ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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遠征前、そして出発

 

 

それから、さらに数日。遠征前日となった。それぞれが、それぞれの遠征の準備を進めていく中、ブラムも準備をしていた。

 

「さぁて、みんなのお弁当の準備しなくちゃ!」

 

言ってることは主夫だった。

厨房で冷蔵庫の中を整理し、全員分のサンドイッチだの何だのを作るための材料をチェックする。

 

「…………なんか、あんま緊張しないなぁ」

 

前回までの遠征前日なら、囮役としていつ死ぬかわからない始末だったのに、もうブラムは他人からの攻撃では死ねない。寿命が来るまでは死ねなくなった。緊張感なんて、いや少しはあるけど、あんまりなかった。

 

「ま、いっか。みんなを守れればそれで」

 

「誰が誰を守るってー?」

 

「わひゃあっ⁉︎」

 

後ろからティオナの声が聞こえて、ビクンッと跳ね上がった。

 

「ティ、ティ、ティ、ティオナさん⁉︎」

 

「もー、いい加減慌てるのやめてよー。というか慣れなよー」

 

「そ、そんなこと言われてもっ……!」

 

いや、その通りかな……と思って、ブラムは自分を落ち着けるように咳払いをした。

 

「しかし、ブラムも他人を守りたいと思うようになるなんてねぇ……」

 

「いえ、その……僕、死ねませんから。その僕に出来ることなんて敵を引きつけることくらいでしょう?なら、一人でも敵を多く引きつけて、みんなを楽させるだけです」

 

「………うん。でも、無理はしないでね」

 

「大丈夫ですよ。新技もありますし」

 

「…………そっか」

 

「あの、それでティオナさんはここに何を?つまみ食いですか?」

 

「誰がそんな乙女らしからぬことをするかああああ‼︎」

 

「いだだだだ‼︎頬をひっはらないでくだはい〜!」

 

「まったく……ブラムも生意気言うようになったなぁ」

 

「ううっ……レベル5の力で引っ張らないで下さいよぅ……」

 

ヒリヒリする頬を撫でるブラム。すると、「はいっ」とティオナは紙袋を渡した。

 

「? これは……?」

 

「前に言ったじゃん。『不壊属性』の服」

 

「おお!本気で作ってくれたんですか⁉︎」

 

「うん。………でも、デザインに対する文句はあたしに言わないでね」

 

「言いませんよ!作っていただいただけでも嬉しいですから!」

 

「え、あ、そ、そう……」

 

「開けていいですか?」

 

「う、うん。どうぞ」

 

言いながらブラムは袋から服を取り出した。

出て来たのは、チャイナドレスだった。

 

「………………」

 

「………さ、さすがに可哀想だって、私も言ったんだけどさ……。『一目でいいから可愛いところをみたい!』って……」

 

「………………」

 

「ご、ごめんね……」

 

「……い、いえ、全裸になるよりマシですから!それに、せっかくティオナさんに買っていただいたものを着ないわけにはいきません!」

 

「っ」

 

すると、急に顔を赤くしてそっぽを向くティオナ。

 

「? どうしたんですか?」

 

「ふえっ⁉︎」

 

「いつもならすぐにからかってくるのに……」

 

「なっ、何でもない何でもない!さ、明日に備えて早く寝よう?」

 

「いえ、僕は明日の朝ご飯とお弁当の仕込みがありますので」

 

「え、あ、うん。じゃあおやすみ」

 

「はい」

 

ティオナは部屋に引き返した。

 

 

翌日、中央広場にて、【ロキ・ファミリア】一行が集まっていた。

周囲の視線を集めながら、全員が待機してる。

 

「おう、【剣姫】!まったくもって久しいな、壮健であったか?」

 

「椿さん………」

 

【ヘファイストス・ファミリア】の鍛治師、椿・コルブランドがアイズに声をかけた。

 

「今日から、よろしくおねがいします」

 

「うむ、任された。だが畏まる必要はないぞ?手前達も行きたいからついていくのだ。………ところで、【逃足】はどこだ?」

 

「ブラムなら、あそこに……」

 

アイズの指差す先には、普段の服装にリュックを背負っているブラムの姿があった。ちなみに、その中に例のチャイナ服が入ってるのは内緒である。

 

「【逃足】〜‼︎」

 

「うげっ⁉︎つ、椿さ……ウプッ‼︎」

 

「会いたかったぞ〜!」

 

ムギューッと抱き締めて、ブラムを胸の中に埋める。

 

「ん〜っ!ん〜っ!」

 

「ああ、どうしてお前はこんなに愛しいんだ!ついつい愛でたくなってしまう可愛さだな〜!むふふふふ!」

 

高速で頭を撫でられ、ブラムは手足と尻尾をジタバタさせる。

 

「なんだなんだ?嬉しいのか?もっと撫でてやろう。あーっはっはっはっ……」

 

「ねぇ、ちょっと」

 

そこに声を掛けたのはティオナだ。

 

「苦しそうじゃん。放してあげてよ」

 

「むっ?いやいや、こんなに喜んでいるだろう」

 

「いいから放してあげてよ。ていうかどう見ても嫌がってるし」

 

むむむっ、と睨み合う二人。一瞬、緩んだところでブラムは逃げ出した。

 

「ップハァー!死ぬかと思った!」

 

「ほら、死ぬかと思ったって言ってんじゃん」

 

「ふむ、照れ隠しだな」

 

「どんな照れ隠し⁉︎」

 

そのまま口喧嘩を始める二人からプラムはソーッと離れた。

そこで、ようやくフィンの声が響いた。

 

「総員、これより『遠征』を開始する!」

 

その声で、全員が表情を引き締めて前を向いた。

 

「階層を進むにあたって、今回も部隊を二つに分ける!最初に出る一班は僕とリヴェリアが、二班はガレスが指揮をとる!18階層で合流した後、そこから一気に50階層へ移動!僕等の目標は他でもない、未到達領域、59階層だ‼︎」

 

団長の宣言が、その場にいる全員の耳を震わせる。

 

「君達は、『古代』の英雄にも劣らない勇敢な戦士であり、冒険者だ!大いなる『未知』に挑戦し、富と名声を持ち帰る‼︎犠牲の上に成り立つ偽りの栄誉は要らない‼︎全員、この地上の光に誓ってもらう……必ず生きて帰ると‼︎」

 

団員たちがグッと拳を作る中、頭上の青い空にしばしの別れを告げるように、フィンは息を吸い込み、号令を放った。

 

「遠征隊、出発だ‼︎」

 

【ロキ・ファミリア】遠征開始。

 

 

ダンジョン付近。気合の入ったブラムに、フィンは言った。

 

「ブラム」

 

「はい。囮役ならお任せ下さい!馴れてきましたから!」

 

「この袋に入って」

 

「へっ?」

 

「途中の戦闘はなるべく避けたいから。この中で大人しくしてて」

 

「…………えっ?」

 

 

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