翌日。
「夜は打ち上げやるからなー!遅れんようになー!」
と、ロキにお見送りされ、ロキファミリアは出発。街を歩いていると、ワーワーと声があがる。
「見ろ…ロキファミリアだぜ。遠征から帰って来たんだ…」
「あれが【勇者】フィン・ディムナ……!」
「【剣姫】……」
「ヒュリテ姉妹……スゲェな、第一級冒険者が何人もいやがる」
「バカッ目をつけられたらファミリアごと潰されるぞ!」
と、いう声を聞きながらティオネがげんなりとしたため息を吐いた。
「なんかヤダなーこういうの。ベートは喜びそうだけど」
「ベートもそこまで下品ではないぞ。あやつなりに、第一級の誇りと自覚がある。むしろ……」
ガレスが言いながら後ろをチラッと見た。後ろの方に並ぶブラムが、ソワソワしながら歩いていた。
「あそこのバカモンの方が問題じゃ」
「何を嬉しそうな顔をしてるのやら……」
ティオナが呆れたように言った。すると、ロキファミリアを見ている観衆の一部から、声が上がった。
「ねぇ見て見て、【逃足】ブラムじゃない?」
「相変わらず小さくて可愛いわねぇ〜」
「お持ち帰りしたい。ていうかお持ち帰りしちゃう?」
と、声が上がった瞬間、ブルッと身震いするブラム。
「? どうかした?ブラム」
隣のアイズが聞いてきた。
「いえ……なんか不快な声が……」
「………?」
「にしても、【逃足】っていう二つ名本当に嫌なんですけど……」
「? なんで?」
「なんか……不名誉極まりないというか……僕だけ、超弱そうじゃないですか」
「……そう?」
「剣姫には分からないですよ……はぁ……」
その言い草にムッとするアイズ。そして、ブラムの頬を抓った。
「な、なんれふか!」
「……いつからそんな捻くれ者になっちゃったの?」
「姉かあんたは!」
「お、お姉、ちゃんは……そんな子に育てた覚えは……」
「自分で照れるくらいなら言うな!」
もっともなツッコミだった。すると、ブラムの後ろからガバッとティオナが抱き付いた。
「そうだぞ〜?お姉ちゃんはお前をそんな風に育てた覚えはないぞ〜?」
「て、ティティティオナさ……!」
「んっ……なんか、視界が悪いな……」
ブラムの頭から出てる湯気の所為である。
「ティオナ、だからブラムをからかわないの」
「だって面白いじゃーん。はむっ」
と、ブラムの耳を甘噛みするティオナ。ボンッ!とブラムの頭が爆発した。さすがにティオナも驚いてニヤニヤした笑みが消えた。
「ひゃっ!な、何⁉︎」
「………てぃおなさんの、ばかぁ……」
ぶっ倒れた。
*
「んっ………」
目を覚ますと、目の前には抹茶色な壁があり、その壁の少し上のあたりには真っ白な横線が引かれていた。
「……ここは?爆弾で真っ平らになった戦場?」
「誰の胸が戦場だぁ!」
「ひえっ⁉︎」
急に戦場の真上からティオナの顔が見えた。
「て、ティオナさん⁉︎ご、ごめんなさっ……」
謝りながら起き上がると、ティオナの頭に頭突きをしてしまった。
「「ぐはっ」」
二人して頭を押さえて悶える。
「す、すみません……」
「いや、大丈夫だから……」
という無駄なやり取りの後、ブラムは起き上がって飛び退いた。
「って、うわあ!な、なんで⁉︎なんでひ、ひ、膝枕なんて……!」
「いやー……あたしの所為で気絶させちゃったみたいで……ゴメンネ〜……」
「い、いえいえいえ!ぼ、僕が勝手に気絶しただけですからっ!て、ティオナさんは全然悪くないですからっ」
「そ、そう?」
「そうですよ!それより、みんなは……?」
「あたし達置いて自分達の仕事に行っちゃったよ。フィンがブラムが起きたらお前らも働けって」
「すいません……僕の所為で……」
「うっ……」
割と本気で自分の所為と思っている節があるので、流石のティオナにも罪悪感が芽生えた。
「それよりさ、早くあたし達もティオネ達と合流しよ?」
「え?は、はい!」
ブラムの手を引いてティオナは走り出した。二人がまず向かったのはゴブニュ・ファミリア。
「ごめんくださーい」
ティオナが元気良く入った。その後に続くブラム。
「げぇ!アマゾネス⁉︎」
出迎えた男が一人絶望したような声を上げた。
「親方ァー!壊し屋が現れましたー⁉︎」
「くそっ今日は何の用だ⁉︎」
店の奥から親方と呼ばれた男が腕を捲りながら歩いて来る。
「また武器を作ってもらいに来たんだけど」
「う、ウルガはどうした⁉︎馬鹿みたいな量の超硬金属を不眠不休で鍛え上げた専用装備だぞ⁉︎」
「溶けちゃった」
「ノオォォォォォォッッ⁉︎」
あっさりとした鬼の返答に思わず涙を流して絶叫する親方。思わず後ろにぶっ倒れた。
「親方ーっ!」
「しっかりしてくださーい!」
と、周りの部下に声をかけられるも動かない。すると、その親方にブラムが言った。
「あの、ごめんなさい。でも、今回ばかりは仕方なかったんです。未知のモンスターと戦って、攻撃したら腐食液が噴き出てくる奴で……でも、ウルガもちゃんと役に立っていましたから、だから……」
と、必死にフォローしてると、親方がブラムに言った。
「逃足」
「は、はい」
「結婚しよう」
「………はっ?」
「親方、寝言は死んで言ってください」
「お前ら流石に酷くね⁉︎」
なんてやり取りはともかく、ブラムは要件を言った。
「あの、ヴァレンシュタインさんはいませんか?」
「ああ、あの辺なら出て行ったよ。ついさっきな」
「そう、ですか……。分かりました」
「おい逃足。お前さんの武器はいいのか?」
「へっ……?」
「確か、二刀流だったよな?」
「あー……じゃあお願いします。簡単なものでいいので」
「おう。了解、お前さんは武器の扱いもまともで助かるよ」
(………逃げてるだけだから、一回も使ってないだけなんだけどね)
複雑な表情で思わず黙り込んだ。
「じゃああたしもおねがーい!」
「………次、壊したら許さねぇからな」
依頼だけして出て行った。
*
二人で集合場所に向かった。
「いやーなんか悪いことしちゃったねー」
「…………」
だが、ブラムから返事はない。ただジッと自分の剣を眺めていた。
「おーい、ブラムー?」
「は、はい!な、なんですか⁉︎」
「いや、どしたの?ボーッとして」
「い、いえ……その、この剣……せっかく、レベルアップのお祝いにみんなに買ってもらったのに、全然使ってないなぁって思いまして……」
「……………」
「僕、逃げてばかりだから……」
俯くブラムの頭をティオナは撫でた。
「へっ?て、ティオナさん⁉︎」
「ゴメンね。あたし、人を慰めたり、そういう難しいこと考えるの苦手だから、こんな事しか出来ないけど……これで、元気出してよ」
「うえっ?」
かあっと顔が熱くなるが、不思議と恥ずかしいとは感じなかった。
「大丈夫、ブラムは強い。強いよ。ブラムは強い」
同じことを何度も繰り返しながら、頭を撫でられ、ホッとしていくのが分かった。
「さ、元気出た?」
「は、はい。あの、有難うございます」
「ううん。……しかし、撫でられて元気出るなんて……子供だねぇ〜」
「…………うえっ?」
思い返してみると、確かにその通りだった。今度は羞恥で顔が赤くなる。徐々に口が悲鳴をあげる時の形に開いていく。
「あっ………」
「あっ?」
「あああああああああああああッッ‼︎」
絶叫して逃げ出した。お陰でブラムは打ち上げに出席し損ねた。