ってきたか、それともダンジョンが新種のモンスターを産んだのか……どちらにせよ、厄介じゃな」
すると、前からも芋虫の群れが現れた。
「‼︎」
「前からも⁉︎」
「全員、右手の横道に飛び込め!」
フィンが号令をかけると、ベート、フィン、ガレスとラウル、ティオナと飛び込んだ。だが、
「団長、僕に任せてください!」
「ブラム⁉︎何をする気だ!」
「後で助けに来てくださいよ!」
言うと、ブラムは目の前の芋虫の群れに突っ込んだ。上手く芋虫の隙間を抜けて逃げ込んでいく。
「まさか……攻撃対象を利用して……!」
「あのバカ……!」
ティオナ、フィンと毒付いた。
「けど、僕らが生き残るにはそれしかなかったみたいだ。ベート、僕らはブラムを追う。君はレフィーヤを探すんだ」
「アア?なんで……!」
「奴らを倒すには、魔法しかない」
「チッ、仕方ねぇな……」
フィンの命令で全員動き出した。
「………おいベート」
「あん?」
「なんで付いてくるんだよ」
「こっちからあいつの匂いがするからに決まってんだろ」
「………マジで?」
*
前方の芋虫の群れを突破したブラム。
「よし、これで……ティオナさん達は……!」
未だ、後ろからモンスターが追いかけて来てるにも関わらず、ホッとするブラム。で、次の道を右に曲がった。そこで、アイズとすれ違った。
「あっ、ブラム」
「うそぉおおおおおおおおッッ⁉︎」
で、アイズ達はブラムの後ろを見る。芋虫の軍団が来る。
「「「なんでぇええええええええッッ⁉︎」」」
慌てて逃げ出すアイズ、ティオネ、レフィーヤ。
「まとめて言います!攻撃したら腐食液で武器も身体もダンジョンもアイスも溶けるので逃げに徹して下さい!」
「とても、分かりやすくて助かるわ!」
ティオネがお礼を言った。
「どうすんのよこれ!てかティオナは⁉︎」
「団長達と合流させて置いてきました!」
「あんたねぇ……また囮になったの?」
「仕方ないでしょ。そうしなきゃ全滅してたかもしれないもん」
「ブラム」
横からアイズが真剣な顔で言った。
「そんなやり方してたら、いつか死んじゃうよ?」
「ヴァレンシュタインさんには言われたくないです」
「……………」
ごもっともだった。